第47話 ~魔王VS古代竜~
微グロ表現ありです。
苦手な方は次話までお待ちください。
炎の渦を突き抜け、雷雨を潜り抜け、古代竜の姿がようやく見えて来た。
魔王はスピードを落とす。
下を見れば、壊滅的な村があった。生き残りがいるとは思えない惨状だ。
「なんとも惨い。一人でも生きていてくれると良いのだが。。。」
魔王の悲痛な叫びが聞こえてきた。
僕たちにできることは、古代竜を鎮めることだけだ。
魔王は一瞬の逡巡の後、古代竜を目指す。
眼下で何かが光った。。。動いている。
「魔王さま、あそこ、なにかいるみたいですよ。」
近づくと、鎧を着た、戦士だった。
「大丈夫ですか?」
僕が駆け寄ると、意識朦朧としている戦士がこちらを向く。
魔王が回復魔法を試みるも、効果がほとんどない。
「やはり、古代竜による傷だな。余の魔力では古代竜の力を超えることが出来ぬ。ということだろう。」
「聞こえますか?何があったんですか?」
僕は相手の意識が遠くならないよう、大声で話しかける。
「俺たちは、あんな化け物を呼び起こすつもりはなかったんだ。。。」
その戦士の話を聞くことにした。
戦士は他4名でパーティーを組んでいたそうだ。
永久凍土・吹雪吹きすさぶ『白の国』で、彼らはモンスター討伐などで名を馳せ、勇者一行と呼ばれるまでに成長した。
そこで、国で一番の長老と話をする機会があった。
長老は人間でありながら、150歳をゆうに超えていた。
長老は、魔界に行ったことがあるという。
そこで過ごした数年で、ある噂を耳にしたそうだ。
『魔界の辺境にオリハルコンの武具が封印されている』と。
オリハルコンと言えば伝説の金属。
それで作られた武具は勇者の為のみに存在し、その力を増幅させるという。
(自称)勇者一行は、こう考えた。
最後に伝記に残る勇者は2000年前のアルフォン。
それを境に魔王の隆盛も聞かない。
力を失った魔王。しばらくは人間たちも安心だろう。
だがしかし、魔王が再び力を盛り返す時。
それは、次に真の勇者が現れる時。オリハルコンの武具によって絶対的な力を得るはずだ。
オリハルコンの武具は諸刃の剣。世間に流出すれば、それを巡る戦いが起きることを危惧して、持ち主を選別するために、封印したのではないか。と。
真実とは全く異なる答えを導き出す。
自分たちこそが、真の勇者であると錯覚し、魔界に足を踏み入れる。長老から大まかな位置を聞いており、さして迷うことなく封印の地まで赴くことができた。
『白の国』でまことしやかに囁かれていた≪封印には宝王玉を使用する≫の言葉を信じ、5色の宝王玉を持っていく。
伝説では7色あると言われているが、6色目も7色目も発見されていない。
5色でも、ある程度の封印が解除されれば、あとは何とかなるだろう。
安直に考えた。
封印の地に着くと、石碑がある。消えかけた魔族の文字が彫り込まれており、意味は理解できない。
しかしその風化が封印の年月を物語っているようだった。
彼らは自分たちの思い込みが間違っているとは思わずに宝王玉を使用する。
彼らを中心に、大地に見たこともないほどの大きな魔法陣が浮かび上がった。
魔法使いと賢者がその危険性にいち早く気付き、後ろに飛び退く。
勇者と盗賊は魔法陣から浮かび上がった影に飲み込まれた。
戦士は見張りの為、後方にいて助かった。
封印されていた者が姿を現すと、その場は一瞬で阿鼻叫喚と化す。
目覚めたのは武具などではなく、馬鹿でかい龍。。。
その口には、先程まで、一緒にいた勇者と盗賊が引っかかっている。
勇者は下半身を食いちぎられており、見開いたその眼に生気はない。
盗賊は頭から食われたのだろうか、足だけが見えている。
賢者と魔法使いは泣き叫びながら何かをしようとしているが、最早パニックに陥っているのは明らかだ。
助かる見込みなどない。
