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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=魔王城編=
44/322

第44話  ~魔王の部屋で~


 僕は気になっていた玉座へと向かう。


 氷でできたその椅子は細部に至るまで美しい彫刻がなされている。要所要所には淡い色の宝石がちりばめられ、氷の質感を邪魔しない上品な装飾となっている。

 

 『魔王』といえば。みたいな物がこの部屋には一切無い。悪魔の羽根やら、髑髏やら、薄暗いとか、禍々しい雰囲気が感じられないのだ。下手な人間よりもセンスがいいだろう。


 魔王との遣り取りも独特の威圧感や恐怖心はあれど、差し迫る命の危険までは感じてこなかった。まぁ、何度か失言をして、終わったなと思った程度。


 なので、玉座に座ってみたいという衝動も、特に止めることなく。。。

(ちょっと座らせてもらいま~す。)

 と、軽い気持ちで飛び乗った。


 一段高くなった場所から見渡す景色はひと味違う。。自分が権力者になったようで。。。ちょっとカッコつけて偉そうにふんぞり返ってみた。。。

 だが、そこはスライム。。人間ではなかった。。。悲しいかな勢いよくふんぞり返った勢いで、後ろにコロンと転がってしまう。。。


(チョー恥ずかしいんですけど。。。)

 急いで、周りを確認する。自分からは誰も見えていない。たぶん大丈夫だ。誰も見ていないことを願う。


(ふっふっふ。大丈夫じゃ。誰も見てはおらぬぞ。)

 魔王の優しい声が心に届く。。。


「見えてるんじゃないですかぁ。」

 僕は顔から火が出るかと思うほど、恥ずかしさが吹き出た。


(はっはっは。気にするでない。しばし、その玉座を守っておれ。)


 僕は項垂れ、玉座に寄りかかった。身体の小さな僕は座面の片隅にちょこんと居る程度。見上げる肘掛けは随分上だ。

 だが、そこに気になる物が並べて埋め込まれていた。宝石にしては大きいし、全てが球体。色も不揃いで、その部分だけ統一感がない。ここまで徹底したこだわりがあるだけに、違和感がハンパない。


 気になって肘掛けに飛び乗る。

(これって。。。)

 サイズは小さいが、宝王玉オーブに見える。中心部にもシルエットがある。一つの肘掛けに5色。それが両方の肘掛けに入っている。合計2セットになる。


「本物かなぁ。。。」


「もちろん本物であるぞ。」

 突然の背後からの声にびっくりして肘掛けから落ちかけた。


「危ないではないか。それとも転がるのが好きなのか?」

 転げ落ちそうになった僕を掬い上げ、魔王は玉座に腰掛ける。


「元々5個は持っておったのだがな。ここに埋め込む為にあと5個拾ってきたのだ。揃っておった方が綺麗であろう?」


 拾ってきたって。そこら辺に落ちてないだろ~。あっさり見つけられる物なのか?


「魔王さま。。。そんなに簡単に見つけられるもんなんですか?」


「はっはっはっは。宝王玉オーブがどうやって生まれるのかは分からぬが、入手方法なら簡単である。大概はモンスターが飲み込んでおるでの。それらしき奴を殺せば済む話。」


「えっと。それはどの程度のレベルのモンスターですかね。」


「そうじゃな。今まで宝王玉オーブを飲み込んでおった一番弱いモンスターは・・・銀狼シルバーウルフであったな。あんな雑魚が宝王玉オーブを飲み込んでおるとは思わなかったが。他は皆、数段レベルの高いモンスターであったな。」


(僕たちが死にものぐるいで倒した銀狼シルバーウルフが雑魚かぁ。そうだよなぁ。魔王だもんなぁ。やっぱ凄い人なんだよなぁ。)


