第54話 ~白の国~
ジョージが出掛けてから1時間以上経っていた。
「遅いね。そんなに時間かからないって言ってたのに。。。」
心配になる。もしかして、休めなくなったとか?急な仕事が入ったとか?
「ジョージ様は一応、軍の司令官としての立場がありますから。。。これくらいの時間は。。。もう少し待っててください。」
リリィが優しく微笑む。
「うん。」
そう言えば、忘れがちだが、ジョージは王子様で、軍の司令官だった。。。忘れてたな。
暫くするとガラガラガラ。と台車のような音がしてきた。
「やぁ。遅くなってしまって申し訳なかった。」
ジョージが大きな荷物とともに帰ってきた。
「どうしたの?それ?」
数台の台車に載せられた荷物を見て、僕が質問する。
「あぁ。今から行くのは、白の国だろう?あそこは永久凍土の極寒の国だから。。。みんなの服を用意したんだ。その軽装では行けないからね。」
魔界組の事を見て、言っているのだろう。
だが、ジルは竜だし、シエイラさんは魔族だし、たぶん要らない。
僕は欲しいけれどスライムの身体じゃ着ることができない。ホセも天然の毛皮を持っている。
この中で必要なのはジョージ・リリィ・戦士のゲイルだろう。
「この国は年中暖かいからね。中々防寒具が無くて。。。探すのに時間がかかってしまった。足りないものは向こうで購入すればいいよ。最低限のものだけでも、身につけて行ってくれないか。」
僕は、魔界で懲り懲りしたので、もう着飾りたくはない。
「ジョージのポケットにいるから、僕はいいよ。」
早めに断っておく。
「俺も欲しいんやけどなぁ。着られへんなぁ。リリィちゃん。俺が寒くないようにきっちり着込んでや。よろしく頼むわ。」
ホセはリリィにお任せのようだ。
「う~ん。僕はこのままでも大丈夫だと思うな。」
ジルは興味が無いらしい。
「ダメだよ。風邪をひいてしまう。。。子供用がなかなか無くてね。ジル君には、僕の幼少時の服があったから。。。これどうだい?」
ジョージが冬用の服を見せる。
流石はジョージの子供時代の服。完全に超高級品ばかり。小さな王子様ファッションに飛びついたのは、シエイラだった。
「まぁ。愛らしいわ。王子様って感じね~。ジルちゃん。これと、これと、。。。あとこれね。」
勝手にコーディネイトされた。ジルも何も言わずに従っている。
「自分は慣れているので、このコート一枚お借りできれば十分です。」
ゲイルは、何の変哲もない革のロングコートを持った。
シエイラもそんなに興味は持ってはいない様子。
「私も。。。それほど寒さは気にならないから。。。」
そう言っていたのだが、リリィが女性用の服を選び出したところで興味を示す。
「あら?とっても可愛らしいわ。。。」
大きなリボンのついたケープや、襟や袖口にファーをあしらったロングコートなど様々な服が並ぶ。
なぜだろう。。。男性陣より倍は種類がある。
「でも、これは私には若すぎるデザインね。」
淡いピンクのラビットファーのついたコートを手に取ったが、諦めたようだ。
「では、私はこれで。」
シンプルなグレーのロングコートをリリィが取る。
「ダメよ。リリィちゃん。若くて可愛いのだから、そんな地味なのは。。。これにしなさい。」
そういって、さっき自分が諦めたピンクのコートを手渡している。
「わっ私はそんな。。。それに、仕事なので騎士の姿で参りますし。」
リリィが恥ずかしそうにしている。
前回も思ったが、可愛らしいデザインは苦手なようだ。
そして意外なところから意見が入る。
「そや。そっちのピンクの方が暖かそうやで。俺が入るんやから。暖かい方がええ。」
ホセは自分の為だったようだが。。。
「リリィ?今日は向こうに遊びに行くだけだから。女の子らしい服装にしよう。」
ジョージも応援してくれる。。。
リリィは渋々納得する。
ジョージは黒のコートを持つ。なんだか、らしくない。
「ねぇ。ジョージ?もっと格好いいのがいっぱいあるじゃん。そっちにしたら?」
「これが一番良いんだよ。ポケットが大きくて、フラップも大きい。これなら君が入るのにいいだろう?」
ジョージの選んだ理由は、僕の為だった。嬉しい反面、なんだか申し訳ない。。
だが、ジョージ本人が満足そうなので、良しとしよう。
「ねぇ。どうかしら?」
奥から着替えを済ませたシエイラが出てきた。
深い緑のベルベット生地。スタンドカラーで露出も少ないシンプルなデザインだが、身体に沿ったマーメイドラインが大人の色気を漂わせる。
コートにはベージュの毛足の短い毛皮。その光沢から、ゴールドにも見える。
「うん。素晴らしい貴婦人だ。」
ジョージが感嘆の声を漏らし、リリィとゲイルはその美しさに息をのむ。
そして、ゲイルが「はっ。」と我に返る。
「いや。あの。ホント、下町のそこら辺の店ですよ?そんな晩餐会に行くような店じゃないんで。。。」
しどろもどろに訴えかける。
「じゃあ。こういう設定にしよう。お忍びで下町に遊びに来た貴族ご一行と僕たちはその付き人ってことで。」
ジョージがノリノリだ。
「いいわ。面白そうね。」
リリィも楽しそうだ。
「全然、忍んでないんですけど。。。」
ゲイルが頭を抱える。
良かった。頭を抱える人がいて。。。今回は僕は傍観者でいられるな。
そして僕たちはリリィの魔法扉で白の国へと出発した。
到着したのは、広場だった。中央には噴水があり、その脇に移動魔法を使う者の為のスペース。
