第73話 ~青魔竜VS牛魔王 後編~
ジルは牛魔王の変化に舌打ちをしながら、牛魔王と牛鬼を引き離すべく、大地を割り、マグマを流す。
「もう遅いわ。」
牛魔王はジェルを啜りながら嗤う。
牛魔王が満足して支配が解けたのか、残っていた3000頭ほどの牛鬼は歩を緩めた。
ジルは為す術なく、牛魔王の食事を見学する。
殆どのジェルを吸い尽くすと、牛魔王はゆっくりと起き上がった。
「グフフッフッフ。待たせて悪かったな。。。我はまだまだ成長するぞ?」
その言葉通り、牛魔王の身体は成長を続けている。
筋肉は隆起し、金色の角と爪が一回り太くなる。
漆黒の毛並みは妖艶なまでの輝きを出していく。
「ねぇ。ジョージ。。。これ。。マズくない?なんか、あいつ凄いことになってるみたいだけど。。。」
「そうだね。だが、ジルとの体格差もまだあるし。。。”牛魔王”の能力が分からないからな。。。」
中庭で、水晶を覗き込む。
「陛下。ただいま戻りました。此度の失策誠に申し訳なく。。。」
連隊長が僕に駆け寄り、謝罪を始めた。
「そんなことはいいからさ。向こうの状況を教えてくれないかな?」
僕はすっかり”魔王”の威厳も忘れ、話しかける。
だが、さすがは連隊長を務める魔人。。気にする様子もない。
「はっ。古代竜様の作戦といたしましては、我々を逃がすことを全てにおいて優先すると。魔王軍が撤退した後、力を解き放つと仰せでございました。」
では、この状況は、あえてジルが事を進めた結果なのだろうか?
それにしては、戦局が悪い気がする。
「それでもさ、これ見てよ。。ちょっと危ないんじゃないかな?」
水晶を覗き込んだ連隊長の顔が青ざめる。
「私たちを逃がすために、これほどの事態が起きていたとは。。。戦力になれないまでも、もう一度。。」
立ち上がろうとする連隊長をジョージが止める。
「”牛魔王”は仲間を飲んで吸収したんだ。君が行けば、格好の餌食だよ。敵に戦力を与えてしまうようなものだ。」
引き留められ渋々跪く。
「ジョージ様、この小さな水晶をこの人数で見るのは。。。投影してもよろしいでしょうか?」
城の白い壁を指さし、リリィが発案する。
「そうだね。僕はいいと思うけど、アルはどうする?」
「ここにいる人に見られて困る事じゃないしね。見やすい方がいいと思う。」
「では。」
リリィは立ち上がり、小さな宝玉を出した。呪文を唱えると、ランプのように輝き出す。
その光はまっすぐに伸び、リリィが水晶に当てる。
宝玉の光は水晶を通り、白壁へと届く。。。
リリィが微調整をすると、白壁が映画館のスクリーンの役割を果たし、映像が投影された。
「水晶を直接見るよりも、クリアさは無くなりますが、これくらいでしたら。。。」
「うん。凄いよ。十分だね。」
中庭に集まった僕たちと兵士達は、ジルの闘いを食い入るように見つめるのであった。
牛魔王の身体は、すでにジルの半分ほどまで成長していた。
ジルも相当にデカイだけに、現場は巨人同士の闘いのようになっているのだろう。。。
牛魔王の手のひらには、毒のボールが出来上がる。そこに、鬼火を吹きかける。
火を纏った毒のボール。。。
それを牛魔王は手のひらで転がしている。見る見る高速回転がかかり、それをジルへ向けて投げつけていくのだ。
次々と湧き出るように、ボールが生み出され、投げられる。
しかし、そのボールはジルの周辺に行くと、宙で止まり、そのまま浮かんでいる。
瞬く間にジルの周りには高速回転の鬼火毒ボールで埋め尽くされた。
少しでも動けば、接触するのは間違いない。
ジルは試すように、1つのボールを触った。
すると、高速回転がかかったボールは弾かれ、次のボールに当たる。そのボールはまた次へ。。。
そして、ボール同士がぶつかると、前のボールは爆発する。
連鎖爆発を起こし、ジルの周辺が紫色の毒の煙で覆われた。
毒の紫煙で、ジルの様子が見えない。
すると、一カ所から、煙が晴れる。
その穴からは、氷風が吹き、煙を消し飛ばす。
氷風はそのまま、牛魔王へと向かい、氷粒が打ち付けられる。
牛魔王はそれを避けるでもなく、凍った肩を撫でながら、不敵な笑みを浮かべた。
「面白いな。我と互角に戦えるとは、なんという龍種なのだろうか?」
「あははっは。名乗る程の竜じゃないよ?」
どちらも様子見のようだ。まだまだ余裕がある。
「じゃ、今度は僕から行こうかな。」
ジルがもったい付けるように言い放つ。
ジルの翼が朱く光り出す。。。。
羽ばたきを加えると熱風が沸き起こった。
熱風は徐々に縦に渦巻き、竜巻となり、牛魔王へ向かう。
大したことが無いと言わんばかりに、牛魔王は腕を組み、熱風竜巻をその身に受け止める。
だが、ジルがそのままで終わるはずもない。
空を見上げると、小さな黒雲。その黒雲が牛魔王の頭上へ動く。。。
そして、一気に滝の様な豪雨を降らす。
熱風の竜巻の中心に水。。。。
ドオォォォ~~~ン!!!!
