第70話 ~古代竜の告白 後編~
---僕は、黄天竜の力を奪い取る為に、姉を食べたんだ。
僕の方が身体も大きかったし、姉の身体は細かったから食べる事に苦労は無かった。
あの時の僕はどうかしてたんだね。
姉の血に染まりながら、嬉々として食べていたよ。
異変に気付いたのは、姉を食べ終わってからだった。。。
能力の継承が少なすぎる。。。
せっかく、継承を得る為に生きたまま食べたのに。。。
死の間際に、何かしたんだと思った。
だけど、それが分からない。
目の前では何も起きた様子が無かったから。
僕の美しい青色の身体は姉の血に染まり、紫色になっていた。
僕は地団駄を踏んで悔しがった。
腹の虫は収まらず、暴れ回り、罪のない人間の国を襲った。
逃げまどう人間達を見下ろして、優越感に浸っていた。
一つの国が滅び、僕の力で大陸は割れた。
それでもつまらなくてね。
姉から継承した能力の中に『豊穣』という力があった。
僕は面白がって、闘いで不毛の大地と化していた場所を、緑豊かな土地に変えたんだ。
希望を与えてからの絶望は、限りなく深く落ちるからね。
時間をかけたゲームを思いついた。
僕の予想通り、人間達は逞しくもそこに国を造った。
幸せそうにする姿が、僕は鼻についたよ。
だが、僕はニヤついたよ。計画通りに進んだから。
そして、幸せを噛みしめた人間を地獄に突き落とすために、その国を滅ぼしたんだ。
人間達は、姉の『黄天竜』は神の化身。正しい道を行けば、奇跡や豊穣を与えてくれる。
僕の『青魔竜』は血に染まった悪の化身。間違った道を行けば、滅ぼされる。
そう後世に伝えていった。人間には3匹の竜がいたことなど知る由もない。
だから、1つの竜だと思ったようだ。そして『古代竜』という名前だけが一人歩きした。
姉が消えれば、地上も魔界も僕のおもちゃだった。
彼女の全ての力は奪い損なったけれど、本人がいないのであれば、最強の称号は僕の物。
父は天上から動くことはなかったから。
地上でも魔界でも気の赴くまま、好き勝手に破壊と豊穣を与えた。
僕にとっては、暇つぶしの遊びだった。
時間をかけたゲームだったんだ。
そんな生活が100年は続いただろうか。。。
流石に父が怒ったよ。
いつか僕が自分の役割を果たす日が来るのではないかと、待っていたらしいんだ。
100年も待つなんて凄いよね?
ただ、父ですら、積もった感情が押さえられなくなるほど、僕は悪行の限りを尽くしていた。
ある日、いつものように暇つぶしに、人間を対象に狩りをしていた。
腕をもぎ取り、足を撃ち抜き。じわじわ追いつめてその叫びを聞いていた。
恐怖におののく表情が好きでね、楽しくてたまらなかった。
だが、その様子を父は天上から、見ていた。
その日、業を煮やした、父の逆鱗に触れたんだ。
僕は父に抗う様に戦いを挑んだが、所詮は力の一部分を分け与えられた子供。
全てにおいて足元にも及ばなかった。
そして、封印をされることになる。
眠ることすらできぬように精神を固定された。
身体を使用できぬように、自我は精神世界に閉じ込められた。
この水晶の洞窟は僕の精神を安定させるための、封印が施されているんだ。
永い封印の時間の全てを、猛省するために使うように、とのことだった。
そこで、聞かされたんだ。姉の能力について。
僕が姉を殺して、力を奪い取ろうとしていたために、父が操作したらしいんだ。
瀕死の身体と、姉の魂を分離させるのに、間に合わなくて、2つの能力が僕に飲み込まれたことを悔やんでいたよ。
そして、姉の自我は宝石にして保護したと言っていた。残った能力の行方については何も言わなかった。
僕が継承できたのは、2つ。
感情を読み取る力。。。これで、人間の感情を見て、楽しんでいたんだ。君の中に入るのも、この能力の一端だよ。
豊穣の力。。。不毛の大地に緑を与えたり、花や実をつけることも簡単だ。植物を操る能力だね。
そして僕が受け取れなかった力。
慈愛の力。。。博愛の精神を持ち、全ての者を慈しみ、分け隔てなく温情を与える。
癒しの力。。。その力で、心は癒され、身体は回復し、蘇生すらも叶える。
願いの力。。。望みを叶える力。これで、能力などを付与する。
たったこれだけと言われるかもしれないが、”願いの力”で僕が使うような魔法や攻撃力を補えるんだ。
十分すぎるだろ?