どの国も、移動魔法を使用して入国する際には、その場所を限定する。入国審査の為だ。
その場所は結界が張ってあり、入国が完了しないと、中には入れない。
王都内にそのスペースが設けられているのは、移動魔法を使える者が少ないから。という理由と、そのスペースの座標点を登録するには、許可が必要だという理由だ。
術者はその時点で入国に関し、ほぼフリーパスとなる。
僕たちも入国審査を受ける。
リリィが緑の国の賢者兼外交官としての身分があるため、審査は緩かった。
「本日は政務のご予定は聞いておりませんが、国使としてのご訪問でしたでしょうか?」
入国審査官の対応も丁寧だ。
「いえ。今日は貴国の友人が城下を案内をしてくれるというので、公爵家の方と参りました。プライベートですので、お気遣い無く。」
リリィがそう告げると、入国審査官が僕たちの顔を順に見る。そして。。。
「これはこれは、ゲイル様。ご帰還なされたのですか?リリィ外交官とゲイル様がご一緒とあらば、審査など失礼でしたね。時間を取らせて申し訳ありませんでした。どうぞお通り下さい。」
ゲイル。有名人だった。。。
そりゃそうだよな。。。一応この国では勇者一行だったらしいし。
僕たちはゲイルの案内のもと、城下町を歩く。
「この街はこんなに寒いのに、とても活気があるわ。。。いい雰囲気だわ。素敵ね。」
シエイラは思いの外、人通りが多く、店などの充実さを賞賛する。
だが僕はそれどころじゃない。
「ジョージー。。。ざぶいんでずけどぉ。」
ガタガタと震える。。。なぜか今日はぷるぷる震えない。
ホセがリリィの胸元から顔を大きく出し、
「なんや、アルの身体が白っぽくなってへんか?」
「えっ?」
慌てて、ジョージが手袋を外し、僕を取り出す。
「冷たい。。。これは。。。凍りかけてるね。。。」
ジョージが僕の角を撫でるが、ツンツンで、いつものようにぷるんとはじき返さない。。。
「こんなになるまで、我慢しなくても。。。次からはもっと早く言ってね。」
ジョージが心配よりも、呆れたように笑ってくる。
僕はジョージのシャツの胸ポケットに入れてもらう。
ただでさえ胸ポケットは小さいのに、身体が硬くなって全部は入らない。
「大丈夫かい?」
ジョージが気に掛けてくれる。
「うん。暫くすれば、柔らかくなるだろうから。。。」
「それにしても、また大きくなったね。」
ジョージに言われて気付く。。。そういえば、また一回り大きくなったように感じる。
「このまま君が成長して、スライムキング位になったら、持ち運べないな。。。逆に僕が君に乗せてもらわないとね。スライムライダーの練習をしておこうかな?」
ジョージがいたずらっぽく笑う。
「そんなに大きくならないってば~。」
そして順調に進み、裏通りの寂れた路地へ入る。
ジョージの好きな路地とは違い、危険さはない。ここは庶民の生活の場のようだ。
「あっ。ゲイルさん。おかえりなさい。」
路地へ入ると、道行く人々から、気さくに声がかかる。
シエイラとリリィを見て、皆驚くものの、ゲイルが連れているので、特に触れられることはない。
「ここなんですがね。。。」
小さなお店に到着する。
こぢんまりしているが、清潔感があり、内装も洒落ている。
だが、庶民の町に合っており、皆が気兼ねなく入れそうな店だ。
何組か客がいたが、店員の姿が見えない。
「サラちゃーん。ゲイルが帰ってきたよ~。」
常連らしき客が、厨房に声をかける。
カラカラカラ。。。
奥から少女が出て来た。。。車いすに乗っている。
「お兄ちゃん!!」
少女が手を広げると、ゲイルが駆け寄り抱きしめる。
「ただいま。」
その目には涙が滲む。
妹か?では、この店は・・・
「このお店、ゲイルさんの家なの?」
「ん?いや。妹のな。自分は旅ばかりだったから、これといった家は持ってないな。」
「違うわ。お兄ちゃんが建ててくれたんだから、お兄ちゃんの家よ?」
ゲイルのコートを引っ張りながら、サラちゃんという妹がムキになる。
「とりあえず、座りましょうか。。。この方たちは、俺の恩人なんだ。異国の方達だから、うんと美味いのを頼むよ。」
「そうでしたか。。。兄がお世話になりました。では、こんな小さな店ですが、できる限りのおもてなしをさせていただきますね。」
ペコっと頭を下げ、厨房へ下がる。
僕たちは空いている席に腰掛けた。
「かわいい妹さんがいるんだね。一人で切り盛りしているの?」
「いや。厨房に恋人がいますよ。早く一緒になってくれるといいんですが。。。何せ、あの身体なんで、妹は重荷になるんじゃないかと、気兼ねしているようでして。」
「外は寒かったでしょう?まずはスープをどうぞ。」
コックさんが並べてくれる。
「僕はゲイルさんに挨拶も済ませたんですが。。。何せサラからOKが出なくて。。。」
彼が困り顔をしている。
「じゃ。腕によりをかけるんで、どうぞごゆっくり。」
コックは厨房へと帰る。
僕はスープでようやく身体の芯から温まった。
その後、寒い国らしく、煮込み料理などが続く。
クセの強い肉も、しっかり煮込まれ、臭みもなく口の中でほぐれる。
芋やカボチャ料理でほっこりする。
その料理の数々に舌鼓を打っていると、突然。。。
ドォォォーーーーーン!!!!
地響きとともに爆発音が鳴る。
「近いな。。。」
ジョージのその言葉と同時に、ジョージ・ゲイル・リリィが店を飛び出す。
上空にいたのは。。。。5匹のドラゴンだった。。。




