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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=新魔王誕生編=
60/322

第60話  ~ジルの仮説~


 ジルは椅子に座り直し、姿勢を整える。

「僕が気になった部分はね・・・」


 そして話を始める。


---まず気になったのは。。。アルは一体何歳なんだろう?ということかな。

 生まれてから何年も経っているのであれば、自分が”スライム”ということに気付かない訳がない。

 生活をしていく上で不便だからね。


 だが、生まれて間もないにしては知識がありすぎる。それも人間に偏ったように見える。


 転生者とも考えたんだが、人間が知識を持ったまま転生は難しい。

 その術を成功させられるほど、魂の成熟を遂げている者が少ないからね。

 悪魔や魔族、高位モンスターの転生ならば、納得もいくが、アルとの知識が合致しない。


 そもそも、転生するならば、”スライム”が不自然に思える。しかも新種のスライムだ。

 普通は既存の”器”となるものを使用するものだからね。

 突然の変異種に転生したとすると、身体の構築さえも行ったことになる。



 転生術が使えた上に、身体構築術。それも見たこともない変異種を生み出す術まで使うとなると、それはもう、伝説に名を残すような力を持った者ということになるよね?僕でも成功させられるかどうか。。。


 そして、それが可能であったとするならば、”スライム”それも力も何も持たない者は作らないと思うんだ。せっかく転生したのに、真っ先に殺されては意味が無いからね。


 だから、転生だとしても、”スライム”の身体は偶然の産物と考えた方が無難だろう。

 

 だが、転生者としては記憶の継承の点など、矛盾点も多くある。これも偶然起きた事。とすると。。。

 それはもう、天文学的確率になるよ。


 とりあえず、アルの出自は不明だね。ただの”スライム”ではないことは確かだけどね。


 その”ただのスライムでない”点が2つ目の疑問点だ。



 アルのスライムとしてのレベルは高くない。

 魔力(MP)生命力(HP)も。


 世界樹の加護を受けたと言っていたが、そもそも、それには、”世界樹の精”の目に留まる必要があるよね?

 そのレベルには到底達していない。例え、一緒にいた女の子のおこぼれをもらったとしてもだ。


 仮に、おこぼれの加護が貰える機会があったとしよう。

 そうなると、レベルの低いモンスターでは受け止めきれない。

 アルの身体では受け取ることすらできないはずなんだ。


 だが、アルは”聖”の力を受け入れることができた。

 これすら奇跡的なんだよ。それなのに、ダルガから”魔”の力も受け取ることとなった。


 最初の”魔”の力はダルガが渡した”魔宝玉”が融合してしまった事に端を発する訳だけど。

 これだって、レベルの到達していない身体では、受け止めることも難しいが、受け止めたとすると、”聖”と”魔”相反する力を、未熟な身体に内包するんだ。通常なら崩壊する。

 アルのように数日の眠りで済むというのは。。。考えられない。


 さらに、僕の精神世界に入り込むということになった。

 僕が永い封印により、力が弱まっていたとはいえ、不思議な出来事だった。

 それも、噛みちぎった魔王の腕と共にだ。


 僕だって、自慢じゃないが相当な力を持っているよ?そこら辺の龍種やモンスターに、この弱まっている身体でも、負ける気がしない。

 そんな僕の身体が、魔王とスライムという異物を精神世界まで通すこと自体不思議だよ。自分でも驚いたからね。


 そして”封鎖された異空間”という環境が整った場所ではあったが、”魔王の力”の一部を継承することになった。

 あり得ないどころでは済まされない事態が起きているんだよ?



 ”不思議”・”偶然”・”奇跡”。言葉ならいくらでも出てくるだろうが、ここまで重なると、最早、その1回限りの出来事を表す言葉ではおかしいよね?

 必然といってもいいくらいの出来事の数々だ。


 だが、その必然を起こしているだろう力も何かは不明なんだよね。



 そしてここからは、僕の仮定も含める話なんだが。。。


 あの女の子『サクラ』だが、僕もジョージの部屋を訪れた一瞬見ただけだから、正確なことは言えないんだけど。。。


 彼女はまるで、転生者の器となった後の抜け殻のようだった。

 ”ようだった。”というのは、身体が死に至っていない。ということだ。


 本来、魂が抜け落ちれば、身体が崩壊する。魔族であれば、その身体は消え去り、人間や獣、モンスターなどは身体が死に至る。

 

 彼女は時を止めるに近い、”時の魔法”がかかっていたが、それが解除されたとしても、死には至らなさそうだった。だが、魂は見当たらなかったように思う。

 完全に切断されてはなく、繋がりはあるような。。。そんな感じかな。


 だから、アルを見ていて、「彼女の魂=アル」という図式も考えたんだが、それも繋がらないんだよね。。。

 もしアルが彼女だとすると、ジョージ達の話のように、密接に生活をして、魂が戻らないなどとは考えにくい。

 いくら抗っても吸収が始まると思うんだ。


 それを食い止める事も、もちろんできるが、そんな魔法や術などの痕跡は一切感じられなかった。


 そして、「サクラの魂=アル」だとすると、アルがこれほど様々な力を要してきたら、その都度、多少なりとも彼女の身体に良いか悪いかは別として、異変が起きるはずだが、それも見受けられないんだよね?


