第52話 ~魔王と英雄~
「ねぇ。アルちゃん?あなたは人間界のどこへ遊びに行くの?」
「僕は、緑の国。ですね。王都に友達がおりまして。。。」
「え?緑の国?城壁が立派なところよね。」
シエイラは知っているようだ。
「そうですね。なんか昔の英雄が作ったそうですよ。」
「英雄だなんて。そんな。でもそうね。」
シエイラが頬を押さえ、なぜか照れている。
「えーと。緑の国に馴染みでも?」
嫌な予感がする。
「私は緑の国の出身ではないんだけれど。。知ってる方もいますし。。。私も付いていきたいわ。」
僕の予感は確信へと変わりつつある。。。
2000年生きてきた魔族が知り合いに会いたいとなれば、生きているのはあの人しかいない。。。
マロウさんだろうな。。。
そして、僕がお妃さまに感じた、”初めて会う気がしない”はあの部屋で聞いた声に似ているから。だろう。。。
だが、そうなると必然的に魔王はあの人ってことになる。。。
確か魔王ダルガも、「マロウに会いに行け」とか「黄宝王玉は」とか言ってたもんなぁ。
全て辻褄が合う。合ってしまう。。。。
認めたくはないが、仕方ない。。確認するか。。。
「あのー。シエイラさん。お知り合いって、もしかして、マロウさん。。ですかね?」
「え~?知っているの?」
「えぇ、まぁ。」
つい歯切れが悪くなる。。。
「実は昔、マロウさんにお預けした本があって。。。どうなったのか知りたいの。」
「え~と。僕が分かる範囲で答えますとぉ。アルフォンの手帳は発見されましてぇ。無事に黄宝王玉もダルガさんの手に戻りましたね。」
「・・・・・・えっ?」
シエイラは突然のことにキョトンとしている。
「え~と。僕も今ちょっと混乱をしていますが。。。あの手帳の声って、シエイラさんですよね?」
「え?そうよ。。じゃあ、手帳を見つけて、黄色宝王玉を手に入れたの?」
「まぁ。偶然ですが。。。で、僕が持ってたんで、古代竜封印の術の時に、魔王ダルガさんが、使用することができまして、ダルガさんは力尽きてしまいましたが、古代竜の暴走はおかげさまで、止めることができました。」
「そう。そうだったの。。。」
シエイラが涙を流す。
「いや。お妃さま。。。えっと。。。」
なんで泣くのか。。。僕はオロオロとしてしまう。
「大丈夫よ。アルちゃん。。。私、嬉しいの。あの人は黄宝王玉の事で、すごく後悔していたから。。。自分のように過ちを犯さないで欲しいって。。。私はあの人にもう一度会うことができたし、姿が変わっても今までと同じ愛をくれた事に、幸せしか感じていなかったのに。。。」
シエイラは涙が止まらない。
「それで、あの人が黄宝王玉を封印することにした時に、誰か心優しい人が見つけた時だけ、その人に託してもいいんじゃないかって。私が提案したの。。。それで、手帳に封印を施して、マロウさんには何も伝えず、預けることに決めたの。あなたみたいな子が見つけてくれたことが本当に嬉しいわ。」
「じゃあ。やっぱり、魔王ダルガさんは、英雄アルフォンでしたか?」
「えぇ。そうよ。」
とすると。。。もう一つ重大な疑問が残る。
蘇った英雄アルフォンの妻は、骸骨のままだったはずだ。
「そうなると、ですね。。。シエイラさんは骸骨ってことになるんですが。。。どうなって。。」
「そうね。だから、《世界樹の葉》とダルガの術を合わせて、私の身体を維持していたの。」
「え~~~~。僕はてっきり、シエイラさんが不治の病にでも冒されてるのかと。。。それで、《世界樹の葉》でギリギリ生きながらえているのかなって。。。」
