第43話 ~魔王城~
「自室故、手狭であるが許せ。」
魔王が部屋に入る際に言った言葉だ。
だが、これのどこが手狭なんだ~!!!と叫びたくなるほど広い。。。
円形の部屋は、社交界でも開けるほどの広さがある。
正面に一段高くなった場所に玉座がある。その後ろにはバルコニーに続く窓があり、玉座に座ればその光が後光のように煌めくのだろう。
両サイドには彫刻が施された氷の衝立があり、その奥の雑多を隠し、部屋の印象をスッキリとさせている。
白色と氷を基調としているので、神々しさまで感じられる。。。
入り口から玉座までは、手織りの絨毯が続く。僕は魔王の手から飛び降りる。
絨毯の上品な光沢。触り心地は柔らかく、それでいて絨毯自体には重厚感がある。
確か、最高級品の絨毯だとちょっとした大きさでも職人が数年かけて作ると聞いたことがある。
この長さを作るとしたら、何十年かかるのだろう。。。
そんな職人への思いを馳せすぎて緊張感が揺るいでしまった。。。
僕は絨毯の肌触りを確かめるように。。。ごろごろしてしまった。。。
(しまっったーーー。)
「アルよ。見る目があるのう。。そなたは本当にスライムとは思えんな。その絨毯は150年かけて作らせた。余も気に入っておる。」
「ひゃ150年っすか?職人さん。。。長生きですね。。。」
「はっはっはっは。面白いのう。人間ではない。職人も魔族である。その素材も虹色蛾という希少なモンスターの幼虫が出す糸を使用しておる。人間界の絹のような肌触りであろう?しかもそれは染色しておらぬ。モンスターが出すそのままの色なのだ。珍しかろう?」
へぇ~。と僕は頷きながら、魔王の説明を聞く。
「さあ、アル。こちらへ。」
促され、魔王の後に続き、装飾の美しい玉座を通り越す。
(この玉座も見事だな~。これもゆっくり見たいけど。。)
「ただの椅子など見るまでもないわ。アル。こちらの方が良い眺めじゃ。」
「あっはい。もちろんそちらに。。というか、さっきから普通に僕の心読むの。やめてもらえません?」
「ふむ。難しいことを言うのう。余には普通に聞こえてしまうのだ。相手が強く思った事は通常の会話と大して変わらぬように聞こえてくる。余に聞かれたくないのであれば、考えるのを止めることじゃな。」
「それこそ。難しいですよぉ。」
「はっはっはっは。良いのじゃ。そなたの心に裏表がないからこそ、余はそなたを気に入った。心の声のように接してくれて良いぞ。畏まる必要などない。」
そしてバルコニーへ出る。
その景色は筆舌に尽くしがたい程の美しさであった。
広がる絶景は銀の世界。。。湖面を舞う白い雪。広がる森の木々は氷で透き通る。囲む山並みは木々を生やしていないが、それが氷の山肌を霊峰のように際だて、さらなる美しさを醸し出す。
「この景色全部が、魔王様の魔法ですか?」
「まだ、これからである。」
徐に魔王は両手を天に翳す。
細氷が降り始めた。その手を広げていくと、空に光の粒が浮かんだ。
細氷に光が反射し、ダイヤモンドダストとなる。その幻想的な美しさに、息をのみ、ここが魔界であるのを忘れてしまう。。。
バルコニーの柵の隙間からのぞき見ていた僕を、魔王は抱き上げ、視界の障害物を無くしてくれた。
「どうだ?余の自信作であるが。。。」
「はい。それはもう。。。こんな素晴らしい景色。。。初めて見ました。。。」
僕は感動すら覚える。
人工的に作られた景観だが、それはつまり、言い換えれば計算され尽くした美しさでもある。
感銘を受けないわけがない。
「気に入ってもらえたようで、余も嬉しいぞ。」
魔王がにこにこと目を細める。
「アルと余は趣味が合いそうじゃな。こちらも見よ。」
そう言うと、僕を連れて、衝立の奥へと向かう。
「このソファーはどうじゃ?冬兎の毛を使ったのじゃ。凶暴ゆえ、血を流して、毛皮を汚さぬよう捕獲するのに、皆困ったようじゃが、この白さと毛皮のやわらかさを持つモンスターは、他におらぬ。部下が苦労した甲斐があったな。」
魔王は僕をそっとソファーに降ろしてくれる。
「うわ~。なんなんすか。これ。たまんないですね~。」
ふわっふわの毛並みに身体を埋め、もふもふを堪能する。ホセの背中のように温かくはないが、それを超えるだけの肌触りがある。
「やはりな。アルなら分かってくれると思っておったぞ。」
そういう魔王もソファーに身体を埋めている。
「次はこちらも見よ。」
そう言って僕を抱き上げる。
魔王のテンションが高い。まるで、友達が初めて自分の部屋へ遊びに来た時の子供のようだ。
「今度は少し趣が違うぞ。」
壁に掛かったレースカーテンを開ける。
そこには、壁をくり抜いて備え付けられた、大きな水槽が出てきた。
「魔界魚の稚魚じゃ。」
5㎝ほどの色とりどりなネオンカラーの魚が水槽を彩る。
魔界魚は成魚となると10mを超す体躯となるが、稚魚はとても小さく、数も多く生まれる。
だが、魔界魚の成魚の絶対数が少なく、その存在を確認することが稀なのだ。稚魚をペットとして飼育できるものなど、そうはいない。
「きれいですね~。」
