第75話 ~緑の国の会議~
「まさか、自爆を選ぶとはね。。。」
ジルが首を振る。
「・・・・うん。」
予期せぬ戦闘終了に、僕は放心状態となった。
「アル?大丈夫かい?」
ジルが僕の手を握る。
「ん?あぁ。。。そうだ。。。牛鬼たちをなんとかしないと。。。また暴走するといけない。。。」
うわ言のように呟いた。
その言葉に、牛魔が身体を起こそうとしている。。。が、ダメージが酷いようで、起き上がれない。
「そうか。まずは君を治さないと。。。」
脱力し、無表情に僕は近づいた。
「どうか。どうか。牛鬼たちだけでもお許しを!!!」
起き上がることすらできず、地面に這いつくばりながら、仲間への許しを嘆願してきた。
「いや。勘違いしないで。別に殺そうとしてるわけじゃないよ。。。回復を。。。」
無表情。。。感情も籠らない言葉は、牛魔には恐ろしかったようだ。。。
ギュッと目を瞑り、頭を隠そうとしていた。
僕は無言で牛魔に手を翳す。。。
一瞬で牛魔の回復を終える。
「ジル、疲れたよ。。。少し。。休みたい。。。」
「あぁ。いいけど。。。こいつらどうする?」
「うん。。。暴走しないのなら帰ってもらったら?・・・あぁ。ダメか。。。帰る場所がないんだもんね。元の木阿弥か。。。とりあえず、どこか安全な場所に。。。ごはんもあげてさ。。。あぁ。そうだ。。。領主も呼び出さないと。。。。それから。。。。。」
そこまで伝えるのが精一杯だった。
意識は混濁していき、スライムなのか人型なのかも分からなくなっていた。
身体が崩れ落ちるような感覚に襲われ、ジルにもたれかかり、そして意識を失った。
夢の中だろうか。。。。
真っ白な世界にいる。
『それがそなたの力だ。』
あの声が聞こえる。
『非力を望むのも良かろう。しかし、力無くしては、守ることもできぬのだ。身に染みたであろう?』
『力は心を映す。。。清らかであれば、世界を照らすであろう。穢れておれば、闇に飲まれるであろう。そなたの今の心。大切にせよ。』
「・・・え?どういうこと?」
答えは返ってこなかった。
周りが騒がしい。。。
仄かに暖かく、暗い部屋にいる。
「ですから、先ほどから申し上げている通り、新たな”魔王”は人間界に手出しはしないと言っております。共存共栄が望ましいかもしれませんが、それが無理であることも承知しております。白の国での、魔王軍の働きぶりは報告した通りです。彼らの協力が無ければ、白の国の復興は遅れてしまいます!!!」
ジョージの声だ。
「しかしな、急に友好的であると言われても安易に信じるわけにもいかないだろう。。。それこそ、裏で画策しているのかもしれんからな。」
「そうだな。。。魔界を統べる王だぞ?邪悪そのものではないのか?」
「王子は惑わされているのです。目を覚ましてください!」
「魔物が我が物顔で人間界にいるというのは、どうもな。。。」
なんだか、白の国の件で揉めているようだ。
反対意見しかないな。
「そんな事はありません!!賢者の立場からしても、彼が裏切るような事はないと、断言できます!!!」
リリィだ。僕を庇ってくれているようだ。
「これは、彼の持ち物です。真の勇者が持つという、黄宝王玉とオリハルコンの武具。悪しき魔王であれば、これを持つことすらできないはずです!!これを最後に所有していたのは、伝説の勇者アルフォンです。歴史が証明していることでしょう?」
ジョージが机の上に、並べたようだ。ガチャガチャと音がした。
その品々を皆が眺めているようだ。。。
「これは凄い。。。」
「本物なのか?」
口々に呟いている。
ここは多分、ジョージのポケットの中なのだろう。
それならば。。。
僕は身体を平べったくし、ポケットの隙間から、目だけを出して、様子を窺う。
会議室に10数人がならんでいた。
「私は、この武具を扱うことができましたが、あくまで使用するのみ。所有者である魔王でなければ、武具を発現させることすらできないのです。試してみましょうか?『出でよ!アルム!』・・・できませんよね?この一言で魔王は発現させたのです。」
「こんな小さな懐中時計が、武具になるのか?」
「もし本物だとすると、魔界に伝説の武具があるのは危ないのでは?」
「だが、本当に魔王が友好的なのであれば、それに越したことはない。」
伝説のアイテムを前に、僅かに魔王を容認する声が出て来た。
うーん。きっと偉いであろう人達が揃いも揃って、煮え切らないな。。。
白の国の復興を魔物が手伝うことが、それほど問題なのだろうか。。。
役割分担をしたら、きっと早いのに。。。
「だが、古より伝わる”魔王は悪しきもの”というのが間違っているとは思えません!!!王位継承権も持たぬ王子の言葉など、強制力はありませんからな!!魔物が人間界に入るなど、私は断固として、反対します!!」
中年のおっさんが暴言を吐く。
(・・・・!!!なんだとぉ。モンスターの悪口は仕方ないにしても、ジョージを侮辱するなど許せん!!目にもの見せてくれるわぁ!!!)
