第49話 ~古代竜の中~
古代竜に飲み込まれた僕は、主を失った腕にしがみ付いていた。
「うぅっ。なんで。なんで。。。。」
僕は泣いていた。それでもスライムの身体では、涙は流れない。。。
あと少しで封印できていたのに。
魔王がどうなったかさえも分からない。
ドスンっ。どこかに落ちた。
僕は恐る恐る目を開く。。。
「あれ?ここ。。。古代竜の中じゃないの?」
そこは、水晶でできた洞窟だった。
真ん中には水晶の一際大きな結晶が光り輝いている。
水晶の結晶が蒼白く仄かな光を帯びる。
「ごめんごめん。驚かせちゃったね。もう大丈夫だから。」
少年のような声が聞こえる。
「え?何が?何に対して?え?どういうこと?」
僕の状況的に大丈夫じゃないことだらけなんですけど。
大丈夫って、誰の何に対して何だろう。。。
「古代竜の暴走は君たちのおかげで止まったし、ここは安全だから。その人は残念ながら助けられなかったけど。」
(その人って。つまり魔王のこと?)
僕はしがみついている魔王の腕を見る。
先ほどまで闘いに集中し、血と汗で熱くなっていた腕は、今は冷たい。
腕のオリハルコンの鎧が、煌めき始めた。
「あぁ。崩壊が始まるね。魔族では仕方ないね。」
主を失ったオリハルコンの鎧は懐中時計へと姿を戻す。まるで何事もなかったように、無傷で。。。
そして。。。
冷たくなった魔王の腕がさらに冷たくなる。白っぽくなったかと思うと、さらさらと細氷となって散ってゆく。。。。
しがみついている僕を構わずに細氷となって崩れていく様に、僕の心も砕け散るようだった。
「いやだ。いやだ。。いやだぁぁぁぁぁ!!!!」
僕は我を忘れ、オーラを全放出して叫んでいた。
どれくらい経ったのだろう。僕は目を覚ました。
「起きたかい?君は結構無茶をするんだね。」
そう言われて、僕は辺りを見回す。
洞窟の中は、水晶が割れて滅茶苦茶になっていた。
「これ。。。僕が?」
「うん。そうだよ?凄い力を持ってるみたいだけど。。。使いこなせてないね。」
「壊してごめんなさい。預かりものの力なんで。」
世界樹の加護の力をまたも使ってしまったのか。。。
「これからは、もっと大変になると思うから、がんばって。」
意味が分からないが、まぁいつもどおり、なんとかなるだろう。
「さ、じゃあその懐中時計を忘れずにね。それからこっちに来てもらえるかな?」
僕は鎧の懐中時計を拾い上げ、水晶塊のもとへ歩く。
そこには剣の懐中時計と5色の宝王玉があった。
黄宝王玉は僕と一緒に飲み込まれたので、すでに僕の頬袋にしまってある。
「これがあるって事は、やっぱり魔王さまは。。。」
「あぁ。彼、魔王だったんだ。通りでね。。。それらは、あんな所に纏めて置いておくわけにもいかないから、とりあえず回収したんだ。君たちの持ち物だからね。君が持って帰るも良し、要らなければ、またどこかのモンスターに飲み込ませるよ。」
全てを知っているかのような口ぶり。何でもできるような口ぶり。。。
この水晶塊はいったい。。
「ところで、君は誰なの?」
単刀直入に聞いてみる。
「あぁ。そっか。自己紹介がまだだったね。僕はこの古代竜だよ。」
「え?えぇ?えっぇぇぇーーー!!!」
「だって。竜って。。。あいつ意志なんてなさそうだった。。。」
「そうだね。あまりにも稚拙な封印解除で、中途半端でね。意識と身体が繋がらなかったんだ。」
「君たちのおかげで、ようやく元に戻れたよ。」
「じゃあ、もう外の世界は大丈夫?」
「あぁ。もちろんさ。多少破壊してしまったようだけど。魔界だからね。放っておいて大丈夫だよ。」
「そうですか。。。」
僕は安堵したものの暗く言い淀む。
「どうかしたのかい?」
