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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=魔王城編=
49/322

第49話  ~古代竜の中~


 古代竜に飲み込まれた僕は、主を失った腕にしがみ付いていた。


「うぅっ。なんで。なんで。。。。」

 僕は泣いていた。それでもスライムの身体では、涙は流れない。。。

 あと少しで封印できていたのに。

 魔王がどうなったかさえも分からない。



 ドスンっ。どこかに落ちた。


 僕は恐る恐る目を開く。。。

「あれ?ここ。。。古代竜の中じゃないの?」



 そこは、水晶でできた洞窟だった。


 真ん中には水晶の一際大きな結晶が光り輝いている。


 水晶の結晶が蒼白く仄かな光を帯びる。

「ごめんごめん。驚かせちゃったね。もう大丈夫だから。」


 少年のような声が聞こえる。


「え?何が?何に対して?え?どういうこと?」

 僕の状況的に大丈夫じゃないことだらけなんですけど。

 大丈夫って、誰の何に対して何だろう。。。



「古代竜の暴走は君たちのおかげで止まったし、ここは安全だから。その人は残念ながら助けられなかったけど。」

 

(その人って。つまり魔王のこと?)

 僕はしがみついている魔王の腕を見る。


 先ほどまで闘いに集中し、血と汗で熱くなっていた腕は、今は冷たい。


 腕のオリハルコンの鎧が、煌めき始めた。


「あぁ。崩壊が始まるね。魔族では仕方ないね。」


 主を失ったオリハルコンの鎧は懐中時計へと姿を戻す。まるで何事もなかったように、無傷で。。。


 そして。。。

 冷たくなった魔王の腕がさらに冷たくなる。白っぽくなったかと思うと、さらさらと細氷となって散ってゆく。。。。


 しがみついている僕を構わずに細氷となって崩れていく様に、僕の心も砕け散るようだった。


「いやだ。いやだ。。いやだぁぁぁぁぁ!!!!」

 僕は我を忘れ、オーラを全放出して叫んでいた。



 

 どれくらい経ったのだろう。僕は目を覚ました。


「起きたかい?君は結構無茶をするんだね。」

 

 そう言われて、僕は辺りを見回す。

 洞窟の中は、水晶が割れて滅茶苦茶になっていた。


「これ。。。僕が?」

「うん。そうだよ?凄い力を持ってるみたいだけど。。。使いこなせてないね。」


「壊してごめんなさい。預かりものの力なんで。」

 世界樹の加護の力をまたも使ってしまったのか。。。


「これからは、もっと大変になると思うから、がんばって。」


 意味が分からないが、まぁいつもどおり、なんとかなるだろう。



「さ、じゃあその懐中時計を忘れずにね。それからこっちに来てもらえるかな?」


 僕は鎧の懐中時計を拾い上げ、水晶塊のもとへ歩く。

 そこには剣の懐中時計と5色の宝王玉オーブがあった。

 黄宝王玉イエローオーブは僕と一緒に飲み込まれたので、すでに僕の頬袋にしまってある。


「これがあるって事は、やっぱり魔王さまは。。。」


「あぁ。彼、魔王だったんだ。通りでね。。。それらは、あんな所に纏めて置いておくわけにもいかないから、とりあえず回収したんだ。君たちの持ち物だからね。君が持って帰るも良し、要らなければ、またどこかのモンスターに飲み込ませるよ。」


 全てを知っているかのような口ぶり。何でもできるような口ぶり。。。

 この水晶塊はいったい。。


「ところで、君は誰なの?」

 単刀直入に聞いてみる。


「あぁ。そっか。自己紹介がまだだったね。僕はこの古代竜だよ。」

「え?えぇ?えっぇぇぇーーー!!!」


「だって。竜って。。。あいつ意志なんてなさそうだった。。。」

「そうだね。あまりにも稚拙な封印解除で、中途半端でね。意識と身体が繋がらなかったんだ。」


「君たちのおかげで、ようやく元に戻れたよ。」

「じゃあ、もう外の世界は大丈夫?」


「あぁ。もちろんさ。多少破壊してしまったようだけど。魔界だからね。放っておいて大丈夫だよ。」

「そうですか。。。」

 僕は安堵したものの暗く言い淀む。


「どうかしたのかい?」

「向こうの世界が心配だったので。魔界の友達は死なせてしまったし、人間界の友達にはお別れ言えなかったから。」


「ん?君は戻れないと思ってる?死んでしまったとか?」

「え?違います?いつ消化が始まるのかと。。。」


「あはははは。面白いね。ここが胃袋の中に見える?ここは僕の精神世界。いや”核”といった方がしっくりくるかな。」

「核?」


「そう。君の力なのか、黄宝王玉イエローオーブやオリハルコンといった伝説のアイテムの力なのか、分からないけれど、飲み込んだ瞬間に、僕の”核”への道へ入り込んだんだ。こんなこと初めてだよ。」


