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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=牛鬼討伐編=
72/322

第71話  ~牛鬼の暴走~


 僕はジルの膝の上で、彼を見つめる。


「ねぇ。ジル。。。」

「うん。」


「ジルが話をしてくれたのに、僕が隠し事をしているワケにはいかないと思うんだ。だから、僕も告白するね。」

「いや。アル?そんなこと。大丈夫だよ?」


「いいんだ。長い話じゃないし。。。」

「うん。君がいいのなら。」


「僕ね。。。僕、ホントは『サクラ』なんだ。。。」

「ん?どういう事?本人ってこと?」


「うん。そう。。。」

「だけど、スライムに。。。本体があるのに、転生はできないよ?彼女の記憶を持っているだけじゃないの?」


「僕もそう思った時もあった。でも、やっぱり、一番初めにサクラの血溜まりに触れた瞬間に感じた気持ちは間違いじゃないと思う。。。」


 ジルはありえないという表情で僕を見つめていた。



----僕はね。。。


 僕の『サクラ』の記憶として、不思議なのが一つだけ。。。

 幼少期の記憶がないこと位かな。。。

 あとは所々、抜け落ちてるけど。。。それくらいは人間であってもよくある事だし。。。


 親も兄弟もなかったから、10才くらいで旅に出たんだ。


 まぁ大した力も持っていなかったけど。


 それでね、食べ歩きが趣味で、あっちこっち行ったかな。

 美味しい物があるって聞くと、そこへ行く。みたいに。


 そんなことしてたら、知らないうちに大陸まで渡って、7つの海と7つの大陸を制覇だよ。

 笑っちゃう理由だよね。


 旅ばかりの生活だったから、知識は結構持ってたほうだと思うよ?


 けど、初めはなんか探してたような気もするんだ。。。

 忘れちゃったから、そこら辺は大した事じゃなかった気もする。。。


 でね。ジルの言う、”黄天竜”の力ってヤツ?

 サクラが持ってたかどうかは分からないな。。。


 友達なんて一人もいなかったもん。

 それに、みんなを助けるとか、そんなこともしなかったな。


 でも、17才の女の子が一人旅して、過酷な土地もあったけど無事だったのは。。。

 運が良かったって感じだなぁ。


 

 サクラが牙熊ファングベアに襲われて、その血溜まりで僕は生まれたんだ。

 世界樹の下で目が覚めて。。。

 ホセと出会って。。。その頃はまだ、自分がスライムとも気付いてなかった。

 そして、瀕死のサクラを見つけて。。。


 サクラの血溜まりに触れた瞬間、電撃に打たれたように、全てを理解した。

 「あぁ。僕、サクラだった。」って。

 そこで自分が”ブルートスライム”って種族なのも本能で分かった。


 どうしてスライムになったのか。どうして男なのかも分かんない。

 とりあえず、サクラは僕っ娘ではなかったよ。


 スライムになってからだと思うんだよね。。。

 友達ができたり。。。

 とにかくみんなを助けたり。。。

 その為に強く心に願ったり。。。


 ”黄天竜”の力を、僕はいつから持ってたかも分からないけど。。。


 サクラが最初から持ってたかもしれないよね?使ってなかっただけで。

 だから、死にそうなときに力が発動して、僕になったとか。。。


 それとも、僕が生まれるときに、何かの拍子で授かったか。。。


 とりあえず、僕の話はこんなとこ。特に目新しい情報はないんだけどね。----



「そうか。。。転生でもないとすると、魂が具現化したのか。。でも、そうなると、性別の矛盾が説明つかないな。。。そんな事、あるのだろうか???まぁ、あるんだよね。アルがここにいるんだものね。」