「向こうの世界が心配だったので。魔界の友達は死なせてしまったし、人間界の友達にはお別れ言えなかったから。」
「ん?君は戻れないと思ってる?死んでしまったとか?」
「え?違います?いつ消化が始まるのかと。。。」
「あはははは。面白いね。ここが胃袋の中に見える?ここは僕の精神世界。いや”核”といった方がしっくりくるかな。」
「核?」
「そう。君の力なのか、黄宝王玉やオリハルコンといった伝説のアイテムの力なのか、分からないけれど、飲み込んだ瞬間に、僕の”核”への道へ入り込んだんだ。こんなこと初めてだよ。」
「それなら、僕はこれからどうなるんでしょうか?」
「そうだね。まず、魔王城に帰った方がいいと思うよ?あとは好きにしたらいいんじゃない?」
ここからどうやって出るのか。。その心配をしていたが、その先の答えが返ってきた。。
「えーと。まず、ここからどうしたら出られるのか。とか。僕、魔法使えないんで、魔王城にはいけないし、だからといって、地上にも。。」
「あぁ。そうか。まぁ敵はいないとは思うけどね。時間がかかるか。。。」
ブツブツと独り言のように言っている。
(魔界にスライムって。敵だらけだと思うんですけど。真っ先に殺されるよ。。。)
「そうだ!僕もヒマになったことだし、送っていくよ。僕が護衛じゃ不満かな?」
とんでもないことを言い出す。あんな馬鹿デカイのと一緒とか。。。無理じゃん。
大体、封印するのは失敗したが、半身しか封印解除されていないはず。
どうやって行動を共にするというのだろう。。。
「さて、じゃあ行こうか?」
あれ?僕の返答は聞かないのね。。。
「あっ。その辺のアイテム、持って行ってね。いらなかったら、その辺に捨てれば、モンスターが勝手に飲み込むから。」
僕はとりあえず、言われた通りにアイテムを頬袋にしまう。
突然、強い光に包まれた。
「うぅ。」
眩しさに目がくらみ、徐々に慣れてくる。
僕は外にいた。
破壊された大地に、眼前には魔法陣に半身のまれた古代竜。
キョロキョロと見渡してみたが、やはり魔王の影も形もない。。
「じゃ、行こうか。」
何事も無いかのように古代竜が言う。
「え?でもその身体じゃあ。。。」
僕は見たままの感想を伝える。
「あぁ。魔法陣のこと?大丈夫、大丈夫。ここまで破壊されたら簡単だよ?」
メリッバキッ。バキバキッ。
激しい音を立てながら、古代竜が這い上がってくる。
凄まじい巨体だ。。。
「うっわ~~~~。デカイな。。。。」
思わず口に出る。
グォォォォーーーーーン。
全身が外に出た古代竜が咆哮すると、地響きが襲ってくる。
「ちょっ。も少し、静かに。。。」
グラグラと揺れながら、僕は訴える。
「あははは。ごめんごめん。久しぶりの開放感で思わず。ね。」
「そんな姿で移動したら、魔界も地上もパニックですよぉ。」
僕は汗が噴き出るような思いだ。
「ということなんで、申し出は嬉しいんですが、あとは一人でなんとかします。」
丁重にお断りする。こんなんが付いてきたら迷惑以外の何者でもない。
「え~~~。これなら、魔王城なんてすぐそこだよ?」
「それでも、困りますって。こんなデカイ竜、ただでさえパニックになるのに、古代竜だって誰でも考えが行き着きます。そしたら、国中が阿鼻叫喚ですよ。」
「ふーん。そうか。やっぱダメか。。。仕方ないな。」
『やっぱり』って一応分かってはいるんだ。でどうするつもりだろう。。。
シュウウウゥゥゥゥゥ。
紫の光に包まれ、古代竜が縮んでいく。。。
ポンっ。
可愛らしい音とともに、目の前に姿を現した。
「古代竜さん?ですか?」
「そうだよ?」
そう言って、近くを駆け回り始めた。4~5歳の男の子が。。。
テケテケテケ。ポテン。
いきなり転んでいる。本当に古代竜。。。なのか?
