第56話 ~人間の誤謬~
僕の前に降り立った火炎龍。その上には人間が乗っていた。
年の頃は僕と同じくらいだろうか。。。いや僕じゃおかしいな。『サクラ』とだな。
その人は、静かに降りると僕の前へ進み出る。
「魔王様とは存じ上げずに。大変失礼をいたしました。私はウォールと申します。人間ですが、この火炎龍達とともに育ちました。兄弟のようなものです。」
僕の前に跪き、頭を下げる。
ちょっ。何言い出すのこの人。。。マズイ。。ジョージとリリィ、ホセはまだこちらに着いていない。
サラの彼氏は、サラに付きっきりだし。
みんなが合流する前に、こいつの口を塞がねば。。。
「あの。ちょっとすいません。間違いでは無いんですが、しばらく”魔王”って言葉、使わないでもらえます?僕の名前アルっていうんで。友達の前では絶対NGワードですからね?お願いしますよ?」
念を押す。
「え?魔王様?何かいけなかったでしょうか?」
丁寧に聞き返すんじゃない!聞こえたらマズイだろうが。。。
「アル?何がNGワードなのかな?ちょっと聞き捨てならない言葉を耳にしたんだが。。。」
振り返るとそこにジョージが。。。イイ笑顔で僕を覗き込む。青筋が見えるようだ。。。
「え?あの。。。その。えーとさ。うん。」
まさかあの距離で聞こえていたとは。。。驚きで言葉が続かない。。。
「あはははは。諦めた方が良さそうだね?」
ジルが楽しそうに僕たちを見ている。
「ふふっ。アルちゃん?場所を変えましょ?サラちゃんもベッドで休ませてあげた方が良いもの。火炎龍の皆さんも、とりあえずは話し合いで良いのよね?」
シエイラに促され、僕たちはサラの店に戻る。
「さ、みんなはちょっと散歩しておいで。」
クエェェェェェーーーー。
ジルが火炎龍を撫でると、皆、飛び立っていった。
さすが古代竜だ。一言で火炎龍が従う。
サラの店に戻ると、ジョージがテーブルに指を置く。
「アル?ちょっとここに座って?」
笑顔だが、その目は笑っていない。
コワイよ。。ジョージ。。。
僕は指定された場所に座る。心の中では正座しています。。。
「あの、さ。話せば長くなるからさ。僕の事はちょっと置いといてもらって。火炎龍について話そうよ。街と人の被害状況とかも確認しないとね。。。」
話を逸らそうと試みるが、
「アル?もしもここに”魔王”がいるとなると、それは大問題だよね?火炎龍よりも別格に問題人物だと思うな?」
そりゃそうだろうよ。普通ならね。だが、その問題人物は僕なのだよ。だからそっとしといてくれよ!
と助け船を出してくれそうな人を探してみるが。。。無理のようだ。
「私たち火炎龍の問題も急を要してはおりますが、魔お・・アル様のご希望が全てにおいて最優先事項だと思いますので、我々のことは、お気になさらず。。。」
火炎龍代表のウォールがフォローしてくれたっぽい。が、
(ウォール君、言い直してる時点で、自白したようなものなんだよ。。。)
心の中で僕は泣いた。
「あの、さ。火炎龍達は急いでるみたいだしさ。僕は何にも変なところ無いでしょ?魔王がどうのとかって話なんて、後からでも大丈夫だと思うんだよね。。。」
もう一度、話を逸らすためにがんばってみる。
「う~ん。そうだね。確かに目の前の事を処理する必要はあるよね?アルはいつも通りサラちゃんを助けたわけだし。。。」
ジョージが折れてくれた。
そして、僕たちは火炎龍の話を聞くことになる。
---火炎龍とは。。。
龍種は基本的に魔界での生活を主としている。
そして、ほぼ単独で生活をする。
繁殖期になるとつがいとなり、子育て中のみ行動を共にする。
卵は魔界でしか孵化しない為、絶対数は少なく、絶滅に近い種もいるようだ。
寿命は数百年から数千年と個体差が大きい。
僕は、幼い頃に船が難破し、漂流していたところを火炎龍に助けてもらいました。3才か4才だったと思います。