 ジルは納得できていない様子。

 しきりに考え込んでいた。



「でもね。ジル。。。この話はもう少し秘密にして欲しいんだ。いろいろ面倒な事になりそうだからさ。」


「そうだね。この話で、みんなの態度が変わるような事はないだろうけどね。ジョージのサクラへの執着がね。。。」


「うん。面倒くさいだろ?」

「まぁ、被害者はアルだけなんだけどね。でも、黄天竜の力があるとしてもさ。ジョージの執着は強すぎるよね?そんなに拘るほどの一目惚れなんだろうか?」


「その点は僕にもさっぱりだよぉ。こないだなんて、中身が僕でもいいとか言うんだよ?サクラの外見だけがタイプなのかなぁ?」


「あはははは。まぁ、結果的にはジョージの希望と現実は同じワケだ。なら、アルが諦めて、ジョージのお嫁さんになれば、解決だねー。」

 ジルはお腹を抱えて笑っている。


「もう。人ごとだと思って〜。まだ、サクラに戻る方法も見つからないのにさー。」


「アルは、ジョージが嫌いなのかい?」

「そんな事あるはずないだろ?大好きだよ。でも、それは、恋愛感情とかじゃないよ。だいたい今、男だし。」


「ま。この件は伏せておいても問題ないね。君が元に戻れる方法を見つけることの方が重要だろうし。。。

ん?」


「え?どうしたの?」

「問題発生みたいだ。すぐに戻ろう。」

「うん。。。」


 ジルは慌てた声で、僕を触った。。。




「アル!!起きたかい?」

 目を覚ますと、ジョージの膝の上だった。

「うん。何かあったの?」


 周りを見渡すと、魔物達が慌ただしく動いている。

 怪我をした者達が中庭に並べられて。。。

「おい!そっちも空いているぞ!!とにかく、魔王様の月光を当てるんだ!!」

 あの月の光を当てて、怪我を治そうと考えているようだ。

 だが、その月明かりはもう殆ど消えている。


 けがの状態が悪い者も多い。

 これほどの人数を全て助ける程の月明かりは残っていなさそうだ。。。


「ねぇ。何があったの?」

「あぁ。コボルトの集落を襲っていた”牛鬼”。。。アレが原因なんだ。」



 

 話を聞けば、僕は力を使い果たした後、三日三晩寝込んだそうだ。

 その間に、魔王軍は食料調達も兼ねて、”牛鬼”を討伐に行ったらしい。

 

 普段であれば、放置もするが、何せ群れの数が異常な為、これ以上の被害を出さぬように対処することにしたというのだ。


 ”牛鬼”の戦闘力であれば、軍を動かせば、十分対処できる。

 毒に耐性のある者達を重点的に集め、中隊を編成した。

 能力差を考えても、大隊編成は必要ないとの判断だった。


 僕たちの見たとおり、1000頭あまりの群れ。

 知れた闘いのはずだった。


 1日目が過ぎ、順調に数を減らす。食料調達も十分こなせた。

 だが、未だ300頭あまり。。。周辺に与える被害などを考え、群れとするならば、50頭程までは減らしたい。

 通常の”牛鬼”の群れが30頭ほどであったから。



 2日目に入って、闘いを続ける。

 昨晩の戦闘終了時点では、300頭あまりまで減らした群れが、朝には500頭ほどになっていた。


 しかし、中隊長は、どこかに隠れていた群れの一部が合流したのだろう。という答えを出した。


 昨日、700頭を倒したのだから、今日中に50頭まで減らすのは容易である。と意気揚々と戦闘を開始する。

 兵士達の士気も高く、順調に倒していく。


 半日ほどして、異変にようやく気付いた。

 牛鬼どもの数が減らない。。。それどころか、増えているのだ。


 偵察隊を組み、周辺を確認させる。。。

 すると、思ってもいない報告が上がったのだ。


「敵の数、1万。」と。

 耳を疑う数だった。


「どういう事だ!!」

 中隊長は叫ぶ。

「はい!周辺に群れがあと5つ。全てが合流すると1万を超えます。」


 絶望的な数だ。中隊では敗北必死。。。

「すぐに、援軍を!!」


 魔王城へ知らせが届き、連隊が組まれる。

 当然、ジョージ達の元へも報告がなされたが、アルはまだ目覚めてもいない。

 ジルが討伐に向かう案も提案されたが、指揮官はそれを断った。


「この程度の敵、問題ありません。古代竜様のお手を煩わせることなく、収束させてみせます。どうか魔王様のお側に。」


 ジルも特に問題を感じず、身体を維持できないでいるアルを優先させることにした。



 翌日も、闘いは続いていたが、魔王城へは特に報告はなされていなかった。

 何かあれば、報告が入る手筈。


 ジルは目覚めたアルと、精神世界へ赴く。。。



 そしてその頃、闘いの地では、さらなる恐怖に襲われていた。

 次々と指揮官の下へと入る報告。

「トロール隊が壊滅です。」

「ガーゴイル部隊からの連絡が途絶えました。」


 牛鬼に対して、有効と思われる部隊が、次々に潰れてゆく。。。

「おかしい。牛鬼ではないのか?」

 

