第63話 ~”魔王の力”継承は?~
「リュウセイさん。。今日もすっっごく美味しいよ~~~。」
顔を出した彼に声を掛ける。
「ありがとうございます。それにしてもスライム殿が魔王様になるとはな。。。これからもよろしくお願いします。」
「そんなぁ。よそよそしくしないで。僕の名前”アル”っていうんだ。だから、魔王様とか呼ばないで。リュウセイさんは人間だから、本能で”魔王”とか感じてる訳じゃないんでしょ?」
「それはそうだが。。。やはり、魔界に住む者としてはだな。。。」
「悩まなくってもさ。ここにいるみんなは僕の友達になってくれたよ?」
「気にするでない。リュウセイよ。アルの些細な願いじゃ。聞き届けてやれ。」
オリハルコンの剣が声を掛ける。
「え?魔王様ですか?あれ。。。どうなって。。。。」
リュウセイは状況を飲み込めず、僕と剣を交互に見る。
「余はもう”魔王”ではない。姿も留められずこのザマである。アルは魔王としては未熟かも知れぬが、友に恵まれた。お前もその腕で、友としてアルを支えてやってはくれまいか?」
「ダルガ様がおっしゃるのでしたら、私はそれに従うまでです。私もアル殿の事は気に入っておりましたし。。。それでは、今後とも魔界の皆様の為に尽力させていただきます。アル殿、よろしくお願いします。」
リュウセイが頭を下げる。
「うーん。硬いよね?」
「こればかりはどうにも。あまり親しげでも周りの目もありますし。徐々に努力いたします。」
リュウセイはお辞儀をして厨房へ戻る。
「それにしてもさ、魔王さま。どうして今まで黙ってたの?もっと早く出てきてくれてたらさ~。」
魔王の就任とかなんだとか、もっと楽にいけた気がする。
「アルよ。そう何もかも簡単に進むものではないぞ?ワシが魂を定着できたことも奇跡的なのじゃ。それもオリハルコンの剣にだ。上手く馴染ませるだけでも時間がかかるのに、生物でもなく、口もない。魔法力も殆ど削られ、そこから声を発生させる方法を思いつかねばならんのじゃ。結構見えないところで苦労したのじゃがな。」
ダルガは笑いながら苦労話をする。
「そうでしたか。。。それはすみませんでした。」
「ははっ。謝ることではないわ。そなたがおらず、ワシ一人で古代竜に相対しておったならば、死んでいたのだ。魂だけでも残ったのは僥倖じゃ。」
「それにのう。。。偶然は重なるものじゃな。アルが、そのジョージという若者にオリハルコンを使わせた事が、ワシの能力を手助けしたのじゃ。」
「え?どういうことですか?」
ダルガは話を続けた。
---そこにいるジョージという若者は”龍の民”ではないか?覚醒はしておらぬようだが。。。
オリハルコンの剣の柄を見よ。そこにあるレリーフは”龍の民”の紋章であると伝承されておる。
そして、柄尻に填め込まれた青い石。それが、”龍の民”と呼応し、その力を高めるのだ。
ワシはその能力を持っていなかったが。。。
ジョージとやら、そこに立ち、この剣に力を込めてみよ。---
ダルガに言われるまま、部屋の中央に移動したジョージは、オリハルコンの剣を正眼に構え、目を閉じ気を集中させていく。。。
剣がうっすらとオーラを纏い、柄尻の石は青さを増す。
「凄い。。。」
僕はその光景に息をのむ。
だが、ジルはその空気を打ち消すかのように、ジョージに近づく。
そして徐にジョージの左手の手袋を破いた。
「あ。。何してるんだ。。ジ、ル。。。」
ジルを止めようとしたが、逆に僕が動きを止める。
ジョージの左手の龍の痣が青く光っていたのだ。
「ふうん。”龍の民”というのは、間違いなさそうだね。でも不完全だ。」
---そうであろう?
だが、ワシが覚醒とまではいかぬが、力を馴染ませるには十分であった。
ジョージが火炎龍と闘い、剣を振るう度に、”龍の民”の力がオリハルコンの剣に流れ込み、ワシの力が定着していった。
それまでは、周囲から隔絶されるようで、遠くでうっすらと皆の会話が聞こえるのみ。
詳しい状況までは分からず、アルが”魔王の力”を継承したこと。古代竜の封印は解けたが、アルの味方に付いたようだ。という程度しか分からなかった。
アルが懐中時計からオリハルコンの剣を解放し、ようやく周囲の状況を見ることが出来るようになった。
話を出来るようになるまで、気を練り込むのに時間はかかったが、”龍の民”がきっかけとなったのは、間違いない。---
「えらい、みんな隠しネタ持ってるやん!面白いなぁ。」
ホセは他人事だ。
ジルは何か考え込んでいる。
シエイラはニコニコとその光景を楽しげに見つめている。
ゲイルは次々と起こる出来事について行けずぽかんと口を開けている。
僕は。。。対処すべき事だらけで、優先順位がつけられないでいた。
ダルガの魂の器はこのままにすべきか。。。
”龍の民”の持ち物ならば、懐中時計は2つともジョージに渡すべきなのか。。。
そもそもダルガがいるなら、”魔王”って元に戻せないのか。。。
「どこから、手を付けるべきなのかな?」僕は呟く。
「アル?そんなに急いで考えなくてもいいんじゃない?ダルガのように、時間がかかることだってあるんだよ?少しずつ見えてくるものがあるんだから。。。それに、僕にも一応思うところがあるしね。考えがまとまれば、また話すよ。」
ジルは悩む僕を暖かく見守るような目で見つめてくれた。
「一応、参考までだが、僕のこの傷もアルがきっかけだと言うことを添えておこう。」
ジョージが皆に伝える。
一瞬ジルの目が鋭くなったのを僕は見逃さなかった。。。
何があるのだろう?
