第62話 ~オリハルコンの剣~
「なんか。。。頭使ったら。。。お腹すいたんですけど。。。」
ふと空腹を感じた。
「あら?そんな時間ね。アルちゃんはリュウセイ君がお気に入りだったわよね?作ってもらう?」
シエイラが気を利かせてくれる。
「うん!!!でも、急に言ったら迷惑じゃないかな?」
「ふふっ。ここの厨房は24時間いつでも大丈夫よ?モンスターの中には夜行性の子達もいるから。。。それにアルちゃん、”魔王”なのよ?どんなワガママも通るわ。」
シエイラはメイドを呼ぶと、耳打ちした。
「皆さんお疲れでしょうし、準備ができたら、ここに運んでもらうようにしたけれど、良かったかしら?」
「えぇ。もちろん。お心遣い感謝いたします。」
ジョージが優雅に会釈する。
執事服に身を包んだ魔人たちが、テーブルなどを運び入れ、手際よくテーブルセッティングを行っていく。
僕たちもやることもないので、執事に邪魔にならないように、部屋を案内する。
「ねぇねぇ。見て。この絨毯、職人さんの手作りで、150年もかかって作ってもらったんだって。」
「この玉座の肘掛けを見てよ。宝王玉が入ってるんだ。」
「ソファーの毛皮、柔らかいでしょ。冬兎の毛なんだって。」
ここに初めて来たとき、魔王ダルガに案内してもらったように、ジョージ達に見せてまわる。
あの時の魔王ダルガを見て、子供が友達を初めて家に連れてきたときのようだ。と笑って見ていたが、いざ、自分が案内するとなるとテンションが上がる。
僕が集めた物でもないのに、なんだか自慢気になってしまう。
「この水槽の中にはね。すっごい綺麗な魔人魚がいるんだよ。。。ねぇソフィア。出てきてよ。友達を連れてきたんだ。」
流木の陰から、ヒョコッと顔を出して、こちらの様子を窺っている。
「この魚も綺麗だね。なんていう名前の魚なのかな?」
ジョージが水槽を覗き込む。
「これ魔界魚の稚魚なんだって。」
僕が説明をしていると、赤いスタンドカラーのシャツを着た、魔人魚のソフィアが、ダンスを踊るように華麗に泳いできた。
「へぇ。とっても美しいね。」
マズイ。ジョージがイケメンスマイルを出しているな。。。
ソフィアは水槽の縁に飛び出すと、水をフルッと落とし、尾びれを足にする。
スタンドカラーのシャツは、チャイナドレスへと変わり。足にはパンプスを履いていた。
「魔人魚の(セイレーン)のソフィアです。はじめまして。」
めっちゃ可愛らしく、ジョージに向けて挨拶をする。
隣にいるホセは完全無視だ。
「僕はジョージだよ?よろしくね。小さくてかわいいお嬢さん。」
そう言って、ジョージは人差し指を出す。
ソフィアは顔を真っ赤にして、その指と握手をした。
「なんや。俺の事は眼中にあらへんな。ま、ジョージに勝てるわけあらへんな。」
「だよねー。いつもイケメンスマイルでどうにかなると思ってるよねー。やだね。自覚してるイケメンってさ。イヤミだよね~。」
僕とホセは、ジョージ達をからかうように、会話をする。
「ふふ。。ヤキモチを焼いてくれるのかい?君たちもとっても魅力的だよ?」
ジョージが笑顔で僕とホセの頭を撫でる。
「アル。このドレス。ありがと。あんたがダルガさまに言ってくれたって。。。でも、あんたが魔王ってのは、まだ認めないわ。あんたのペットってのは腑に落ちないから。」
素直にお礼を言ってくれたと思ったのに。もしかして、ツンデレなのか?僕はそんな属性持ってないから、萌えないし、どちらかというと腹立つな。
「君は素直にお礼の言えるとても素晴らしい子なんだね?」
ジョージはソフィアをまず褒めてから、続ける。
「アルは、誰の事も”ペット”なんて思わないよ?君の事はきっと友達だと思ったから、魔王ダルガに進言したんだと思うよ?」
優しい笑顔でソフィアの目を見つめ、最後に「ねっ?」っとウインクしてトドメを差す。
「そっそうかな?そうなのかもね。。。」
ソフィアは真っ赤な顔で俯いて、モジモジと答えていた。
なんかな。。。ペットとも思ってなかったが、友達とも思ってなかったので、若干違和感が残ったものの、まぁ、ソフィアに迷惑を掛けられることもないだろうから、良しとしよう。
「よろしくね。ソフィア。」
僕がとりあえず声を掛ける。
「よろしくー。」
「ちょ。。なんだよ。その棒読みな挨拶はさ~。その性格どうにかしろよー。もうジョージ連れてきてやらないからな。」
「ッチッ。」
「おい。舌打ちしただろ~~~~。」
「ははっ。アル。落ち着いて。彼女に悪気はないさ。魔界の住人だよ?優しすぎる性格では生きていけない。お淑やかに振る舞う姿も、強気に振る舞う姿も、全部纏めて彼女の魅力なんだよ?」
ジョージに諭される。
それを聞いてソフィアは満足そう。
僕は。。。
「分かったよ。僕が折れるから。。。ごめん。ソフィア。」