「それなら、僕はこれからどうなるんでしょうか?」


「そうだね。まず、魔王城に帰った方がいいと思うよ?あとは好きにしたらいいんじゃない?」


 ここからどうやって出るのか。。その心配をしていたが、その先の答えが返ってきた。。


「えーと。まず、ここからどうしたら出られるのか。とか。僕、魔法使えないんで、魔王城にはいけないし、だからといって、地上にも。。」


「あぁ。そうか。まぁ敵はいないとは思うけどね。時間がかかるか。。。」

 ブツブツと独り言のように言っている。


(魔界にスライムって。敵だらけだと思うんですけど。真っ先に殺されるよ。。。)


「そうだ!僕もヒマになったことだし、送っていくよ。僕が護衛じゃ不満かな?」


 とんでもないことを言い出す。あんな馬鹿デカイのと一緒とか。。。無理じゃん。

 大体、封印するのは失敗したが、半身しか封印解除されていないはず。

 どうやって行動を共にするというのだろう。。。


「さて、じゃあ行こうか?」


 あれ?僕の返答は聞かないのね。。。


「あっ。その辺のアイテム、持って行ってね。いらなかったら、その辺に捨てれば、モンスターが勝手に飲み込むから。」

 僕はとりあえず、言われた通りにアイテムを頬袋にしまう。


 突然、強い光に包まれた。

「うぅ。」

 眩しさに目がくらみ、徐々に慣れてくる。


 僕は外にいた。

 破壊された大地に、眼前には魔法陣に半身のまれた古代竜。

 キョロキョロと見渡してみたが、やはり魔王の影も形もない。。


「じゃ、行こうか。」

 何事も無いかのように古代竜が言う。


「え?でもその身体じゃあ。。。」

 僕は見たままの感想を伝える。


「あぁ。魔法陣のこと?大丈夫、大丈夫。ここまで破壊されたら簡単だよ?」


 メリッバキッ。バキバキッ。

 激しい音を立てながら、古代竜が這い上がってくる。


 凄まじい巨体だ。。。


「うっわ~~~~。デカイな。。。。」

 思わず口に出る。



 グォォォォーーーーーン。 

 全身が外に出た古代竜が咆哮すると、地響きが襲ってくる。


「ちょっ。も少し、静かに。。。」

 グラグラと揺れながら、僕は訴える。


「あははは。ごめんごめん。久しぶりの開放感で思わず。ね。」


「そんな姿で移動したら、魔界も地上もパニックですよぉ。」

 僕は汗が噴き出るような思いだ。

「ということなんで、申し出は嬉しいんですが、あとは一人でなんとかします。」

 丁重にお断りする。こんなんが付いてきたら迷惑以外の何者でもない。


「え~~~。これなら、魔王城なんてすぐそこだよ?」

「それでも、困りますって。こんなデカイ竜、ただでさえパニックになるのに、古代竜だって誰でも考えが行き着きます。そしたら、国中が阿鼻叫喚ですよ。」


「ふーん。そうか。やっぱダメか。。。仕方ないな。」


 『やっぱり』って一応分かってはいるんだ。でどうするつもりだろう。。。


 シュウウウゥゥゥゥゥ。

 紫の光に包まれ、古代竜が縮んでいく。。。


 ポンっ。

 可愛らしい音とともに、目の前に姿を現した。


「古代竜さん?ですか?」

「そうだよ?」


 そう言って、近くを駆け回り始めた。4~5歳の男の子が。。。


 テケテケテケ。ポテン。

 いきなり転んでいる。本当に古代竜。。。なのか?

