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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=新魔王誕生編=
63/322

箸休め   ~サーカス団~

ホセの在籍していたサーカス団のお話です。

ちょっと脱線なので、”箸休め”程度にお読みください。


 ホセとジョセフィーヌを送り出して、3日が経った。


「なぁ。今日は見るからに客が減ってたよな?」

 ホワイトタイガーのジャンは心配そうに呟く。


「ホセは人気者だったから。」

 象のミミィは寂しそうだ。


「ほとぼりが冷めたら、帰ってくるんだろう?そろそろじゃないか?」

 ライオンのガッツあくびをしながら答えた。



「ねぇ。みんな不味いことになったわ。私の言葉分かる?」

 人間のカレンが入ってきた。

 カレンは見世物としてここにいる。動物側の人間だ。


 カレンの言葉に、動物たちは皆、人間の仕草に合わせて頷く仕草をする。


「ありがと。今、聞いてきたこと、一方的に話すわね。」

 彼女は動物と会話が出来ない。今まではホセが通訳してくれていたのだった。


「あの、貴族がやってきてて、コッソリ聞いてたんだけど。。。あの日、追って行った先で、ホセを銃で撃ち落としたらしいの。。。」


 カレンの言葉にジャガーのハルクが唸る。


「待って。ハルク。まだ話は続くから。。。」

 ハルクを手で牽制する。


「それでね。森の方向へ逃げたらしくて、今日まで、探したけど見つからなかったんですって。ホセもジョセフィーヌも。。」


 皆が項垂れる。


「けれど、それだけで終わらないわ。貴族が怒鳴り込んできた理由。。。2羽とも逃がしたのは団長の責任なんだから、買い取りの話はもちろん白紙。王都滞在中の援助も打ち切り。それどころか、賠償金を払えって言ってたわ。その金額も大きくて、今のままじゃ、とても払えないわよ。」


「団長は怒って、話は決裂したみたいだけど。。。このままじゃ、私たちのエサ代もままならなくなるかもしれないわ。ただでさえ、ホセがいなくなって、客足が減っているんだもの。。。」


 カレンの話に動物たちは身じろぎも出来ないほど、動揺していた。


「こうなると。あの団長は自業自得よね。どうなろうと知らないわ。でも私たちは、餓死するか。殺されるか。運が良ければどこかに売られるんでしょうね。。。」

 カレンが言葉に詰まる。


 売られることが”運が良い”事。死が前提だった。

 今までの団長の悪辣極まりない行動を見ていれば当然だったのだが。。。


「私、考えたの。今まではホセに頼り過ぎてたわ。失敗しようが、お客の反応が薄かろうが、全部ホセがフォローしてくれてたもの。だから、明日からは失敗しないように。出来るワザはもっと磨きをかけて。ホセがいなくてもお客さんが来てくれるように、頑張ってみない?自分たちの身は自分たちで守りましょうよ?」


 動物たちは一斉に吠えた。


「え?どっち?やってくれるの?」

 吠える声が賛同なのか反対なのか。。カレンは分からず困惑する。


 動物たちは慌てて頷く仕草をした。


「ありがとう。みんな。頑張りましょうね。ホセが帰って来たときに驚くくらいに!」


 今度はカレンに合わせて、頷きながら小さく吠える動物たちだった。




 ホセ達がいなくなって10日ほどが過ぎた。


 皆はカレンの提案通り、毎日、毎ステージ、精一杯に頑張っていた。


 しかし、客足は伸びず、エサは質も量も格段に落ちていた。


 動物たちは体力も気力も限界が近づいていたが、カレンのその姿を見て、自分たちを奮い立たせていた。


 カレンは目に見えて衰弱していたのだ。。。

 自分に出される上澄み液のようなスープでさえ、小さな子供の動物たちに分けていた。


「私は演技しなくてもいいから。ただ毎日見世物としているだけなのよ?身体を動かさないからお腹すかないわ。」

 そう言っていた。子供達も最初のうちは、その言葉を疑いもせず、スープを貰っていたが、今日の著しい衰弱に子供達もスープを貰うことはなかった。


「ほら。食べて?まだ食べられるでしょう?育ち盛りなんだから、食べないと大きくなれないわよ?」

 弱々しく、それでも子供達に分け与えようとする。



 その時、外から話し声が近づいてきた。

 動物小屋の扉が開く。


「団長殿の言い分もお聞きしましたが、こちらの動物が逃げたことに端を発しているわけですし。檻の状態を見せていただかないと。。杜撰な管理で猛獣が街に出てしまっては困るのですよ。。。」


 兵士が二人、書類を手に入ってきた。


「う~ん。檻は大丈夫そうだな。」

「あぁ。問題ないだろう。」

 兵士は錠前などを確認すると書類にチェックをしながら、頷きあう。


「そうでしょう。そうでしょう?うちに問題などありませんよ。あの方が勝手にしたことで、我がサーカス団としても困っていたのですから。。。」

 団長が揉み手に営業スマイルで兵士に取り繕っている。


「ですがね。いくら相手が貴族とはいえ、向こうは法を犯しているわけで。王都内での武器使用に、狩猟制限区域での発砲。オウムとカナリヤを捕まえるだけにしてはやり過ぎですよ。本当に他の動物は逃げていないんですよね?猛獣が逃げているのだとしたら、大問題なんですがね。」

 