「この水槽の主は別でな。『ソフィア』おいで。」
魔王が誰かを呼ぶ。
すると、30㎝ほどの人魚が泳いできた。紫の流れる髪と薄紫の鱗を持った魚の下半身。手のひらには水かきがある。腕と耳の位置には鰭が生えている。
顔は人間でいうと17.18歳くらいだろうか。あどけなさと大人びた雰囲気を併せ持つ美少女だった。
「お呼びですか?魔王さま?」
水槽の縁に腕をかけ、可愛らしく小首を傾げる。
「今日も愛らしいの。客人を連れてきた。ブルートスライムのアルじゃ。アル、この子は魔人魚のソフィアじゃ。仲良くしてやってくれ。」
「よろしくお願いします。」
僕は初めて見る人魚に緊張しながら挨拶をした。
「よろしくね。」
魔人魚はにっこりと微笑む。
(うわ~。人魚っておとぎ話でしか知らないけど。。伝説通り、めちゃめちゃ可愛いんだなぁ。)
「そうじゃ、ソフィアにおやつを用意しておったのじゃ。暫し待て。」
「は~い。」
魔王ダルガが、おやつとやらを取りに、その場を離れた。
「ちょっと、あんた!魔王様にどうやって取り入ったのよ!ペットの座は譲らないわよ!」
なんだこいつ~。魔王がいなくなった途端に豹変した。そして宣戦布告してきた。
ていうか。ペットになるつもりなんて、更々ないんだが。。。
「なんか、勘違いしてるみたいだけどさ、僕は魔王様にちょっとお手伝いを頼まれただけで。。」
僕は無難な回答をしておく。
魔人魚は、いつ捕まえたのか、魔界魚を手にしている。
「ふん。信用できるかっつーの。」
そう言うと、ビッチビチと跳ねるその稚魚をいきなりバリバリと囓り始めた。
一匹の魔界魚を食べ終えると、口の端に付いた魚の血を手の甲で拭いとる。
清楚な見た目に反して、仕草と性格はワイルドなようだ。
魔人魚は、水槽の縁に飛び乗る。ブルブルッと身体の水を飛ばすと。。。
魚の下半身が脚に変わる。
彼女はすっくと立ち上がり、僕に向かってビシッと指をさす。
「私はこの通り、陸にも上がれるの。あんたが目障りな事するようなら、容赦しないからね!!」
腰に手を当て、ビシッと指さすそのポーズは威圧感もあり、格好いい。
だが、君はTシャツしか着ていないんだよ。。。正面だったらギリ良かったかもしれない。
しかし、僕は今、床にいるんだよ。全部見えてるよ。見えちゃいけない所まで、下から見上げるから、しっかりと見えてしまってるよ。
モンスター相手とはいえ、無防備にも程がある。そして、僕が元々女子だから、まぁ大雑把には大丈夫だろう。
「ソフィア、いつも言っているであろう?人の姿になるときには注意をしなくてはならぬと。水に戻りなさい。」
魔王が現れ、諭すようにソフィアを水の中へと促す。
ふて腐れて水槽に入った魔人魚はガラス越しにこちらを睨み付ける。
「どうじゃ。面白いであろう?」
「えっと。人魚のイメージが変わりましたね。。。」
「はっはっはっは。それは人間界の人魚であろう?この子は魔人魚じゃ。悪魔の変異種じゃからな。性格もその血を受け継いでおる。」
「あぁ。それで。顔は可愛いのに、やけに口が悪かったもので。ちょっとびっくりしました。」
ビシュッと頭に水がかかる。ソフィアだ。水槽の縁からこちらを睨んでいた。
「ちょっ。お前いい加減にしろよ。大人の対応にも限度があるからな!それと、もう一つ言っておくと、Tシャツだけで人を見下ろすんじゃない。見せちゃいけないものを自ら見せてるからな。女の子の自覚持てよ!」
どちらが思い当たったのかは知らないが、顔を真っ赤に染めて、もう一発、僕に水鉄砲を喰らわすと、水槽の奥へと逃げ帰っていった。
「はっはっはっは。アルよ。忠告をありがとう。いつも口を酸っぱくして言っておるのだが、なかなか聞かず困っておったのよ。これで暫くは気をつけるであろう。」
「そうですね。でも、性格ってそう簡単には変わりませんし。Tシャツじゃなくて、その場に対応した形に変貌できる、魔法具みないな服とかあるといいんですけどね~。」
ただの思いつきを言葉にしただけだったのだが。。。
「そうか。そうであるな。流石じゃ。アル。それは余も思いつかなかった。。。すぐに作らせよう。」
「え?そんな便利なアイテムあるんですか?」
「余は魔王であるぞ?この程度のものであれば、アイデアを具現化するなぞ些事である。」
「それなら、ソフィアの好みも聞いた方がいいですよ。女の子だから、好みとかもあるでしょうし。」
「ほうほう。他にも気付いたことはないか?」
「そうですね。。。水の中にいる時はスッキリさせておかないと泳ぐのに邪魔になりそうですよね。でも水から上がったら、どこまで装備できるか分かりませんが、靴とかも装備したいですよね?いちいち靴を履くのも面倒でしょうから。」
「アルを連れてきて正解であったな。余だけでは、気付くこともなかった。少しソフィアと話をしてもよいか?」
「もちろんですよ。僕は玉座を見学させてもらってるんで、終わったら声掛けてもらえますか?」
なぜ僕は、魔王のペットの衣装を考えているんだろう。。。そして玉座の見学まで。。。
いつしか魔王城を満喫し始める僕なのであった。