 アルとサクラは何かしらの関係性。それもかなり高い関係があるだろうが、どちらの力が優位性を持ち、どちらに作用しているのか。。。それが僕には判断できない。


 僕は竜種の始祖に一番近い位置にいるのに、こんなことが見えないなんて。。。初めてだよ。



 だから、僕の仮説としては、

 彼女は7つの海と大陸を渡っていることを踏まえると、かなり高い潜在能力を持っていた。

 そして、”牙熊ファングベア”の襲撃を受けた際、身を守るための何らかの術を使用した。

 そのために、即死は免れたが、”世界樹の加護”が仇となるようなもので、肉体と魂が離れてしまった。


 さらに、アルは、”ブルートスライム”の名の通り、”血のスライム”とするならば、彼女が”世界樹の加護”を受けた際に、飛び散った魂か意識の残渣が、彼女の血と混じり合い、天文学的な確率でアルが生まれたんじゃないかと。。。


 かなり苦しい仮説だが、この程度しか思いつかないな。。。


 いずれにしろ、アルとサクラを見守る必要があるね。

 アルの心が純真なことが救いだったとは思うよ。-----



 ジルが持論を展開した。



「なるほど。。流石だな。。古代竜の能力を使って見えた結果も踏まえているからね。僕が異論は挟む余地がないような、仮説だよ。」

 ジョージは神妙な面持ちで、ジルの話に対しての感想を述べた。



「そうね。アルちゃんには悪いけれど、魔界を混乱させるわけにはいかないし、このまま”魔王”を続けてもらっても良いかしら?それほど忙しい訳でもないから、今まで通りの生活でも構わないわ。”魔界の民”には”魔王”という存在があるだけで、安心が得られるものだから。。。。」

 シエイラは静かにジョージにお願いをした。



「そうだね。シエイラの意見には賛成するよ。アルの能力が何処まで伸びるか分からないが、”魔王”として足りない能力は僕がサポートするよ。僕はアルが気に入ったし、気になるし。最後まで付き合うよ。何かあれば、古代竜の役目を果たすのみ。だからね。」


 

「そうか?なら、みんなアルの友達っちゅうことやな?俺はどんどんアルが遠ざかっていくような気がするが。。。ここまでくると、俺が力になれることは少ないかもしれへんが、出来る事であれば、話し相手でもなんでも請け負うわ。」

 ホセはいつも通り。



「自分は当初お約束した通り、魔界の為に身命を賭して働かせていただきます。自分のみならず、妹を助けていただき、その上、足まで治していただきましたから。感謝しても感謝しきれません。」

 ゲイルは深く頭を下げた。


「お兄ちゃん。。。魔界って。もう戻れないの?」

 サラが悲しそうに問う。

「もう、そいつと一緒になるのにお前が心配することは何も無くなっただろ?嫁に貰ってもらえ。この店を頼むぞ。」

 覚悟を決めた兄を妹は涙で見つめる。


「そんな今生の別れみたいな事しなくても。アルだって、それは望まないと思うよ?」

 ジョージが優しくゲイルに告げる。

「そうだよ。僕もヒマだろうから、言ってくれればいつでも連れてくるけど?」

 ジルも賛同する。


「ありがとうございます。。。」

 サラの顔は涙で一杯になっていた。



「話は纏まったわよね?随分遅くなってしまったから、アルちゃんが目覚めたら、すぐに魔界に戻っても良いかしら?明日の朝一番には、新魔王に謁見するために、配下の者達が到着すると思うのよ。」

 シエイラが心配している。


「それならば、僕も一緒に行ってもいいだろうか?いくらアルが”魔王”になったと聞いても、実感が沸かない。この目で確認したいんだが。。。」

 ジョージがシエイラを見つめる。


「いいんじゃないかしら?ねぇ?ジル?」

「問題ないんじゃない?大勢でいた方が楽しいよね?」

 ジルは楽観視。

「ありがとう。助かるよ。」

 ジョージは礼を言った。



「それにしても、アルが”魔王”やて。ジョージ、抜かされてもうたやん。」

 ホセが楽しそうに揶揄う。


「僕は元々、王位継承権を持っていないと言っただろう?抜かすもなにもないよ。だがこうなると、『サクラ』の目覚めもアルがカギを握ってるかもしれないな。。。」

 ジョージは独り言のようにつぶやく。


「そうだね。だけど、彼女の魂や記憶の残渣から、アルが生み出されたとすると、『サクラ』が目覚めたら、アルが消えてしまう可能性もあるよ?」

 ジルが爆弾発言をする。


「それは。。。。ダメだ。。。。。アルも、サクラも。。。失いたくはない。。。」

 ジョージは頭を抱え、心の葛藤が口に出ていた。



「王子様は欲張りなんだね。」

「そりゃ王子やからな。」

「でも、そんなに愛されて大事にされて。羨ましいわね。」

 ジル・ホセ・シエイラは、ひそひそと話していた。




「ん。んん~~~~。」

 アルが伸びをしながら、目を覚ます。


 ジョージは心の葛藤をどこかに置き去り、アルを見つめる。

「おはよう。アル。」

「んん。おはよう。。。ジョージ。」


 ちょっと寝ぼけているアルを見て、みんなは微笑ましく見つめていた。

 そして、何かを思い出したかのように叫びながら、飛び退く。


 アルが必死に自分の状況確認をしようとしているのが面白い。

 きっと、言い出せなかったことや隠していたことがバレていないか不安なのだろう。


「ま、時には諦めも肝心やっちゅうことやな?」

 ホセが面白がっている。

「さ、随分時間もかかってしまったし、早く帰らないとね。魔王さま。」

 ジョージもいつものアルの姿に安心をして、揶揄っている。


「だから、どうなってんのーーーー?」

 混乱に陥っているアルをよそに、ジルは魔法陣を繰り出した。

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