父は、始めに姉を造った時に、自分の力の縮小版ともいえる力を与えたんだ。だから万能だった。
僕は、”魔界”へ行くという縛りの中で、造られたから、攻撃的な力に特化していた。心なんて造ってくれなかった。姉のように、能力として付与されていたら、こんなことにはならなかっただろうね。
そして僕は、永い時を封印という中で過ごすこととなった。
腹立たしさも、苛立ちも。。収まる事なんて無い。まして納得なんて出来るはずもなかった。
でも、水晶の中では、感情を爆発させる事すら出来なかった。
僕が封印された魔界の辺境の土地は、いつしか”封印の地”と呼ばれ、伝説となった。
力自慢の者達が腕試しに来るようになっていたよ。
魔物もモンスターも人間も。様々な種族がいた。
魔界の辺境にあるために、中途半端な者はやって来ることが出来ない。
それなりに、旅をしてきた者が多くてね。
僕はその記憶を見るのが楽しみだった。
永い年月において世界の状況も情報もそこから見ることが出来た。
各時代の記憶。種族の多様性と進化。。見るだけでも面白かったよ。
旅人がやってくるのを僕は心待ちにするほどだった。
封印されて、1万年以上も経つと、僕の怒りや鬱憤はどこかへ行ってしまったかのようだった。
生まれたての僕は、見るもの触れるもの、全てに怒り、妬み、嫉み。仄暗い感情ばかり。
やり場のない気持ちに溢れていた。
その意味が、分からなかったけれど、人間の記憶を垣間見るうちに気付いた。
人間でいうところの”思春期”に似てるな。って。
僕の心も未熟で成長しきれてなかったんだな。って。
だけど、そう気付いても、僕は自分に自信は持てなかったよ。
もし今、封印が解けても、封印前のようにならない保証はどこにもなかったから。
ただ、今は、目の前に何もないから、落ち着いているだけのような気がしてたから。
そのうちに僕が封印されてからの年月も分からなくなってきた頃。
新たな挑戦者がやって来た。
その者達は、今までの者が、力でこじ開けようとしていた封印を、魔法と宝王玉で解除を試みた。
その結果、封印の一部を解除することに成功したんだ。
宝王玉の元になった宝石は、元々、父が造った物だったから。解除のきっかけになったんだろう。
だが、一部だけの解除が徒となる。
僕と肉体は分離したまま。。。
身体だけが暴走を始めたんだ。。。
精神のない身体は、本能のままに、力を振るった。
そんな中、魔王ダルガとアルがやって来たんだ。
君たちは、5色の宝王玉に加え、黄宝王玉も持っていた。
魔王の強大な力と6色の宝王玉の力で、封印は成功するかに思えた。
僕としても、それで良かったんだ。
身体と自我が離れたまま、封印が解除されても意味がないからね。
だが、それも失敗に終わる。
身体が、魔王を食いちぎったから。。。
たぶん、それだけなら、封印は成功していただろう。。。
けれど不運は重なるものだね?僕の身体は魔王の腕と一緒に、封印の要の黄宝王玉まで飲み込んでしまったから。
力の欠けた封印が成功するはずもない。
そして、アルの力か、黄宝王玉の力か。。。
飲み込まれた君たちに、僕の精神世界への道が開けた。
君が落ちてきたとき、僕は嬉しかった。封印後に人と話すのは初めてだったから。
それに、君が入ってきた瞬間に親しみとか、安心感とか、落ち着きとか。。。何とも言えない不思議な気持ちが生まれて。僕はすぐに君を気に入ってしまったよ。
人を気に入るなんて感情も初めてだったから、少し戸惑ってしまったけれどね。
