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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=牛鬼討伐編=
67/322

第66話  ~牛鬼から助けよう!~


 予想外の敵に、懐中時計を取り出す。


「ジョージ。。。とりあえず、防具付けてくれる?」

「あぁ。助かるよ。」

 僕たちのテンションが一気に下がる。

 ちょっと、バッファローの群れを倒して、何頭か持って帰れば、美味しいご飯にもなるな。とか思った僕が悪いんだが。。。

 悪い意味で想像の上を行く事態だ。


「アルよ。牛鬼はバッファローよりも美味じゃぞ。」

 僕の思考を読み取ったダルガが教えてくれた。


(が、あの見た目。。。食えるのか?)


「そうじゃな~。身体は牛の肉のような味じゃな。とろけるように柔らかい。6本あるあの虫の様な足は、カニの身のような甘さじゃ。せっかくなら、何頭か持って帰るのが良かろう。皆が喜ぶぞ。」


「そうか。。。そうなのか?でもな。結構グロイ顔してるしな。。。」

 ひとりブツブツ言っていると、

「とりあえず、倒してからだね。」

 とジョージに言われる。


 僕は懐中時計をジョージに向け、「出でよ!プロテクシオン!!」と唱える。

 光を放ち、オリハルコンの鎧はジョージに装着される。


「ねぇ。君に名前はないのかな?」

 コボルトに聞いてみる。

「名前・・・ですか?そんな大層な物。。ありませんね。」

「え?仲間と呼び合うとき、どうするの?」


「う~ん。今まで考えた事もないので。。。みんな無いから困ったとも思いませんでしたけど。」


 結構適当だった。


「じゃあ。名前の件はとりあえずおいといて。コボルト君。みんなが逃げ込んだ穴はどの辺りだろう?」

「ん~~~。そうですね。あの山の位置からすると。。。あの群れの先頭。。少し右に逸れた辺りです。」


「そうか。。。群れからは少し距離があるかな。見つかったら不味いけど。。。」

 僕は考え込む。

「そうだな。まだ80人くらいいるのだろう?移動手段が困るな。」

 ジョージも思案する。


「僕が魔法陣を出して逃がすのは簡単だけどね。コボルトが魔法陣を抜けるのに数分はかかると思うよ?僕が牛鬼を牽制しながらだと、その力の余波がどうしてもコボルトに当たるだろうね。結界を張りながらでもいいけどさ。それでも援護は欲しいよね。あいつら毒吐くからさ。」


「では、僕が前線で。オリハルコンの鎧なら、多少は毒が防げるだろう?だが1000匹は無理だ。アル。もしもの時は手当をお願いね。」

 

「では、ジョージにはワシが防御結界を付与しよう。身体強化も施しておけば、数分は戦えるであろう?」


「あのさ。僕なんにもやることないんだけどさ。。。ちなみに、あいつらも魔界のモンスターだろ?僕の”魔王”って立場は無視なのかな?」


「あぁ。アル残念だ。あいつら元々、知性無いしね。それに、なんかすっごく怒って理性を失ってるから、君の今の”魔王覇気”くらいではたじろがないと思うよ?」


「あー。そうなんだ。全然ダメじゃん。ちょっと行ってくるとかカッコつけたのに、滅茶苦茶カッコわるいじゃん。」


 

 そんなこんなで、とりあえず、コボルト達の救出作戦だけは決まった。

 作戦成功後に牛鬼に関しては対応策を考えることにした。



「じゃ、行きますか~~~。」

 ジルは颯爽と旋回を始める。


「あっ。あそこじゃない?」

 地面の色が変わっている。少しだけ亀裂があるように見えた。

「そうです。アレです!!!」

 コボルトが興奮する。


「オッケー。」

 ジルはそこへ向けて降下する。

「ちょ~~とうるさいよ?我慢してね。」

 そういうと空を見上げ咆哮する。


 グルオォォォォォ~~~~ン!!!

