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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=新生活編=
5/322

第5話  ~プチ冒険のはずが~

 勢いよく、ちょっとそこまでの冒険に出発した僕たち。

 木々の中を抜けるのもどんな危険が待っているか分からないし、今日の所は下見程度のつもりなので、森の上空を旋回して、森の様子を見る作戦。


 巨木のテリトリーと思われる森との境界線をいざ出よう。とその瞬間。

 「っっんん?」

 ものすごい違和感を感じた。なにか薄い膜を破って突き抜けるような…。そして森側へ抜けると、重く嫌な空気へと変わった。

 

 「なぁ。ホセ…。」

 「あぁ。スライム君…。」

 「嫌ぁ~な感じがしませんでしたか?」

 「ごっつぅ嫌ぁ~な感じがしましたなぁ。」

 「これ、戻れるんでしょうかね。」

 「いっぺん。戻りますか。」


 男二人で意気揚々と出発して1分も経っていない。が、危険は冒さない。これが大前提。

 僕らが決してビビリな訳じゃないはず。


 「俺、チキンやないで。オウムやし。」

 「ははっ。もちろんじゃないですか。僕はスライムですしね。チキンなんかじゃないっす。」

 笑いは渇き、口調すらおかしくなる。

 完全に、巨木テリトリーが安全圏であったと認識した。


 ソッコーでUターンをかまし、安全圏を目指す…。が、巨木が霧がかかったようにうっすらとしか見えない。絶対におかしい。


 「ホセ。何してるんだ。すぐに戻ろう。」

 「そんな事は百も承知や。けどおかしいねん。樹が見えにくし、力一杯羽ばたいてるのに、なかなか進まへん。」

 「これは。不味いんじゃないですかね~。」


 すでに恐怖心がでてきた。早まった。調子に乗りすぎた。あのときの自分たち、バカか…。反省と後悔の言葉が走馬燈のように流れ出てくる。


 もう戻れないかもしれない。と若干のパニックに陥り、無意識に武器のピックを握りしめた。と同時にホセのスピードが上がり、視界がクリアになる。目標の巨木のテリトリーに入れた…。


 『はぁぁぁぁぁぁ。』

 地面に転がるように着地し、二人同時に仰向けになって安堵の息を吐く。


 「マジで焦ったわー。スライム君。大丈夫か?」

 「ホセ君。無事で何よりでした。」


 二人顔を見合わせ、笑いが吹き出す。

 「いやぁー。ビビッてもうたやん。軽くパニックになったわー。」

 「僕も走馬燈が流れかけたよ。」


 『計画は慎重に。』


 「ハモったな。」

 「ハモりましたね。」


 2人でひとしきり笑い。

 「なぁ。ホセ。まじめな話、どういうことなんだろう。」

 「あぁ。出る時は変な感じがあったな。戻るときは俺は…。」

 「この巨木が霞がかかったように存在が見えなかった。」

 「そう。目からの情報はそんな感じやった。飛んでた感触は…。押し戻されるというか、近づけないというか。うまく言えへんのやけど、水とかゼリーの中を飛んだみたいな感じやったな。そんなとこ飛んだことあらへんけど。」

 「飛んで出たのは間違いやったな。歩いて1歩ずつ確実にいかなあかん。あとは、境界線を確かめんと。」

 「そうだな。日暮れまで、調査しようか。」


 「と、その前に。お茶にしませんか?」

 鞘を作った時に余った落ち葉のかけらにこっそり頬袋から出した水を乗せて、ホセに差し出す。

 「お!気が利くやん。お茶やなくて、水やけどな。」

 2人で小さな葉っぱの器で乾杯をして水を飲み干す。つもりだったが、なぜか葉っぱも一緒に口に放り込んだ。ホセを見ると。同じように葉っぱを食べていた。

 