心の中で、ひっそりと暴言返しをした。
「出でよ!!!アルム!!!そしてプロテクシオン!!!」
僕が発すると、懐中時計が光り、オリハルコンの武具がジョージに装着される。
室内にどよめきが起こる。
「アル?起きたのかい?」
「なんと、魔王がいるのか?」
「本物だったのか。」
「素晴らしい。」
「空気を読んでください。」
それぞれの思いが口に出る。。。。
最後のはリリィだな。相変わらず冷静だ。
僕はジョージの胸ポケットから顔を出す。
「やっぱ、まずかった?」
「いや。いいよ。問題ない。」
ジョージの指が僕を撫でる。
「僕、出てもいいかな?」
ジョージに問う。
「おすすめはできませんよ?」
リリィが答える。
僕はジョージの胸ポケットから、机の上に飛び降りる。
ポヨン。プヨン。
その小さい姿に、皆が身を乗り出すようにして、僕を見る。
「あのー。ご挨拶が遅れまして。。。この度、魔王に就任しました、ブルートスライムのアルと申します。以後お見知りおきを。。。」
僕は様子を見ながら、自己紹介を済ませる。
「なんですと?魔王とはスライムなのですか?」
「こんな者が、魔界を掌握できているのですか?」
「一捻りで勝てるのでは?」
「だから言ったのに。」
案の定、バカにされているな。
そして、最後はやっぱりリリィか。冷たい。
「あの~。」
僕は恐る恐る話を始める。
---皆さんのお気持ちは痛いほど分かります。
僕も逆の立場なら、同じことを言っているはずです。
だから、信じてくださいとしか言えません。
僕は、人間界で生まれました。人間としか暮らしたことはありません。
なので、人間界が大好きです。
魔王になる前、7つの大陸も回りました。この素晴らしい世界を荒らすことは考えたくもないんです。
できることならば、守ってもいきたい。でもそれは出しゃばり過ぎということも分かってます。
なので、魔界と人間界。お互いがお互いを認めあう日までは、こちらから侵害することはありません。
ずっと平行線をたどるのであればそれも仕方ないと思います。
それでも、白の国のように、危機に晒されたならば、手を差し伸べます。
魔物の力が必要であれば、手伝います。
それではいけませんか?---
僕は思いの丈を吐露する。
静まり返った室内に「カチャ」っと金属音が鳴った。
僕目掛けて、剣が振り下ろされる。
(やられる!!!)
僕は思わず、目を瞑り、身体に力を入れる。
パキィ~~~ン!!!
ザクッ!