少し離れた戦士だけが、冷静に判断をする。逃げなければ。。。
仲間の断末魔の叫びを後ろに聞きながら、戦士はひたすら走った。
龍が一声咆哮すれば嵐が起こり、唸りを上げれば大地が割れマグマが流れ出す。
息を吹けば吹雪となり、上を見上げれば雷が轟く。
天変地異がとめどもなく押し寄せる。
戦士は振り返ることなく走り続けた。。。
背中が焼けたと思えば、次の瞬間には背中が凍る。顔には激しく雨が打ち付け、体力を奪う。
耳をつんざくほどの雷鳴で、周囲の音が聞こえない。
朦朧とする意識の中で、突然静けさが訪れた。
フラフラとしながら、後ろを振り返ると、龍が魔法陣から抜け出そうともがいている。
龍は半身だけしか封印解除されていないようだ。やはり5色では足りなかった。
しかし、事は幸いする。龍が抜け出せないのであれば、逃げる事ができるかもしれない。
血だらけの身体を引き摺りながら、あと一歩と足を運ぶ。
薄れゆく意識の中で最後に見た光景は。。。
怒り狂った龍が、巨大な火球を吐く姿だった。確かあの方向には小さな村があったはすだ。
だが最早、死にかけた戦士に、その村を心配する余裕も、懺悔の念も沸いてはこなかった。
「なんと愚かな。。。」
話を聞き終え、魔王が目を閉じる。
「しかし、完全なる封印解除でないのであれば、余が再び封印することもできるやもしれぬな。。。可能性は低いが。。。」
魔王は大きく息を吸い込む。そして。。。
「よし、行くぞ!これ以上、誰も死なせはせぬ!」
その目は覚悟を決め、魔王の確固たる信念を感じさせた。
(まるで、この人が勇者のようだ。)
僕は魔王の肩に乗る。
「サポートは任せてください!」
スライムの身体でどこまでやれるのかは分からない。だが、何もしないで後悔するより、何かして後悔したい。願わくば、全てが上手く行くことだが。。。
魔王と僕は目を合わせ、無言で頷き合う。これが出発の合図となった。
魔王は古代竜の背後から近づく。
古代竜は禍々しい紫色の身体をしていた。
そしてその巨体。。。スライムの僕から見たら、象とアリ。いや。それ以上の差があるかも。。。
銀狼の時とは比較にならない恐怖心。。。
あの時も死地へ赴く戦士の気分だった。
だが、今回は重圧ものしかかる。
僕たちが失敗すれば、魔界が壊滅する。もしかすると、そのまま人間界まで滅ぼされる可能性があるのだ。何としてでも食い止めなくてはならない。。。
その思いが聞こえてしまったのだろうか。。。
魔王が気を練りながら、
「アルよ。余が倒され、魔界が破壊されるような事態に陥った場合には、人間界へ戻り、魔界ごと封印をするのじゃ。」
「え?そんな事できませんよ。」
「人間界にも被害が出るやもしれぬ。それが一番確実じゃ。なに心配することはない。魔界の種族が絶滅しても、人間界にもモンスターたちがおる。いずれ魔界を再興するであろう。魔族はしぶといからの。」
力ない笑顔を作り、魔王は僕を見た。
「それでも、魔界ごと封印なんて。そんな力もありません。」
現実的に無理だろう。
「アルよ。あの国には世界樹もある。そして、迷宮管理人もいる。もしもの時は、その男を探し出せ。」
「マロウさんのこと?」
「知っておるのか?ならば話は早い。あの男の元に、6つ目の宝王玉がある。黄色い玉じゃ。そなたであれば、黄宝王玉も主と認めよう。」
それ、持ってるな。。。しかも今ここに。。。
出すべきか出さざるべきか。。。
悩んでいる間に魔王が攻撃を開始した。
天に向かって手を広げると、空を覆いつくさんとばかりに巨大な魔法陣が出現する。
そして、魔王が指を合わせ菱形を作ると、その魔法陣が檻へと変貌する。
魔王は大きく息を吸い込むと、体中の力を使って、檻を投げ落とした。
我を忘れている古代竜は、魔王に気付くことなく、檻に捕らえられた。
グギャギャギャギャーーーーー!!!!!
