第64話 ~謁見の始まり~
食事もなんとか終わった。
美味しかった。それは美味しかった。
だが、話の内容が重かったな。。。
先行き不安だ。
バルコニーに出て、夜風に当たる。
「アル?ここは綺麗だね?とても魔界とは思えない。」
ジョージが隣へ来た。
「うん。この風景も、ダルガさんの魔法なんだって。」
「へぇ。すごいな。どれだけの魔力を使うんだろうね。。。」
「いろいろ黙っててごめんね。」
「いいさ。君が君であることに変わりはないよ?」
「ただね。。君が魔王になったことを黙っていたのは、僕を心配させまいとしたのか。。。それとも、魔王になったことで、僕が離れていくと思ったのか。。。どっちなのかな?」
「両方。。かな。。。魔王ダルガと出会ったなんて言い出せなくて。お願い事は大したことなかったから、一人で何とかなるかと思ったんだ。マロウさんも考えてくれるって言ってくれたし。」
「それに、サクラの事も考えないといけないし。。。ジョージとも離れたくないし。。。でも、ただでさえ僕はスライムでしょ?モンスターと友達でいてくれることだけでもすごいことなのに。。それが魔王だったら、ジョージの王子様としての立場もあって。。。迷惑かけられないなって。。。」
「うん。そうか。良かったよ。僕に対して考えてくれていたんだね。言い出せないほど僕は信用されていなかったかと、心配だったんだよ。」
「信用しているからこそ。言えないこともあるでしょ?」
「そうだね。ホントに君は人間と同じだね。君は一体何者なんだろう。。。ジルはサクラの一部かもと結論をこじつけたが。僕は君がサクラと別人か、それともサクラ自身であって欲しいな。。。サクラが目覚めて、君がいなくなるなんて結末だけは見たくない。」
ジョージの目は凄く悲しそうだった。
「でもさ。もし僕がサクラだったら、僕をお嫁さんにするってことになるんじゃない?」
「アルは、僕の事が嫌いなのかい?」
「え?そんなことはないけど。。。でも。それとこれは別というか。なんというか。。。」
口ごもる。
「ははっ。僕はサクラが君じゃなくても。君だったとしても。どちらでも構わないさ。どうしてもサクラを手放す事は考えられない。運命のように何か引きつけられるものがあるからね。」
「だが、アルがサクラだとしたら。。。面白いだろうね。。。」
手すりに頬杖をついて、手すりの上に座る僕を撫でる。
魔法的に作られた夜空の星が背後に煌めき、ジョージの美しさを際だたせる。
僕は息をのむ美しさに思わず見とれてしまった。
いかん。いかん。流されてはいけない。
いつも無防備なサクラに手を出そうとする野獣だったことを思い出せ。
サクラの状態であれば。。。落ちていたな。。。
僕=サクラ。。。この関連性だけは、なんとしても誰にも知られてはいけない。
死守せねば。。。主にめんどくさいという理由だが。。。
どうせ、バレたところで、元に戻ることが叶わないのであれば、これ以上、面倒はいらないからな。
「ふふっ。とってもいい雰囲気のところごめんなさいね?」
シエイラが、バルコニーの手前で立ち止まり、覗いてきた。
「夜も遅いし、今夜は皆さん泊まっていくでしょ?お部屋をどうしようかと思って。」
「えーと。僕はまだ、魔王城の中を知らないので。。。どうすべきなんでしょうかね?」
考えてなかった。。
「そうね?ゲストルームは数え切れない程あるんだけれど。。。ゲイルは控えの間に。警護するんですって。私はジルちゃんと寝ようかなって思ってるわ。アルちゃんも一緒にどう?」
「え?僕ですか?いや。うーんと。それは。ジルに任せよっかな。」
軽く逃げる。すまん。ジル。