 「なんか、葉っぱも一緒に食っちゃたな。」

 「あぁ。なんでやろ。つい食べたくなったな。」

 不味いわけでもなく…。むしろ食べたことでホッと息をついた。 


 「じゃ、休憩もとったし、慎重にいきますか。」


 境界線について話をしながら、今度は慎重に調査を開始する。


 まず、危険を最小限にするために。

 手を繋ぎ境界線を探る。境界線と思われる違和感を感じたら、一人が先に行き、もう一人は必ず境界線内に留まること。そしてすぐに安全圏に引っ張り込めるようにする。

 さらに万が一を考え、ホセのハーネスと自分を縛りつけ……。られない。

 「スライムの身体って、どこ縛ったらいいんだよ!」

 自分で自分に突っ込んでしまった。ぷるんぷるんが仇となった。まさか、安全対策すらとれないとは。


 「メッシュに編んで中に入ったらええんちゃう?」

 ププッと吹き出しながらホセが言う。

 「そんなん、思いっきり引っ張ったら、ところてんみたいになっちゃうじゃんよぉ。」

 「スライムでも再生できないって。それに、どうやって歩くんだよぉ。」

 僕の叫びにホセが笑い、その笑いにつられて僕も笑う。


 「真面目な話、命綱は無理そうやな。手を繋いで凌ぐしかあらへんわ。それと、視界が悪くなるのか見えにくくなるみたいやから、身体が目立たな。俺はこの派手さやけど…。」

 「お前は赤一色やからな。もう少し派手にならんと。」


 そういうと、ホセが自分の尻尾の羽を1本抜いて、僕のお尻に突き刺した。

 「うわっっ!なにすんだよ。」

 そんなことされるとは思わず、逃げきれなかった。


 ホセのスカイブルーの羽がお尻に眩しい。

 「似合ってまっせ~~~。」

 茶化して言われた。


 僕の体が赤くなければ、恥ずかしさで顔が真っ赤になっていただろう。

 「もう。こんなの恥ずかしすぎるよ。」

 そう言って、羽を抜こうとした。


 「痛って。」

 (いや、ちょっと待て。自分の羽じゃないのに痛いわけ……)


 もう一度引っ張っる。

 「あぁっっ。痛っっって~~~。」

 「どないしたん?」


 笑いながら不思議そうに覗き込むホセの顔を背景に、僕のお尻のスカイブルーが深紅に染まっていく。


 「えっ?血ぃ出てもうた?」

 「悪ふざけがすぎたわ~~。ホンマごめんな。」

 ホセが真剣に謝ってくる。

 少し、僕も涙目だ。

 ホンマごめーん。と何度も言いながら、僕を撫でてくる。


 しかーし。僕の涙目の理由は全くもって違う。痛いからじゃない。そして血でもない。そもそもスライムに血なんかなさそうだ。


 涙目の理由はただ一つ。

 「ホセ君。なんかこれ。一体化したっぽいっす。」


 「なっ。なんやて~~~~。」


 今日って、叫び声を上げる日なんだろうか。

 ホセと自分とで、何度となく叫んでるな。


 「まっ。まぁ。カッコええんとちゃう?さらにレアなスライムになった感じするわ~。」

 「尻尾生えた赤いスライムって。。。生き物としてどうなのさ。」


 がっくり項垂れつつも、冷静に客観的に考えてみると。。。

 「ふふっ。まっ。いいか~。面白スライムでも。」

 

 赤くて、角が2本で、羽の尻尾が生えてて。木の枝ピックで攻撃したつもりになるスライムの姿があまりに滑稽で、驚きよりも、悔しさよりも、痛さよりも、可笑しさが勝った。


 「お前、ホンマに軽いヤツやな。」

 「だってこれ。もうどうしようもないじゃん。」

 おなかを抱えて笑う。

 「もう、どない責任取ったらええんか。気が気じゃなかったんやで。」

 泣き笑いながら、ホセが抱きしめてくる。


 「ちょ。そういうの照れくさいし。マジでもういいって。気にしてないからさー。」

 そういう僕をさらにからかうように頬ずりしてくる。本当に心配してくれたんだろう。

 そんな泣き笑いホセを見ながら、いいヤツと出会えた事に、感謝していた。

 (ホセには、そんなこと内緒だけど。言ったら調子のりそうだから。)


