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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=牛鬼討伐編=
74/322

第73話  ~青魔竜VS牛魔王 後編~


 ジルは牛魔王の変化に舌打ちをしながら、牛魔王と牛鬼を引き離すべく、大地を割り、マグマを流す。



「もう遅いわ。」

 牛魔王はジェルを啜りながら嗤う。


 牛魔王が満足して支配が解けたのか、残っていた3000頭ほどの牛鬼は歩を緩めた。



 ジルは為す術なく、牛魔王の食事を見学する。

 殆どのジェルを吸い尽くすと、牛魔王はゆっくりと起き上がった。


「グフフッフッフ。待たせて悪かったな。。。我はまだまだ成長するぞ?」


 その言葉通り、牛魔王の身体は成長を続けている。

 筋肉は隆起し、金色の角と爪が一回り太くなる。

 漆黒の毛並みは妖艶なまでの輝きを出していく。




「ねぇ。ジョージ。。。これ。。マズくない?なんか、あいつ凄いことになってるみたいだけど。。。」

「そうだね。だが、ジルとの体格差もまだあるし。。。”牛魔王”の能力が分からないからな。。。」


 中庭で、水晶を覗き込む。


「陛下。ただいま戻りました。此度の失策誠に申し訳なく。。。」

 連隊長が僕に駆け寄り、謝罪を始めた。


「そんなことはいいからさ。向こうの状況を教えてくれないかな?」

 僕はすっかり”魔王”の威厳も忘れ、話しかける。

 だが、さすがは連隊長を務める魔人。。気にする様子もない。


「はっ。古代竜様の作戦といたしましては、我々を逃がすことを全てにおいて優先すると。魔王軍が撤退した後、力を解き放つと仰せでございました。」


 では、この状況は、あえてジルが事を進めた結果なのだろうか?

 それにしては、戦局が悪い気がする。


「それでもさ、これ見てよ。。ちょっと危ないんじゃないかな?」


 水晶を覗き込んだ連隊長の顔が青ざめる。


「私たちを逃がすために、これほどの事態が起きていたとは。。。戦力になれないまでも、もう一度。。」

 立ち上がろうとする連隊長をジョージが止める。

「”牛魔王”は仲間を飲んで吸収したんだ。君が行けば、格好の餌食だよ。敵に戦力を与えてしまうようなものだ。」


 引き留められ渋々跪く。


「ジョージ様、この小さな水晶をこの人数で見るのは。。。投影してもよろしいでしょうか?」

 城の白い壁を指さし、リリィが発案する。

「そうだね。僕はいいと思うけど、アルはどうする?」

 

「ここにいる人に見られて困る事じゃないしね。見やすい方がいいと思う。」

「では。」


 リリィは立ち上がり、小さな宝玉を出した。呪文を唱えると、ランプのように輝き出す。

 その光はまっすぐに伸び、リリィが水晶に当てる。

 宝玉の光は水晶を通り、白壁へと届く。。。


 リリィが微調整をすると、白壁が映画館のスクリーンの役割を果たし、映像が投影された。


「水晶を直接見るよりも、クリアさは無くなりますが、これくらいでしたら。。。」

「うん。凄いよ。十分だね。」


 中庭に集まった僕たちと兵士達は、ジルの闘いを食い入るように見つめるのであった。




 牛魔王の身体は、すでにジルの半分ほどまで成長していた。

 ジルも相当にデカイだけに、現場は巨人同士の闘いのようになっているのだろう。。。


 牛魔王の手のひらには、毒のボールが出来上がる。そこに、鬼火を吹きかける。

 火を纏った毒のボール。。。


 それを牛魔王は手のひらで転がしている。見る見る高速回転がかかり、それをジルへ向けて投げつけていくのだ。


 次々と湧き出るように、ボールが生み出され、投げられる。

 しかし、そのボールはジルの周辺に行くと、宙で止まり、そのまま浮かんでいる。


 瞬く間にジルの周りには高速回転の鬼火毒ボールで埋め尽くされた。

 少しでも動けば、接触するのは間違いない。


 ジルは試すように、1つのボールを触った。

 すると、高速回転がかかったボールは弾かれ、次のボールに当たる。そのボールはまた次へ。。。

 そして、ボール同士がぶつかると、前のボールは爆発する。

 連鎖爆発を起こし、ジルの周辺が紫色の毒の煙で覆われた。


 毒の紫煙で、ジルの様子が見えない。

 すると、一カ所から、煙が晴れる。

 その穴からは、氷風が吹き、煙を消し飛ばす。


 氷風はそのまま、牛魔王へと向かい、氷粒が打ち付けられる。

 牛魔王はそれを避けるでもなく、凍った肩を撫でながら、不敵な笑みを浮かべた。


「面白いな。我と互角に戦えるとは、なんという龍種なのだろうか?」

「あははっは。名乗る程の竜じゃないよ?」


 どちらも様子見のようだ。まだまだ余裕がある。



「じゃ、今度は僕から行こうかな。」

 ジルがもったい付けるように言い放つ。


 ジルの翼が朱く光り出す。。。。

 羽ばたきを加えると熱風が沸き起こった。


 熱風は徐々に縦に渦巻き、竜巻となり、牛魔王へ向かう。

 

