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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=牛鬼討伐編=
71/322

第70話  ~古代竜の告白 後編~


---僕は、黄天竜の力を奪い取る為に、姉を食べたんだ。


 僕の方が身体も大きかったし、姉の身体は細かったから食べる事に苦労は無かった。

 あの時の僕はどうかしてたんだね。

 姉の血に染まりながら、嬉々として食べていたよ。

 



 異変に気付いたのは、姉を食べ終わってからだった。。。


 能力の継承が少なすぎる。。。

 せっかく、継承を得る為に生きたまま食べたのに。。。


 死の間際に、何かしたんだと思った。

 だけど、それが分からない。

 目の前では何も起きた様子が無かったから。


 僕の美しい青色の身体は姉の血に染まり、紫色になっていた。


 僕は地団駄を踏んで悔しがった。

 腹の虫は収まらず、暴れ回り、罪のない人間の国を襲った。


 逃げまどう人間達を見下ろして、優越感に浸っていた。

 一つの国が滅び、僕の力で大陸は割れた。


 それでもつまらなくてね。


 姉から継承した能力の中に『豊穣』という力があった。

 僕は面白がって、闘いで不毛の大地と化していた場所を、緑豊かな土地に変えたんだ。

 希望を与えてからの絶望は、限りなく深く落ちるからね。

 時間をかけたゲームを思いついた。


 僕の予想通り、人間達は逞しくもそこに国を造った。

 幸せそうにする姿が、僕は鼻についたよ。

 だが、僕はニヤついたよ。計画通りに進んだから。

 そして、幸せを噛みしめた人間を地獄に突き落とすために、その国を滅ぼしたんだ。



 人間達は、姉の『黄天竜』は神の化身。正しい道を行けば、奇跡や豊穣を与えてくれる。

 僕の『青魔竜』は血に染まった悪の化身。間違った道を行けば、滅ぼされる。


 そう後世に伝えていった。人間には3匹の竜がいたことなど知る由もない。

 だから、1つの竜だと思ったようだ。そして『古代竜』という名前だけが一人歩きした。



 姉が消えれば、地上も魔界も僕のおもちゃだった。

 彼女の全ての力は奪い損なったけれど、本人がいないのであれば、最強の称号は僕の物。

 父は天上から動くことはなかったから。

 

 地上でも魔界でも気の赴くまま、好き勝手に破壊と豊穣を与えた。

 僕にとっては、暇つぶしの遊びだった。

 時間をかけたゲームだったんだ。



 そんな生活が100年は続いただろうか。。。

 流石に父が怒ったよ。

 いつか僕が自分の役割を果たす日が来るのではないかと、待っていたらしいんだ。


 100年も待つなんて凄いよね?


 ただ、父ですら、積もった感情が押さえられなくなるほど、僕は悪行の限りを尽くしていた。


 ある日、いつものように暇つぶしに、人間を対象に狩りをしていた。

 腕をもぎ取り、足を撃ち抜き。じわじわ追いつめてその叫びを聞いていた。

 恐怖におののく表情が好きでね、楽しくてたまらなかった。



 だが、その様子を父は天上から、見ていた。

 

 その日、業を煮やした、父の逆鱗に触れたんだ。

 僕は父に抗う様に戦いを挑んだが、所詮は力の一部分を分け与えられた子供。

 全てにおいて足元にも及ばなかった。


 そして、封印をされることになる。


 眠ることすらできぬように精神を固定された。

 身体を使用できぬように、自我は精神世界に閉じ込められた。

 この水晶の洞窟は僕の精神を安定させるための、封印が施されているんだ。


 永い封印の時間の全てを、猛省するために使うように、とのことだった。




 そこで、聞かされたんだ。姉の能力について。

 

 僕が姉を殺して、力を奪い取ろうとしていたために、父が操作したらしいんだ。

 

