第55話 ~火炎龍との闘い~
白の国、王都上空に突如として現れたドラゴン達が暴れ回る。。。
「火炎龍だね。」
ジルは席を動くことなく呟く。
「えぇ?マズイじゃん!」
僕は慌てて外に出る。
ジョージとリリィは魔法防御しながら、住民の避難路を作り、ゲイルが誘導をしている。
しかし、3匹が攻撃をしてくるために、ジョージとリリィでは防御として足りていない。。。
2匹が上空からこちらの様子を窺うように、動かないのがせめてもの救いだ。
だが、いつ攻撃を仕掛けてくるかも分からない。。。
特に1匹は飛びぬけて大きい。その体躯も魔力も。。。
「ん?んんんん?」
よく見ると、その大きな1個体に人影が見える。。。
「ふ~ん。誰かが統率しているね。」
いつの間にかジルが横にいる。
「あらあら?せっかくの綺麗な街並みが溶けてしまうわね。。。」
シエイラも動じない。
どうしたらいいんだろう。。。魔王になったものの、その権力のみしか継承していないようで、力などもらっていない。。。
「あんなのに向かってったら、確実に死ぬよな。。。」
「ん?アルは、人間に味方するの?」
ジルが不思議そうに聞く。
「当り前だろ?」
「どうして?今の攻撃は確かに龍達から始まったように見えるけれど、実際にはその前段階で、人間たちが龍を怒らせるようなことをしたのかもしれないよ?魔王になったからには、大局を見る目を養うべきだね。」
ジルに諭され、ようやく気付く。。。
しかし、目の前で人が死んでゆくのを、ただ見ているのは。。。やっぱりできない。
「そうだよね。。。ジルの言う通りだよ。。。でも、まずは話し合ってもいいと思う。」
そう言って僕はジョージ達に向かって駆け出した。
「アル。止めるだけなら、僕が出ようか?」
「いや。ここに古代竜まで出てきたら、ややこしくなるよ。あ~あ。僕が”魔王覇気”とか持ってたらな~。」
走りながら僕は愚痴っていた。
「あははは。”魔王覇気”なら、もう持ってるよ。弱いし使いこなせていないだけで。要練習だね。明日から頑張って。」
ジルが笑っている。
そうか。。。持ってたのか。。。
てか、”魔王の力”継承っつても説明もないし。。。何ができるんだろう。。。
せめて、取説&マニュアルもらえないかな~。
「あははは。アル。君はホントに面白いね。一緒にいて飽きないよ。確かに説明書があったら便利だね。。あはははは。」
ジルに心を読まれていたようだ。。。
もう少しでジョージ達と合流できる所まで来た時、
「じゃ、僕はちょっと話を聞いてくるよ。」
ジルは一番大きな龍へと向かった。
「アルちゃん?」
シエイラが隣に並ぶ。
「私はね。ジルの言うことに、賛成でもあるし、反対でもあるわ。双方の意見を聞いてから味方すべき相手を見定めないと。でもね。無差別攻撃はいただけないわね。だから、避難場所くらいなら、作ってあげるわよ?」
「ホントですか?ぜひお願いします!!!」
僕がお願いをするとシエイラが手を組む。祈るような仕草をすると、数カ所から光る魔法陣が現れた。
下から何かがせり上がってくる。。。
土の”かまくら”ができた。だが、その下に空洞が続き、防空壕になっていた。これでかなりの人数が助かるだろう。
「炎と氷では相性が悪いものね。。私は土の魔法なら少しだけできるから。。。」
「少しってレベルじゃないですよ!ほんと助かりました。」
シエイラの魔法に気付いたゲイルが、人々を防空壕へ誘導し始める。
それを受けて、ジョージとリリィの動きも変わる。
リリィは細剣では分が悪いので、翠宝王玉を使った魔法で。
ジョージは剣を抜く。防戦一方の魔法だけではなく、剣技も加えたことで、攻撃も織り交ぜる事ができるようになった。
しかし、ジョージの剣が火炎龍に触れると”キィィ~~~ン”と金属同士が触れ合ったような音がする。それだけ、火炎龍の鱗が硬いということなのだろう。
ジョージは剣に炎を纏わせる。せめて、相性の悪さだけは回避しようとしているようだ。
だが、押し負けるのは時間の問題。。。
しかし、炎を打ち消そうと、水や氷の魔法を使用すれば、水蒸気爆発の可能性があるためだろう。使うことができないでいる。
「アルさ~ん!!。サラに、妹に『ドラゴンキラー』を預けてあるんです!!」
ゲイルが叫ぶ。
(ドラゴンキラーって。。。)
「お兄ちゃん!!!。これ!!」
サラが車いすで走ってくる。膝には布に包まれた荷物を抱えている。
慌てて恋人が店から出てきたが、距離がある。
クエェェェェー!!!!