 兵士達の声色は苛立ちが混じっているようだった。


「兵隊さん?何か勘違いをしていらっしゃるようですけど。。。外に出たのは、オウムとカナリヤだけで間違いないわ。」

 カレンが話に割って入る。



 兵士達は振り返り、その声の方へ顔を向け、まじまじとカレンを見、驚きの表情をする。

「こっこれは失礼。。。」

 自分が好奇の目で見てしまったことに、謝罪をしたのだろう。


「いえ。構わないわ。見世物としてここにいるのだから。気にしないで。」


「そうか。。申し訳なかった。。。ところで君は随分痩せて弱っているように見えるんだが、それは元来のものなのだろうか?」

 兵士達の目から見ても、カレンの衰弱は酷かった。


「ふふっ。私、太ったことないの。たぶん体質だと思うわ。」

 カレンは誤魔化す。

 ただでさえ、有罪そうな貴族のとばっちりを受けそうなのだから、兵士の目を逸らさなくては。。。そう思っていた。


「団長殿。。まさか彼女の食事が、このスープだけ。ということはあるまいな。」

 団長を見る兵士の目が鋭かった。


「いえ。それは。あの。」

 団長が口ごもる。


「はぁぁ。なんということだ。商売の為とはいえ、同じ人間なのだぞ。この状態だと、動物たちも心配だな。。。」

「とりあえず、彼女は我々が保護します。よろしいですね?」

「・・・・・・はい。」


 団長は力なく頷く。



「じゃ、馬車の手配と動物たちの食事の手配だな。」

 一人の兵士が書類に書き込み、もう一人が馬車の手配に走り出す。


「では、団長殿、応急措置として動物たちのエサを用意します。だが、このままでは問題は解決しない。同じ結果だ。確か街の動物園がもう少し動物を増やしたいと言っていたような気がする。動物を手放すことを考えてみた方が良いかもしれないな。」


 扉が開き、「馬車の用意が出来ました。」と兵士が入ってくる。


「では、行こうか。抱き上げるが、辛かったら言ってくれ。」

 兵士はカレンをそっと抱き上げる。


「動物たちを離ればなれにさせないで。みんな仲良しなの。。。」

 カレンは涙ながらに兵士に訴える。


「大丈夫。君が心配することは何もないよ?」

 兵士はカレンの耳元で優しく囁く。


 抱き上げたその娘が、あまりに軽く、あまりに震えて。。。

 今にも壊れてしまいそうなその身体を兵士は優しく抱えて行くのだった。



 翌朝、どやどやと大勢の人間達がやってきた。


「この動物たちの状態を把握させていただく。」

 昨夜とは違う小太りな兵士が仕切っていた。


 何が起きたのかと動物たちは心配になったが。。。


 新鮮な肉や野菜。。。獣医による健康診断など、至れり尽くせりな待遇だった。

 客席を見れば、兵士達が来ていた。やけにノリもいい。


 久しぶりの高揚感で動物たちの演技にも熱が入る。


「うむ。なかなかいいな。」

 小太りの兵士が、笑みを浮かべ呟きながら、事ある毎に書類に書き込む姿が不気味だったが。。。



「俺らを太らせて食おうってことか?」

 熊のジャックが訝しがる。

「エサだけでも摂っておこう。力が出れば、抵抗くらいはできるだろう。」

 ジャガーのハルクはそう言って肉にかぶりつく。


「俺らは食べるってよりは毛皮だろなぁ。」

 イタチのファイは兎のラビィを見る。

「兎は毛皮も綺麗だけど、食べても美味しいらしいわよ?」

 なぜか自慢気だった。


「なんか、食われること前提なのが気になるんだが。。。動物園の話はどうなんだろうな。」

 シマウマのマジーが話題を変える。


「そりゃ。それが一番だろうが。。。」

「そうね。全員とはいかないわよね。。。」

「どうなっちまうんだろうな。。。俺達。。」



 そして高待遇は数日つづき。。。動物たちの体力が回復した頃。。。


「さぁ、みんな引っ越しだ!!!」


 その声とともに、動物小屋に大勢の人間が入ってくる。

 手際よく檻を馬車に繋げ、次々と運ばれていく。


 幌を被され、動物たちは何が起きたのか、訳も分からず唸ることすら忘れていた。


 

 暫くして、どこかに到着する。城壁を越えた様子はない。

 辺りは静かで動物たちの緊張は限界を迎えていた。



「今日からここが、お前らの職場やで~~~~!!!」


 その声で一斉に檻にかかった幌が取られる。


 視線の先には。。。

『ホセ~~~~!!!!!』

 みんなが声を揃えて叫ぶ。


「カレンもおるで~!」

 あの日、カレンを連れ去った兵士の後ろから、彼女が元気な姿を見せる。


『カレ~~~ン!!!』

 動物たちの声にカレンが手を振る。



「ジョージ。ありがとな。サーカス団ごと買い取るとは。さすがは王子様や!!!」


 カレンの横に並び立つ兵士にホセが声を掛けた。


「僕は動物園を活気づけたかっただけさ。あとは君たちに任せるよ。」

 ジョージはホセとカレンを撫でた。




 その後、芸を身につけた動物たちのショータイムは反響を呼び、王立動物園は有名となった。

 国中はもちろん、他国からも観客が来るほどの賑わいをみせることとなったのであった。


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