男の子は頬を膨らまし、膝の砂を落とす。
テケテケテケ。ポテン。
「あっ。あぁ。」
見ていられない。
「もう。慣れないな。しかも子供じゃん!」
何かに憤慨している。地団駄を踏んで、ホントに見たままの年齢の子供のようだ。
「大丈夫ですか?」
「ここまで、子供になるなんてさ。ちょっと封印が長引いて、予想以上に力が弱まってたみたいだよ。」
口を尖らせて怒っているが、凄くかわいい。
話を聞けば、人化するとその力に合わせた年齢になるのだという。
力が弱まれば、子供に。力が漲れば、青年に。力が衰えれば、老年に。
モンスターに化けるにも同じような事が言えるようだ。
使える能力は変わりないため、どの姿でも問題ないという。
「う~ん。すぐに出発したかったけど。。。ちょっとこの身体に馴染むまで、少し歩いてもいいかな?」
「もちろんです。」
そうして僕たちはゆっくりと歩き出した。
トコトコトコ。
ポテン。ポテン。
幼児とスライム。。。。
普段の魔界ならソッコー殺されてるだろう。
しかしここは、古代竜に破壊され、生物がいない。助かった。
「あっ。そうだ。こっち行ってもいいですか?」
すっかり忘れていたが、あの死にかけた戦士を思い出す。
「ねぇ。ホントにこっちなの~?」
「たぶん。」
魔王は飛んでいたから早かったが、歩くとなると時間がかかった。
「すいません。なんか、呼びにくいんですけど。。名前とかないんですか?僕はブルートスライムのアルって言うんですけど。」
疲れも出て、僕は丁寧さも忘れてきた。。。
「そうか、君はアルって名前なんだね。ブルートスライムって聞いたこと無いな。新種なのかな?」
一人ブツブツ言いながら、
「僕はね。ジルっていうんだ。よろしくね。」
「ジルさん。よろしく。」
「あはははは。この見た目に”さん”はないよね。お互い呼び捨てでいこうよ。アル。」
「じゃあ。ジル。よろしく。」
僕たちの仲は一歩近づいたようだ。
「あ~~~~。もうダメだ。我慢の限界だ。」
ジルがいきなり僕を掴む。
「近くなったら、教えて。」
そして飛翔し始めた。幼児ながら、結構快適だ。
チカっと光った。
「あそこ。。。」
「ん?そうか。」
僕たちは降下する。
戦士は何とか生きていた。
「この人、仲間なの?」
ジルに言われて答えに困る。
「いや。あの封印解除に失敗した人たちの仲間。。。」
「そんなヤツ。気になって見に来たの?こいつらのせいで魔王が死んだんだよね?どうしたいの?」
「・・・・・見捨てられない。」
「君は、どんだけ甘いんだ。」
「う。うぅ。スラ・・イム・・か・・。もう一人の・・ヤツ・・は・・どう・し・た。」
途切れ途切れの言葉に、僕は首を振る。
「そ・うか・・。おれ・た・ちが・わる・かった・・・。おれ・・は・・死ん・で・・とうぜ・ん・だな・・。」
まだ、何か言いたげだったが、唇が動くだけで、もう声に出せない。
僕は《世界樹の葉》を取り出す。。
「待って。それ《世界樹の葉》だろう?そんなの使うのはもったいない。」
僕を制止して、ジルが戦士に手を翳す。
「特別だからね。」
そして回復魔法を発動する。
赤紫の光とともに、戦士の傷がみるみる消えていく。
戦士が身体を確認し、目を丸くする。
「こんな子供が。。。ありがとう。」
驚きながら感謝を述べた。
「いや。僕は君を助けるつもりは無かったんで。お礼なら、アルに。」
そう言って僕を見る。
「スライムさんか。。俺達のせいだよな。あの大きな魔族がいないのは。。。すまなかった。。。」
戦士は、深々と頭を下げ、謝罪する。
「いや。僕だって本心は許せませんよ。。でも、武具だって思ってた訳ですし、放置もできませんから。」
「それでも、助けてくれたんだ。ありがとう。何か恩返しがしたいんだが。。。」
「そうだ。子供とスライムじゃ、何かと不便だろう?俺も付いていくよ。多少は役に立てることもあるだろう。」
何か勝手に決めてくる。もう面倒しか感じない。
スライム・古代竜・そんなに強くない戦士。
変なパーティが出来上がった。
「じゃ。身体も馴染んだ事だし、向かうとしようか?」
ジルが屈伸しながら言う。
「どこへ向かってるんだい?」
戦士は何気に聞く。
「魔王城ですよ。」
僕も軽く答える。
「え?えぇぇぇ~~~~~!!!!」
と叫ぶ戦士を無視して、僕たちを掴んだジルが、超高速飛翔を始めた。
ようやく魔王城へ帰れる。




