第77話 ~火炎龍の棲み処~
涙を拭うメイドさんを宥めつつ、
「シグナルさん。でしたっけ?・・・すいませんね。取り込んでまして。」
僕は愛想笑いを浮かべる。
「いえ。私の事は気になさらず。」
シグナルは軍人らしく毅然とした態度で答える。が、「何やってんだ?」という感情が見え隠れしているのが見えてしまう。。。あぁ。感情が見える能力って。。。時と場合でね。。。要らない事もあるな。
「ふふっ。アルちゃん。彼女の事は任せて。ダルガがいれば、シグナルとの話は問題ないでしょう?」
席を立ちあがり、メイドの元へ歩くシエイラの影に入っていたダルガが不満そうにしていた。
「ワシもシエイラと一緒がいいのじゃが。。。」
「ダメよ?ちゃんと仕事をするのよ?」
子供に言い聞かせるように言い含めている。
シエイラは小瓶にお茶を移し替えると、自身の寝室へメイドを連れて行った。
ポットにはまだ、あの黒いお茶が残っていたので、シグナルにも勧める。
「これは。。。。レイマンゾのお茶でしょうか?私が口にするようなものでは。。。」
側近と言っていたシグナルでさえ、そのお茶を前に、躊躇する。
「そんなに珍しいの?」
「えぇ。それはもう。。。あまりに希少で、魔王のみが口にすることを許されるのですから。。。」
「えぇっ!!!そんな大切なヤツ?シエイラさん、簡単に出しすぎじゃない?」
思わず腰が浮く感覚だ。
「あら~。いいじゃない?たくさんあったんだもの。みんなで楽しんだ方が美味しいわよ!!」
奥からシレっとした答えが返ってくる。
こういう時のシエイラさんは何を言っても駄目だ。悪気がないんだから。
「それで、シグナルさん。その”レイマンゾ”ってなんですかね~?」
僕は興味津々に尋ねる。
「え?その件についてのお呼び立てだったのでしょうか?」
シグナルが困惑する。
「いや。違うけど。。。でも、こっちも気になっちゃってさ。」
「アル?さっきも大体の話は聞いただろ?珍しい植物だよ。その説明は後からゆっくりと聞こう?今は、白の国の件を先に。」
ジョージが呆れたようにため息をつく。
「あぁ。そっか。ごめん。そうだね。」
僕はジョージに謝り、シグナルへ向く。
「白の国の件ですが、助けていただき、ありがとうございました。引き続き、王都の復興を手伝っていただけると助かるんですが。。。」
「それはもちろん。火炎龍達のしでかしたことです。人間たちの許しが得られるのであれば、できる限りの協力は。。。どのみち、私一人でも行く予定でしたから。」
「あぁ。そうか。。。ウォールの家庭教師だったんだよね?じゃ、そういうことで。よろしくお願いします。必要な人員は、僕は分からないので、適当に。」
「あの。。。陛下。。。打ち首覚悟で申し上げるのですが。。。」
「え?なになに?打ち首って、穏やかじゃないけど。なんでも言って?」
「はい。本当に不躾なのですが、陛下の御歳は一体おいくつなのでしょうか?就任演説の時とは、なんというか。。。」
「別人でしょ?」
言いにくそうだったので、その後を続けると、シグナルが頭を机に擦り付けんばかりに下げる。
「申し訳ございません!!」
「え?謝ること、ないんだけど。。。まぁ実際に”歳”と言われると、よく分かんないんだよね~。とりあえず、就任演説のは、演技だよ。威厳があった方がいいからって、みんなに言われてね。君は、ダルガの側近って聞いたし、これからもたくさんお世話になるだろうから、あんな堅苦しいのを続けるのはさ、疲れるし。これでいいよね?」
