第76話 ~黒いお茶~
「それで、今は白の国と、魔王軍はどうしてるの?」
「魔王軍には、一旦魔界に戻ってもらっている。」
「そっか。。。うーん。どうしたらいいかな?白の国にも行きたいし。。。魔王軍の様子も知りたいし。。。」
僕が悩んでいると、ジョージが付け加える。
「それも大切だけど、”牛鬼”の件も片付いてないよ?」
「あ~~~!!!忘れてたぁ!!!」
ジョージの指摘に、ようやく思い出す。
「なんなんだよ。もう。。。シエイラさん”魔王はそんなに忙しくないから”って言ってなかったけ?全然ヒマにならないんですけどぉ。。。」
愚痴をこぼしながら、項垂れる。
「本当に、魔王らしくない魔王なんだな。。。まぁ白の国と我が国の対応は任してくれ!こう見えて、ジョージより俺の方が偉いんでね。」
ダヴィットが快く引き受けてくれる。
「じゃ、叔父さん、よろしくお願いします。僕はアルに付いて、もう一度、魔界に行ってきます。魔王軍に正式に依頼を。」
「分かった。必要であれば、お前の子飼いの部隊も連れて行け。」
「ありがとうございます。」
なんとか、緑の国での話し合いは終わったようだ。
僕とジョージとリリィは、ジョージの部屋へ向かう。
「僕、魔界への行き方、知らないけど。。。どうするの?」
「それなら問題ないよ?ジルが、常設の魔法扉を作ってくれたから。」
いやいやいや。。。ダメだろ?王子の部屋に魔界への扉って。。。
何を考えてるんだ?
まぁ。僕的には助かるんだけども。。。
「けどさ。常設じゃ危なくないの?モンスターとかが来たりとかさ。」
「その点は大丈夫。キーを持たない者は入れないから。」
そんな話を聞きながら、ジョージの部屋に入ると。。。
「おー。アル。目が覚めたんか?思ったより、早よ起きたなぁ。」
「久しぶり~!!!凄いことになってるみたいだね~。」
ホセと、何故か”世界樹の精”のカルアが、ソファーに寝そべってフルーツを食べている。
「あ。あぁ。お前ら、くつろぎ過ぎじゃね?」
一応ツッコミを入れておく。。。
こいつらは毎度、どうしてこうも自由にできるんだろう。。。
「何を言うてるんや。。。大切な親友の身体が心配で心配で。。。寛げるワケあらへんがな~。」
「そんだけ、寝転がっているのが寛ぐじゃないと、お前らの寛ぐってどれくらいなワケ?」
「ここで、見せられるような格好なワケないじゃ~ん。察してよ~。ねぇホセ?」
「そやな。究極の寛ぎ姿なんで、人様に見せられるワケあらへん。」
(究極の寛ぎって。。。どんなだよ?)
なんか、ホセとカルアが知らないうちに仲良くなってる。。。。
ろくな事にならなさそうだ。。。
「てかさ、カルアはなんでいるの?」
「やだな~。久しぶりに会いに来てあげたのに。冷たいんだから~。これが無くなったって聞いて、持ってきたのに~。」
カルアが、”世界樹の葉”を取り出す。
「うわ~。”世界樹の葉”じゃん!!!どうして?」
「古代竜のジル?あいつが来てさ。。アルの手持ちが無くなったからって。出し渋ったらさ、枝ごと折って持って行こうとするんだよ?力が強すぎて、ホントに折れそうだったんだから!!!」
そうか。。。ジルが。。。あとでお礼を言わないとな。
でも、”青魔竜”なら、枝を折ることも可能そう。なのか。。。
本当に、ジルのお姉さんの”黄天竜”と関わりがありそうだな。
「じゃ。ありがたく受け取っておくよ。」
僕が貰おうとすると、カルアはさっと”世界樹の葉”を引っ込める。
「あのさ、分かってると思うけど、アルが”世界樹の精”になる約束。。。無くなったワケじゃないからね。”魔王”だって、”世界樹の精”になれるんだから。そこんとこ、よろしく。」
「え?そうなの?まぁ。そうか。そうだな。”世界樹の精”が不在とはいかないんだもんな。。。あと1年半だろ?その間に、考えとくよ。。」