ゲイルの背後上空に黒い影が。。。サラの方向へ飛び出す。
見上げたゲイルが走り出す。
だが、距離があった。
ガキィイーーーン!!!衝突音とともに吹き飛ぶ人影。ジョージだ。
火炎龍に攻撃を仕掛けたが、剣が折れ、吹き飛んだのだ。
「きゃぁぁ!!」
火炎龍がサラを鼻先で突き飛ばす。
数メートル先の瓦礫の上に落ちたサラがぐったりとして、動かない。
僕はサラの元へ向かう。
自分の足下に落ちた白い包みに、火炎龍は焔を放つ。
白い包みが燃え、中から緑色の剱が姿を現す。
その剱は分厚く、鎧の小手と剱が一体化した形を成していた。
火炎龍は、なおも焔を吐く。。。
するとどうだろう。伝説の武器とまで言われた、ドラゴンキラーが溶け始めた。。。
「くっ。偽物か。。。」
ジョージが苦しそうに立ち上がり呟く。
「なんてことだ。あれは、王から直々に賜った褒美なんだ。偽物とは。。。」
ゲイルは地面に膝をつき、「クソーっ!!」と叫びながら、割れんばかりに両の拳を地面に叩きつける。
「大丈夫。サラはまだ、息があるよ。こっちは任せて。」
そうは言ったものの、サラの状況は最悪だった。息はあるものの微かだ。
火炎龍に突かれた右胸は目に見えて凹んでいる。サラの口から血が出ているのは、肺が潰れた為だろう。
全身には挫傷・裂傷が酷い箇所も多くある。
そして、瓦礫から飛び出た鉄筋が、腹部を貫いている。溢れる血は止まらない。
「マズイんちゃうか?」
ホセが隣にいた。
「うん。大丈夫。何とかするよ。」
だが、僕たちの事など、火炎龍には関係ない。
別の個体が、リリィを狙う。
「チッ。」
ジョージが武器も無く走り出す。
「ダメだ。ジョージ。」
僕は絶望を感じる。だが、そこで思い出す。
「ホセ、これをジョージに。」
蒼の懐中時計をホセに託す。
「よっしゃ~~~!」
ホセは懐中時計を咥え、ツバメのように鋭く飛ぶ。
「ジョージー!!。剣だよ!!受け取ってーーーー。」
力の限り叫ぶ。
緊迫した状況に僕の身体からオーラが光り出す。
ホセがジョージまであと少しと近づいた時、
「出でよ!!!アルム!!!!」
僕が叫ぶと、懐中時計はホセの口を離れ、光に包まれる。
懐中時計はホセの飛行スピードを保ちながら飛び、変形を続ける。
ジョージの手元に付くのと、オリハルコンの剣になったのが同時だった。
ガキィン!!
ジョージの頭上で、火炎龍の鋭い牙が止まる。
その足下にはリリィがいた。
パキン!