金属音が鳴り響き、僕の身体に衝撃が走る。
だが、痛くも痒くもない。。。
そっと目を開けると、僕の隣に折れた剣先が刺さっている。。。
「”魔王”の名は伊達ではないか。まさか俺の剣が折れるとはな。。。参ったな。」
剣を振り下ろした渋いおっさんが、頭を掻いている。
「叔父さん!!何をするんですか???アル。大丈夫?」
ジョージが慌てつつも呆れている。
「いや~。スマンスマン。。”魔王”というのが信じられなくてな。本物なら、死ぬこともないだろうし、ちょっと試してみたんだがな。はーっはっはっは。」
「ダメでしょ?アルに何かあったら、許しませんでしたよ?」
「なんだ?ジョージは魔王の心配か?俺の剣も国宝級なんだがな。少しは心配してほしいな。」
「叔父さんの無茶は今に始まったことじゃないでしょう。。。僕は大切な友人の方が心配ですから。」
ジョージは話しながら、僕を手のひらに掬い上げる。
「僕に当たらなかった?」
「ん?当たってたよ?アルの身体がメタルスライムのようになってたけどね。」
ジョージが楽しそうに笑っている。
「というわけだ!!諸君、この”魔王”は悪しき者ではないようだ。少なくとも今は。。。ならば、その言葉を信じ、白の国の復興を手伝ってもらおうではないか。やはり、人間だけでは足りないだろう?」
ジョージの叔父さんとやらが、進言すると、
「まぁ、ダヴィッド閣下が仰るのでしたら。。。我らは従いますがな。」
「そうだな。。。」
「様子を見るか。。。」
パチ。。。パチ。。。
まばらに拍手が起きる。
「皆様、往生際が悪いです。」
リリィが冷たく言い放つ。
「おい、リリィ、失礼だぞ!!娘が失礼した。若輩者ゆえ、許していただきたい。。私も発言させていただくならば、このスライム。”魔王覇気”は纏っているが、悪しきオーラは持っていないようだ。しかも”聖”、”魔”の力が混在している。”魔”の力はスライムゆえ仕方ないであろうな。しばらく様子を見ても問題ないと、賢者として申し上げる。」
大賢者ヴォルガも味方になってくれた。
「ヴォルガ殿のお墨付きまであるのならば。」
パチパチパチパチ!!
場内から、満場一致の拍手をもらう。
「あ。ありがとうございます!!」
ジョージの手の中から、お礼を言う。
「良かったね?アル。」
「うん!!」
僕はようやくホッと胸を撫でおろした。
「てか、今、どんな状況?」
ジョージを見上げる。
起き抜けで、何も考えずに飛び入り参加したが、冷静に考えると、何も知らない。。。
「はーっはっはっは。スライム殿は面白いな。これで本当に”魔王”なのか?」
「あっ。すいません。新人なのもので。。。貫禄とかはまたそのうちに。。。」
「はーっはっはっは。気に入ったよ。ジョージが友達になるのも分かった気がするよ。」
そう言って、ダヴィッドは腹を抱えて笑う。
「アルは、どのあたりで目が覚めたんだい?」
「うーんと。。。。白の国の復興に魔物を使うかどうかで、使わないと復興が遅れる。とか揉めてる辺り。。かな?」
「ははっ。あくまでも話し合いだよ?揉めてた訳じゃない。じゃ、白の国の現状から話そうか?」
「うん。」
---僕たちが白の国で多少暴れて、暴動を鎮静化した後、暴動を起こした兵士の数が多すぎたため、国防としての機能が著しく低下した。
シエイラが、魔王軍を呼んでね。いや。自ら来ていたと言っても間違いじゃないな。
あの時の軍人、魔王ダルガの側近で、あのウォールの家庭教師だったんだ。
心配していたようだよ?
そしてね、アルが白の国の問題を不問にしたから、それに従い、現場の収拾にあたってくれたんだ。
僕の国からも、復興に対して人員を送ったんだけどね。。。
魔王軍と一緒だろ?しかも魔王と古代竜がいた。なんて話は居合わせなかった兵士には眉唾物だった。
そうなると、不平不満も出てきてね。
落ち着いた頃に、魔王軍などいらない。と言い始めたんだ。
一番忙しい時には、何も言わずに。。だよ?
それも僕の国の人間たちだ。恥ずかしかったよ。
火炎龍との戦いは市街地もあったからね。
力の強い魔王軍の兵士達の働きぶりには、とても助かっていたんだよ?
瓦礫の撤去などは、人では限界があるから。
白の国の人々は、火炎龍を間近で見ているしね。
家が壊され、生活に困る人もいたから、魔王軍に対しては、何も言わなかったんだ。
早く復興するに限るんだもの。
だから、僕が本国に理解をしてもらおうと、今日の会議に至ったわけだ。---