適当に答えておく。。。
「ホントに?怪しいんですけどぉ。。。でも、まぁ、仕方ないから今回は渡すけど。。。ホントはホイホイあげる物じゃないってことは理解してよね?」
「分かってるって!可愛いカルアちゃんには、いつも、ほんとっ~に感謝してるって。」
「え?そう?それほどでもないけどさ。」
ブツブツ言いながら、”世界樹の葉”を渡してくれた。
あからさまなお世辞でも喜ぶとは。。。チョロいな。
「カルア。ありがとな。。ところでさ、今から魔界へ行くんだけど、カルアも行く?」
せっかくなので、誘ってみる。
「え~?行ってみたいけど。。。流石にこの身体で”界渡り”までは。。。どうなるか分からないから止めとく。」
「え?何?”界渡り”って。」
聞いたこと無いワードに、?が付く。
「ん?魔界ってさ、異空間なワケじゃん?世界が違うっていうかさ。。。人間界と魔界。。。似て非なる物なの。だから、魔法扉みたいな方法じゃないと、行けないでしょ?そんなとこに、こんなか弱い私が耐えられないかなって。」
「そう言われてみると。。。そう。。なのかな。。。。」
良く分からないな。まっいっか。。
また後で、ジルに教えて貰おう。
「じゃあ、とりあえず、ちょっと行ってくるね。」
「気をつけてね~。」
カルアに見送られ、ジョージ・ホセ・リリィと共に、魔法扉をくぐった。
到着したのは、魔王の部屋だった。
「あぁ。ここなら、常設でも大丈夫だね。」
一安心である。
「あら?アルちゃん。早かったのね。。。もう少しかかるかと思っていたわ。」
ソファーで読書をしていたシエイラに迎えられる。
「ジルちゃんは今、お出かけ中なのよ。。。そうだわ。」
シエイラは、メイドを呼ぶと、なにやら指示を出す。
「ちょっと待ってて。今、シグナルを呼んだから。」
「えーと。。。誰ですかね?」
唐突に誰かの名前を言われても困る。。。そんな人、知らないから。。。
僕たちもソファーに腰を下ろすと、メイドさんがお茶を用意してくれる。
だが、そのお茶ときたら。。。
コポコポッコッポ。
カップにお茶を注ぐ時の音とは思えない。
若干ドロッとした感じに見えるし。。。
色がドス黒い。。。
「こ、これ。。。お茶?ですか?」
「うふふふ。そうよ?魔界の飲み物って感じがして、いいでしょ?」
シエイラは微笑みながら、僕にカップを勧める。。。
(これ。。。飲めるのか?飲んでもいいヤツなのか?絵本で魔女が煮詰めてるようなイメージの液体なんですけど。。。)
この状況に、何故か部屋のみんなは平然とし、僕の動向を窺っているようだ。。。
そうだな。。僕が飲まないと。。。ジョージ達が手を付けられない。。。
いや。違うな。僕が毒味係でどうする?僕が魔王なんだから、毒味したのを貰うべきだろう。
「あのさ、メイドのお姉さん。ちょっとこれ、飲んでみてくれる?」
「え?お気に召しませんでしたか?すぐに取り替えましょうか?」
凄く怯えている。そうか。給仕を失敗したと思っているのか?
それとも、マジでヤバイ飲み物なのか?
「いやいや。僕、猫舌でさ。。。温度が大丈夫か確認して欲しいんだけど。」
毒味とは言えない。
「私が、魔王様の飲み物に口を付けるなど。。。恐れ多いことでございます。」
遠慮すんなよ!!
「一口でいいからさ。」
「では。一口だけ。。。」
メイドさんがスプーンに掬い、一口啜る。
「はぁぁぁ。おいしい。。。あっ。すみません。温度でしたら、大丈夫かと思います。」
頬に手を添え、うっとりとその味を堪能していた。
「これ。。。美味しいの?」
その仕草に思わず本音が出る。
「えぇ。私も初めて口にいたしました。これほどの稀少で高級な物は普段、目にすることも叶いませんから。。。給仕をする際に匂いをかげるだけでも、皆から羨望の眼差しで見られるのです。」
匂いだけでもって。どんな飲み物なんだろ?
