第59話 ~ブルートスライムのアルとは~
「ん。んん~~~~。」
伸びをしながら目を覚ます。
なんだか頭も重いし身体が怠い。。。
「おはよう。アル。」
頬杖をついたジョージが僕を覗き込んでいた。
「んん。おはよう。。。ジョージ。」
(あれ?見慣れない天井だな。。。ここ。。どこだ?)
「あーーーーーー!!!!」
飛び起きる。
思い出した。今、白の国だ。そしていろいろやらかした気がする。。。
「えーと。。。」
僕を囲むみんなの顔を見る。
みんな笑顔だが。。。
(これはどういう意味の笑顔だろう?読めない。。。)
背中に汗が伝う気分だ。汗も背中も無いけどさ。
「ホセ。僕どのくらい寝てた?」
「あ~。小一時間ってところやな。」
(一時間弱。。。現場の後処理とかして、このリサの店まで戻り。。。大丈夫だな。詳しい話までする余裕は無いはずだ。)
「う~ん。君にとっての大丈夫とは違うかもしれないな。」
「え?どういう事?ジル。。。」
戸惑うようにジルを見上げると、後ろから声がかかる。
「ま、時には諦めも肝心やっちゅうことやな。」
ホセが僕の肩に手を置き、うんうんと頷く。
「さ、随分時間もかかってしまったし、早く帰らないとね。魔王さま?」
ジョージがいい笑顔で僕を掴む。
「だから、どうなってんのーーーー???」
僕の叫びは聞き入られることなく、ジルの魔法陣が光り輝いた。
---小一時間前
アルは力を使い果たし、眠りに落ちた。
ジョージはジルの元へと駆け寄る。
「アルは大丈夫か?」
「あぁ。問題ないと思うよ?まだ力のコントロールが上手くいかないからね。さっきので、使い果たしたみたいだよ。暫くすれば起きるさ。」
「前に力が暴走したときには、何日も目覚めなかったことがあるんだ。」
「それなら問題ないよ。力の継承で、彼の能力自体が上がってるからね。数時間もかからないよ。」
「よかった。だが。。。力の継承とは?やはり”魔王”というのは嘘ではなかったのか?」
「うーん。どうしてアルは君に話さないんだろうね。友達なんだろう?」
「それは僕が人間だからだろう。アルはスライムだが、考え方は人間と変わらないからな。。。」
「うん。僕もそれが不思議だったんだ。古代竜である僕でも”ブルートスライム”という種族を見たことも聞いたこともない。しかし確かに身体はスライムの構造をしているんだ。。。だが何か違うというか。。。不思議な感覚がするんだ。転生者とも違うというか。。。」
ジルは戸惑いを隠せない。
「そうか。。僕もアルとは偶然知り合ったんだが、初めて会った時から惹かれるものがあった。アルは心に壁がないかのように、誰とでもすぐに友になれる。」
「それは、私も主人も同じよ?ずっと昔から知っているような。そんな親しみがあったの。プライベートな空間には決して誰も入れたことのないダルガが、あの子を連れてきて、我が子のように可愛がっていたもの。微笑ましかったわ。」
魔王軍の司令官と話をしていたシエイラが、いつの間にか来ていた。
「ダルガとは。。。魔王ダルガの事か?」
「そうよ。」
驚きの表情で聞くジョージに対して、シエイラはサラッと答える。
「ここでは落ち着かないな。場所を変えよう。リリィ、ここを任せてもいいかい?本国の軍も使って良いから。」
「了解しました。」
リリィは美しく敬礼をすると、魔王軍の指揮官の下へ走っていった。
ピィィーーーー!!!