水蒸気爆発が起きた。
爆風は、周辺の大地をも抉った。
闘いを見守る”牛鬼”たちは、爆風を浴び、吹き飛ぶ。
「おいおい。我のかわいい同胞達を巻き込むではないわ。。。どうせ殺すなら、喰わせてくれ。」
「随分余裕だな。足がもげたが、気にしないのか?」
爆発で、牛魔王の6本あるうちの2本が吹き飛んでいた。
にも関わらず、余裕の態度の牛魔王にジルは苛ついていた。
「ふん。足ごとき、どうにでもなるわ。」
そう言って、力を込めると、ブジュっという気色悪い音と共に、足が再生された。
「再生もただじゃ無いんだね?生命力が若干下がってるよ?」
ジルも余裕の態度を崩さない。
「小賢しいわ!!!」
牛魔王は体中から汗のように毒のジェルを出し、ジルへ突進する。
「僕に毒は効かないよ?」
ジルは牛魔王の突進を受け止め、身体を巻き付けて締め上げる。
その身体は白っぽく粉を吹いたように見えるが。。。氷を纏っているようだ。
締め上げられた牛魔王の身体の表面が凍っていく。
一方の牛魔王は鬼火を噴いて対抗する。
肉弾戦がしばらく続いた。
「あのさ。ジルって相当強いんだよね?古代竜の名前が付くくらいだからさ。。。それなのに、牛魔王と互角に見えるんだけど。。。」
僕は嫌な予感を拭いきれず、ジョージを見る。
しかし思いがけない所から返事が来た。
「そやな。。。封印が長すぎたか。。。。力も弱まってるんちゃうか?今、持てる力自体もまだ、身体と馴染みきってへんようやな。。。能力的にはジルが優位なはずや。。。。」
ホセが独り言をつぶやいている。本当に小さな声で。。。
「アル。。。どのみち、僕たちが手を出せる状況ではなくなった。ジルに託そう。」
「う。。うん。。。」
そうしている間にも、肉弾戦は白熱し、画面の戦いが動き出す。
牛魔王の金色の角が光を帯びたと思った刹那。。。。
巻き付いていたジルの身体を突き抜いたのだ。。。。
長く伸びた金色の角が、ジルの血で赤く染まる。
「うあぁぁぁぁぁっぁぁ!!!!!」
僕は目を見開き、叫んだ。飛び出そうとする僕をジョージが手で押さえる。
「アル。。。これは画面だから。。。ちょっと待って。。。」
「落ち着けるかぁぁぁ!!!ジルを。ジルを助けに行かないと!!!!」
「待つんだ!!!君にできることは。。いや。。。していい事は今は無い!!!大将がむやみに動くな!!!」
ジョージがいつになく厳しい口調で僕を叱責する。
牛魔王はジルの身体を貫いている角をさらにねじ込む。
ジルは竜の身体を苦痛によじらせるが、牛魔王を締め上げるのをやめようとはしない。
血がボタボタと落ちる。
僕はジルの苦痛にゆがむ表情を見ていられなかった。
「アル。目を背けるな!”魔王”という立場になった以上、これから先も戦いをしなくてはならない時が来る。兵は君の為、魔界の為に命を懸けるんだ。その命を無駄にしないように、君はそれを受け止めなくてはいけない!」
(ジョージの言うことは分かるんだ。だけど。。。心が付いていかない。。。)
ジョージの手の中で、溢れ出す感情を抑えようと努力するが、それに反して、身体が怒りに震える。
そんな僕をジョージは強く包む。
牛魔王の角から、鬼火が噴き出す。
ジルは目を見開き、叫ぶように口を開けると、鬼火を口から吐き出す。
内部から焼かれているのだ。。。
「うっ。。。うあっ。。。」
僕の感情が弾き飛びそうになっている。
「くっっ。。。。」
ジョージが顔を歪めた。
僕の怒りのオーラで、手が焼けてしまったのだ。
吹き飛びそうになっていた理性が戻る。
「ご。ごめん。ジョージ。」
