第66話 ~牛鬼から助けよう!~
予想外の敵に、懐中時計を取り出す。
「ジョージ。。。とりあえず、防具付けてくれる?」
「あぁ。助かるよ。」
僕たちのテンションが一気に下がる。
ちょっと、バッファローの群れを倒して、何頭か持って帰れば、美味しいご飯にもなるな。とか思った僕が悪いんだが。。。
悪い意味で想像の上を行く事態だ。
「アルよ。牛鬼はバッファローよりも美味じゃぞ。」
僕の思考を読み取ったダルガが教えてくれた。
(が、あの見た目。。。食えるのか?)
「そうじゃな~。身体は牛の肉のような味じゃな。とろけるように柔らかい。6本あるあの虫の様な足は、カニの身のような甘さじゃ。せっかくなら、何頭か持って帰るのが良かろう。皆が喜ぶぞ。」
「そうか。。。そうなのか?でもな。結構グロイ顔してるしな。。。」
ひとりブツブツ言っていると、
「とりあえず、倒してからだね。」
とジョージに言われる。
僕は懐中時計をジョージに向け、「出でよ!プロテクシオン!!」と唱える。
光を放ち、オリハルコンの鎧はジョージに装着される。
「ねぇ。君に名前はないのかな?」
コボルトに聞いてみる。
「名前・・・ですか?そんな大層な物。。ありませんね。」
「え?仲間と呼び合うとき、どうするの?」
「う~ん。今まで考えた事もないので。。。みんな無いから困ったとも思いませんでしたけど。」
結構適当だった。
「じゃあ。名前の件はとりあえずおいといて。コボルト君。みんなが逃げ込んだ穴はどの辺りだろう?」
「ん~~~。そうですね。あの山の位置からすると。。。あの群れの先頭。。少し右に逸れた辺りです。」
「そうか。。。群れからは少し距離があるかな。見つかったら不味いけど。。。」
僕は考え込む。
「そうだな。まだ80人くらいいるのだろう?移動手段が困るな。」
ジョージも思案する。
「僕が魔法陣を出して逃がすのは簡単だけどね。コボルトが魔法陣を抜けるのに数分はかかると思うよ?僕が牛鬼を牽制しながらだと、その力の余波がどうしてもコボルトに当たるだろうね。結界を張りながらでもいいけどさ。それでも援護は欲しいよね。あいつら毒吐くからさ。」
「では、僕が前線で。オリハルコンの鎧なら、多少は毒が防げるだろう?だが1000匹は無理だ。アル。もしもの時は手当をお願いね。」
「では、ジョージにはワシが防御結界を付与しよう。身体強化も施しておけば、数分は戦えるであろう?」
「あのさ。僕なんにもやることないんだけどさ。。。ちなみに、あいつらも魔界のモンスターだろ?僕の”魔王”って立場は無視なのかな?」
「あぁ。アル残念だ。あいつら元々、知性無いしね。それに、なんかすっごく怒って理性を失ってるから、君の今の”魔王覇気”くらいではたじろがないと思うよ?」
「あー。そうなんだ。全然ダメじゃん。ちょっと行ってくるとかカッコつけたのに、滅茶苦茶カッコわるいじゃん。」
そんなこんなで、とりあえず、コボルト達の救出作戦だけは決まった。
作戦成功後に牛鬼に関しては対応策を考えることにした。
「じゃ、行きますか~~~。」
ジルは颯爽と旋回を始める。
「あっ。あそこじゃない?」
地面の色が変わっている。少しだけ亀裂があるように見えた。
「そうです。アレです!!!」
コボルトが興奮する。
「オッケー。」
ジルはそこへ向けて降下する。
「ちょ~~とうるさいよ?我慢してね。」
そういうと空を見上げ咆哮する。
グルオォォォォォ~~~~ン!!!
