第67話 ~光の奇跡~
「う~ん。これ、どうなるのかな~。戻るのかな~。」
水に揺られながら、頭はボーッとして。。。
「あんた大丈夫?」
ソフィアに心配される。意外だな。。。
それでも僕は頭が重くて考えられない。
チラッとソフィアを見たが、また天井をボーッと見つめる。
「なんかあれ。ヤバくない?」
ソフィアはジルに聞く。
「あぁ。まだ、完全に目が覚めてないんだよ。アレだけの力を使ったんだ。もう少し休ませてあげよう?」
「うん。」
そんな会話を遠くに聞きながら、僕はまた夢の中へ。。。
夢の中。。。。
僕は空に浮かんでいた。
見下ろすその先には、毒に侵されたジョージの姿。
その膝に僕がいる。
(あぁ。さっきの場面を僕は見ているのか。。。)
なんだか不思議な気分。。。
音声など無い夢の中で、僕が我を忘れ、オーラを纏い、力の限り叫んでいる。
(ここまではなんとなく、記憶があるな。。。)
その叫びと共に、オーラが天を貫く。
だが、その姿は。。。。
僕のオーラが真っ白な竜となって天を駆け昇るのだ。
オーラの光でその鱗は、銀のように輝く。。。
その身体からは、花吹雪のように光の粒が舞い落ちる。
天上まで昇った竜は、ぐるりを天を一回りした。
まるで月を描くように、オーラの残光が新円を描く。。。
そして、僕とジョージに向けて、一直線に降下を始めた。
キラキラと舞い落ちる光の花びらの中の竜。
美しく幻想的なその光景とは裏腹に、竜はうねる様に肢体をくねらせ、減速することなく、ジョージに向かう。
(あ!!あぶない!!!!)
僕の夢の中の声が届くはずもなく。。。
竜はまばゆい光となって僕たちを飲み込んだ。。。
「あ!!あぁ。。。。。はぁっはぁっ。」
(何だったんだ。。。今の夢は。。。)
スライムの身体から、汗など出るはずも無いのに、僕の身体がぐっしょりと濡れていた。
「ちょっ。ちょっと。大丈夫?」
ソフィアの慌てた声に、ジルが走ってくる。
「あぁ。良かった。。。毒が抜けたんだね。」
そう言って僕を鋳物の容器から掴み出す。
そこで気付いた。ようやく僕の身体が、いつもの形に戻ったことに。。。
そして。。。。
「僕、ちっさくない?」
そう。。。今までの3分の1程の大きさになってしまっていたのだ。
ジルの小さな子供の手の平にすっぽりと収まってしまう。
「ま、仕方ないね。それだけ、力が制御できてなかったって事だよ。」
「そっか。。。」
妙に納得する。
「ちょっと、力の制御を練習しないとね。」
「うん。」
反省しなければ。。。
「ジョージは大丈夫?」
僕は気がかりを聞いてみる。
「もちろんだよ。ジョージどころかあの場に居合わせたみんなが、君の力の恩恵を受けたよ?」
「・・・・・?」
意味が分からない。僕には、叫んだ辺りまでの記憶しかない。
夢も所詮は夢だろうし。。。
「僕、覚えてないんですけど。。。。」
「じゃあ、ちょっと、散歩しようか?」
ジルは僕を肩に乗せ、王城内を移動する。
すれ違う者は、魔人もモンスターも。。。一様に道を開け、壁際に下がり、そしてひれ伏す。。。
(あれ?こんな大層な感じだったっけ?)
魔王になってからの記憶を思い出してみたが。。。
お盆に乗せられての移動で、自分もテンパってたし。あまり覚えていなかった。
(ま、いっか。)
とりあえず、いつも通りの思考放棄。
ジルは城内を抜け、中庭へ出た。
なんだか、今日は少し明るい。。。
雪氷が輝くように見えた。
「ほら、見てごらん?」
ジルが空を指さす。。。その先には。。。
真っ白な月があった。だが、その光は今にも消えてしまいそうな淡い光だが。。。
「・・・あれ?月なんてあったっけ?」
「アル。あれは君の力で出来たんだよ?君がジョージを助けるために解放した力が、あの月を生んだんだ。」
「え?どういうこと?」
ジルはその時の状況を教えてくれた。
ジョージの鎧を解除して、彼の状況を目の当たりにした君の表情が見る見る凍り付いたんだ。
彼に近づこうとしている君を見て、僕がジョージの毒の中和を提案したんだが、君は感情が昂りすぎて、もう僕の声は受け付けなかったんだよね。
君の気持ちを代弁するように、オーラが溢れ出してしまって。
案の定、ジョージの毒に触れた瞬間、耐性のない君の身体が、溶け始めて。。。
慌てて僕が君を止めに入ったんだけど。。。
感情が爆発した君に、吹き飛ばされてしまったよ。。。
オーラだけで、吹き飛ばされるなんて、生まれて初めての経験さ。
そして君は、毒で溶ける身体を気にもせず、ジョージの元へと行った。
君の身体は光の塊かと思うほど、オーラを纏って、君が天に向かって咆哮すると、オーラは天を貫いたよ。
もう一度、君が叫んだと思ったら、そのオーラは空に弧を描いて、そして、光を降り注ぎながら、君に吸い込まれるように消えていった。
弧を描いた後には、あの月のように輝く光の塊が浮かんでいた。
僕も、初めて見る光景に、ただただ驚いて、立ち尽くしてしまったよ。
そしてね。ここからが奇跡の始まりだった。
君のオーラが”聖”とも”魔”ともつかない、不思議なもので、その光の粒が降り注ぐと、ジョージはもちろん、その光の粒に包まれたコボルト達の傷が癒えていた。
君の光は傷だけではなくてね。。。