魔王になっても、誰からも扱いが雑な気がする。。。あんまり尊敬とかは感じられないな。
まぁそうか。僕自身が何も変わってないからな。こんなチビスライムに傅けとか。。ないよな。
ちび魔人魚に見下される事くらい。当たり前と割り切ろう。
僕が下僕側の立場だったとしたら、この状況は確かに納得出来ないからな。
一人、どうでもいい小さな事の”心の葛藤”と戦っている間に、食事の準備が整いつつあった。
「もう間もなく準備できるようよ?席に着きましょうか?」
シエイラが呼びに来てくれた。
「その前に。。。アル。このオリハルコンの剣を仕舞ってくれないかな?どうやったら元に戻せるのだろうか?」
「え?え~と。。。知らないな。。。出すのは見てたから真似したんだけど。」
困ってしまった。。。。どうやるのだろう。。。
「どういう事?君の持ち物だろう?」
ジョージも困惑している。
「う~ん。実際には僕のじゃなくて。魔王ダルガの持ち物だったんだ。僕のはこっちの紅い宝石が入った懐中時計で。」
と懐中時計を取り出す。
「なんや。あの時拾った懐中時計やないか。」
ホセが覗き込む。
「そうなんだ。あの拾った懐中時計が、オリハルコンの武具だったんだよ。魔王ダルガのは、碧い宝石の入った懐中時計で、剣。僕のは赤い宝石が入った懐中時計で、鎧だった。」
「呪いのアイテムやなくて良かったな。」
ホセが僕の肩を叩く。
「それで、古代竜との闘いの時に、それが分かって、魔王ダルガはオリハルコンの剣と鎧を使ったんだけど。。。仕舞うことはなかったから。。。」
死んでしまったと言えず。言葉を濁す。
「う~ん。仕舞わないで欲しいのじゃが。。。それでも仕舞うのであれば、『解除』で元に戻せるぞ。」
『えっ?』
その場の全員が固まる。
なぜって。。。。
「オリハルコンの剣が喋った~~~~~!!!!」
僕は目を見開いて叫んでしまった。
だって。その声は。。。
「ダルガ?ダルガなの?」
シエイラが剣の前に屈み込む。
「シエイラか。心配かけてすまなかったの。」
「いえ。ご無事でなによりです。」
「無事とは。。。言い難いの。。。魂の保存がイマイチでの。器として無理に剣に寄せたものだから、まだ慣れぬ。」
「えーーー。こうなると『解除』って言いにくいじゃん!」
「うわ~~~。」
迂闊なことを言った。。。ダルガの叫び声とともに懐中時計に戻ってしまったな。
「アル~。何をしておるんじゃ~。懐中時計に戻ると、視界が悪いのじゃ。出せ。」
「え?そうか。。。えーと。。。出でよ。。。なんでしたっけ?」
急かされて出てこない。
「アルムじゃ。早くせい。」
「はい。。。出でよ。アルム。」
懐中時計は剣へと姿を変える。
「いやぁ。どうなることかと思ったわい。」
「はぁ。良かった。。。つか。魔王さま。。。なんかおじいちゃんみたいな喋りっすね。。。」
「あら。アルちゃん。普段はこんな感じよ?みんなの前では”余は・・”とか言ってるけど。あれ魔王用なのよ。」
シエイラが笑っている。
「シエイラ。カッコつけているわけではないのだぞ?ワシは”TPO”を弁えておるだけじゃ。」
「う~ん。とりあえず、僕が分かったのは、今も前も、シエイラさんには頭が上がらないってことですよね?」
「ふふっ。アルちゃん。面白いわ。でも正解ね。」
シエイラがウインクしてくる。
「さ。食事にしましょう?話はそこでゆっくりと。」
シエイラが促す。
僕は魔人の執事に
「太刀掛台みたいなのってあります?あの剣をテーブルの上に置きたいので。。。」
「すぐにお持ちします。」
執事は静かに下がる。
僕たちが席に着くと間もなく執事が戻ってきた。
はじまりの国の”太刀掛台”をイメージしていた僕は驚きを隠せない。。。
刀を置く”太刀掛台”はシンプルな物が多い。
それに比べて、運ばれてきたのは。。。
”THE魔王”って感じの派手でごつい物だった。
重厚感・装飾・レリーフ。。。一つ一つが存在を主張してくる。
これだけで美術品となりそうだ。
もはや、剣が主役ではなく、この台が主役をはっているようだ。
「派手ですね。。。」
だが、それしかないので、とりあえずオリハルコンの剣を置く。
僕の席には今日もメイドさんがいる。
「よし、それじゃ。ごはんにしようよ。」
みんなが頷く。
「アル。そなたがここの主人じゃ。そなたが杯を掲げよ。」
ダルガに促される。
無理だよ~。やったことないもん。
とりあえず、メイドさんに代わりに僕のグラスを持ってもらった。
「え~と。じゃあ。う~ん。美味しいご飯を食べましょう。いただきます。」
メイドさんが僕のグラスを掲げた。
みんなも同じようにグラスを上げる。
「なんや。給食当番みたいやな。」
ホセの一言に、みんなが笑い始めた。
「僕も同じ事を考えていたよ。」
ジョージも吹き出していた。
兎にも角にも楽しく食事の時間が始まったのであった。




