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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=新生活編=
6/322

第6話  ~続・プチ冒険~

 深まる謎。迫る日暮れ。このまま迷宮入りするのか。


 なんて、小説っぽく思ってみたものの、お互い、賢いわけでもなく…。


 「とりあえず、そのうちわかるんじゃね?」

 「そやな。ま。今日のところはこの辺で。」


 と、軽い2人は取り留めもなく、話を終了する。どうせ考えても答えなんか出ない。出るわけがない。

 考えるだけ無駄ということで、寝床へ向かいながら、明日に向けての話へ切り替えた。


  --12日目--


 「今日も気持ちのいい朝やでー。」

 「うぅん。もう少し…。」

 「どこのお姉ちゃんや。かわいい声出しても2度寝は許さへんでー。」

 その声とともに、バシッとおでこをはたかれる。


 「ホセぇ。やさしく起こしてくれよぉ。」

 「なんでやねん。」

 なんだかんだ今日も楽しく起きる。


 今日の朝ご飯も。やっぱり朝露。根っこの朝露を葉っぱのかけらで掬いとりながら、ふと上を見上げると…。巨木の葉から今にも滴り落ちようとしている朝露が。

 思わず走り出し…。滑り込むように落ちてきた朝露を口でキャーッチ。


 「やったぜーーー。」

 思わず数日前の雨キャッチのノリでやってしまった。そして叫んでしまったぁ。

 あの時は一人だったけど、今は…。そうっと後ろを振り返る…。

 「アホちゃうか。」

 ちょっと小馬鹿にしたような目線のホセがいた。


 「いや。今のはあれで。あのー。。。見なかったことにしてくれ。」

 とは言ったが、やはりそこはホセ。見逃してはくれなかった。

 「で?何してたんや?」

 ニヤニヤしながら聞いてきた。 


 仕方なく、ホセが来る前の一人だった頃の話をした。雨が降ってひとしきり遊んだ話を。

 「あー。あれやな。異常な環境下におかれて、不安と寂しさの中のひとときの休息。ってやつやな。」

 まじめに解釈してくれたように見せかけて。ホセ君。肩が震えてますよ。もう笑いこらえすぎて。ふるえてますけどもぉ。

 「もう。笑うならさっさと笑えよぉ。かえって恥ずかしいわ。」

 ホセに頭突きをくらわす。が、そこはスライム。ぽよんっとかわいく跳ね飛んだだけだった。


 「もう。何してもかわいいやっちゃな。」

 ぷぷっ。くくくっ。転がる僕をみて、さらに肩を揺らしながらホセが言った。

 「まぁ。欲を言えば、スライムやなくて、かわいい女の子なら、最高やったな。」

 「そりゃどうもすみませんでしたね。」


 ふいっと顔を背ける。と、その先に何かがキラリと光った気がした。


 「なぁ。ホセ。あそこ何か見えないか?」

 光った方を指す。

 「何も見えんな。気のせいちゃうか?」

 「うーん。そうかな。確かに何かが光ったみたいに見えたんだけど…。」

 目を凝らしてみたものの、完全に森の中でここからでは遠くてよく見えなかった。


 「気になるんなら、今日はそこから調査しますか。」

 ホセが提案してくれた。


 せっかくなので、お言葉に甘え、調査開始としようとしたが、

 「目的地はスライム君の希望の方角を取り入れるんやから、俺の希望も聞いてもらってもええかな。」


 その希望というのが…。


 現在ホセの尻尾に掴まり、上空高く舞い上がっている。

 「ホセ。ホントに大丈夫なのかよぉ。」

 風に吹かれて相当怖い。

 「心配せんでも、落ちたら助けるがな。」

 (それじゃ、落ちるまでは何もしてくれないんじゃないか。)

 

