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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=人間との出会い編=
8/322

第8話  ~世界樹の葉~

 ジョージがこの樹について説明を始めた。

 

 この樹は《世界樹》と呼ばれている。

 世界のどこかに常に1本のみ存在し、その葉は死者を蘇生させ、滴る雫は一滴で傷や病を癒すという。

 決して枯れることのない樹は、落ち葉でさえも枯れることはないという。

 その樹は必要とする者には見ることができ、必要のない者には決して見えないという。

 確かに存在するが、確かな存在はわからない。伝説の樹である。


 「と、語り継がれているんだけど。まぁあくまでも伝説だからね。話に多少の色が付いているようには感じるよね。」

 優しい口調でジョージが話す。


 「そしてここからが本題だよ。《世界樹の葉》は死者を蘇生させる。とあるけど、実際にそこまでの力があるかは疑問だ。だけど、僕の体験からすると、瀕死の重傷なら治ると確信しているよ。」

 ジョージがさらっと重要事項を述べた。

 「それなら、俺らも経験済みやな。」

 「うん。」

 もちろん僕たちだって、瀕死の重傷を負い、ここへやってきた。その時に葉をどうやって使ったまでは覚えていないのだが。


 「そうだろう?この葉は必要な時にだけ落ち葉となり降ってきて、使えば無くなってしまうようなんだ。僕の持っている葉は、僕がここへ来たときの残り物さ。」

 瀕死の重傷だったが、葉の力、全部を使い切る程ではなく、余力は葉のまま残ったのだろう。と話していた。

 「そういう訳だから、彼女のための葉が落ちてきているかもしれない。ホセ君、大至急この樹を1周して、落ち葉がないか、確認してきてくれないかな?」

 「了解!や。」

 敬礼のポーズを取り、格好良く出かけて行ったけど…。ホセ君、キミ、ナチュラルにパシッてるよ。ジョージさん、優しい口調で巧く人を使いますな。僕は、心の中でひとりつぶやいた。


 大した時間もかけずにホセが戻ってくる。

 「何もなかったで。」

 「そう。そうなのか。うん。ホセ君ありがとう。」


 「どういう事?」

 「この樹がこの子を助ける対象に無いと判断したのか、それともこの子が瀕死では無いということだよ。つまり、新しい世界樹の葉は無い。ということになるね。」

 ジョージが顎に手を添えて考え込む。


 「なぁ。ホセ。助からないのかなぁ。」

 「いいや。世界樹の葉は状況次第で、全部使う訳やない。裏を返せば、一部でも使えばええのと違うか?」

 ホセは、自分たちの持っている欠けた世界樹の葉を使うことを提案した。


 「僕もその意見には賛成だよ。実際に使えるしね。今まで何度か使った事があるから。。。」

 そうしてまたジョージが思案する。


 「よし。決めたよ。まずは僕のを使おう。今まで何度か使った実績があるからね。でもこんな少しではこれだけの傷の全部は治せないと思う。だから、引き続いた治療の為に、この子を連れ帰ることを許して欲しいんだ。」

 もちろん君たちも一緒に来ていいからね。と続けながら、ロケットから葉を取り出している。


 「いやいやいや。葉で治るんやったら、俺らのも使えばええんと違うか?」

 「そうだよ。全部治してよ。」


 「君たちは説明を聞いてくれたよね?本当に世界樹の葉は貴重なんだよ。世界に現存している葉はそれぞれ国家で管理されているほどなんだ。それでも世界に7枚しか残っていない。」

 「僕の葉を使えば、欠片といえども死の危険はなくなる程度までは確実に治せる。彼女を連れ帰って、ゆっくり治療もできる環境を僕は用意できるよ。だから、その葉は使わずに、今後の為に残すべきだと思う。」

 ニコニコと優しい笑顔を絶やさなかったジョージが、真剣な顔で僕たちに話をした。


 しかし僕としては。。全快できたら、もしかしたら元に戻れるかもしれないのに、そのチャンスをみすみす逃すなんて。


 「僕はその葉のおかげで、戦場で何度か仲間を救う事ができた。本当に感謝している。だから、これから先、君たちだって、持っていれば死の危険が差し迫った時に、必ず役に立つよ。」


