第74話 ~スライムVS牛魔王~
「グフッフフフッフ。」
僕を見る牛魔王の金色の角は、ジルの血で赤く染まっている。
ワナワナと怒りに震える身体を抑えるべく、僕は大きく息を吐き。。。
「おい、お前、何が目的だ?何が望みなんだ?どうしてこんなことするんだ!!!」
口調が荒くなる。。。呼吸を整えた程度では、揺さぶられた感情など抑えることはできなかった。
「グフッフフフッフ。さっきもその龍に言ったがな。”魔王”に相応しき者は我のみ。。”魔王”は二人は要らぬのだ。魔界に君臨するのは我のみぞ!!!」
声高らかに言い放つ。
その傲岸不遜な態度に、腹立たしさを感じた。
「”魔王の力”は継承されたんだ!何も持たないお前が、”魔王”にはなれないだろう?」
「お前も龍も馬鹿なんだな?そんなもの、無くて良い。。。魔界に君臨すべきは、最強の力を持った者なのだ!!!支配力など、継承せぬでも屈服させればよい。」
自分勝手も甚だしい。。。
そんな理由で、魔界を蹂躙する言い訳になるはずがない。
「お前は”魔王”に相応しくない!!」
「グフフフッフフ。今の”魔王”と名乗る者の方が、相応しくないと思うがな。。。龍を寄こしたかと思えば、今度はスライムか。。。我は”牛魔王”であるぞ!舐められたものだな。」
牛魔王の左右の手のひらそれぞれに、鬼火が浮かぶ。
両手に出した鬼火を胸の前で統合し、巨大な塊にした。
両手を頭の上まで上げると、そのまま、僕にめがけて鬼火を繰り出す。
避けても、その鬼火は僕をロックオンしたかのように追尾してくる。
「ふん。ちょこまかと逃げ回るだけか?お前を捉えるまではその炎は消えぬぞ!」
その言葉で、僕は止まり振り返る。
鬼火が目の前に迫る。
鬼火に向かって、風を送るように羽ばたきを始めると、氷風が吹きすさぶ。
鬼火のスピードが落ち始めた。
僕が羽ばたきを強くすると、風は暴風へと変わっていく。。。
そして、風は徐々にうねり始め、鬼火を喰らうかのように包み込んだ。
「この程度の力で、僕を倒せるとでも思ったのか?」
僕は何故か自信に満ちていた。
さっきの氷風すら、どうやったのかも分からない。
言葉を発したのが自分だと言うことは分かっている。
だが。。。自分が自分でないかのようなのだ。。。
怒りに震えながら、冷静でもある。身体は勝手に力を使う。
自分の事を、ひどく歪に感じた。
「きっ貴様!!!その羽根。。。何者なんだ!!!」
スライムからの反撃に初めて牛魔王がたじろぐ。。
(羽根がどうした?)
僕は自分の羽を見る。
身体に対しては大きすぎる羽根になっていた。
そして、僕の深紅の身体の上に、黄色のオーラが覆う。
まるで金色の羽のようだった。
「そんな事、どうだっていいだろ?」
僕は吐き捨てるように言いながら、ゆっくりと牛魔王へ近づく。
それを見た牛魔王は毒のジェルを身体中に溢れさせ、突進してくる。
「馬鹿の一つ覚えだな。」
冷たく呟いて、僕は逡巡なく飛び出した。
黄色い、オーラの残像が尾を帯び、まるで彗星のような姿で、牛魔王のみぞおちに刺さる。
「グッフウゥウウウ。」
牛魔王は腹を抑えて呻く。
「どうした?”スライムごとき”なんだろ?人間でも倒せる最弱モンスターのスライムに負けるヤツが、”魔王”になるのか?」
僕の言葉に牛魔王は怒り狂う。
「ちょこまかとする小さきモンスターを捕らえきれなかっただけだ。次はない。」
「戦いに言い訳をするなんてな。次が無いのはお前のほうだろ?だが僕は優しいんだ。お前の希望に沿ってやるよ。」
僕はニヤリと笑い、身体に力を込める。
うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
僕は雄たけびを上げた。
そして牛魔王の角を掴む。。。。
ん?掴んだぞ?あれ?
僕に手があった。そして下を見れば足が。。。
これが望みの力か?
だが今は、そんな事どうだっていい。
牛魔王を倒すのみ。
両手にそれぞれ持った牛魔王の角に力を込めていく。。。
バキィ~ン!!!