「いや。いいんだ。少し落ち着いて。」
「うん。。。」
『魔王アルよ。そなたが平和を望む心に偽りはないか?』
どこかからか聞こえる声。。。強く優しく包み込むような。懐かしささえ感じる。。。
「はい。もちろんです。」
『では、そなたを導こう。。。ジルの元へ向かうのだ。』
「はい。。。。」
思わず返事をしてしまった。けれど、疑うことすら感じさせない声だった。
「アル?どうしたんだ?独り言?」
ジョージ。が僕を心配そうに覗き込む。
「え?今、声がしただろう?」
「何も。。。」
「じゃぁ。。。誰なんだろう?」
不思議に思うが、きっとジルを助けられる。という確信だけは何故か持てた。
それならば、時間がない。
「ジョージ、ちょっと降ろして?」
不思議そうに首を傾げながら、ジョージは僕を地面にそっと降ろす。
「ごめん。ジョージ。必ず戻るから!!!あとで、ちゃんと叱ってくれていいから!!!」
降りた瞬間の隙をついて、僕は魔法扉へ飛び込んだ。
「アルーーーーーーーー!!!!!」
ジョージの声を背中に受ける。
その叫びもプツンと途絶えた。
無我夢中で飛び込んだ魔法扉をくぐった僕が、その扉を閉じたからだった。
僕はジルの元へと向かう。なんだかいつもより身体が軽いし、スピードも出る。
必死だからだろうか。。。
”声”の通りに来てしまったが、僕には何の勝算もない。。。
不思議と恐怖は沸いてこないが。。。
程なくしてジルの元へ到着する。
周辺は毒の霧と、炎の熱が立ち込めている。
だが、僕は何も感じない。一体どうしてしまったのだろう。。。
「アル?アルなのか?」
ジルが僕に気付いた。。。声に力がない。
「ジル?」
しかし、僕の存在に気付いたのは、ジルだけではない。もちろん牛魔王も気付いた。
「グフフフッフフ。小さなスライムがどうした?まさか、龍を助けにきたのではあるまいな。。」
嫌らしい笑いを浮かべながら、僕を見る。
「まさかじゃない!!!その通りだ!!!」
ビシッと決める。。。
(いや。。。なんで挑発した?よく考えろよ。)
自分で自分を責める。
「グフフフッフフ。面白い。やれるものならやってみろ!!!」
戦いに興奮している牛魔王は、僕を”魔王”と気付いてないらしい。
そこだけは好都合だ。
そして、今更ながら気付く。。。
(ん?僕、宙に浮いてない?)
そう、目線の高さで気付いたのだ。。。
背中に羽根が生えていた。もちろんスライムのジェル状の羽根だが。。。
(まぁ、よくわかんないけど、ラッキーだ。戦闘で空中戦ができるのは助かる。)
それにしても、声の主は現れない。。。
あの声の通りに来たんだから、マジで早いとこ導いてくれないと困るんだが。。。
その時の僕は、冷静でもあり、怒りにも満ちている不思議な感覚だった。
脳で考えずに身体を動かす。
僕がジルに近づくと、面白がるように、牛魔王が角に炎を纏い、毒を流し込む。
グアァァァッァァァァ!!!
ジルの口から、炎と毒が噴き出す。
牛魔王を締め上げる力が、苦しみ悶えて、若干緩まったように見える。
「何するんだぁぁぁ!!!お前の相手は僕がする!!!」
怒りに震えた僕は、とんでもないことを口走った。。。
感情が高まりすぎた僕は、夢の中で身体を操っているようだった。
「グフフフッフフ。」
牛魔王が、ジルに突き刺した角をゆっくりと抜いた。。。
ジルの胴には穴が開き、血がとめどもなく流れ出す。
僕はその穴に息を吹きかける。
みるみるうちに穴は塞がっていった。
ジルは目を丸くする。
だが、僕にはその様子も、もう目に入らない。
標的と定めた”牛魔王”だけを見据えていた。