「魔王様?差し出がましいですが、カップでは冷めにくいでしょうし、私がスプーンにてお手伝いをいたしましょうか?」
(しまった。。毒味と言えず、猫舌設定をしたもんだから、めんどくさい事になった。メイドカフェはご遠慮したい。。。恥ずかしい。)
「大丈夫だよ?僕の部下にやらせるから。」
ジョージがリリィを示して、断る。
「かしこまりました。では。」
メイドさんは配膳を終えて、部屋を退出しようとする。
だが、僕たちの前に置かれたポットには、まだおかわり用のお茶が残っている。
「ねぇ、メイドのお姉さん。まだ、残ってるし、一緒に飲んでいけば?」
僕は声をかける。
「え?あの。。。えーと。。。」
驚きと戸惑いで、メイドは言葉すら出てこないようだ。
「ふふっ。アルちゃん?急に”魔王”がお茶に誘ったら、びっくりしてしまうわ。」
シエイラは席を立ち、メイドの肩を抱く。
「大丈夫よ?落ち着いて?新しい魔王様は、あなた達みんなの事を知りたいだけなの?あなたさえ良ければ、一緒にどう?」
それはそれは優しく話す。
ということは、それだけ、”魔王”という立場は。。。
気軽に声を掛けるのは気をつけないといけないんだな。。。
気を取り直して、怪しげだが、美味しいという飲み物に向かい合う。
「っさ。。さて、いただこうとしよう。」
声が裏返りながら、息を整え。。一口啜る。
「おいし~~~!!!なんだこれ?見た目から想像もできない味がするんですけどぉ!!!」
あまりのギャップに、思わず大きな声を出してしまった。
「うふふっ。良かったわ。これ、コボルトからのあなたへのお礼なのよ?」
「こんな美味しいの、コボルトはいつも飲んでるの?」
「いいえ。牛鬼に追いつめられた穴の中で見つけたそうよ?このお茶を作る植物はね、魔界でも滅多に見つけられないの?地下でしか育たない上に、とても小さくて、真っ暗な場所に少ししか生えないから。。。お茶にするほどの量もなかなか採れないのよ?それに、これは、身体を回復させる力が強いの。。人間界で売ってるような、回復薬なんて比較にならないほどにね。」
「じゃあ、今、ここにあるだけで、最後なんですか?」
「えぇ。今回の収穫はね。コボルトさん達はこれが、何かすらも知らなかったようよ?もしかして食べることができればと。あの穴の中で、必死に採取したようね。そして、ここに来て、その価値を知ったら、あなたへお礼にといってくれたのよ。」
「そんな高価な物なら、コボルトが売れば、お金にできたでしょうに。。。貰って良かったんですかね?」
「良いじゃない?あなたが身を挺して、みんなを助けた姿に対してのお礼なの。これで、あなたが少しでも回復できればという、コボルトの気持ちなんですから。ありがたく飲みましょう?」
シエイラは、優しく微笑んだ。
「う。。。うぅ。。」
下を向き、メイドさんは膝のエプロンを握りしめる。
「どうかしたの?」
僕は心配になって、声を掛けた。
「やっぱり。。。私、飲めません。。。せっかくお誘い頂いたのに。。。」
目から大粒の涙がこぼれ落ちる。。。
「え?いや。あの、泣くほど緊張させちゃったかな?ごめんよ?」
僕はメイドさんの元へ駆け寄り、謝る。
そして、僕の顔を見ると、さらに泣き始めた。
(何がいけなかっただろう。。。)
「君が泣く理由は、ここで魔王と一緒にお茶をしていること。ではないよね?何かあれば、話すと良いよ?君の希望に添えるかは分からないけれど、アルは君の気持ちを踏みにじるような事は絶対にしないから?ね?」
ジョージがメイドさんに寄り添う。
(流石だ。ジョージ。。。魔物の女の子すら、魅了できるのか。。。)
感心してしまう。
「ぐすっ。。はい。。。あの、これを飲まずに持って帰りたかったな。。。って」
「え?それで、手を付けずに、悩んでたの?」
簡単な理由で驚く。。。
それだけで泣いてしまうものなのか?
「私の妹が病気になってしまって。。。いろいろ試したんですけど。良くならなくて。。。それで。。。諦めてたんですけど。。。。魔王様に、飲んでもいいって仰っていただいたら。。。これを飲むのが、私ではなくて、妹だったら、もしかしたら。。。って考えてしまったんです。。。魔王様の御前で、私事を考えてしまい申し訳ございません。」
メイドは椅子から降り、土下座をし始めた。
「大丈夫だから!!考えごとくらい、誰でもするからさ!!気にしないで。頭上げてよ!!持って帰ることだって、いいに決まってるじゃん!!ほら、早く椅子に座って?ほんと、気付かなくてごめんよ!!」
ジョージがメイドさんを支えて、椅子に腰掛けさせる。
コンコン。。
「シグナルです。失礼します!」
ドアをノックし、魔人が入ってきた。
就任式で僕に物申し、ウォールの家庭教師だった、あの軍人だ。
「よく来てくれたわ。そこに座って。」
シエイラは何事もないように、席を勧める。
「は、はぁ。」
歯切れの悪い返事をし、みんなの様子を探っている。
そりゃそうだ。
お茶会のテーブルに、メイドさんが泣き、人間のイケメンが介抱する。
何事もないかのように、シエイラとリリィはお茶を飲み、
”魔王”が慌てふためいて、メイドさんに謝っている。
こんなワケの分からない状況の部屋に入って来たくは。。。なかっただろうな。