凄まじい音を立てて、角が折れる。
「グアァァァッァァァァ!!!」
牛魔王は倒れ、のたうちまわる。
転げる牛魔王の腹を思い切り蹴り上げると、2メートルほど飛んだ。
「う。。。うぉあ。。。」
僕は悠然と歩み寄り、牛魔王の頭を足で踏みつける。
「グアァッ!!!」
「これくらいで、許されると思っているのか?」
屈辱に顔を歪めた牛魔王は、僕の足を掴み、どけようとしている。
しかし、僕には関係のないことだ。
折れた角の付け根にさらに足をねじ込む。
「ウガァァァ!!!」
「分かるか?それが痛みだ!それが苦しみだ!お前が身勝手な理由で蹂躙してきた魔界の者達の叫びだぁ!!」
牛魔王と闘いを始めてから、ヤツが蹂躙してきた、村や集落の映像が、絶え間なく僕に入ってきていた。
樹木妖精の森を笑いながら焼き、
逃げ惑うエルフを遊びがてらに狩る。
ユニコーンの群れに入って、羽をもぎ、
ケンタウロスを能力ごと喰らう。
種族も何も関係なく、目についた者は全て蹂躙してきたようだ。
(許されることなんて、一つもない!!!)
僕は牛魔王を足で抑えたまま、拳に氷を纏い、胸にパンチを叩き込む。
「お前がやってきたことは、こういうことだ!!!負けを認めてさっさと降伏しろ!!!」
「ふん。スライムごときに降伏するならば、死を選ぶわ!!!」
「チッ。分からないヤツだな。」
僕は極小の雷雲を手のひらに作る。。。
そしてそれを握りつぶした。
バチバチバチッ!!!!
雷雲の電気を拳に纏わせる。
「負けを認めろぉーー!!!」
両の拳を同時に叩き込む。
「グハッァ。。。死んでも。。。降伏などしないっ!!!」
牛魔王が苦しみながらも口から鬼火を繰り出した。
僕はそれを顔面に受ける。
「ふっざけるなぁーーー!!!!」
叫び、そしてその鬼火を力の限り吸い込む。
身体の内側からも熱を感じる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
拳を握り僕は哮り立つ。
オーラは焔へと変わっていった。
そして、僕を中心に焔は爆発を起こし、周辺の大地を削り取った。
足元に居た牛魔王はぐったりとしているものの、炎への耐性があるため、死んではいない。。。
「おい!これが最後通告だ!!!降伏する気になったか?」
「しっ死んでも。。。こ、うふく、しない。。。」
途切れ途切れに言葉を繋ぐ。
「そうか。残念だな。」
僕が牛魔王に手を翳した時だった。
「おっお待ちくださいっ!!!!」
離れたところから声が聞こえる。
「・・・・・。」
僕は無言で、声がした方を見る。
地面に這いつくばり、起き上がろうともがいている。
僕は牛魔王の首を掴み、引き摺りながら、その方向へ歩いていく。
近づくと、それは”牛魔”だった。
ジルが最初に氷漬けにしたヤツだ。さっきの焔の爆発で、氷が溶けたようだ。
僕の顔を見るなり、涙を流す。
「ぎ、牛魔王さまだけが、悪いんではないんです。」
何か事情があるのだろうか?