 

 咆哮に合わせて空が光り、大地に地響きが轟く。

 特大の雷が横一直線に落ち、地面に亀裂が入った。


 牛鬼達はこちらに気付いたが、その稲光に後ずさりする。


「よし今だ!!」

 僕たちは散開する。

 ジョージは前線に。ジルは入り口に魔法陣を。僕とコボルトは穴の中へ。


「みんな。魔王様を連れてきたよ!!!一緒に逃げよう!!!」

 コボルトが叫びながら穴へ入っていった。


 突然の轟音と稲光に、コボルト達は怯え震え。。身を寄せ合っていた。

 仲間の帰還にも喜べず、その言葉も信じられないようだ。


「早くしてもらえませんかね?うちの仲間が、あいつらを食い止めるのに大した時間は稼げないんで。」

 僕が急かすが、見たこともない妙なスライムの言うことだ。すぐに信じてはもらえない。


(クソ~。マジで”魔王”とか使えね~。もう”魔王覇気”使っちゃうか。。。力加減が分かんないけど。)


 僕はそっと”魔王覇気”を纏う。弱モンスターのコボルトだ。強い”魔”の力だけでは卒倒するかも知れない。

 ”聖”の力も混ぜる。多少は相殺されるだろう。


「余は、魔王である。我が声を聞け!これは命令ぞ!地上の魔法陣へ走るのだ!!!」

 多少でも偉そうな人物に見せるため、オーラの光も纏い、コボルトの頭に乗って見下ろす形で、声を出す。


『は。ははーーーーーー。』

 いきなりひれ伏し始めた。

 そうじゃないだろ~~~~!!!!


「そうじゃなくって。早くしてよ!!!魔王様の命令通りに、入り口まで走って!!!魔法陣で逃げるんだよ!!!」

 僕の心の声が聞こえたように、コボルトが慌てふためいて、叫ぶ。


 その姿に、ようやく皆が動き出す。

「早く!早くー!!」

 コボルトが仲間を誘導する。


 地上では、這い出てきたコボルト達を、ジルが魔法扉マギーゲートに送り込む。


「アル~~。そっちはどう?」

 ジルの声が聞こえる。

「ありがとう!こっちはあと少しだよ!!!ジョージは大丈夫?」

 ジョージの様子を聞いてみる。

「あぁ!!!もう少しいけるよ!!!ほら、お土産だよ!!」

 ジョージは倒した牛鬼を魔法陣へむけて、放り投げた。

 