咆哮に合わせて空が光り、大地に地響きが轟く。
特大の雷が横一直線に落ち、地面に亀裂が入った。
牛鬼達はこちらに気付いたが、その稲光に後ずさりする。
「よし今だ!!」
僕たちは散開する。
ジョージは前線に。ジルは入り口に魔法陣を。僕とコボルトは穴の中へ。
「みんな。魔王様を連れてきたよ!!!一緒に逃げよう!!!」
コボルトが叫びながら穴へ入っていった。
突然の轟音と稲光に、コボルト達は怯え震え。。身を寄せ合っていた。
仲間の帰還にも喜べず、その言葉も信じられないようだ。
「早くしてもらえませんかね?うちの仲間が、あいつらを食い止めるのに大した時間は稼げないんで。」
僕が急かすが、見たこともない妙なスライムの言うことだ。すぐに信じてはもらえない。
(クソ~。マジで”魔王”とか使えね~。もう”魔王覇気”使っちゃうか。。。力加減が分かんないけど。)
僕はそっと”魔王覇気”を纏う。弱モンスターのコボルトだ。強い”魔”の力だけでは卒倒するかも知れない。
”聖”の力も混ぜる。多少は相殺されるだろう。
「余は、魔王である。我が声を聞け!これは命令ぞ!地上の魔法陣へ走るのだ!!!」
多少でも偉そうな人物に見せるため、オーラの光も纏い、コボルトの頭に乗って見下ろす形で、声を出す。
『は。ははーーーーーー。』
いきなりひれ伏し始めた。
そうじゃないだろ~~~~!!!!
「そうじゃなくって。早くしてよ!!!魔王様の命令通りに、入り口まで走って!!!魔法陣で逃げるんだよ!!!」
僕の心の声が聞こえたように、コボルトが慌てふためいて、叫ぶ。
その姿に、ようやく皆が動き出す。
「早く!早くー!!」
コボルトが仲間を誘導する。
地上では、這い出てきたコボルト達を、ジルが魔法扉に送り込む。
「アル~~。そっちはどう?」
ジルの声が聞こえる。
「ありがとう!こっちはあと少しだよ!!!ジョージは大丈夫?」
ジョージの様子を聞いてみる。
「あぁ!!!もう少しいけるよ!!!ほら、お土産だよ!!」
ジョージは倒した牛鬼を魔法陣へむけて、放り投げた。
「これで、最後だよ?ジョージ戻って!!!」
僕は穴から出ながら叫ぶ。
「りょーかい!!」
ジョージは地面の亀裂を飛び越え、魔法陣へ走る。
僕とジョージが同時に魔法陣へ滑り込む。
瞬間で魔法陣は閉じ、魔王城の中庭に到着していた。
「ぜぇぜぇ。。。チョー焦った~~~。」
僕はその場に転がる。
「はぁはぁ。まさか牛鬼1000頭とはな。」
ジョージも座り込む。
「あはははは。僕もつられて慌てちゃったよ~。」
ジルは子供の姿に戻り、笑い転げる。
「ワシ、久しぶりの戦闘で楽しかった。」
ダルガだけが余裕だった。
「そりゃそうでしょうよ。ダルガさん。剣だもの。置いていかれても大丈夫だもん。ずるいよな~。」
僕も笑えてきた。
ふとジョージを見やると、まだ息が上がっている。
「大丈夫?ジョージ。」
「あぁ。大丈夫だ。」
だが、その手からは紫色の液体が滴り落ちている。
「ジョージ。。。毒が。。。」
僕が慌てて近付く。
「アル。危ないから。離れて。大丈夫だから。」
肩で息をしながら、手で僕を制止する。
「ダメに決まってるじゃん!!!鎧よ解除!!」
光ると同時にオリハルコンの鎧は懐中時計へと戻る。
そこには毒が鎧の隙間から入り、皮膚が爛れたジョージの姿があった。
「アル。ホントに大丈夫だから。こっち来ないで。」
ジョージの声が弱くなった気がする。