「う~ん。そうよね。アルちゃんからしてみたら、貴重な《世界樹の葉》をくれたわけだし。複雑よね?でも、ダルガはもういなくなってしまったから、じきにこの術も解けるわ。そうすれば、私の本当の姿が見られるわよ?」
「シエイラさんは、嫌じゃないんですか?そんなに綺麗なのに。。。骸骨に戻ってしまうのが。。。」
「ふふっ。アルちゃんは繊細ね。私、一度は死んでいるのよ?生まれ変わりのこの時間は、おまけみたいなものよ。楽しく生きなきゃもったいないわ。泣いて過ごしても、笑って過ごしても一日は一日ですもの。」
シエイラは強かった。元々は落ち込むダルガを元気付ける為だったかもしれないが。。。芯のある女性だった。
その遣り取りで、僕はふと疑問に思う。。
「ねぇ。ジル?魔王は死んだのに、術は解けないの?普通の魔法なら、絶命とともに効果は消えてしまうよね?」
「そういえば。。。気にとめてなかったな。。。シエイラさんの身体は、《世界樹の葉》の力もあるわけで、一概には言えないが。。。この魔王城の一部とその周りの風景は魔法を使って維持しているようだったね。確かにおかしいな。。。あれほどの魔法なら、すぐにでも解除されてもおかしくないはずだ。」
「それなら。なんで?」
僕はジルに聞いた。
「魔王ダルガの最期の時、魔王が自らにかけていた術が、なんらかの作用をしているとしか思えない。。。」
「シエイラさんは、その魔法に心当たりはないの?」
答えは返ってこないとは思ったが、聞いてみる。
「えぇ。ダルガの魔法は変わっていたから。。。魔王になる前から魔法は得意だったのよ?それが魔王になって、さらに磨きがかかってね。私の身体にかける魔法は見たかしら?」
「うん。魔法陣の上に《世界樹の葉》をのせて、葉巻みたいにくるくる巻いてた。不思議な魔法だったよ。」
そこへジルも加わる。
「そうだね。古代竜への攻撃魔法も、魔法陣ごと変形させるという、独特の魔法だった。彼のオリジナルだろう。。。」
ジルは一息ついて。
「そして、それこそが彼の真骨頂なのだろうね?他を寄せ付けない。。。」
「だからこそ、古代竜の僕でさえ知らない魔法を操ったんだ。。。身体が細氷となって消えた事と、アルが魔王を継承した事を踏まえると、魔王は、魂も肉体も死に至った。これが一般的な見解だろう。。。だが、魔王の術は解けない。。。」
「となると。考えられるのは2点。
一つはただ単に、魔王がかけた魔法が魔力蓄積型で、魔王が貯めていた魔力を使用して、底をつくまでは、魔法が維持されている。という可能性と。。。」
「もう一つは、魔王ダルガが、何らかの形で、生きている。。。という可能性だ。。。」
ジルの予想に、全員が言葉を失う。。。。
魔王ダルガが生きているかもしれない???
「それなら、なんでダルガは私の元へ帰ってきてくれないのかしら?」
シエイラの目から、大粒の涙が一粒こぼれた。
「あくまでも、可能性。というだけですよ。生きていると決まった訳じゃない。」
シエイラの涙に、ジルは慌てている。
「それでも、あの人がどんな姿であっても。。。生きててくれたら。。。」
「僕も魔王ダルガが生きててくれたら、嬉しいよ。。。明日、マロウさんにダルガさんの魔法について聞いてみるのもいいと思うよ。」
「そうね。そうしましょう。」
そして、僕たちはそれぞれの思いを胸に、就寝した。
「おはよ~。アル。さあ出かけよう!」
「うぅん。もう少し。。。」
「アルちゃん。もう朝よ?」
ん???両側から、声を掛けられる。。。薄く目を開けると、シエイラの姫ベッドに僕は寝ているような。。。
そして、ジルとシエイラが僕を覗き込んでいる。
ん~~~~と。目を閉じて考えてみる。
確か男性陣はソファーに別れて寝たはずだ。何故、僕は姫ベッドで寝ているんだ?