「ほぅ。アルはスライムでありながら銀狼シルバーウルフと対峙したことがあるのか?凄いのう。よく生きておったな。」

 何故か僕が感心されている。


「たまたま。成り行きで。仲間もいましたし。」

 思い出すだけで胸がギュッとなる。


「余はこれでも魔王をしておる。魔界のモンスターどもを統べるには強さは必要じゃ。魔王になる前でも龍種程度は単独撃破が些事であったぞ。」


「はぁ。」

 もう世界が違いすぎて、どれくらい強いのかすら想像もできない。ただ、分かることは『敵にしてはいけない』これに尽きるのだろう。



「さて、アルよ。もう一つ、余に付き合ってはくれぬか?」

 急に魔王が真剣な顔つきになる。

「は、はい。」


 魔王は僕を手のひらに乗せたまま、氷の衝立のさらに奥へと進む。

 奥には天井まで続く程の氷の衝立がもう1枚。完全なるプライベート空間のようだ。


「ここは余の寝室じゃ。」衝立の奥へ。。。



「ちょっ。ここ、魔王様の寝室?なんですよね?」

 僕の肩が震える。。。

「こっこれは。余の寝室ではあるが、つっ妻の趣味であるぞ。」

「でも、魔王様もここで寝るんですよね?」

「そっそれは。。そうであるが。。。」

 魔王が言葉に詰まっている。


 くっくっくっく。。。笑いが堪えきれなかった。

 目の前の光景と、それを指摘した時の魔王の慌てっぷりが何とも。。。


 そこには、お姫様のような部屋が広がっていたのだ。


 部屋はピンクを基調とし、壁紙は淡いピンク。出窓のレリーフもバラがあしらわれ、カーテンは花柄。

 応接セットのテーブルは白く、猫足。ソファーはもちろん花柄の生地が使われている。

 壁際に置かれたカウチにはラブリーなクッションがいくつも飾られている。

 鏡台やらチェスト、はてには真っ白なピアノまである。

 至る所にレースやらフリルやらがふんだんに使われ、、、完全に夢見る女の子の部屋だった。



 笑いを堪えている僕に魔王は咳払いを一つ。そして。

「この部屋のインテリアについては。。。触れるでない。」

 あっ。釘さされた。


「本題はここなのじゃ。」


 そう言って天蓋付きのベッドへと進む。

 ジョージの部屋のベッドも大きかったが、これはさらに大きい。

 当然、フリルやレースがふんだんに使われたピンクの姫ベッドではあるが。。。今はレースのカーテンが閉まっている。


 魔王がそっと静かにカーテンを開ける。


 そこにはふかふかのクッションに囲まれて美しい女性が眠っていた。


「あっ。この人。。。」

 以前、魔王に見せられた映像の人だ。


「余の妻である。」

 暗く静かな声だった。


 まるで『サクラ』のようだ。生きているのか死んでいるのかも分からない。人形のようなのだ。

 『サクラ』よりも良くないのは、血の気が無いことだろう。息もしているかどうか。。。魔族の普段の顔色や、呼吸をするかも知らないので、何とも判断がつかないのだが。。。


 念のために聞いた方がいいだろう。

「眠っているんですよね?」


「そうじゃな。。。数日眠っておる。崩壊も間近いのやもしれぬ。」

「え?崩壊って?なんですか?」

 慌てて聞く。


「ふむ。妻の身体は《世界樹の葉》の力によって保っておったのじゃ。しかし、その力が限界にきておるようでな。新しい《世界樹の葉》が手に入れば良かったのだが。。。」


「・・・・・。」


 魔王は、レースカーテンを閉め、ソファーへ身体を沈める。


 《世界樹の葉》を安易に渡すわけにはいかない。僕は考え込む。


 しばらくの沈黙の後、僕は口を開く。

「あの。魔王様。。。失礼を承知で。。ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんじゃ?」


「魔王軍とかって、人間の敵。なんでしょうか?」

「妙なことを聞くのう。」


「僕は人間界で生まれましたし、友達も人間です。だから、魔界のこととか、魔王軍、もちろん魔王様の事も。。。何も知らないんです。」

 僕は俯く。

 本当に無知であった。


「そうであるか。余の話しでも良いかの。他の魔王の事は知らぬ故。」

「はい。ありがとうございます。」




「余が魔王となったのは2000年ほど前であった・・・・」



 ---その頃、魔王が不在でな。人間の勇者に封印されておった。

 余はその封印を解き、その封印されていた魔王を倒し、『魔族の力の継承』という現象を逆手にとって、能力を奪った。そして真の魔王となったのじゃ。


 単純な戦闘力で言えば、前魔王など余の敵では無かったが、『魔王』としての特殊能力があるのじゃ。時間をかけて能力を身につけることもできたが、余は時間が惜しくての。奪い取ったのじゃ。