 瀕死の身体と、姉の魂を分離させるのに、間に合わなくて、2つの能力が僕に飲み込まれたことを悔やんでいたよ。


 そして、姉の自我は宝石にして保護したと言っていた。残った能力の行方については何も言わなかった。



 僕が継承できたのは、2つ。

 感情を読み取る力。。。これで、人間の感情を見て、楽しんでいたんだ。君の中に入るのも、この能力の一端だよ。

 豊穣の力。。。不毛の大地に緑を与えたり、花や実をつけることも簡単だ。植物を操る能力だね。


 そして僕が受け取れなかった力。

 慈愛の力。。。博愛の精神を持ち、全ての者を慈しみ、分け隔てなく温情を与える。

 癒しの力。。。その力で、心は癒され、身体は回復し、蘇生すらも叶える。

 願いの力。。。望みを叶える力。これで、能力などを付与する。


 たったこれだけと言われるかもしれないが、”願いの力”で僕が使うような魔法や攻撃力を補えるんだ。


 十分すぎるだろ?


 父は、始めに姉を造った時に、自分の力の縮小版ともいえる力を与えたんだ。だから万能だった。

 僕は、”魔界”へ行くという縛りの中で、造られたから、攻撃的な力に特化していた。心なんて造ってくれなかった。姉のように、能力として付与されていたら、こんなことにはならなかっただろうね。



 そして僕は、永い時を封印という中で過ごすこととなった。


 腹立たしさも、苛立ちも。。収まる事なんて無い。まして納得なんて出来るはずもなかった。

 でも、水晶の中では、感情を爆発させる事すら出来なかった。


 

 僕が封印された魔界の辺境の土地は、いつしか”封印の地”と呼ばれ、伝説となった。


 力自慢の者達が腕試しに来るようになっていたよ。

 魔物もモンスターも人間も。様々な種族がいた。

 

 魔界の辺境にあるために、中途半端な者はやって来ることが出来ない。

 それなりに、旅をしてきた者が多くてね。

 僕はその記憶を見るのが楽しみだった。


 永い年月において世界の状況も情報もそこから見ることが出来た。

 各時代の記憶。種族の多様性と進化。。見るだけでも面白かったよ。


 旅人がやってくるのを僕は心待ちにするほどだった。



 封印されて、1万年以上も経つと、僕の怒りや鬱憤はどこかへ行ってしまったかのようだった。

 

 生まれたての僕は、見るもの触れるもの、全てに怒り、妬み、嫉み。仄暗い感情ばかり。

 やり場のない気持ちに溢れていた。

 その意味が、分からなかったけれど、人間の記憶を垣間見るうちに気付いた。

 人間でいうところの”思春期”に似てるな。って。

 僕の心も未熟で成長しきれてなかったんだな。って。


 だけど、そう気付いても、僕は自分に自信は持てなかったよ。

 もし今、封印が解けても、封印前のようにならない保証はどこにもなかったから。

 ただ、今は、目の前に何もないから、落ち着いているだけのような気がしてたから。



 そのうちに僕が封印されてからの年月も分からなくなってきた頃。


 新たな挑戦者がやって来た。

 その者達は、今までの者が、力でこじ開けようとしていた封印を、魔法と宝王玉オーブで解除を試みた。


 その結果、封印の一部を解除することに成功したんだ。

 宝王玉オーブの元になった宝石は、元々、父が造った物だったから。解除のきっかけになったんだろう。


 だが、一部だけの解除が徒となる。


 僕と肉体は分離したまま。。。

 身体だけが暴走を始めたんだ。。。


 精神のない身体は、本能のままに、力を振るった。



 そんな中、魔王ダルガとアルがやって来たんだ。


 君たちは、5色の宝王玉オーブに加え、黄宝王玉イエローオーブも持っていた。

 魔王の強大な力と6色の宝王玉オーブの力で、封印は成功するかに思えた。


 僕としても、それで良かったんだ。

 身体と自我が離れたまま、封印が解除されても意味がないからね。


 だが、それも失敗に終わる。

 身体が、魔王を食いちぎったから。。。

 たぶん、それだけなら、封印は成功していただろう。。。


 けれど不運は重なるものだね?僕の身体は魔王の腕と一緒に、封印の要の黄宝王玉イエローオーブまで飲み込んでしまったから。

 力の欠けた封印が成功するはずもない。


 