僕の話に、シグナルがキョトンとしている。
「アルよ。。いきなりそれでは、驚いているではないか。。。」
ダルガが割って入る。
「でもさ~。時間かけたって、すぐにボロが出ちゃうよ。バレるより先に言っといたほうが楽だよ。。。」
「ダルガ様。魔王陛下。そういうことでしら、構わないのです。私は、身命を賭してお仕えする方が、私の命を懸けるに相応しいか。。。それを思い悩んでいたのです。」
「そうだよね~。いきなり新参者が現れて、今日からこの人に仕えてね。って言われてもね~。混乱するに決まってるよね?」
ふむふむ。と僕は納得する。
「いえ。多分、純粋な魔物たちは大丈夫です。魔王としての能力で掌握できているはずです。ですが、私は人間との混血児でして。。。」
「へぇ~。そうなんだ。嫌だったら、無理はしなくてもいいんだよ?このままいてくれるなら、心強いけど。」
「そう言っていただけるのでしたら、これからもお仕えさせていただきたいです。就任演説の際は、疑念が払拭できず、失礼をしました。あの時は、こういってはなんですが、なんとも胡散臭いと申しましょうか。。。ですが、それは演技だと仰る。ウォールから話を聞き、陛下の御力を間近で拝見し。。。まだまだ秘めたる力は底が見えず。ダルガ様とは違った魅力をお持ちの陛下の御姿をようやく見た気がいたします。このシグナル、魔王アル様に忠誠をお誓いいたします。」
「ありがとう!!そういってもらえて嬉しいよ!!これからもよろしくね!!」
やっと、側近の一人をゲットした。
こうなると、魔王の能力。。。疑念だらけじゃん。
みんなが心からの仲間になってくれる日って。。。。
遠そうだな。。。
「あっ!そうだ。思い出した。それで、ウォールってどうしてる?火炎龍も。大丈夫かな?」
そういえば、放置したままだった。
あの子龍も心配だ。
「はい。ウォールは私の元に引き取っております。火炎龍の処遇は陛下のご意向をお聞きしてからと思い、管理下に置いています。」
「え?管理下って、牢屋とかじゃないよね?」
「まぁ、牢屋には入り切りませんので。近いものですが。むやみに人間に手出しするべからず。という意味合いでは、グレーと言わざるを得ないので、入り口を封じた洞窟に入れておりますが。」
「え~?可哀想じゃん!あれ、完全に人間が行き過ぎてたじゃん!火炎龍は被害者だからさ。。。どっか、安心して暮らせる場所とかないの?あの子龍のその後も心配だしさ。」
「ありがとうございます。では、その辺りは、追々探して参ります。」
「そんな、後からじゃなくてさ。今から行こうよ?ねぇ、ジョージ、白の国の件は大丈夫そうだからさ、火炎龍を見に行ってもいいでしょ?」
「そうだね。あまり長い時間はダメだよ?この後、白の国にも行かなくちゃいけないんだから。」
「オッケー!!」
ようやく、自分の意見がすんなり通り、わくわくする。
「という訳で、許可も貰えましたんで、案内をお願いできますか?」
「え?あ。はい。」
魔王が人間に許可をもらう姿に、戸惑いを隠せないシグナルをよそに、僕たちはさっさと、バルコニーへ出る。
「何で行くの?移動魔法?ジルがいないからさ、あんまり遠くだと困るな。」
「一応、瞬間移動魔法の一種ですが。よろしいでしょうか?」
「いいに決まってるじゃん!よろしくね。」
僕は早速、シグナルの肩に乗る。
「僕たちもできればご一緒したいのだが。」
ジョージとリリィも側にきた。