 魔王の力を継承した余は、前魔王が統治していたものも全て継承できた。魔界も魔王軍も。

 誰も疑義の念を抱くこともなく、余を受け入れた。魔王の特殊能力によるものであった。


 

 歴代の魔王達は、人間とのいざこざが絶えない者もいただろう。前魔王もそうであったな。それ故、勇者に封印されることになった。

 その高い能力で命までは取られはしなかったが、封印されたことで、余に力を奪われる結果となったな。



 余が魔王となってからは、積極的に人間界へ干渉はしていない。

 領土としては魔界で十分事足りておるし、退屈しのぎも探せばいくらでもある。まぁ、余としては、妻がいたのが大きいかもしれぬな。彼女は必要のない戦いを望まぬ。



 もちろん、人間との戦いになったことは何度もあるがな。


 勇者が攻め込んでこれば、戦わざるを得ない。

 血の気の多い魔王軍が勝手に人間界に進軍すれば、止めに行かねばならぬ。

 過度な力を持ったモンスターが出れば、捕獲にも向かう。


 できる限り、人間には近づかぬようにしても、余が出ればある程度の犠牲は出るものじゃ。

 それを人間側から見れば、全て魔王の仕業であろう?

 

 《魔王は人間の敵》

 それは太古の昔より受け継がれた人々の知恵である。

 か弱き人間が身を守るための手段なのだ。

 それを否定するつもりは毛頭無い。


 

 現在の魔王軍についてだが、人間達とそう違いはない。

 その能力によって指揮命令系統を分けておる。


 空を飛ぶもの、水に生きるもの、獣に近いもの。そんな感じでいくつかの部門に分けておる。

 もちろん、戦闘に長ける者ばかりではないのでな、調理班や事務方もいるぞ。

 そういえば、スライム種は魔王軍にはいなかったな。


 

 最後に魔界であるな。

 人間界と魔界の決定的な違いと言えば、繁殖の問題であろうな。


 魔界でしか生まれぬモンスターがいる。

 人間界でしか人間は生まれぬ。


 魔界には日光が届かぬ故、それが関係しているように思うが良くは分からぬな。

 

 魔界でしか生まれぬモンスターは原生種が多い。

 魔界に暮らす人間もそれなりにいるが、未だ繁殖した話は聞いたことがない。


 また、知恵のあるモンスターは人間界では滅多に生まれぬな。大半は魔界での出生者であり、また、種族としても上位モンスターが殆どではないかな。


 アルのように、スライムで知恵があり、人間界生まれというのは、奇跡のようなものじゃ。

 『ブルートスライム』という種族も余でも聞いたことが無いしの。

 そなたと出会ってから、いろいろと文献も探してみたが、やはり、名前や特徴が一致するスライムはおらぬようだ。

 そなたは突然変異種か、それとも神により生み出された者なのかも知れぬな。---




 魔王の話が終わった。

 まさか、魔王が”神”を語ろうとは。。。


「いろいろと教えてくださって、ありがとうございます。」

「大したことではない。」



 そして僕は考えを纏める。


 ・僕が『サクラ』として生活してきた中でも、魔王軍の脅威を耳にしたことがない。現在の魔王軍はおとなしくしているというのが、世間一般の見解であったように思う。そこは、魔王の話とも一致している。


 ・魔王はその愛妻の「無闇な闘いを好まない」という思いに従い、彼女がいれば、今後も人間界の脅威となる可能性は低そうである。


 ・魔王は人間界の事にも精通している。というか、人間的な部分がある。部屋のインテリアもしかり。例え話も、人間寄りの僕に合わせて話をしてくれた。人間を忌み嫌っているようではない。


(魔王はそんなに悪い人には見えないしな。。。奥さんが助かれば、きっと今後も大きな争いをしないでいてくれるかもしれない。。。)



 僕は願いを込めた賭に出ることにした。


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