涙を見て、僕は少し冷静さを取り戻した。
「分かった。話があるなら、聞くだけ聞いてやるよ。」
「あぁ。。。ありがとうございます。」
牛魔はひれ伏した。
離れていたジルを呼び、話を聞くことにした。
牛魔が話を始めると、おおよそコボルト達の話と似通っていた。
牛鬼の暮らす地域はコボルトの集落から、随分離れていたが、同じ水脈を使っていたようだ。
年々、水が少なくなり、今年に入ると井戸が涸れ果てたのだという。
当然、領主への払いは難しくなった。
牛鬼は、数多くの集落が存在し、1つの集落で100匹ほどが暮らす。
4匹の進化固体、”牛魔”が誕生したのをきっかけに、さらに各地に点在する集落を地域で4分割し、牛魔が取り仕切ったそうだ。
それにより、牛鬼たちは互いの集落の状況などを知ることが出来るようになり、助け合い暮らすようになった。
そこへ、干ばつが来たのだ。
ほぼすべての集落に同時に起きたため、食料などを分け合うことすら難しくなる。
コボルト達よりも深刻だったのは、牛鬼の数であろう。。。
周辺地域に1万頭以上いるのだ。
比較的豊かな土地に暮らしていたとはいえ、干ばつの前にはどうすることもできない。
領主からは見捨てられ、獣に近い種族。。。知恵など4匹の”牛魔”しか持ち合わせない。
そして、危惧していた事態となる。
飢餓により、バタバタと仲間が死んでゆく。2千頭ほどが、あっという間に死んでいった。
もちろん死んでいくのは、子供や年寄りばかり。。。
現状を憂いた1匹の”牛魔”が旅に出る。
助けてくれる種族でもいい。
皆が暮らせる新天地でもいい。
多くは望まない。この現状を打破できればいいのだ。
旅に出て暫くした頃。
1匹のユニコーンに出会う。
ユニコーンは賢く、話を聞いてくれた。
だが、助けるどころか、暴言を吐いた。
「頭の悪い種族など、魔界にいなくてもいい。滅びるのが運命なのだろう。」と。
”牛魔”ははらわたが煮えくり返る思いがした。
我を忘れ、ユニコーンに牙を剥く。。。
気がついたときには、ユニコーンを倒し、その生き血を吸っていた。。。
飢餓状態であったためだろうか。。。肉も貪り食う。
そして。。。翠色の何かが見えた。。。が食べ進めるのを止めることができずに、その翠の物まで、飲み込んでしまった。
ガリッ音がしたので、硬い物だったのだろう。。。
飲み込んだ瞬間に劇的な変化が起きる。
身体が熱くなり、全身が痺れる感覚。。。
思わず床に倒れ込むと、今度は全身を貫く激痛が起きた。。。
のたうち回り、叫び、そして疲れ果てて眠る。
数時間後に目を覚ますと、身体はより一層大きくなったようだ。
額の上程に、何か違和感を感じる。角だ!!
上半身は人化している。
下半身は漆黒の長い毛になっていた。艶めく毛並みが美しかった。
そして、”牛魔”とは比較にならないほどの賢さもあった。
「あぁ。”牛魔王”へ進化したのか。。。」
”牛魔王”へと進化した”牛魔”は、仲間の元に急いで帰った。
自分が”魔王”へとなれる可能性が出てきたからだ。
牛鬼族から”魔王”が出れば、この飢饉も財力で凌げるだろう。。。
だが、しかし、領主への怒りがあった。
普段は搾り取るように魔王への供物を捧げさせ、取れないと判断すると、即座に切り捨てる領主が許せなかった。
同じ魔界のモンスターであるのに、『頭が悪い種族は滅びる運命。』と言ったユニコーンも許せなかった。
どうせなら、力を鼓舞しよう。ぐうの音も出ないほど、魔界に名を轟かせれば、あるいは”魔王になれるかも知れない。
そんな考えからの”牛魔王”の行動だったのだ。。
「牛魔王さまは、我々種族全員を救うために、闘って来られたのであります。水が干上がり、食べ物もない集落には誰も置いておく事ができないので、全ての者を引き連れたのです。」
涙を止めることもなく、”牛魔”が話を終えた。
「そうか。。。情状酌量の余地はあるな。。。だが、悪行までしていいはずはない。城に戻り、裁判にでもかけよう。まずは立ってくれ。」
僕は牛魔王の首根っこを持ち上げるが、動く気配がない。
「仕方ない。今回だけだ。少しばかり傷を治そう。歩ける程度に」
目を瞑り深呼吸をした。そして、回復魔法を練りながら、牛魔王の胸に手を置く。
「・・・・・・!!!!!」
牛魔王が僕の腕を千切らんばかりに掴む。
そして。。。。僕の回復魔法を吸収していくのだ。
牛魔王はみるみる回復していく。。。
だがその吸収が止まらないのだ。
全ての傷が癒えると、回復魔法は行き場を失う。。。
それでも吸収が止まることはない。
徐々に牛魔王の身体が膨らむ。
「おい!やめろ!!それ以上は危険だ!!!」
僕が手を振り解こうとするが、牛魔王の力は強く、離す気配はない。
身体は構わず膨らみ続ける。
「ぐっふっふっふっふ。言ったであろう?負けを認めるのであれば、死んだ方がマシだと!!!!」
僕の魔法力も、今だけは無限にあるかのように思えるほど溢れ、回復魔法を止めることができない。
ドッッパッァァ~~ン!!!
ついに限界を迎えた”牛魔王”の身体が、爆発し四散した。
「あぁぁぁぁ。牛魔王さま~~~。」
牛魔は泣き崩れた。
戦場に最後まで残ったのは、僕とジルと牛魔1匹、それと牛鬼が1000匹ほど。。。
そして、牛魔王がいた場所には、翠宝王玉が転がっていた。