古代竜がもがくと檻は締め上げるように小さくなる。
魔王は構わず、次の技に移っている。
出現させた魔法陣を今度は引き延ばすと、それは巨大な弓矢となった。
放たれた矢は、古代竜に突き刺さる。
鏃から、爆発が起こり、連鎖するように矢の全体から焔が上がる。
グルギャ-----!!!!!
内部から焼かれた古代竜はさらに暴れ、檻を食いちぎろうとしている。
「まずいな。」
魔王は呟く。
今度は小さな魔法陣が無数に空に浮かび上がる。
一つ一つがダガーへと姿を変え、魔王が空に向けた両手で弧を描くとダガーがトルネードとなる。
そのまま振り下ろされた腕の動きそのままに、トルネードダガーの雨が古代竜を襲う。
無数のダガーが突き刺さった古代竜が静かになる。
やったか。と思った次の瞬間、古代竜の身体が光を帯びる。
異常に気付いた魔王が僕を抱きかかえ、前屈み半身に身構えた時だった。
古代竜を中心として大爆発が起き、僕たちは爆風に吹き飛ばされた。
「う。うぅ。」
僕は魔王の腕の中から這い出る。
「魔王さま。魔王さま。」
ぐったりと横たわる魔王に声をかけるが、返事がない。
小さな体で腕もなく、魔王の身体を揺さぶることもできない自分がもどかしく感じた。
何度か呼び掛ける。
「んん。アルか。」
魔王が薄く目を開けた。
(良かった。)と僕が口を開く前に、
「無事であったか?怪我はないか?」
と矢継ぎ早に質問される。
「大丈夫です。」
その答えに安心したかのように頷き、魔王が立ち上がる。
「っっっ!!!魔王さまっ!!!」
立ち上がった魔王の半身が焼け爛れていた。古代竜側の半身だ。
あの爆風をまともに受けたのだ。
火傷であるにもかかわらず、出血もかなりしている。
僕は慌てて≪世界樹の葉≫を取り出そうとした。
「アル。まだ使う時ではない。これくらいの傷、魔族であれば大したことはない。」
魔王はそう言っているが、魔族特有の超回復が起きる様子がない。
確か、戦士の傷を治したときに言っていた。古代竜の力を超えないと魔法が効かないと。
「≪世界樹の葉≫がダメなら、これを。」
僕は、魔王の返事も聞かずに、≪世界樹の雫≫ぶっかける。
「うっ。何をする。」
顔に水がまともにかかり、魔王が顔をしかめて僕を見る。
「魔王さまの返事を待ってたら、僕の出番がないんで!」
「ふふっ。そなたらしいな。」
「ホントは≪世界樹の雫≫ぶっかけるのは、勿体ないんですよ。無駄がでますから。次回からはおとなしく言うこときいてくださいね。」
「そうであるな。」
ふふっ。と魔王が笑った。
ただれた皮膚からの出血は止まったようだ。傷口は生々しいが、魔王はそれを気にする様子はない。
古代竜へ目を向けると、檻は無くなっていた。
未だ半身は封印されているものの、先ほどまでのダメージが無いかのように暴れていた。
「振り出しに戻ったな。」
魔王が呟く。。。その声は心なしか力なく聞こえた。
なまじ攻撃をしてしまった為に、古代竜の怒りに火を注ぐ形となり、こちらは魔王が負傷してしまった。
魔王とて、無尽蔵に魔力が続くかも分からない。
”振り出し”どころではない。状況は悪化していた。
僅かな勝機さえも闇に飲まれていく。。。