 しまった。とは思うものの、後の祭り。そして、

 「あぁ。ホセ、ストーップ。ここだよ。」

 ホセにホバリングしてもらう。


 「あー。ちがうちがう。もうちょい右。あー行き過ぎ。少し戻って。」

 そんなやりとりをする。

 何をしているかというと。

 《上空の巨木テリトリー境界線はどこだ》作戦。

 ホセいわく、

 「境界線を知るということは、自分たちの安全圏を知るのであって、我らの生命線といえる。」

 と訛りもなく格好良く台詞を決めていたが。

 境界線を知る行為を実際してるのは、僕であって、境界線を知る前に、僕の生命線が消えそうなんですが。


 天頂付近を出発してから3分の1ほど降りた辺りで、

 「あーもう。ホセ、力が。。。落ちそう。。。」

 そんな僕をホセは、尻尾ごとひょいっと振り上げ、背中にぽすん。とキャッチした。


 「あー。やっぱホセの背中は最高だぁ。」

 もふもふ。ふわふわ。ホセの背中に潜り込みながら、感触を堪能する。

 「癒されるわ~。」

 とごろごろしていると。

 「くすぐったいなぁ。」

 褒めたからか。ちょっと嬉しそうにつぶやいて。ホセが優雅に滑空をする。

 疲れた身体に、もふもふと心地のいい風とそして空からの絶景。危険な仕事の後のご褒美だ。


 少し高い木の枝に行くと、二人で並んで座った。

 「ホセってさ。西の国の訛りがあるけど、この国の出身じゃないの?」

 「急にどうした?」

 「いやぁ。さっき、訛りなしでカッコよく決めてたからさ。ふと気になって。」


 「実は俺。。。普通にこの国の出身だよ。あの訛りはさ。。。」

 サーカスに来て、人間と会話できるようになったころ、今ほどの人気はなくて、たまたま来ていた客に勧められたんだそう。

 「最近、西の国の訛りが流行ってんだよ。失敗しても冗談っぽく聞こえるしな。親しみあるし。これをマスターできれば、人気者間違いなしだね。」

 と。お調子者のホセは当然、教えを乞う。

 「そういうわけで、教えてもらったんだけどさ。マスターした後に、そいつも西の国の出身じゃないのが分かってさ。どうにも胡散臭い偽物の訛りが完成したんだよね。当然突っ込み入れしたけど、『まっ。それも愛嬌じゃん。』って笑って一蹴されたよ。」

 ホセは両手を上げて肩をすくめ、諦めたようにため息とともに首を振る。


 なんか訛りが無いとムズムズするな。

 「なんか、標準語で話すホセって。あれだな。」

 言葉を濁す。

 「今さら、気持ち悪いやろ~。やっぱ、胡散臭いくらいが、ちょうどええねん。」

 「だな。」


 ホセのちょっとした昔ばなしで小休止をとった僕たちは、先ほどの場所から《上空の巨木テリトリー境界線はどこだ》作戦の続きを行う。

 

 ホセの尻尾に掴まり、境界線を探る。それを感じたら、ホバリングをして境界線から離れないように保ちながら、徐々に降下していく。うまくいけば、境界線の輪郭が分かるという寸法だ。