だが、時間がくれば話してくれるのであれば、その時を待とう。
「ただ、1つだけいいかな?」
ジルが真剣な眼差しでみんなをぐるりと見る。
「うん。」
「ダルガが助かったのは良かったよね?でも、”魔王の力”のうち、その権力の力はアルが継承したが、戦闘力や魔法力はどうなっているのかな?ダルガも継承しただろう?」
「ふむ。魂の保護の為に魔法力を使ったのでな。魔法力はそこそこワシに残ったが。。。戦闘力の方は。。。不明じゃな。あの場で闘いに使い切っておった為に、継承する力が残っていなかった。というのが一番良いのであろうが。。。万が一、継承の力を持ったまま霧散しておれば、やっかいじゃな。」
「どういう事?」
僕には意味が分からない。
「うん。アルには良く分からないよね?簡単に説明しようか?」
ジルが説明を始める。
---”魔王の力”というのはね。
もちろん、自力で魔王になる猛者もいる。闘い、奪い、勝ち取る。
そこから、何もない所から、一から魔界を統べる。という者もいるだろうが、それは大変だよね?
魔物には、その力を継承する力を持つ者がいるんだ。転生などに使うためにね。
転生は高位のモンスターはよくやるんだよ。身体が老いてくると、能力など、全てにおいて不都合が生じるからね。
だが、魔物の魂は強く、身体の崩壊と魂の崩壊が同じに近い人間とは異なる為に、”転生”というある意味生物として邪道な方法に打って出るんだ。
まぁ。それが悪いとは言わないよ?考え方は人それぞれだから。
身体の寿命と魂の寿命が違うことが問題なんだから。
それでね、”魔王”となった者の特殊な能力がある。
配下を統べる権力。
寿命のない強靱な肉体。
並はずれた戦闘力。
魔王のみが使える魔法。
この辺りを最低限持っていないと、魔王としての技量が疑われるだろう。
そして、魔王が交代するとき、この能力が”受け渡される”のか”奪い取るか”はその時次第だけど、継承されることとなる。
これが大まかな流れだね。
このうち、今回は、魔王の腕からの継承だったために、アルは”配下を統べる能力”だけを受け継いだ。
これによって、魔界の全ての魔物は本能でアルを”魔王”と認めたんだ。
”寿命のない肉体”はそもそもアルがスライムだから、継承したかは分からないかな。強靱ではなさそうだけどね。
そして、”魔法力”に関しては、どれくらいかは分からないが、ダルガが持っている。
だから、継承権もダルガにあるとみていいだろう。
となると、問題は”並はずれた戦闘力”だよね?
アルもダルガの戦闘を間近で見たから、ある程度は分かるだろう?
オリハルコンの武具を力任せでも操れるんだ。
そして、僕に深手を負わせることも出来る。
この能力が、継承の力を秘めたまま、霧散していたら、どこかで誰かに継承されることになるんだ。
結構問題だと思わない?---
軽い感じでジルは話を締めくくった。
結構どころか、大問題だよ!!!
どうすんだよ。戦闘力!!!
ヤバイ。こんなことなら、能力、全部欲しかった。
配下を統べる能力だとぉ。。いらねぇよ。
この中で一つ選ぶなら、完全に、戦闘力か魔法力だろうがよ!!!
こっちはスライムなんだよ。身を守る術すらないとか。。。だめじゃんよぉ!!!
「アルぅ。そんなに心で悲観的に叫ばなくてもさ。魔界のみんなは君を”魔王”と認識してるから、それほど敵にまわるヤツはいないと思うよ?」
ジルがこれも簡単に言ってのける。
「それってさ、全員が敵にまわることはない。ってわけじゃないじゃん!!大概敵になるヤツって、イヤミで自信過剰で、強いヤツだよ?完全に負けるよ。ボロ負けだよ。。。スライムじゃ敗北決定だよ!!」
「あははっは。その為に僕たちがいるじゃないか。それに、敵にまわって困ることは強いってとこだろ?イヤミで自信過剰だからって、困る事じゃないよね?ほんと君は面白いな。。。」
ジルが、大笑いしている。
僕としては真剣に死活問題なんだが。。
「ははっは。アルよ。ワシもそう思うぞ?ただのスライムが、”龍の民”の王子と、旧魔王と古代竜を味方につけておる。魔界でも人間界でも、これほどの者はいなかったであろう。。。恵まれておるのだ。悲観すべきではなく、むしろ喜ぶべきことじゃ。」
ダルガも笑っている。
「そうだね。君に力がなくとも、みんなに頼ればいい。誰も拒むことなんてないんだから。」
ジョージはいつも通りに優しく撫でてくれた。
ちょっとほっとする。
「そっか。そうだよね。”戦闘力”だって、誰かが継承するって決まったワケじゃないし。」
僕は無理矢理納得しようと努力した。
「ま。敵が継承しそうなフラグは立ってる気もするんやけどなぁ~~~。」
ホセが大笑いしながら、不吉な事を言い放つ。
「だから、そういうのやめてよ~~~!!」
今日も僕の叫びがこだまする。