 大したことが無いと言わんばかりに、牛魔王は腕を組み、熱風竜巻をその身に受け止める。

 だが、ジルがそのままで終わるはずもない。

 空を見上げると、小さな黒雲。その黒雲が牛魔王の頭上へ動く。。。


 そして、一気に滝の様な豪雨を降らす。


 熱風の竜巻の中心に水。。。。

 ドオォォォ~~~ン!!!!


 水蒸気爆発が起きた。


 爆風は、周辺の大地をも抉った。

 闘いを見守る”牛鬼”たちは、爆風を浴び、吹き飛ぶ。


「おいおい。我のかわいい同胞達を巻き込むではないわ。。。どうせ殺すなら、喰わせてくれ。」

「随分余裕だな。足がもげたが、気にしないのか?」


 爆発で、牛魔王の6本あるうちの2本が吹き飛んでいた。

 にも関わらず、余裕の態度の牛魔王にジルは苛ついていた。


「ふん。足ごとき、どうにでもなるわ。」

 そう言って、力を込めると、ブジュっという気色悪い音と共に、足が再生された。


「再生もただじゃ無いんだね?生命力(HP)が若干下がってるよ?」

 ジルも余裕の態度を崩さない。


 

「小賢しいわ!!!」

 牛魔王は体中から汗のように毒のジェルを出し、ジルへ突進する。


「僕に毒は効かないよ?」

 ジルは牛魔王の突進を受け止め、身体を巻き付けて締め上げる。

 その身体は白っぽく粉を吹いたように見えるが。。。氷を纏っているようだ。


 締め上げられた牛魔王の身体の表面が凍っていく。

 一方の牛魔王は鬼火を噴いて対抗する。



 肉弾戦がしばらく続いた。



「あのさ。ジルって相当強いんだよね?古代竜の名前が付くくらいだからさ。。。それなのに、牛魔王と互角に見えるんだけど。。。」

 僕は嫌な予感を拭いきれず、ジョージを見る。

 しかし思いがけない所から返事が来た。


「そやな。。。封印が長すぎたか。。。。力も弱まってるんちゃうか?今、持てる力自体もまだ、身体と馴染みきってへんようやな。。。能力的にはジルが優位なはずや。。。。」


 ホセが独り言をつぶやいている。本当に小さな声で。。。


「アル。。。どのみち、僕たちが手を出せる状況ではなくなった。ジルに託そう。」

「う。。うん。。。」


 そうしている間にも、肉弾戦は白熱し、画面の戦いが動き出す。

 

 牛魔王の金色の角が光を帯びたと思った刹那。。。。

 巻き付いていたジルの身体を突き抜いたのだ。。。。


 長く伸びた金色の角が、ジルの血で赤く染まる。


「うあぁぁぁぁぁっぁぁ!!!!!」

 僕は目を見開き、叫んだ。飛び出そうとする僕をジョージが手で押さえる。

「アル。。。これは画面だから。。。ちょっと待って。。。」


「落ち着けるかぁぁぁ!!!ジルを。ジルを助けに行かないと!!!!」

「待つんだ!!!君にできることは。。いや。。。していい事は今は無い!!!大将がむやみに動くな!!!」

 ジョージがいつになく厳しい口調で僕を叱責する。



 牛魔王はジルの身体を貫いている角をさらにねじ込む。

 ジルは竜の身体を苦痛によじらせるが、牛魔王を締め上げるのをやめようとはしない。


 血がボタボタと落ちる。


 僕はジルの苦痛にゆがむ表情を見ていられなかった。

「アル。目を背けるな!”魔王”という立場になった以上、これから先も戦いをしなくてはならない時が来る。兵は君の為、魔界の為に命を懸けるんだ。その命を無駄にしないように、君はそれを受け止めなくてはいけない!」


(ジョージの言うことは分かるんだ。だけど。。。心が付いていかない。。。)

 