 が、今回は向きが悪かった。顔が境界線を発見した。そう薄い膜を顔が感じ取っている。それなのにホセは構わず降下を開始。

 「ぢょっどー。ボゼ君。顔が。顔がぁぁぁぁ。」

 「大丈夫やって。怪我するわけでなし。それより後ちょっとや。境界線離すなよ。」


 鬼か。鬼なのか。少しは心配してくれよぉ。慣れてきたのか、降下スピードが速い。

 しばしの拷問の末、地面に降り立った。


 「はぁ、もう勘弁してくれよぉ。」

 「良かったなー怪我無くて。無事に境界線も図れたことやし。万々歳やな。」


 万々歳なのはホセ君だけね。僕は忍耐力のレベルがアップした気がするよ。泣き泣きの気持ちを切り替えて、


 「で、どうだった?」

 境界線に押し付けられていただけの僕では、どこを飛んでいたかも定かでなかったので、調査結果を聞く。

 「予想どおりやな。境界線はドーム型になってた。」

 あぁ予想どおりだったんだ。僕が顔を引きずられた意味って。いったい。


 「じゃあ次は、探索を開始しますかね~。」

 もう今日はホセ君に主導権がわたっている。


 今日のために昨日は日暮れから、二人で草をひたすら編み編み編み編み。長い長ーいロープを作っていた。

 昨日同様、僕には結べないので、ホセのハーネスに結び付け。

 「帰る時の道しるべだから、離れたらあかん。絶対、俺の背中から降りたらあかんで。」

 いつになく真剣にホセが念を押す。

 「ホセ。カッコいいよ。男前だよ。女子なら今ので、キュンってしたかもな。」

 「カッコいいのは、いつものことや。」

 キリッとポーズを決めて僕に振り向く。

 「あぁ。今ので、台無し。」

 二人で笑ってじゃれ合う。

 「ま、冗談はさておき、ホンマに気を付けよう。」

 「うん。」


 境界線近くの岩に、ロープの端を括り付け、何かが光ったように見えた方角へと歩き出した。欲を言えば上空から出発したかったが、ロープの限界を考えて徒歩にした。


 空気の重さを感じて、安全圏を抜けたことを実感する。念のため、後ろを振り返り霞んだ安全圏エリアを見る。ロープが機能しているかも確認してから、歩みを進めた。


 「何か異変を感じたら、すぐに教えてや。」

 「わかってる。」


 緊張のためか、口数も減る。


 しばらく行くと、やはり何かがキラリと光った。

 「ホセ。やっぱ何かあるよ。」

 「どこや。」


 今度はホセも確認した。

 「行ってみよう。」

 ゆっくりと慎重に。目を凝らしながら進む。


 何かが落ちている。近づくと、それは懐中時計だった。美しいレリーフが彫られて、周囲に5つの小さなダイヤモンドと中央に深紅の宝石が埋め込まれていた。この宝石が、太陽光を反射していたのだろう。

 

 「キレイだなぁ。」

 拾い上げて太陽に翳す。美しいレリーフと宝石が落ち着いた銀色の地金をより上品に輝かせる。

 落とさないようにホセのハーネスに括り付けた。

 「荷物入れるバックも編めば良かったな。」

 「そやなぁ。食べ物とかもあるかも分らんしな。」

 失敗失敗と二人で笑う。


 和やかな雰囲気の中に爽やかな風が森を抜ける。

 「んん?」

 いや爽やかじゃない。血生臭い匂いが混じっている。

 「近いな。」

 ホセのハーネスにしがみつき、身構える。

 

 また、風が吹き抜け、草が揺れた。その先に。。。

 人が倒れていた。動く気配はない。

 「ホセ、誰かいるよ。」

 「あぁ。俺も見た。死んでるのか?」


 警戒をMAXにしてじりじりと距離を詰める。やはり動く気配はない。もう死んでいるのかもしれない。

 近づくにつれ、状況は悪化する。僕たちではなく、人間の。


 血だまりが広がり、長い黒髪が見える。ここから顔は見えないが、華奢な感じがする。子どもか女性だろう。

 「懐中時計ってこの人のかな。。」

 にじり寄りながら呟く。

 「胸の辺りに爪痕が見えるで。熊にでも襲われたんやな。その時計。もしかするとその時に飛んだのかもしれへんな。。」

 思わず懐中時計に目を落とす。急に美しく感じた宝石が、妖艶な輝きに見えてくる。なんか怖い。この目の前の人が死んでいたのなら、いきなり呪いのアイテムとかになってそうじゃん。生死の確認だけでもしなくては。


 「ちょっと。ホセ。降りてもいい?この人生きてるのか確認しよう。生きていたら助けないと。」

 「えぇ。そんな確認するんかいな。放っておけば。。」

 あからさまに嫌な顔をする。


 「でもさ。」

 いつもなら絶対に近づかないが、何故か確認だけでもしたいと思った。

 「まぁ、そこまで言うんなら、周りを警戒してるから、ササッと済ませてや。」

 「ありがと。」


 ホセの背中から降りて、そっと近づく。顔を覗き込むと、女の子だった。十代半ばだろうか。大量の出血のためか、顔色は白いが、眠っているかのようで、死んでいるようには見えなかった。

 少し警戒心が緩み、さらに近づこうとして、避けていた血だまりに触ってしまった。


 その瞬間、電流が走ったかのような衝撃を受けた。

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