軽い音とともに、火炎龍の牙が折れた。
「この剣は。。。一体。。。」
ジョージが訝しむ。
「ジョージーーー!!オリハルコンの剣だよ。それなら折れないからーーーー!!!」
「オリハルコンとは。。。」
ジョージは逡巡することなく、剣を構える。
その身体と剣からオーラが出始めた。
そしてジョージは火炎龍との攻防に戻っていく。
僕は、ゲイルの妹サラの治療を考える。
《世界樹の葉》を使えば良いのだろうが、腹部を貫く鉄筋はどうなるのだろう。
それを飲み込んだまま傷が治れば、また、それを抜かねばいけない。
抜いてから治療をするのがいいだろうが。。。僕では彼女を持ち上げられない。
そして、持ち上げたとしても、その瞬間大出血が起きる。
《世界樹の葉》と絶命。どちらが先になるのだろう。その時間は一瞬だ。
サラの状況は秒単位で悪くなる。もう考える時間すらない。
まずは《世界樹の雫》を気休めだろうが、出血箇所に振りかける。
小さな傷はみるみる治る。腹部の出血も多少軽減したかに見えた。
「サラーーーー!」
離れた場所にいたゲイルが到着した。
「良かった。ゲイルさん!!!」
僕は治療法に糸口が見えてホッとした。
「良くないだろ!!!大丈夫って言ったよな?これは。どう見ても。。。」
ゲイルの声が続かない。目からは大粒の涙が落ちる。
「サラ????」
恋人が到着し、動かないサラを見下ろす。
「サラーーーーー!!!!!!」
一瞬でパニックに陥る。目を見開きサラを揺り動かそうとする。
「ゲイル!!止めろ!!!!」
僕は怒鳴るようにゲイルに命令する。
ゲイルは突然の僕の怒号に思考が働くことなく身体だけが動く。パニックの彼氏を羽交い締めにしていた。
「落ち着けよ!時間が無いんだ!助けられなくなるだろ!!」
「うわわわぁぁっぁっぁ。」
僕が怒鳴っても、彼氏のパニックは続く。邪魔だ。消えるか黙るかしてほしい。
流石に、僕も我慢ができなくなってきた。
「黙れ!!!!」
一喝する。
ようやく静かになる。ゲイルも一緒に固まってしまった。
「時間がないから、良く聞けよ。サラを助けるには、一か八かの掛けに出なくてはいけない。」
僕の口調がキツくなる。二人は無言で頷く。
「まずサラの鉄筋を抜く。それと同時に僕が治癒をする。お前とゲイルはサラの両側に。タイミングを合わせてサラを持ち上げろ。3人の息が合わなければ、サラは死ぬ。分かったな!!」
二人の顔色が青ざめていく。失敗は許されないのだ。
ガチガチに固まっている二人に不安を感じる。
「そんなに緊張してたら、成功するものも、しなくなるだろうが!!二人はとにかくサラを持ち上げる。その事だけを考えてろ!あとは僕がやるんだから!!!」
喝を入れる。多少は顔つきがまともになった。
「じゃあ、いくぞ。せーの。」
僕のかけ声で、二人がサラを持ち上げる。瞬間、血が吹き出る。
サラのお腹の上に乗っていた僕は、間髪入れずに《世界樹の葉》を使う。サラの身体が光に包まれた。
ボタボタと落ちていた出血は止まり、右胸が元通りにふくらみを取り戻す。
《世界樹の葉》は正常に機能したようだ。一安心だな。
「もう良いよ。そっとサラを降ろして。」
不思議な光景に目を丸くする二人は、言われるがままの行動を取る。
サラを瓦礫の無いところまで運び、そっと降ろす。
サラの顔は土気色から、ピンク色へと戻り、小さな唇は呼吸をするたびに動いた。
しかし、目を覚まさない。
だが、いつものように、目を覚まさない事に不安は無く、大丈夫であるという絶対的な自信すらあった。
「もう。大丈夫だから。。。」
僕はサラの上から降りながら、二人に伝える。
『あ、ありがとうございますぅ。』
二人が泣きながらひれ伏してくる。
大切な人間が助かったのだ。気持ちは分かるが、ひれ伏すまではしなくてもいいのだが。。。
そういえば。。。
周囲が静かだ。闘いはどうなった。。。
そう思い、状況を確認する。
周りを窺うと、戦闘は中断されたようだ。
ジョージやリリィ、ホセ。5匹の火炎龍達までがその場で動きを止めている。
そして、視線は僕に集中しているようだ。。。
なんでだ?《世界樹の葉》ならジョージ達も知っている。そこまで驚くことではないだろうに。。。
その答えは意外にもジルからもたらされる。
(あはははは。アル?そりゃみんなも驚くよ。”魔王覇気”上手に使えてたからね。)
(え?いつ?)
(さっき、ちょっとイラついてたよね?パニックの彼氏を止める時に、怒りに任せて出してたよ?)
(マジで?)
(うん。まぁ普通の人間が大丈夫な位の”覇気”だったけど、流石に、君の友達も能力が高いから気付いたみたいだよ?火炎龍は当たり前だけど、気付くしね。)
空から降りながら、僕と脳内での会話をしていたジルが、僕の前に降り立つ。
その横には、大型種とそれに乗る人間が一緒だった。
そして、驚愕の事実を聞かされることとなる。