ジルが透き通るような口笛を吹くと、火炎龍達が戻ってきた。
子龍の元へ集まると、皆、愛おしそうに子龍に寄り添っている。
バサッバサッ。
母龍が遅れてやってきた。背中にはウォールが乗っている。
子龍を見たウォールから涙が落ちる。
「目が・・・良かった。」
そしてジルとジョージの前に跪く。
「この度は僕たちを助けていただき、ありがとうございます。古代竜さまと知らずに失礼をしました。龍の家族を代表してお詫びと、感謝を申し上げます。」
「あはははは。僕は自分のしたいようにしているだけだよ?みんなを助けようとしたのはアルだしね。そんなに畏まらないで。僕は堅苦しいのが苦手だから、今まで通りで。ね?」
「それじゃあ、こっちももう大丈夫だね。さっきの店に戻ろうか。」
ジョージ・シエイラ・ジル。それにウォールも加わり、サラの店へと歩き出した。
途中、城下町に入ったところで、ゲイルも見つけ、一緒に帰る。
店に入ると、テーブルの上で、大の字で眠るオウムが。。。
「この状況で、よく爆睡できるな。。。おいホセ。起きろ。」
呆れたジョージが揺すってみるが、微動だにしない。
「おい、ホセ。話に乗り遅れるぞ!」ジョージの一言に
「なんやて~~~!!」ホセが飛び起きた。
「話好きは伊達じゃないな。。。」ジョージが呆れながら笑った。
「それでは、みんな揃ったことだし、アルの件について話そうか。」
ジョージが話を切り出そうとした時だった。
ドタドタドタッ!!!奥からものすごい音で走ってくる者がいる。
「ゲイルさんっ!!!サラが。サラがっ!!!」
サラの恋人が慌てた様子で飛び込んで来た。
「サラに何かあったのかっ!!!」
ゲイルも勢いよく椅子を倒して立ち上がる。
「いえ。目が覚めたんですが、それが。。。」
恋人は困惑の表情だった。。。
「お兄ちゃん。。。わたし。。。」
奥から声がした。
手を伸ばし、ゆっくりゆっくりと進むその姿に、車いすは無かった。
「サラ。その足。。。」
バランスを崩しよろけたサラを、ゲイルが受け止める。
「大丈夫か?」
「うん。わたし、どうして。。。死んでしまったの?」
「生きてる。。。生きてるよ。。。」
ゲイルは喜びにむせぶ。
「《世界樹の葉》の力だけでは、機能を失っていた足まで、蘇らせる事はない。。。」
ジルが呟く。
「どういう事だ?」
ジョージは身を乗り出す。
「う~ん。あの時のアルは魔法とかを付加したようには見えなかったよね。。。僕の知っている”世界樹”では。と限定するよ。長い間、”世界樹”を直接見ていないからね。1万年以上かかって、何か変わったかもしれないが。。。それでも。。。」
ジルは考え込む。
「アルが何かは分からないが特別な力を持っているかもしれない。ということか?」
「それに近いだろうね。スライムの身体で、”聖”と”魔”の力を宿すことができているし、さっき天を貫いたあの力は、その両方を同時に放出していた。通常では考えられない。もちろん僕はできるよ?でもそれは竜だからなんだ。」
「なんや。ジョージとジルの話やと、煮え切らんな。とりあえず俺はアルが何者でも、敵にならんのやったら、かまわへんで。」
「それはもちろん僕もだよ。ホセ。たとえ魔王だとしても、アルはアルだ。」
ホセもジョージもアルへの気持ちに揺らぎはなかった。
「だが、今後の対応に困るだろう。アル本人に力に対する意識がなさそうなんだ。何かしらの力があるとして、前回のように暴走するかもしれない。それが”魔王”の力も加わったのであれば、何が起きるか分からないだろう。。。」
ジョージが思案する。
「今の状態であれば、僕が止める事はできそうだね。あの天を貫いた衝撃で力の大半を使ったようだし。でも今後、力が馴染んできてとなると。。。僕の力もまだ完全に戻ってないからね。。。ま。僕もアルが好きだから、当面は敵対はしないよ。」
「そうか?ありがたいこっちゃ。古代竜が味方なら、しばらくは安泰やな。」
ホセは楽観視していたが、ふと何か思い出したようだ。
「なぁ。みんな”ブルートスライム”を知らんとか言うてるけど。。。アルは何で、その種を名乗るんや?俺と出会ってしばらくは、自分がスライムだってことも知らへんかったで?」