 そして、アルの力か、黄宝王玉イエローオーブの力か。。。

 飲み込まれた君たちに、僕の精神世界への道が開けた。



 君が落ちてきたとき、僕は嬉しかった。封印後に人と話すのは初めてだったから。


 それに、君が入ってきた瞬間に親しみとか、安心感とか、落ち着きとか。。。何とも言えない不思議な気持ちが生まれて。僕はすぐに君を気に入ってしまったよ。

 人を気に入るなんて感情も初めてだったから、少し戸惑ってしまったけれどね。



 その後、魔王の腕が崩壊し始めると、君は感情をオーラと共に爆発させた。

 その結果、この隔絶された異空間の水晶の洞窟を破壊することとなった。


 だが、僕にとっては功を奏した。

 ここが壊れることによって、自我と肉体が繋がったのだから。


 

 それからは、いろいろあったね。楽しかった。


 君の魅力にみんなが魅了されてた。

 君は、初めて会う人ともすぐに親しくなった。

 羨ましかったよ。

 だが、不思議なことに、僕はそれを妬む事は無かった。

 

 むしろ、懺悔の気持ちがあったよ。

 本当の僕を隠してたから。。。ずっと後ろめたかった。


 きっと、”青魔竜”のことをみんなが知ってしまったら。。。

 今までのようにはもう過ごせない。。。

 

 君と、その仲間と、徐々に出会っていくうちに、その気持ちは膨らんで。

 いつまで一緒にいられるか分からないと気付いてからは。。。

 一日一日を噛みしめるように過ごしたよ。

 楽しかった思い出だけでも刻み込みたかったから。。。



 やっと、君に打ち明ける事が出来て良かった。。。

 これで、思い残すこともないよ。。。----



 ジルはまるで今生の別れのように締めくくった。


 

 しばらくの間、沈黙が続く。


 僕は目を瞑り、ジルの話を心に問う。。。

 だが、あまりにも現実離れしすぎて、考えがまとまらない。


 いいんだ。それで!悩む必要なんてない。答えは初めっから、決まってたんだから!


「ジル。話してくれてありがとう。そしてごめんね。悩ませてしまって。僕がもっとしっかりしてたら、君に辛い思いをさせなくて良かったのに。」


 僕の言葉にジルが驚きと戸惑いの表情を見せる。


「だ~か~ら~。過去のジルと、今のジルは、似ても似つかないよ?同じ人とは思えない。僕は今のジルしか知らない。今のジルは良いヤツだよ?これからもきっと良いヤツだ!!もしも、昔のジルが出てきそうになったら、悪さをする前に、みんなで止めるよ?大丈夫。なんとかなるさ。」


「・・・・・・・。」


「だからね。安心して良いよ。僕に足りない事はいつもジルが助けてくれるだろう?僕だって、たまにはジルの力になりたいよ。みんなだって、きっと同じだよ?君の昔の話を聞いたって、今の友情が、変わるはずがない!だから、今まで通り、友達でいてよ?みんなだってそう思うよ?良いでしょ?」


 僕はまっすぐにジルを見て話をした。


 ジルの目から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「あれ?なに?どうしたんだろう?」


 ジルは戸惑いを隠せない。。。きっと涙なんて流したことが無かっただろうから。。。


「ほら、暖かい心を持ってるから、涙を流せるんだよ?ジルは僕のこと、みんなの事を想って、悩んだんでしょ?ちゃんと"優しい心”がある証拠なんだよ。間違いないよ?安心してよ。。。」

 

「うん。。。。うん。。。。」

 ジルは頷き、子供のように泣きじゃくり始めた。。。


 僕はその姿を嬉しく思いながら眺めた。

 きっと、昔の”青魔竜”に戻ることは、もう無いだろう。



 ジルは座り込み、涙を拭う。僕はその膝の上に乗っていた。

 ひっくひっくとしゃくり上げると、僕の身体はポヨンポヨンと跳ねた。

 それすらも僕には嬉しく思えた。


 人化しているジルの姿は、4~5才のかわいらしい男の子。

 その子が涙を拭きながらしゃくりあげている姿はとても愛らしく、僕が人間の姿だったら、抱きしめていただろう。

 スライムのしかも小さくなりすぎた身体では、何もしてあげられないのがもどかしかった。




 少し落ち着くと、ジルが話を続けた。

 