 ジョージの手の中で、溢れ出す感情を抑えようと努力するが、それに反して、身体が怒りに震える。

 そんな僕をジョージは強く包む。


 牛魔王の角から、鬼火が噴き出す。

 ジルは目を見開き、叫ぶように口を開けると、鬼火を口から吐き出す。


 内部から焼かれているのだ。。。


「うっ。。。うあっ。。。」

 僕の感情が弾き飛びそうになっている。

「くっっ。。。。」

 ジョージが顔を歪めた。

 僕の怒りのオーラで、手が焼けてしまったのだ。


 吹き飛びそうになっていた理性が戻る。

「ご。ごめん。ジョージ。」

「いや。いいんだ。少し落ち着いて。」

「うん。。。」


 

『魔王アルよ。そなたが平和を望む心に偽りはないか?』


 どこかからか聞こえる声。。。強く優しく包み込むような。懐かしささえ感じる。。。


「はい。もちろんです。」


『では、そなたを導こう。。。ジルの元へ向かうのだ。』


「はい。。。。」


 思わず返事をしてしまった。けれど、疑うことすら感じさせない声だった。


「アル?どうしたんだ?独り言?」

 ジョージ。が僕を心配そうに覗き込む。


「え?今、声がしただろう?」

「何も。。。」


「じゃぁ。。。誰なんだろう?」

 不思議に思うが、きっとジルを助けられる。という確信だけは何故か持てた。

 それならば、時間がない。


「ジョージ、ちょっと降ろして?」

 不思議そうに首を傾げながら、ジョージは僕を地面にそっと降ろす。


「ごめん。ジョージ。必ず戻るから!!!あとで、ちゃんと叱ってくれていいから!!!」

 降りた瞬間の隙をついて、僕は魔法扉マギーゲートへ飛び込んだ。

「アルーーーーーーーー!!!!!」

 ジョージの声を背中に受ける。


 その叫びもプツンと途絶えた。

 無我夢中で飛び込んだ魔法扉マギーゲートをくぐった僕が、そのゲートを閉じたからだった。

 

 僕はジルの元へと向かう。なんだかいつもより身体が軽いし、スピードも出る。

 必死だからだろうか。。。


 ”声”の通りに来てしまったが、僕には何の勝算もない。。。

 不思議と恐怖は沸いてこないが。。。

 

 程なくしてジルの元へ到着する。


 周辺は毒の霧と、炎の熱が立ち込めている。

 だが、僕は何も感じない。一体どうしてしまったのだろう。。。


「アル?アルなのか?」

 ジルが僕に気付いた。。。声に力がない。

「ジル?」


 しかし、僕の存在に気付いたのは、ジルだけではない。もちろん牛魔王も気付いた。


「グフフフッフフ。小さなスライムがどうした?まさか、龍を助けにきたのではあるまいな。。」

 嫌らしい笑いを浮かべながら、僕を見る。


「まさかじゃない!!!その通りだ!!!」

 ビシッと決める。。。

 

(いや。。。なんで挑発した?よく考えろよ。)

 自分で自分を責める。


「グフフフッフフ。面白い。やれるものならやってみろ!!!」

 戦いに興奮している牛魔王は、僕を”魔王”と気付いてないらしい。

 そこだけは好都合だ。


 

 そして、今更ながら気付く。。。

(ん?僕、宙に浮いてない?)

 そう、目線の高さで気付いたのだ。。。


 背中に羽根が生えていた。もちろんスライムのジェル状の羽根だが。。。

(まぁ、よくわかんないけど、ラッキーだ。戦闘で空中戦ができるのは助かる。)


 それにしても、声の主は現れない。。。

 あの声の通りに来たんだから、マジで早いとこ導いてくれないと困るんだが。。。



 その時の僕は、冷静でもあり、怒りにも満ちている不思議な感覚だった。


 脳で考えずに身体を動かす。


 僕がジルに近づくと、面白がるように、牛魔王が角に炎を纏い、毒を流し込む。


 グアァァァッァァァァ!!!

 ジルの口から、炎と毒が噴き出す。

 牛魔王を締め上げる力が、苦しみ悶えて、若干緩まったように見える。


「何するんだぁぁぁ!!!お前の相手は僕がする!!!」

 怒りに震えた僕は、とんでもないことを口走った。。。


 感情が高まりすぎた僕は、夢の中で身体を操っているようだった。


「グフフフッフフ。」

 牛魔王が、ジルに突き刺した角をゆっくりと抜いた。。。


 ジルの胴には穴が開き、血がとめどもなく流れ出す。

 僕はその穴に息を吹きかける。

 みるみるうちに穴は塞がっていった。


 ジルは目を丸くする。


 だが、僕にはその様子も、もう目に入らない。

 標的と定めた”牛魔王”だけを見据えていた。


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