 トロールの体躯では、牛鬼の毒も鬼火も大した事はないはず。

 素早さはないが、振り下ろすその一撃で、牛鬼など粉砕する。


 ガーゴイルであれば、牛鬼に腕力こそ劣るが、空から狙えるという利点と魔法も取り混ぜた攻撃で、有効に戦えるはず。


 だが、結果は。。。



「申し上げます!!」

 偵察部隊のガストが戻ってきた。


「群れ後方に統率個体を確認しました!!!」

「なんだと!!それは。。。」

 続く言葉を指揮官は飲み込む。とても信じたくない。。。


「風貌から、進化個体だと思われます。」

 偵察のガストも言葉を濁す。


 牛鬼の進化個体となれば。。。”牛魔”だ。

 もはや一刻の猶予もない。指揮官は遅い決断を下した。


「魔王様に報告と援軍の要請を。。。」



 偵察のガストは、その足で、魔王城へ向かい、中庭のジョージへ報告をした。

 そしてジョージはジルを起こした。。。


 


「”牛魔”って?」

 僕はモンスターに関してあまり詳しくない。ここは聞くしかないのだ。


「牛鬼の進化した者だよ。当然、進化個体だから、知恵も戦闘力もあがるよね?」

 ジルが説明してくれる。


「あの~。申し上げにくいのですが。。。」

 偵察のガストは言葉を詰まらせる。


「ん?いいよ。教えて。」

 僕は言葉を詰まらせる意味が分からず、ガストに説明を促す。


「はい。後方の部隊はあと3つ。どれにも統率個体の”牛魔”らしき姿を確認したのです。そして、最後尾には。。。一際大きい進化個体が。。。」

 項垂れ、力なく言葉を紡ぐ。


「もしかして”牛魔王”なの?」

 ジルは眉間に皺を寄せてガストを見つめる。


「分かりません。僕は見たことないので。。。でもその風体は伝説に近いと思います。危ないので近づけなくて。すみません。。。細部までは確認できませんでしたが、遠目に見て、ケンタウロスのように上半身が人化しているようでした。。。」

 

「君が謝ることではないよ?命がけで掴んだ情報だろう?ありがとう。助かったよ。すぐに対処するから、君は休んで。」

 生命力が著しく減っているガストに、ジルは優しく声をかけた。


「そんなに危ないヤツなの”牛魔王”って。」

「うん。そうだね。名前に”魔王”って付くぐらいだからね。本当の魔王になったヤツもいたはずだよ?」


「マズイじゃん!どうしよう。。。」


「それは大丈夫。僕が行くから。」

 ジルは簡単に結論を出す。


「勝てるの?」

「まぁ。大丈夫じゃないかな。闘ったことないけど。」


「え?そんな曖昧な。。。」

「でもさ、僕もアルも、まだ魔王軍を把握していないだろ?戦力も分からないのに、対処案なんて出ないよ?確実そうな僕が出れば、問題ないよ。」


「僕も一緒に。。。」

「ダメに決まってるだろう?今、”世界樹の葉”もないんだろ?それに、そこまで身体が小さくなっていれば、次に力を暴走させれば、消滅すら考えられる。アルはここにいなくてはいけない。これ以上魔界に混乱を招くわけにはいかない。」

 ジルに強く釘を刺された。


「僕もジルの意見に賛成だ。祖国で軍を預かる者として考えても、総大将を前線に送り込むなんていう愚策は認めないよ。」

 ジョージにも諫められる。


「うん。。。そうだよね。。。今のままじゃ、足手まといだもんね。」

 僕が俯くと、ジルが水晶玉を取り出し、僕の横に置く。


「これで、僕の見た景色を投影するよ。そしたら、少しは安心でしょ?」

「ありがと。。。」


「じゃ、時間もないから、すぐに出発するね。」

 ジルは背中を向けると魔法扉マギーゲートへ歩き出す。

 後ろを振り返る事なく、片手を上げ、魔法扉マギーゲートへと入っていった。



「心配だよ。」

 僕はジョージにしがみつく。

「うん。でもジルは古代竜だから。。。信じよう?」

 ジョージが僕を撫でる。



「けど、ホンマ大丈夫なんか?封印解けたとこで、力弱まってるって言うてたような。。。だから子供の姿ちゃうんか?牛鬼1万、牛魔3匹に牛魔王って。。。いくらジルが古代竜いうても、数多すぎへんか?」


 ホセがいつも通り、冷静な爆弾発言をする。

 そんなこと、僕だって分かってる。それでも。。。対応策がないんだ。

 どうしようもない。。。



 僕は食い入るように水晶玉を覗き込むのだった。


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