 「ん?それってつまり。この葉っぱは使わずに僕たちに持っていろ。って事なの?」

 「もちろんそうだよ。」

 いつもの優しい微笑みでジョージが答える。


 「でも、そんなことしたら、あんたの葉はなくなってしまうやん。」

 「そうだね。でも、こんな葉を持っていたこと自体が奇跡だからね。無くなったとしても、それが普通の状態さ。今後は葉がなくても、目の前の人たちを失わず、守れるように、今まで以上に医学と剣術をがんばるよ。」

 僕とホセの頭を撫でながら天使の微笑み。


 なっなんていい人なんだぁ。感激したわぁ。

 だがね、それとこれとは話が別なんだよ。ジョージさん。

 僕は今朝からの色々で、確かにテンパッてますがね。その思考力の落ちた頭でも分かることがあるんですよ。

 あんたが連れ帰ろうとしている女の子は。。。僕なんだよぉ。。。そしてそこから治療をするってことは、治療のたびに上半身裸じゃん。。。命は助かっても恥ずかしさで死ぬわ。。。

 純真な乙女の心を何だと思ってるんだ?まぁ今はスライムだし。。若干性別も雄よりだけども。。

 しかも、その世界樹の葉とやら、僕はあと3枚持ってますけどもね。。。そして何なら、たぶん今日の深夜あたりにもう一枚落ちてきそうですがね。。

 この伝説とやらを聞いたが為に、「在庫あるんで遠慮なく使っちゃってください。」とか今さら、言い出せない。


 などと思っている間に、ジョージは準備を整えた様子。

 「とりあえず、僕の葉の分だけでも使おう。少しでも早くこの状態を抜けないと。命の危険を脱してから、今後の事を考えよう。」


 真剣な顔で、今度は躊躇うことなくスカーフを取り去る。

 人形のように横たわる少女の顔は白く、眠っているかのようだ。だが、スカーフの取り払われた上半身には、肩口から胸にかけて、3本の深い爪痕が。左わき腹には突き刺されたような穴が2つ。

 僕が目覚めてから10日以上経つのに、未だその傷跡からは血が滲み出てくる。

 生きていることが不思議な状態だ。


 ジョージは傷口を丁寧に確認する。

 「胸の傷は深いけれど、臓器には達していないな。お腹の方は。。。一つが背中まで貫通しているのか。これが致命的だな。これを治さないと。でも、僕の力では、胸の傷は残ってしまうな。女の子なのに。。」

 ごめんね。と小さく呟きながら、少女の顔にかかっている髪をそっと撫でてどかし、手を頬にあて。。。流れるような仕草でおでこにキスをする。


 何しとるんじゃー。あまりにも自然すぎて止められなかったぁ。しかも、傍から見ていれば、おとぎ話の挿絵のようで。。。そして、気付いた。スライムになったからなのか、テンパリ過ぎてたからか気にしていなかったが。。。ジョージ。超イケメンじゃん。

 でもだからって、意識のない女の子のおでこにチューって。ダメだから。イケメンだからって何でも許されると思うなよ。

 スキルに”イケメン”があるのだとしたら、ジョージはきっと持ってるだろう。それくらい自然だった。


 鼻は無いけど、きっとあったら鼻息荒く怒ってる僕を無視してジョージはさらに続ける。


 がんばってね。少女に語りかけながら、ロケットから取り出した小さな世界樹の葉のかけらを自分の唇にあて、目を瞑りながら、聞こえないほど小さくブツブツと何かを唱えている。

 すると、世界樹の葉の欠片がホワッとした光を放ち始めた。

 それを少女のお腹の傷に当てると。その光が傷の方に移っていく。世界樹の葉の欠片は白い光の粉となって風に流されるかのように消えていく。

 傷は光が移った所からみるみると塞がっていく。背中まで突き抜けていた穴は塞がり、もう一つの穴もほとんど塞がった頃、光が無くなった。


 「ここまでか。。お腹の傷も少し残ってしまったな。」

 残念そうにジョージが呟く。


 あまりにも現実離れした幻想的な光景に、僕もホセも言葉なくただ立っていた。


 今までの僕たちとの一連のやり取りから気を遣ってくれたのか、ジョージは少女にスカーフをかけて傷口を覆っている。そして両手を少女のお腹の上にかかげ、目を瞑り、また何か小さな声で呟いている。ジョージの手が先ほど欠片のように薄っすらと光を帯びる。