「それなら、もうひとつここにベッドがいるわね。」
執事に何か指示を出している。
「えーと。誰のベッドですかね?」
「もちろんアルちゃんのよ?ここは魔王の部屋ですもの。アルちゃんを別の部屋に行かせられないわ。」
「別に構わないんですが。。。スライムなんで、そこら辺でも。。。」
「ダメよ?この部屋にはいろいろと施してあるの。魔王を守るための結界とか。だから、アルちゃんはこの部屋。そして、魔王がそこら辺もダメ。お行儀悪いわ。」
行儀の問題だろうか。。。だが、警備面の事があるならば、妥協が必要か。
バサッバサッ。
「それなら、いつも通り、俺とアルとジョージでええな?」
ホセがやってくる。
「あら、ホセちゃん。そうなの?いつも一緒なら問題ないわね。良かったわ。」
そしていつの間にか、水槽側の壁面に沿うように大型のベッドが運び入れられ、衝立が置かれていた。
「簡易のベッドでごめんなさいね。ゲイルと相談して、アルちゃんの正式なベッドは作っておくわ。」
簡易と呼ぶには立派すぎる寝室が出来上がっていた。
早速ホセがベッドにダイブした。
「うわ~。ジョージのベッドもなかなかやけど。こっちもええわ~。」
そして男3人?で大きなベッドで就寝する。
顔面に痛みが走り目が覚める。
「ちょ。ホセ。足。。。足。。。」
ホセの足に掴まれている。おでこに爪が刺さって、藻掻いてもとれない。
「おはよう。アル。大変そうだね。」
爽やかな笑顔でジョージがこっちを見ている。
「そう思うなら、ホセをどかしてくれよぉ。」
「はいはい。魔王さま。」
茶化すように笑って、ホセを離してくれた。
「おいホセ。勘弁しろよ。」
頭突きをかます。が、そこはホセ。目覚める気配はない。
「チッ。ならば仕方ない。奥の手だ。。。ホセ~。ご飯だよ~。」
「はっ。もうそんな時間か?」
流石ホセだ。飛び起きやがった。すかさずもう一発頭突きをお見舞いする。
「ぐほっ。なにするんや。アル。」
「ハッ。笑わせるな。僕の顔面掴んで離さなかったんだぞ。見ろよ。ここ。」
そういって爪が刺さったおでこを見せたが。。。
「なんもなってへんな。」
「くっ。スライムの身体がこんなに恨めしいとは。。。」
「二人ともその辺で。」
素早く身支度を整えたジョージに止められる。
そして軽く朝食を済ませると。。。
「魔王様。謁見の準備が整いました。」
はぁーーーー。お迎えが来た。
今日もお盆のような御輿に乗せられて着飾った僕が運ばれる。
当然だが、ホセには大爆笑された。
ジョージにも「かわいいね。」と肩を振るわせながら言われた。
恥ずかしくて死にそうだ。。。
”穴があったら入りたい”なんと的を射た言葉だと実感をする。
そして今日の僕は貝になろう。。。
何とかやり過ごせば、暫く静かに過ごせるはずだ。
大広間に到着する。
魔物達が整然と並ぶ。
僕は魔王ダルガが使っていた玉座へ運ばれ。。。
そこで気付く。
ダルガの玉座は確かに僕には大きすぎる。。。
だが。
「これはないだろう?」
思わず口に出る。
「くっっっ。」
横を見れば、顔を背け必死に笑いを堪えるジョージがいる。
僕はそこに鎮座する。
大きすぎる玉座の座面の真ん中に、さらに小さな玉座が置かれていたのだ。
失礼だろ!!!
確かによく見えるよ?僕からも臣下からも。。。
だけどさ、これを作ったということは。。。
「新しい魔王様、小さくてよく見えないよね?」
「玉座が大きすぎるんじゃね?」
「じゃ、その上にもう一個作ったら言いじゃん。」
的な遣り取りがあったんだろう?せめて聞いてくれれば。。。
ホントに三宝台の上に飾られたみたいになった。。。
僕は鏡餅か?月見団子か?