「え?ちょっと待って。どういうこと?」
ジルが驚きの表情を浮かべる。
「どういうって。。。ホンマに知らんかったで?嘘ついてるようには見えんかったな。」
「魔物として、種族は本能で分かるんだ。だから、自分の姿形が分からなくても、仲間は分かる。アルはそれが分からなかったのか。。。となると、いつ認識したんだろう。。。」
ジルは手を顎に添えて考え込んだ。
「う~ん。俺が指摘するまで、スライムって事は知らんかったな。。。”ブルートスライム”って聞いたんは、ジョージに自己紹介した時が初めてやな。。。」
ホセが記憶を絞り出すように答える。
「ますます分からない。。。やはり転生か何か。。。だが、そうなると、記憶の問題が。。。」
ジルはブツブツと自分の世界に入り込んでいるようだった。
「それなら、まずはみんなの記憶をすり合わせてはどうかしら?アルちゃんに出会ってからのこと。」
「そうだな。シエイラさんの言うとおりだ。何か見落としや発見があるかもしれない。」
ジョージはシエイラの意見に賛同を示し、皆も頷く。
「それなら、最初に出会ったんは、俺やな。ついでに、アルが世界樹に来た時の話も聞いてる範囲で話そうか。。。」
「・・・・で、ジョージに出会ったんや。」
ホセが、アルが世界樹に来た時から、世界樹の下での生活、そして、サクラを見つけジョージに出会うまでを話した。
「では、ここからは、僕だね。。。」
「・・・・・といった感じで現在に至る。かな。アルと離れたのは世界樹の下でと、マロウさんの迷宮、そして昨日だね。」
ジョージは、サクラを見つけアルと出会い、銀狼の一件でアルに助けられ、そのせいでアルの力が暴走。。。
名前決めにマロウとの出会い。黄宝王玉の発見。それを確かめるために世界樹へ赴き、半日離れたあと、アルが眠りから覚めなくなり、”世界樹の精”カルアと出会う。
”龍の民”を知る為、再びマロウの元を訪れ、帰ってきた翌朝にアルがいなくなり、そのまた翌朝帰ってきた、今日までを話した。
「そう。それでは、次は私ね。私は主人のダルガから聞いている部分についてね。ダルガが出会ったのは。。。」
「・・・・で朝食を摂っていたら、古代竜の封印が解かれた一報が入って、ダルガだけが行くはずが、アルちゃんが勢いで付いて行ってしまったのよ?途中でアルちゃんに気付いたダルガは、それはもう驚いたんでしょうね。。。」
シエイラは、ダルガから聞いていた、世界樹で初めて会った時の話から、ダルガが古代竜封印の地へ出発する所までを話した。
「では、古代竜封印の地へ向かう途中にお二人に出会った自分の話を。」
そう言って、ゲイルは自分たちパーティの思い上がりで、古代竜の封印解除の原因となったこと。そして、魔王とアルに出会ったことを話した。
「それから、一段落した、僕とアルが通りかかって、アルが君を助けたんだね。」
「それじゃ、僕が封印の地で、見たことを話そうか。」
ジルが話を始める。
封印の地で、未熟な解除により、精神と肉体が分離され、しかも肉体の一部のみの封印解除で、身体が暴走したこと。
魔王の決死の戦いと封印の術により、肉体の暴走が収まりかけ、そこへ魔王の一部とアルと黄宝王玉を共に食べたことにより、精神と肉体が一つに戻ったこと。
だが、自分の精神世界にアルと魔王の腕が落ちて来たことにより、魔王の身体が崩壊するに合わせ、アルが”魔王の力”の一部を継承してしまったこと。
そして、魔王城へ戻り、魔界の混乱を避けるため、ハッタリ交じりに魔王就任演説をかましてきたこと。
友達に会うために人間界に一度戻ってきたこと。
「これで、僕からは一通りかな。」
ジルは終始楽しそうに話していた。
『はぁぁぁぁ。』
全ての話を聞き終えた皆が、一斉に溜息をついた。
「アルは世界樹の下にたどり着いてから、こんな短期間で、よくもこれだけの事を。。。改めて並べてみると。。。とんでもないな。。。」
ジョージが「やれやれ。」と頭を振る。
「それじゃあ、見た目は子供だけど、頭脳は一人前な僕が、気になったことを話そうかな。」
ジルはテーブルの上に肘を乗せ、口の前で指を組む。
小さな子供の姿で、大人びたポーズ。
だが、その目は何かを捉えようとするかのように鋭く輝いていた。