シエイラの身体が、定着したんだ。もう、”魔法”も”世界樹の葉”もいらない。
魔族のままだが、もう骸骨になることはないんだよ。
君の光の粒の奇跡の光景に、城内からは、謁見に来ていた、魔物やモンスターたちも出てきてね。
彼らの長旅で弱まった、体力や魔力を回復していった。
中には、欠損した身体の部位が戻ったという者まで出て来た。そいつは元々蜥蜴種だから、時間を掛ければ回復していたんだろうが、みるみるうちに治るなんてことはないらしいんだ。。。
あっ。ジョージが戻ってきたね。
ジルが話を中断する。
近くに魔法扉が光る。
「どうかな?間に合ったかい?あぁ良かった。アルも目を覚ましたんだね?」
息をきらせたジョージとリリィが出て来た。
その後ろに、四つん這いになった人がいる。
だがその姿が奇妙だった。
四肢をついているが、身体は仰向けで、綺麗な顔の傍には、肩口に埋まる様に、もう一つ顔があった。
「カレ~ン!!!」
「ホセ!!!」
その女性と、ホセが喜び合っている。知り合いのようだ。
(あぁ。ホセの話に出て来た、サーカス団の女性か。。。)
「どや、カレンにも効きそうか?」
「う~ん。どうだろう。。。光が弱まってしまったからね。」
ホセとジルがコソコソと話をしている。
「ねぇ。ホセ?私、なんで連れてこられたの?」
カレンが、不思議そうにホセに聞く。
僕にも分からない。何が始まるというのだろう。。。
「まぁ。紅茶でも飲んで、ゆっくりしようよ。」
ジルがそう言うと、どこかからか、メイドさん達がやってきて、シートを広げる。
あっという間にピクニックセットが整えられる。
低いテーブルには紅茶とお菓子が並び、ホセの前には果物が。
小さくなった僕はジョージの膝に乗せられ、カレンの横には介助のメイドさんが座る。
何事もないかのように、庭園でのピクニックが始まった。
僕とカレンはこの不自然な状況に、なすすべなく座るのみ。。。
「今回も僕の為に、ごめんよ?」
ジョージは小さくなった僕の頬を指で撫でる。
いつものように、手では撫でることが出来ない程、僕の身体は小さくなっていた。
「いいよ。ジョージが無事なら。」
「僕は君が無事であることの方が、重要なんだけどね。」
ジョージそう言うと、小さく割ったクッキーを僕にくれる。
「んん。美味しいね。また、いっぱい食べたら、元に戻るよ。」
「そうだね。」
僕に対するジョージの態度が、いつになく甘く優しい。。。
(心配させてばっかりだな。。。)
今度こそ、心配かけないように、力を制御しなくては。。。と強く思う。
「う。。。。うっぅ。。」
メイドさんの介助を受けながら、おやつを食べていたカレンが、その場に倒れた。
「だっ大丈夫?」
僕はカレンに駆け寄ろうとしたが、「待って。」と、ジョージの手で遮られる。
「良かった。始まったみたいだね。完全だといいんだけどね。。。」
ジルがその様子を見つめる。
「何してるんだよ?苦しんでるじゃん!早く手当しないと。」
僕がみんなを見回す。。。だが、誰一人として動くものはいない。。。
「ジョージ離してよ!あの人、見ないと。。。」
身をよじらせる僕に、
「アル。いいかい。あれは君の力なんだ。君はその目で、全てを見る責任がある。」
ジョージに強く押さえられる。。。
「そんな。僕、人を苦しめるつもりなんて。。。。」
僕は泣きたくなってきた。。。。
そんな僕の隣に、ホセがやってくる。
「ええから。よう見とくんや。」
彼女の周りにうすぼんやりと霧がかかり始めていた。
よく見ると、それは小さく弱い、光の粒。。。
それが、徐々に強くなる。
辺りを見渡すと、ほんとに細かく。小さく。
あの月のようなところから、光の粒が降ってきていた。。。
あまりの小ささ、少なさに、今まで気付かなかった。
それが彼女の周りに集まり始めたのだ。
カレンを包み込むように光が集まると、行き場を失った光の粒が、彼女に触れては消えていく。。。
そのたびに、カレンは呻く。
僕は聞いているだけで辛くなってきたが、何故か皆はその度に、頷いたり、微笑んだりしているのだ。
もう、僕には、みんなの事が理解できない。。。
どうかしてしまったのだろうか。。。
だが、彼女が地面に突っ伏した時に、僕の考えが違っていたことにようやく気付いた。
彼女が地面に突っ伏した理由。。。。
それは、彼女の肩の関節が、真っすぐになり始めた事だった。
彼女の変化に気付き始めれば、他の場所の変化も目に入ってくる。
カレンの肩のもう一つの顔は薄らいでゆき、曲がっていた首の関節も、正面を向き始めている。
四つん這いなる為に固まった手首の関節は柔らかく可動域が広がる。。。
彼女の身体の変化が進むにつれ、カレンの声がしていないことに気付いた。
「あの子?大丈夫なの?」
僕は心配になって呟く。。。
「安心して。大丈夫だから。。。リリィ。彼女の様子を見てあげてくれないか?」
「はい。」
ジョージの言葉にリリィが動く。
彼女を抱き上げ、顔にかかった髪を掬う。
「良かったわ。。。」
リリィはそう呟きながら、彼女の肩を撫でる。。。
さっきまで、そこにあったもう一つの顔は、今は痣となり残るのみ。。。
集まっていた光の粒が、彼女に全て吸い込まれる頃、カレンの身体に起きていた数々の問題は解消されていたのだった。