なんだか、何もしてないのに負けた気分だ。悔しい。
玉座の両サイドには、古代竜のジルと、オリハルコンの剣を携えたジョージが並び立つ。
斜め後ろにはシエイラが座り、その椅子の背もたれにホセが止まっていた。
今日は、最後まで一緒にいるという約束になっている。
人間関係が分からないので、挨拶に来た人たちを、ダルガが解説してくれる。
何か問題があれば、僕、ジル、ダルガは脳内で会議が出来る。
結構便利な能力だ。
とりあえず、事前情報としてダルガから言われたのは、
「みんな腹黒い。気をつけろ。」
という、なんともアバウトで参考にならないものであった。
魔物達の謁見が始まった。
もう僕は完全に他人事だった。
だって、始まる前から気疲れしてたんだもん。仕方ないよね。。。
適当に話を合わせながら、代わる代わるやってくる魔物達を観察する。
大方の魔物は種族の代表者。。。その為だろうか。
「ハッ。スライムかよ。」というのが全面に出ちゃってる偉そうなヤツもそこそこいる。
中にはこちらが恐縮してしまうほど、平身低頭な者もいる。
挨拶に混じり、陳情などもそこそこあった。
こういう件は僕には分からないので、仕事が出来そうな側近風の人に目配せをする。その人が頷けば、まぁ大丈夫なのだろう。
2時間ほど経った頃だろうか。。。
「待てっ!!誰か捕まえろ!!!御前に通すな!!」
なんか廊下で捕り物が始まったようだ。
すでに飽き飽きしていた僕は身を乗り出し、ワクワクする。
大きな魔人の兵士達の足下を小さな影がすり抜ける。
が、大広間の入り口に差し掛かったところで、その影が転んだ。
兵士がその周りを取り囲み、物々しい雰囲気となる。
「ねぇ。これって止めても良いのかな?何があったのか気になるんだけど。」
ちょっと好奇心。
「アルの好きにしたらいいんじゃない?大したモンスターでもなさそうだし。」
ジルは関心がなさそうだ。
「それなら。。」
ちょっと楽しそうなジョージ。。。
「静まれぃ!!!王の御前であるぞ!!!」
すっごくノリノリで叫んでる。
だが、御陰で魔物達は動きを止め、跪いた。
「何があったのか説明せよ。」
僕もジョージに乗っかり、カッコつけて言ってみた。
「はっ。」
一人の兵士が小さな魔物の首根っこを掴み進み出る。
「この者が、身分も弁えず、王への謁見を願い出たようですが、当然却下されまして。。。その後、この者が衛兵の隙をつき、城内へ侵入したので、捕り物となってしまいました。」
兵士は深々と頭を下げる。
「それで、その者は何故危険を冒してここまで来たのだ?」
僕は、ボロ布を纏った、その小さな魔物を見て言ったのだが。。。返事がない。
兵士が首を強く掴みすぎて、気を失っていた。
なんだか可哀想だ。
「その者の話が聞きたい。介抱してやれ。」
僕が命じたのだが。
「この者をですか?許可なく王の御前に出たとなれば、打ち首でも。。。」
どんな暴君だよ!!望んでないから。。。目の前で処刑とかありえないから!!!
兵士達は嫌々ながらに、介抱をし始める。
だが、服や身体を触るのに、つまむようにやるのだ。。。汚いと思ってるのが伝わってくる。
どこの世界でも階級やら身分やら。。。それにも属せない者はゴミのように扱われるのか。。。
見たくない現実だが、魔界に来て早いうちに気づけて良かったかもしれない。
僕は玉座を飛び降り、その小さな魔物へと近づく。
その場にいた者達は驚き、道を開けひれ伏す。
僕は構わず進む。近付くとそれは、コボルトだった。
確かに小汚いモンスターで有名だが。。。
ボロ布の理由はそれだけではなさそうだ。
全身が傷だらけだったのだ。
僕は気にせず、その汚れた手にキスをする。
まぁ、《世界樹の雫》を付けるためだけど。
うっすらと光を帯びて、コボルトの傷は治っていった。
その様子を食い入るように見ていた魔物達からため息が漏れる。
どんな意味のため息なのだろう。。。
僕には分からないが、まぁいい。
「う。。うぅん。」
コボルトの目が覚めそうだ。
あとはゆっくりと話を聞けばいいな。