 男の子は頬を膨らまし、膝の砂を落とす。

 テケテケテケ。ポテン。


「あっ。あぁ。」

 見ていられない。


「もう。慣れないな。しかも子供じゃん!」

 何かに憤慨している。地団駄を踏んで、ホントに見たままの年齢の子供のようだ。


「大丈夫ですか?」

「ここまで、子供になるなんてさ。ちょっと封印が長引いて、予想以上に力が弱まってたみたいだよ。」

 口を尖らせて怒っているが、凄くかわいい。


 話を聞けば、人化するとその力に合わせた年齢になるのだという。

 力が弱まれば、子供に。力が漲れば、青年に。力が衰えれば、老年に。

 モンスターに化けるにも同じような事が言えるようだ。

 使える能力は変わりないため、どの姿でも問題ないという。


「う~ん。すぐに出発したかったけど。。。ちょっとこの身体に馴染むまで、少し歩いてもいいかな?」

「もちろんです。」


 そうして僕たちはゆっくりと歩き出した。


 トコトコトコ。

 ポテン。ポテン。


 幼児とスライム。。。。

 普段の魔界ならソッコー殺されてるだろう。

 しかしここは、古代竜に破壊され、生物がいない。助かった。


「あっ。そうだ。こっち行ってもいいですか?」

 すっかり忘れていたが、あの死にかけた戦士を思い出す。


「ねぇ。ホントにこっちなの~?」

「たぶん。」

 魔王は飛んでいたから早かったが、歩くとなると時間がかかった。


「すいません。なんか、呼びにくいんですけど。。名前とかないんですか?僕はブルートスライムのアルって言うんですけど。」

 疲れも出て、僕は丁寧さも忘れてきた。。。


「そうか、君はアルって名前なんだね。ブルートスライムって聞いたこと無いな。新種なのかな?」

 一人ブツブツ言いながら、

「僕はね。ジルっていうんだ。よろしくね。」


「ジルさん。よろしく。」


「あはははは。この見た目に”さん”はないよね。お互い呼び捨てでいこうよ。アル。」

「じゃあ。ジル。よろしく。」

 僕たちの仲は一歩近づいたようだ。



「あ~~~~。もうダメだ。我慢の限界だ。」

 ジルがいきなり僕を掴む。

「近くなったら、教えて。」


 そして飛翔し始めた。幼児ながら、結構快適だ。


 チカっと光った。

「あそこ。。。」

「ん?そうか。」

 僕たちは降下する。


 戦士は何とか生きていた。

「この人、仲間なの?」

 ジルに言われて答えに困る。

「いや。あの封印解除に失敗した人たちの仲間。。。」


「そんなヤツ。気になって見に来たの?こいつらのせいで魔王が死んだんだよね?どうしたいの?」

「・・・・・見捨てられない。」


「君は、どんだけ甘いんだ。」

「う。うぅ。スラ・・イム・・か・・。もう一人の・・ヤツ・・は・・どう・し・た。」

 途切れ途切れの言葉に、僕は首を振る。


「そ・うか・・。おれ・た・ちが・わる・かった・・・。おれ・・は・・死ん・で・・とうぜ・ん・だな・・。」

 まだ、何か言いたげだったが、唇が動くだけで、もう声に出せない。


 僕は《世界樹の葉》を取り出す。。

「待って。それ《世界樹の葉》だろう?そんなの使うのはもったいない。」


 僕を制止して、ジルが戦士に手を翳す。

「特別だからね。」

 そして回復魔法を発動する。


 赤紫の光とともに、戦士の傷がみるみる消えていく。


 戦士が身体を確認し、目を丸くする。

「こんな子供が。。。ありがとう。」

 驚きながら感謝を述べた。


「いや。僕は君を助けるつもりは無かったんで。お礼なら、アルに。」

 そう言って僕を見る。


「スライムさんか。。俺達のせいだよな。あの大きな魔族がいないのは。。。すまなかった。。。」

 戦士は、深々と頭を下げ、謝罪する。


「いや。僕だって本心は許せませんよ。。でも、武具だって思ってた訳ですし、放置もできませんから。」

「それでも、助けてくれたんだ。ありがとう。何か恩返しがしたいんだが。。。」

 

「そうだ。子供とスライムじゃ、何かと不便だろう?俺も付いていくよ。多少は役に立てることもあるだろう。」


 何か勝手に決めてくる。もう面倒しか感じない。

 スライム・古代竜・そんなに強くない戦士。


 変なパーティが出来上がった。


「じゃ。身体も馴染んだ事だし、向かうとしようか?」

 ジルが屈伸しながら言う。


「どこへ向かってるんだい?」

 戦士は何気に聞く。


「魔王城ですよ。」

 僕も軽く答える。



「え?えぇぇぇ~~~~~!!!!」

 と叫ぶ戦士を無視して、僕たちを掴んだジルが、超高速飛翔を始めた。


 ようやく魔王城へ帰れる。


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