 ジョージは目を閉じたまま、その手を左右に広げた。そしてそのまま左手は太もも辺りに、右手は喉元辺りにゆっくりと降ろす。両手を繋ぐように光の帯は続いて、まるで光の薄衣が上半身を包むようになった。


 その間もジョージは目を閉じており、それは光の帯が消えるまで続いた。


 光の帯が消えると、ジョージはゆっくりと静かに目を開けて、スカーフをめくる。

 「回復魔法では、これが限界か。。」

 

 まさかジョージさん、魔法まで使えたのか。なんと万能。イケメンで医学に通じ、剣術に長け、さらに魔法も使いこなす。そして流れるようにおでこにチューする女子の扱いかた。なんちゅう才能だ。溢れすぎだろう。


 少女の傷口に目を移すと、肩口から胸にかけての傷の深さはそのままだったが、滲み出ていた出血は止まっているようだ。ジョージが持っていた水筒の水をスカーフに含ませ、血だらけの身体を拭いていた。

 

 「ほら、ここまできたら、もう安心だよ。あとは傷口が完全に塞がるまで、僕の家で治療すれば、問題ないよ。君たちの世界樹の葉を使うまでもないだろう?」


 十分すぎる。友達にしてくれているのなら。だがどうしても僕は、完治させたい。欲を言えば元の身体に戻りたい。だからもう少しだけ僕はジョージに食い下がる。


 「でも、ジョージ。僕はやっぱりこの葉を使ってほしいんだ。さっきあなたに教えてもらうまで、僕たちは使い方すら知らなかった。ジョージに会っていなければ、この葉を捨てていたかもしれないんだから、この子のために使ってほしい。お願いだよ。」


 「うーん。ホセ君もそれでいいのかい?世界樹の葉を手に入れることなんて、今後一生ないだろう事なんだよ?」

 「俺に意見なんてあるわけない。その葉っぱは元々スライム君の持ち物なんや。好きにさせてあげたらいいと思う。」

 

 「君たちがいいのなら、僕は構わないよ。ただ、君たちの世界樹の葉を使うのは初めてだから、僕の持っていたものと効果が違わないことを願うばかりだけどね。」


 「では、もう一度やってみようか。」

 先ほどと同じようにジョージは目を閉じ、唇に当てた世界樹の葉が光を放ち始める。

 一番大きな真ん中の傷口に葉をあて、肩口から、胸までの傷を撫でる。光が傷口にあたり、撫でたあたりから、順番に光が移り消えていく。

 世界樹の葉は随分小さくなったが、まだある。続けてあと2本の爪痕にも同様に施すと。


 胸骨も砕けるほどの深い傷は跡形もなく無くなり、少し残っていた腹部の穴の傷もなかった。


 僕は万が一、傷の修復とともに、元の身体に吸収されるのではないかと期待をして、少女の手のひらに乗っていたのだが、何も起こらなかった。


 傷が完全に無くなった少女を見ると、顔には血の気が戻り、その小さな唇は美しい桜色に染まっていた。

 身体も同様に人形のような生気のない肌から、年頃の娘らしい艶やかな肌になっていた。


 ジョージは肩章を外し、そこにつけてあった美しいドレープの布を外していた。

 柔らかな布で胸を巻き隠すと、まだ余る布を首の後ろで結ぶ。

 そして、徐にジャケットを脱ぐと、少女に着せた。小柄な少女にブカブカの上着。手の先が出るように袖を折り曲げ上げていた。


 「スライム君、これで、心配はないかな?」

 それは僕たちが勘違いしたあの件に対する回答なのだろう。

 だが、あの時とは違い、十分すぎる誠実な対応の数々に、今はもう信用をしている。


 「ありがとう。」

 色々とお礼が言いたかったが、言葉が見つからず。そっけない一言になってしまった。


 「いいんだよ。当たり前の事をしただけなんだから。こちらこそ、信用してくれてありがとう。」

 僕たちの頭を優しく撫でた。


 いちいちイケメンな対応に、女子なら落ちてた。。。今はスライムで良かったー。と胸を撫でおろす僕なのであった。

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