小さいながらも、「あぁ僕は食べられるんだろうな。」と覚悟をし、空高くから、過ぎていく町並みを眺めていました。
到着したのは、龍の巣でした。
ここより少し北にあり、山の頂に近い場所なので、この国の中でもかなり過酷な場所だと思います。
運ばれていく最中は、龍の足に包まれて暖かかったので、気にはなりませんでしたが。
巣の中には幼い龍が一匹寝ていました。僕はそいつの餌になるのだと思っていましたが、そうではなく、隣に寝かせられ、僕を連れてきた母龍が、僕も一緒に暖め始めたんです。
父親はいないようで、他の兄弟龍が入れ替わり立ち替わりで子育てをしているようでした。
毎日欠かさずに餌が運ばれ、子供にはそのまま獣が与えられ、僕は小さくした肉を火で炙り、与えてくれました。
母龍は、長き時を超え、知能がありましたので。
時々、母龍は魔族を連れてきました。僕の教育係として。
文字や言葉はもちろん、武術なども教えてくれましたね。
その魔族はとても賢く、僕に魔界と人間界の言葉を教えてくれました。
龍が育てているので、人間界に戻れないかもしれない。
そうなった時の為に、魔界でも暮らすことができるように。と。
母龍が頼んだそうです。
僕と一緒に育てられていた龍は、とても成長が遅く、まるで大きくなりませんでした。
一度、魔族の先生に聞いてみました。
すると、その子はやはり異常があるようでした。
通常の龍であれば、遅くとも5年もすれば、一人で狩りもできるようになると。
ですが、その子は赤子のままなのです。それも、龍としてはかなり小型だったそうです。
魔界で卵を産んだ時から小さかったそうです。
生まれた子供も小さく通常の半分程度。しかも弱々しかったと。
父龍は、突然帰って来なくなったそうです。近くに大量の鱗と夥しい血があったことから、死んでしまったことは明らかであったと。
そして、その弱い赤子を無事に育てるには、魔界は過酷であり、母龍だけでは守りきれないと判断し、人間界に来たそうです。
心配した兄弟龍は1匹。また1匹と人間界に集まり、手伝うようになったそうです。
そんな中で、母龍は僕を見つけました。
船の残骸が散らばる中、僕だけが生き残っていたそうです。
小さすぎて餌にもならないが、幼子の遊び相手にでもなるかと思い、連れ帰ることにしたと。
どうせ、そのまま放っておいても死ぬことは明らか。連れ帰り死んでしまっても仕方ない。そう考えたそうですが、僕は案外しぶとくて、そのまま環境に順応し、今日まで生き延びました。
そして、話は1週間前に遡ります。
月に一度、母龍は魔界へ向かいます。魔界の獣は栄養価が高く、少しでも幼子に良いものをと。
その日もいつものように出掛けていきました。
そして、周辺の山、複数箇所から爆発音が聞こえました。
兄たちは様子を見に出掛けました。
すると、巣の近くで魔法陣が光ります。かなり大きく、次々と人間が出てきました。
迷い無く巣へ向かって来ます。ここが目的であることはすぐに分かりました。
僕にできることなど殆どありません。万が一の時の為に渡されていた”龍笛”で兄たちを呼びました。
「仲間を呼ばせるな!!!」
人間達は僕を見るなり、容赦なく矢を打ち込みました。
僕は肩と足に矢を浴び、動くことができません。ただ、人間を見ているしかなかった。
「これで王女様が助かる。この目さえあれば。」
そう言ったのを聞きました。
幼い龍を魔法で眠らせ、魔法糸で編んだ縄で縛り上げ、連れて行こうとするんです。
僕は自分に刺さった矢を抜いて、近くにいた人間達を襲い、最後の抵抗を試みましたが、頭を殴られ、意識を失いました。
僕が目を覚ますと、兄達が戻り、僕を介抱してくれていました。
その目はいつもより深い朱に染まり、怒りに染まっていました。
僕が襲った人間の死体は巣の横に集められていました。崖から落とした者もいましたので。