「アルぅ。狸寝入りするなよ。今、薄目開けてただろ?おーきーろーよー。」
ジルが僕の身体を揺すってくる。
バレてた。。。仕方ない。起きるか。
「あっ。うん。おはよう。」
この状況に、そっけなく対応する。
「朝なのに。なんか、テンション低いね。。。」
「そうかな?ソファーで寝たはずの僕がここにいることに不思議に思ってるだけだよ。。。」
「え?だって、アルちゃん、昨日も一緒に寝たじゃない?それに、ジルちゃんもちっちゃな王子様みたいで可愛いでしょ?だから、連れて来たの。」
当たり前の事のように、シエイラは言っている。。。
(ちょ。ジル。気付かなかった訳じゃないでしょ?拒まなかったの?)
そして脳内会議が始まる。
(いや。一応はね。言ってみたけど。。。)
(ダメだったんだね。)
(あぁ。夢中になると周りが見えなくなるタイプなんだろうね。僕は竜だからさ、別に魔族の女性に興味もないし、まぁ揉めるよりはいいかなと。。。)
(大人だね。)
(まぁ。無駄に長く生きてはいないよね。。。)
(そっか。そうだよね。今の見た目と年齢は違うんだもんね。)
(それにさ、僕、封印されてたでしょ?いい子なら、封印されないよね~。それなりにヤラかして、長い間、封印されたからさ、少しは反省するよね?)
(ははっ。笑えないよ。。。)
(かなり笑えないよね。1万年越えの封印だからね~。あははは。)
僕たちから出るのは乾いた笑いだけだった。
身支度と朝食を終え、あとは、緑の国へ出発するだけになった。
戦士のゲイルが改まって、僕たちの前に跪く。
「アルさん。ジルさん。こんなことを言える立場でないことは重々承知なのですが。。。」
(そんな畏まって何の話だろう?)
「自分も、連れて行ってはもらえないでしょうか?」
「え?向こうに帰ることにしたの?」
「いえ。そんな事は。。。魔界の村を一つ壊滅させてしまうという事態を引き起こしたのですから、自分は生涯をかけて魔界の為に尽くす所存です。ただ、祖国にパーティー全滅の知らせを入れたいと。。。皆それぞれ家族もいましたし、帰還を待つ仲間もいます。万が一、捜索隊でも出されたら要らぬ被害が出るかもしれません。その報告をさせてもらえないかと。緑の国の王都であれば、祖国への通信手段がありそうですし。。。」
なんか重い話が出て来た。。。放置すると面倒そうだな。。。
「いいんじゃないっすか?ジョージなら、国家間の連絡くらいはできると思いますよ?」
軽く請け負う。多分ジョージなら、それくらいはしてくれるだろう。
「ん?あれ?自分たちは王都に行くのでは?」
なぜか希望を汲んだはずなのに、戦士が不思議がっている。
「え?王都のつもりでしたけど。違いました?」
僕も一応確認する。話の流れ的に緑の国の王都のつもりだったが、もしかして、故郷まで送ってくれという話しだったのか?
「あ。。いえ。。。国家間の連絡ができる方で、ジョージと名の付く方は。。。自分が思いつくのが、ジョージ王子だったので。。。まさか。ですよね?」
「え?そうだけど?もしかして、ジョージじゃあダメでした?」
あれ?緑の国と白の国って、仲が悪いとかあったのだろうか。。。
「ダメとかそんな。。。えっと。自分なんかが、お話できるような方ではないので。。。どうしたら。。。」
ゲイルは何かと葛藤し始めた。身分違いとか気にしているのだろうか。。。
「あっ。ジョージは、あんまりそういうの気にしないと思うので、多分大丈夫ですよ?それとも、戦争するくらい仲が悪いとかだと、分からないですけど。」
「遠いので、戦争とかは縁がないはずですが。。。」
ゲイルが言い淀む。まだ決心がつかないようだ。
「もう、めんどくさいから、いいじゃん。行ってから考えようよ。」
僕が押し切った。煮え切らない態度に飽きてしまった。
そんな僕を察したように、ジルが動く。
「じゃ、行こうか。」
僕たちはジルとともにバルコニーへ出る。
ジルから紫の光が発せられ、その温かい光に包まれて、僕たちは人間界へと向かうのであった。