その後、魔王の腕が崩壊し始めると、君は感情をオーラと共に爆発させた。
その結果、この隔絶された異空間の水晶の洞窟を破壊することとなった。
だが、僕にとっては功を奏した。
ここが壊れることによって、自我と肉体が繋がったのだから。
それからは、いろいろあったね。楽しかった。
君の魅力にみんなが魅了されてた。
君は、初めて会う人ともすぐに親しくなった。
羨ましかったよ。
だが、不思議なことに、僕はそれを妬む事は無かった。
むしろ、懺悔の気持ちがあったよ。
本当の僕を隠してたから。。。ずっと後ろめたかった。
きっと、”青魔竜”のことをみんなが知ってしまったら。。。
今までのようにはもう過ごせない。。。
君と、その仲間と、徐々に出会っていくうちに、その気持ちは膨らんで。
いつまで一緒にいられるか分からないと気付いてからは。。。
一日一日を噛みしめるように過ごしたよ。
楽しかった思い出だけでも刻み込みたかったから。。。
やっと、君に打ち明ける事が出来て良かった。。。
これで、思い残すこともないよ。。。----
ジルはまるで今生の別れのように締めくくった。
しばらくの間、沈黙が続く。
僕は目を瞑り、ジルの話を心に問う。。。
だが、あまりにも現実離れしすぎて、考えがまとまらない。
いいんだ。それで!悩む必要なんてない。答えは初めっから、決まってたんだから!
「ジル。話してくれてありがとう。そしてごめんね。悩ませてしまって。僕がもっとしっかりしてたら、君に辛い思いをさせなくて良かったのに。」
僕の言葉にジルが驚きと戸惑いの表情を見せる。
「だ~か~ら~。過去のジルと、今のジルは、似ても似つかないよ?同じ人とは思えない。僕は今のジルしか知らない。今のジルは良いヤツだよ?これからもきっと良いヤツだ!!もしも、昔のジルが出てきそうになったら、悪さをする前に、みんなで止めるよ?大丈夫。なんとかなるさ。」
「・・・・・・・。」
「だからね。安心して良いよ。僕に足りない事はいつもジルが助けてくれるだろう?僕だって、たまにはジルの力になりたいよ。みんなだって、きっと同じだよ?君の昔の話を聞いたって、今の友情が、変わるはずがない!だから、今まで通り、友達でいてよ?みんなだってそう思うよ?良いでしょ?」
僕はまっすぐにジルを見て話をした。
ジルの目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「あれ?なに?どうしたんだろう?」
ジルは戸惑いを隠せない。。。きっと涙なんて流したことが無かっただろうから。。。
「ほら、暖かい心を持ってるから、涙を流せるんだよ?ジルは僕のこと、みんなの事を想って、悩んだんでしょ?ちゃんと"優しい心”がある証拠なんだよ。間違いないよ?安心してよ。。。」
「うん。。。。うん。。。。」
ジルは頷き、子供のように泣きじゃくり始めた。。。
僕はその姿を嬉しく思いながら眺めた。
きっと、昔の”青魔竜”に戻ることは、もう無いだろう。
ジルは座り込み、涙を拭う。僕はその膝の上に乗っていた。
ひっくひっくとしゃくり上げると、僕の身体はポヨンポヨンと跳ねた。
それすらも僕には嬉しく思えた。
人化しているジルの姿は、4~5才のかわいらしい男の子。
その子が涙を拭きながらしゃくりあげている姿はとても愛らしく、僕が人間の姿だったら、抱きしめていただろう。
スライムのしかも小さくなりすぎた身体では、何もしてあげられないのがもどかしかった。
少し落ち着くと、ジルが話を続けた。
「ねぇ。アル。僕の話で、気付くことが無かった?」と。