「アル。ジョージの言うとおりだよ。君に毒の耐性があるのか分からないんだ。僕が中和してみるから。」
ジルが僕を止めようとするが。
ジョージの弱る姿を見て僕の理性が吹き飛びそうになっている。
「ジルは黙ってて!!!僕が。僕が無理を言ったから。。。こんな事になるなんて!!!僕が治すんだ!!!」
僕の身体からオーラが滾り出る。
「ダメだ!!!アル!!」
ジョージに触れた僕は突き飛ばされた。
紫色の液体に触れた僕の身体が「ジュウウゥゥ。」と音を立てて溶ける。
「不味いぞ。アルを止めるのじゃ!!」
ダルガが呟く。
ジルが僕に手を伸ばそうとする。
「ごちゃごちゃうるさーい!!!!僕がジョージを助けるんだぁぁぁぁ!!!!」
僕の理性がぶっ飛んだ。
僕に手を伸ばしかけていたジルが、吹き飛んでいる。
だが僕には関係ない。
毒に触れる度、身体が音を立て溶けるが、気にせずジョージの膝に乗る。
「ジョージ。。。ごめん。」
ジョージの身体に額をもたせかけ、謝る。
「お願いだ。アル。僕から離れてくれ。君まで。。。」
ジョージの声が掠れて続かない。
息が辛そうだ。
身体が毒で焼け熱い。。。
溶けているから当然か。。。
僕は絶対に助けるという思いだけで動いていた。
オーラはどのくらい出しているのだろう。
自分が光っているのだけは分かる。。。
「うおぉぉぉぉっぉぉ!!!!」
僕は力の限りに叫んでいた。
何が起きたかは分からない。。。
何をしたかも覚えていない。。。
ただ。僕は力を使い果たし、眠りについたのだった。。。
なんだかとても冷たくて気持ちが良い。
「ねぇ。アルが目を覚ましたよ~!!!」
うん。。誰の声だろう。。。
目を開けると、僕を覗き込む小さな顔がある。
「あれ?魔人魚じゃん。。。ここどこ?」
寝ぼけながら聞く。
「水槽の上だよ?」
(なに!!どこだって?)
慌てて起きあがる。
「うわっ!!!」
地面が不安定に揺り動く。
「急に動いたら危ないよ。。」
魔人魚のソフィアが僕の揺れを止める。
よく見ると、鋳物のカップに僕は寝かせられ、水槽に浮かべられていたようだ。
「毒を浴びて、熱があったから。。。」
「それでか。。。冷たくて気持ちいいよ。。。ありがと。。。ところで、ソフィアは大きくなったね。」
まだ頭が重くて働かない。目がしぱしぱするな。
もう一回寝ようかな。。。
「ん?あたしが大きくなったんじゃなくて、アルが小さくなったのよ?」
「ふーん。僕が小さくね。。。そうなんだ。。。」
「ん?あれ?え?どういうこと?」
聞き逃しそうになったが、時間差で会話の内容が入ってきた。
「え~?よく分かんないけどぉ。力を使いすぎたとかなんとか。。。みんなが話してたけど。。。」
しまった。またやっちゃったらしい。。。
どれくらい小さくなったんだろう。。。
そして身体を確認する。
「あ~~~~~~!!!!!なんだこれ~~~~~!!!!」
今日も僕の叫びがこだまする。
それもそのはず。。。。
スライムの身体が保てていないのだ。
「うわ~~。これ何スライム?はぐれメタル?バブルスライム?なんなのこれ?戻るの?ヤバイじゃん。」
「あぁ。アル。おはよう。」
ジルが脚立の上に乗って、僕を覗き込む。。。
「う~ん。もう少し冷やした方がいいかな?」
「なにそれ?冷やしたら元に戻るの?」
「え?熱があるからさー。冷やしたら固まるんじゃないかなって。」
「僕、ゼリーじゃないんですけど~~~!!!!」
今日も元気に叫んでみました。。。。
戻るのかな。。。。