「陛下がお望みであれば、問題ありません。」
シグナルは胸の前に組んだ手を、大きく広げる。
すると、鳥の羽のような魔法陣が浮かび上がった。
「では、参りましょう。」
シグナルは、その羽根に乗る。
ジョージとリリィも後に続いた。
「まぁ。素敵ね。とても美しいわ。」
リリィがうっとりと、その魔法陣を見つめる。
そして、その羽根が羽ばたくと。。。。
山肌にぽっかりと大きな口を開ける洞窟の前に出た。
その入り口には、魔法陣が輝き、衛兵が構える。
「陛下。こちらです。」
「うん!」
入口の衛兵は敬礼をし、道を開ける。
すると、観音開きのように、魔法陣が開いた。
この衛兵自体が、封印の扉になっているようだ。
「どうやってるの?この兵隊さんは休憩できるの?」
「問題ありません。これが彼らの仕事ですので。」
何でもないかのように、シグナルは言う。
しかし、いつ解除されるかもわからない門番なんて。。。
すごく酷な仕事だな。。。僕ならイヤだ。
これも、改善の余地があるかもしれない。覚えておこう。
中に入ると、思ったよりも広く、火炎龍達もゆったりと過ごしている。
「魔王様をお連れした。今回の件をお許し下さるそうだ。」
母龍を撫でながら、シグナルが報告する。
グルゥゥゥゥ。
小さく母龍が頷く。
「なんか、人間が酷い事をしてしまって。。。ごめんね。。。許してもらえないとは思うけど、嫌いにならないで欲しいんだ。魔界にどこか棲処も探すから。。。」
僕は母龍に声をかける。
「大丈夫。恨んでなんかいないし。ウォールも人間だもん。嫌いになんかならないよ?」
(え?どこから声がした?)
僕はキョロキョロと辺りを見渡す。
「僕を治してくれて、ありがとう。魔王様。」
その言葉で、子龍を見る。
宝玉が輝く、美しい瞳で、僕を見つめていた。
「言葉。。。。話せたの?」
僕は驚きで口が開きっぱなしになってしまった。
いや。みんなも同じようだった。
「うん!シグナルさんにも黙っててごめん。練習中だったんだ。多分、魔王様が宝王玉を目にしてくれたおかげで、僕の力が安定したんだと思う。」
「あぁ。ジルが言ってた、不思議な力って。。。こういうことか。。。」
あんぐりとしながらも呟く。
「うぅん。これだけじゃないけど。。。まだ使えないから、もし使えるようになったら、また見せるね。」
「そっか。うん。楽しみにしてるよ。でも良かったよ。君たちと、会話をできるって僕にとっても助かるからさ。」
「そう?魔王様なら、龍種の言葉も分かると思うんだけどな?魔王様でも使いこなせない力ってあるんだね?」
子龍が不思議なことを言う。
僕が龍種の言葉を理解し、話せるとはどういうことなんだろう?
”黄天竜”の能力の一部が使えるからって事なのだろうか。。。
「じゃ、僕も龍種の言葉が分かる様に、勉強してみるよ。」
「うん。楽しみにしてるね。」
子龍と一応の約束をする。
リリィが子龍に興味を示し、シグナルと話し込み始めたので、僕は洞窟を散歩する。
「アル?あまり遠くには行かないようにね?」
ジョージに釘を刺される。まるで子供扱いだ。
いや。いつもそれを無視して、数々やらかしてるから、仕方ないのかもしれないな。
気を付けよう。
洞窟の中心部はぽっかりと拓けているが、周りには無数の穴がある。
とても奥へは行けない程の小さな空洞で、すぐに行き止まりになっている。
だが、その一つから、微風が吹いてくる。
(これは。。。奥に続いているのかな?)