「え?なに?どこらへん?」
何の、どこの部分の話なのかすらピンとこない。
「ほら、僕の姉”黄天竜”の力だよ。。。君の力に似ているだろう?」
「え?そうかな。。。そう言われるとそうのような。。。違うと言われれば違うような。。。」
「君にしては、珍しく煮え切らないね。。。」
---例えばね。
”世界樹”について、まずは話そうか。。。
僕の封印前には、”世界樹”は存在しなかった。それ以降に生まれたんだ。
"世界樹”の力ってさ、”黄天竜”の癒しの力、そのものじゃないかな?回復と蘇生。。。
それから、豊穣の力も少し。世界のどこにでも根を生やすことが出来るんだから。
そしてね、黄宝王玉。
父は僕に言ったんだ。姉の自我を"宝石にした”と。
黄宝王玉も世界樹と同様、僕の封印前には無かったからね。
その色と、そのシルエット。。。”黄色い”"竜”だ。
細い蛇のような体躯をしているだろう?姉もまさにそんな感じだったんだ。
だから、父がとりあえずの姉の器としたのが、黄宝王玉じゃないかと思うんだ。
今は、中に何かがいる気配は無いけれど。
さぁ。問題なのが、アルの能力だよね。
姉の行方の分からなくなった能力が3つ。
慈愛の力。。。博愛の精神を持ち、全ての者を慈しみ、分け隔てなく温情を与える。
癒しの力。。。その力で、心は癒され、身体は回復し、蘇生すらも叶える。
願いの力。。。望みを叶える力。これで、能力などを付与する。
このどれもが、君の力に酷似していると思うんだ。とても弱いけれど。
僕も含めて、みんなが一目で君に魅了され、好きになる。心が癒され、安心出来るんだ。
そして、君は誰にでも分け隔てなく接する。
君は、自分の事よりも、みんなを一番に考えて、困った者には手を差し伸べ、必要とあらば、君の能力以上の力を使い、助けてあげるよね?例え自分の身を削ってでも。。。
3つの力、全てが混在しているだろう?
そこで、それを裏付けるのが、これさ。さっき君が僕に付けた”契約の紋章”
確か、ジョージも君に触れて、その火傷が”龍の民”のきっかけとなったよね?まだ覚醒していないけれど、力は目覚め始めてる。
そして、僕に付けた”契約の紋章”。。。
”龍の紋章”だ。これは"ドラゴン種”だけが使うことが出来る。
僕は"竜種”。。。この紋章を刻み込むのであれば、後世に生まれた"龍族”では、格が上の始祖の"竜族”に付けることはできない。
"竜族”は、父・姉・僕。。。この3匹しかいないはずだ。父が他に造っていたら知らないけど。
そうなると、酷似した能力を持ち、"龍の紋章”を扱える君は、姉”黄天竜”の能力を多少なりとも継承したと考えるのが妥当だろう?
そう考えれば、"世界樹の精”として認められるのも当然なんだ。
魔王の力を継承出来るのも当然さ。魔界を造ったのは父だもの。
そして”竜族”には”聖”も”魔”も無い。それらが生まれる前から存在してたから。
だから、君は”聖”も”魔”も受け入れられる。
だって君は、”竜族”の能力を持ってたんだからね。
でも、君が”癒しの月”を造って、この仮説に近付いた時、本当に怖くなった。。。
僕が殺した人の能力を、僕が大好きな人が持っているんだ。。。
どうしたらいいのか。。。
僕が犯した大罪に対する報いなのだろうね。。。
君を見る度に心が癒されるのに。。。
君を見る度に自分の罪の重さに傷つく。。。
君と一緒にいると幸せなのに、
君と一緒にいると辛かったんだ。。。-----
ジルは深くため息をつき、話を終えた。。。