 そんなこんなで、調査とは程遠い事に時間を費やし。


 やっと、調査開始となった時には、日暮れも近くなっていた。

 境界線と思しき辺りに近づくと、ジリジリと歩を進める。先に境界線に気付いたのは僕だった。


 「ホセ。境界線っぽいよ。僕が先を行くね。」

 調査前の取り決め通り、先に境界線に気付いた僕が突破を試みる。

 境界線の突破はどちらともリスクがあるため、公平になるよう、先に境界線に気付いた方が突破をするとしておいた。


 身体に薄い膜が張り付くような違和感。身体を左右に小さく揺らしながら押し込むように進むと、ツルんと前に出る。

 「ホセ。外に出たみたいだよ。」

 「そうみたいやな。お前をつかんでる手の先だけが変な感じや。」


 ホセの手 (羽根だけど) を見ると、僕の辺りは鮮やかに、ホセの本体になると、薄っすら霞がかかったように見える。深い霧の中にいるようだ。


 「ホセ。そっちに戻るよ。」

 「了ー解!いつでも引っ張れるで。」


 たった今、1歩進んだだけの道を戻る。それだけの事なのに、身体が重い。押し返されるような不思議な感覚だ。ぐりぐりと身体を押し込むようにするが、中々思う様にはいかない。


 「ホセ。引っ張って。」

 「オッケー。せーの!!」


 ホセの掛け声に合わせて、自分も力を入れる。

 スポッと抜ける感じがして、ホセの横に転がった。無事に戻れたようだ。


 「おぉ。おつかれさん。」

 「ただいま戻りましたぁ!」

 任務完了とばかりに元気一杯に言ってみた。


 こどもかっ。とかいうホセの突っ込みを流しつつ、状況報告を行った。


 「出ていくときの感じはいらないよな…。出たところから、戻ってくるまでを話すと。」


 出た瞬間から空気が重いというか、悪いというか。いかにも魔物が出そうといったデンジャラスゾーン感が漂う。

振り返って戻るだけなのに、濃霧のようにホセに霞がかかり、巨木は薄っすらぼやけてしか見えない。ゼリーの中に入ったような体の重さを感じた…。

 だが、不思議なのは、たぶんそこが帰り道だと思ってなければ、進まないだろうと感じたこと。

 振り返った瞬間、前に進もうとは考えなかった。ホセの手を見るまでのほんの一瞬だけ。そう感じた。

 もしも、自分が何も知らずに森へ来ていた場合。この巨木テリトリーに気付くのだろうか。ましてこの違和感の中、歩を進めるのだろうか。疑問だ。たぶん、進まない。いや絶対に避けていそうだ。


 「もしかしたら、この安全圏は特別なのかもしれない…。」

 そう締めくくった。

 

 「でも。や。お前も俺も、瀕死の重傷でここに入って来たんや。今日みたいに力いっぱい前に進む余力なんて、どう考えてもないわな。あの時はどうやって中に来れたんや?」


 気付かなかった。そう言われるとそうだ。自分がここにたどり着いた時の事はほとんど覚えていないが、とにかく這いずってきたような気がする。中に入るのがあれほどの労力がいるのならば、きっとそこで息絶えていた。

 ホセの時もそう。銃声がして、ホセが落ちてくるのに、スピードが落ちるとかなかったように思う。なんらかの障害があったようには見えなかった。

 「と、すると。」

 共通しているのは。

 「死にかけたヤツだけが入れる。とか?」


 「俺もそう思ったんや。だけどな。敵がいないからって、死にかけのヤツが入ってきて、全員助かるわけがない。そのまま死んだヤツがおっても不思議やない。でも死体はない。動物や虫さえもおらんのや。死体や骨もないってことは変じゃないか?」


 謎が深まってしまった。

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