「ねぇ。アル。僕の話で、気付くことが無かった?」と。

「え?なに?どこらへん?」


 何の、どこの部分の話なのかすらピンとこない。


「ほら、僕の姉”黄天竜”の力だよ。。。君の力に似ているだろう?」

「え?そうかな。。。そう言われるとそうのような。。。違うと言われれば違うような。。。」


「君にしては、珍しく煮え切らないね。。。」



---例えばね。


 ”世界樹”について、まずは話そうか。。。

 僕の封印前には、”世界樹”は存在しなかった。それ以降に生まれたんだ。


 "世界樹”の力ってさ、”黄天竜”の癒しの力、そのものじゃないかな?回復と蘇生。。。

 それから、豊穣の力も少し。世界のどこにでも根を生やすことが出来るんだから。



 そしてね、黄宝王玉イエローオーブ

 父は僕に言ったんだ。姉の自我を"宝石にした”と。


 黄宝王玉イエローオーブも世界樹と同様、僕の封印前には無かったからね。

 その色と、そのシルエット。。。”黄色い”"竜”だ。

 細い蛇のような体躯をしているだろう?姉もまさにそんな感じだったんだ。

 だから、父がとりあえずの姉の器としたのが、黄宝王玉イエローオーブじゃないかと思うんだ。

 今は、中に何かがいる気配は無いけれど。



 さぁ。問題なのが、アルの能力だよね。

 姉の行方の分からなくなった能力が3つ。

 

 慈愛の力。。。博愛の精神を持ち、全ての者を慈しみ、分け隔てなく温情を与える。

 癒しの力。。。その力で、心は癒され、身体は回復し、蘇生すらも叶える。

 願いの力。。。望みを叶える力。これで、能力などを付与する。


 このどれもが、君の力に酷似していると思うんだ。とても弱いけれど。


 僕も含めて、みんなが一目で君に魅了され、好きになる。心が癒され、安心出来るんだ。

 そして、君は誰にでも分け隔てなく接する。

 君は、自分の事よりも、みんなを一番に考えて、困った者には手を差し伸べ、必要とあらば、君の能力以上の力を使い、助けてあげるよね?例え自分の身を削ってでも。。。


 3つの力、全てが混在しているだろう?



 そこで、それを裏付けるのが、これさ。さっき君が僕に付けた”契約の紋章”

 

 確か、ジョージも君に触れて、その火傷が”ドラゴンの民”のきっかけとなったよね?まだ覚醒していないけれど、力は目覚め始めてる。


 そして、僕に付けた”契約の紋章”。。。

 ”ドラゴンの紋章”だ。これは"ドラゴン種”だけが使うことが出来る。


 僕は"竜種”。。。この紋章を刻み込むのであれば、後世に生まれた"龍族”では、格が上の始祖の"竜族”に付けることはできない。

 "竜族”は、父・姉・僕。。。この3匹しかいないはずだ。父が他に造っていたら知らないけど。


 そうなると、酷似した能力を持ち、"ドラゴンの紋章”を扱える君は、姉”黄天竜”の能力を多少なりとも継承したと考えるのが妥当だろう?


 そう考えれば、"世界樹の精”として認められるのも当然なんだ。

 魔王の力を継承出来るのも当然さ。魔界を造ったのは父だもの。


 そして”竜族”には”聖”も”魔”も無い。それらが生まれる前から存在してたから。


 だから、君は”聖”も”魔”も受け入れられる。

 だって君は、”竜族”の能力を持ってたんだからね。




 でも、君が”癒しの月”を造って、この仮説に近付いた時、本当に怖くなった。。。

 僕が殺した人の能力を、僕が大好きな人が持っているんだ。。。

 どうしたらいいのか。。。

 僕が犯した大罪に対する報いなのだろうね。。。


 君を見る度に心が癒されるのに。。。

 君を見る度に自分の罪の重さに傷つく。。。

 君と一緒にいると幸せなのに、

 君と一緒にいると辛かったんだ。。。-----




 ジルは深くため息をつき、話を終えた。。。


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