「これで、最後だよ?ジョージ戻って!!!」

 僕は穴から出ながら叫ぶ。

「りょーかい!!」

 ジョージは地面の亀裂を飛び越え、魔法陣へ走る。


 僕とジョージが同時に魔法陣へ滑り込む。

 瞬間で魔法陣は閉じ、魔王城の中庭に到着していた。



「ぜぇぜぇ。。。チョー焦った~~~。」

 僕はその場に転がる。

「はぁはぁ。まさか牛鬼1000頭とはな。」

 ジョージも座り込む。

「あはははは。僕もつられて慌てちゃったよ~。」

 ジルは子供の姿に戻り、笑い転げる。

「ワシ、久しぶりの戦闘で楽しかった。」

 ダルガだけが余裕だった。


「そりゃそうでしょうよ。ダルガさん。剣だもの。置いていかれても大丈夫だもん。ずるいよな~。」

 僕も笑えてきた。

 ふとジョージを見やると、まだ息が上がっている。

「大丈夫?ジョージ。」

「あぁ。大丈夫だ。」

 だが、その手からは紫色の液体が滴り落ちている。


「ジョージ。。。毒が。。。」

 僕が慌てて近付く。

「アル。危ないから。離れて。大丈夫だから。」

 肩で息をしながら、手で僕を制止する。


「ダメに決まってるじゃん!!!鎧よ解除!!」

 光ると同時にオリハルコンの鎧は懐中時計へと戻る。


 そこには毒が鎧の隙間から入り、皮膚が爛れたジョージの姿があった。


「アル。ホントに大丈夫だから。こっち来ないで。」

 ジョージの声が弱くなった気がする。


「アル。ジョージの言うとおりだよ。君に毒の耐性があるのか分からないんだ。僕が中和してみるから。」

 ジルが僕を止めようとするが。


 ジョージの弱る姿を見て僕の理性が吹き飛びそうになっている。

「ジルは黙ってて!!!僕が。僕が無理を言ったから。。。こんな事になるなんて!!!僕が治すんだ!!!」

 僕の身体からオーラが滾り出る。


「ダメだ!!!アル!!」

 ジョージに触れた僕は突き飛ばされた。

 紫色の液体に触れた僕の身体が「ジュウウゥゥ。」と音を立てて溶ける。

「不味いぞ。アルを止めるのじゃ!!」

 ダルガが呟く。


 ジルが僕に手を伸ばそうとする。

「ごちゃごちゃうるさーい!!!!僕がジョージを助けるんだぁぁぁぁ!!!!」

 僕の理性がぶっ飛んだ。

 

 僕に手を伸ばしかけていたジルが、吹き飛んでいる。


 だが僕には関係ない。

 毒に触れる度、身体が音を立て溶けるが、気にせずジョージの膝に乗る。

「ジョージ。。。ごめん。」

 ジョージの身体に額をもたせかけ、謝る。


「お願いだ。アル。僕から離れてくれ。君まで。。。」

 ジョージの声が掠れて続かない。

 息が辛そうだ。


 身体が毒で焼け熱い。。。

 溶けているから当然か。。。


 僕は絶対に助けるという思いだけで動いていた。

 オーラはどのくらい出しているのだろう。

 自分が光っているのだけは分かる。。。


「うおぉぉぉぉっぉぉ!!!!」

 僕は力の限りに叫んでいた。


 何が起きたかは分からない。。。

 何をしたかも覚えていない。。。



 ただ。僕は力を使い果たし、眠りについたのだった。。。




 なんだかとても冷たくて気持ちが良い。

「ねぇ。アルが目を覚ましたよ~!!!」


 うん。。誰の声だろう。。。

 目を開けると、僕を覗き込む小さな顔がある。


「あれ?魔人魚セイレーンじゃん。。。ここどこ?」

 寝ぼけながら聞く。

「水槽の上だよ?」


(なに!!どこだって?)

 慌てて起きあがる。

「うわっ!!!」

 地面が不安定に揺り動く。


「急に動いたら危ないよ。。」

 魔人魚セイレーンのソフィアが僕の揺れを止める。


 よく見ると、鋳物のカップに僕は寝かせられ、水槽に浮かべられていたようだ。

「毒を浴びて、熱があったから。。。」

「それでか。。。冷たくて気持ちいいよ。。。ありがと。。。ところで、ソフィアは大きくなったね。」

 まだ頭が重くて働かない。目がしぱしぱするな。

 もう一回寝ようかな。。。


「ん?あたしが大きくなったんじゃなくて、アルが小さくなったのよ?」

「ふーん。僕が小さくね。。。そうなんだ。。。」


「ん?あれ?え?どういうこと?」

 聞き逃しそうになったが、時間差で会話の内容が入ってきた。


「え~?よく分かんないけどぉ。力を使いすぎたとかなんとか。。。みんなが話してたけど。。。」


 しまった。またやっちゃったらしい。。。

 どれくらい小さくなったんだろう。。。

 そして身体を確認する。


「あ~~~~~~!!!!!なんだこれ~~~~~!!!!」

 今日も僕の叫びがこだまする。


 それもそのはず。。。。

 スライムの身体が保てていないのだ。


「うわ~~。これ何スライム?はぐれメタル?バブルスライム?なんなのこれ?戻るの?ヤバイじゃん。」


「あぁ。アル。おはよう。」

 ジルが脚立の上に乗って、僕を覗き込む。。。


「う~ん。もう少し冷やした方がいいかな?」


「なにそれ?冷やしたら元に戻るの?」

「え?熱があるからさー。冷やしたら固まるんじゃないかなって。」


「僕、ゼリーじゃないんですけど~~~!!!!」

 今日も元気に叫んでみました。。。。


 戻るのかな。。。。

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