人の腕がようやく入るほどの小さな入口だが、小ぶりになった僕には大きすぎるほどの入り口。。。
(入らないわけがないよな~。)ウキウキと突入する。
真っ暗な闇に包まれたが、僕はオーラをほんのり出して、自分自身を松明代わりに歩く。
10メートルほどは、入り口ほどの狭さの道が続き、突然に、目の前が拓ける。
人間の子供が数人入れるほどのスペースだが、僕にとっては、広い。。。
しかし、目を奪われたのは、その拓けたスペースのせいではなかった。
真っ黒いスズランのような花が、一面に咲く。
そして花粉が光を放ち、パラパラと、光の粒を落とす。
幻想的な光景だ。
僕はしばらく、その場で見入ってしまった。
「アル~?そろそろ行こうか?」
遠くにジョージの声が聞こえた。
「うん。ちょっと待ってて。すぐ行くから。」
僕はそっと株を抜く。
触った感じは毒とかはなさそうだった。
「ねぇ。見て見て!!このスズラン綺麗でしょ?」
僕はジョージに駆け寄り、自慢げにさっきの花を出す。
「へぇ。本当だね。花粉が光ってるね。珍しいスズランだな。。。魔界特有なのかな?」
ジョージも覗き込んで見る。
「そ。それは!!!陛下。それをどちらで?」
シグナルの慌て方ぶりに僕は心配になる。
「え?何?ダメだった?毒とかあるの?」
マズイかもと思い、僕はすぐにジョージから離す。
「いえ。そうではなくて。。。それが”レイマンゾ”の花なのです。」
「え~!!!!そうなの?奥にいっぱい生えてたけどぉー!!!」
まさかの成り行きに、僕自身が驚く。。。
「えっと。。。珍しいんだよね?本物かな。。。」
もう一度、黒いスズラン風の花を出し、みんなで取り囲む。
「この漆黒の花。そして、その花粉。。。光を放ち。。。ちぎった途端に光は失せるのです。陛下が根ごと引き抜いたので、時間の猶予があるのかもしれませんね。。。私も光を放った姿を見たのは初めてです。」
シグナルが驚嘆する。
「だけどさ、これって、珍しいんでしょ?この洞窟にいっぱいあるってさ。。。」
「陛下。いっぱいというのは、具体的にはどれほどの数があったのでしょうか?」
「う~んと、3メートル四方くらいの場所に、びっしり。って感じだよ?数なんて数えられないよ。」
「それほどの数が。。。信じられないような話だな。。。」
シグナルが考え込んでしまう。
「ねぇ。先生?僕たち、この場所の生活を気に入ってるし、そんなに大切な物があるなら、このまま、ここに暮らそうか?もし誰かが来ても、僕たちがいれば、安心でしょ?」
子龍が提案する。
「そうだな。。。レイマンゾの花があると分かれば、この洞窟が荒らされる可能性があるからな。。。方針が決まるまでは、このままここにいてもらおうか。。。」
シグナルは顎に手を当て、迷っている。
「火炎龍の皆さんがいいのだったら、お願いしようよ?こんだけ、生えるってことは、ここがレイマンゾの繁殖地ってことでしょ?もしかしたらさ、このまま栽培までこじつけれたら、最高じゃない?」
僕は思い付きでいったのだが。。。
「栽培とは。。。考えたこともなかった。そうか。それが可能であるならば。。。」
ブツブツと言いながら、考え込むシグナルは放置しよう。
「じゃ、皆さん。よろしくお願いします。食べ物とか、必要なものがあれば、遠慮なく言ってくださいね。入口の二人を置いていくんで。それと魔法陣は解除するんで、出入りは自由にしてください。」
「ありがとうございます。棲み処をいただいた上に、仕事までいただけるなんて。全力で、あの花を守りますね。」
子龍は初めての仕事に張り切っている。
(まぁ。仕事っていうほどの仕事じゃないけどな。喜んでくれているのなら、まぁいいか。)
そして、僕たちは、入り口の二人に任務の変更を依頼して、魔王城へと戻った。
僕の頬袋には、”レイマンゾ”の花があと5株。。。
綺麗だったから、抜いてきていたが、珍しい花と発覚して、持っていることを言いそびれてしまった。
まぁ、また洞窟へ行けば、大量にあるわけだし、黙っていても問題ないか。。。
今日も、問題を棚上げして、戻った自室のソファーに身を投げ出すのだった。