そいつらの鎧にも衣服にも、この国の紋章があり、そして一人は藍宝王玉を所持していたことから、国の中枢の人間であろうと推測されました。
僕が聞いた「王女様・・」という言葉の裏付けがとれたのです。
すぐにでも幼子を取り戻しに行きたかったのですが、僕の傷は深く高熱にうなされました。
翌々日、熱が下がりました。母龍が魔族の先生を呼び、手当してくれたそうです。
魔族の先生が僕の眠っていたときに調べた事を説明してくれました。
やはり、王城で伏せっている王女がいるそうです。
この国は昔から大切な時には呪術に頼るそうで、王女が病床に伏せてから1年。症状が治る兆候はなく、芳しくなくなった時、呪術者が呼ばれたそうです。
そして、
「龍の目を煎じて飲めば王女は目覚め、国に繁栄をもたらすであろう。」と。
この国には子供は一人。王女だけ。国王は年老い、世継ぎがいなくなる。
側近達は、藁にも縋る思いで、龍の瞳を探したそうです。ですが、そんな物があるはずもなく。
村人から僕たちの存在を聞きつけたそうです。
数ヶ月に渡って調査し、巣に小さい龍がいることを調べ、母龍が月に一度、半日程度出掛けることも突き止めたと。
本来、単独である龍が、群れをなしているのが厄介だが、なんとか数分、注意を逸らせば可能ではないかと。作戦が立てられ、実行されたのでした。
僕達は、魔族の先生を交え、奪還の作戦を練りました。幼子を生きて取り返したい。
3日経ってしまったので、目は諦めたとしても、今まで通り僕たちで世話をすればいい。
命さえあればそれで良かったんです。
龍が5匹いて、本気を出せば、こんな国を壊滅させることは容易いのですが、なにせ人質を取られていますから、下手に手出しができない。
そこで、僕が話し合いに行くことにしました。
死体から服と鎧をもらい、王城へ向かいました。
入り口くらいはそれで通してもらえるかと思ったんですが、龍の巣での件が広まっていたようで、血に染まった鎧を着た僕は、すぐに捕まってしまいました。
一応、言い分は聞いてもらえましたが、「はいそうですか。では龍を返しましょう。」となるはずはなく。。。
一晩を牢の中で過ごす羽目となりました。
僕は牢の中で、怒りに震えていました。
何もしていない僕がなぜ牢に入れられるのか。
人間が勝手な妄想で、突然襲撃をし、罪もない龍を連れ去ったのに。
そればかりか、龍の巣で僕が数人を殺しているので、その罪として死罪であるとも言っていました。
僕に理解できる部分など一つもありませんでした。
僕たちは魔王様の言いつけ通り、人間に手出しはしていません。
もちろん、家畜や畑など、人間達が育てている物にもです。
餌は、街から離れた場所の獣やモンスターだけに限定していましたし、足りない物は母龍が魔界で調達するのです。
それほど、気をつけていたのに。です。
僕は一人で落ち込み牢の隅で蹲っていました。
その時、声が掛けられました。同室にもう一人囚人がいたのです。
その人も僕と同じ、明日の日の出を待ち、処刑されるそうです。
何でも御者だったらしく、貴族の馬車を走らせているときに、事故に遭い、公爵の娘に大怪我を負わせたとか。
それだけの罪で死罪だそうです。
僕の話を聞き、その人が言いました。
「この牢は地上にある。地下牢が一杯らしいぞ。兄弟を呼べば、壊せるだろう。どうせ死ぬなら一矢報いてからでも遅くないだろ。」
その言葉で、僕は我に返りました。そうだ。このまま死ぬ訳にはいかない。と。
「でも、僕が外に出れば、この国を滅ぼすことになるかもしれません。」
「そりゃ仕方ないよな?お前の話を聞いて、俺が死ぬとしても、恨まねぇよ。むしろ俺の命をお前に差し出してでも、身勝手な王家を潰して欲しいね。まっ明日死ぬ命だけどな。」
御者は満面の笑みで僕の肩を叩きました。
まるで、応援してくれているかのように。
「ありがとう。」
そして、僕は兄弟を呼びました。




