第42話 ~魔王ふたたび~
僕たちは王城へと戻る。
ジョージの自室へと戻ると、正面のバルコニーにロッキングチェアが置かれ、誰かが座っている。
「ん?誰かな?」
ジョージと近づく。
美しいドレスを着た『サクラ』が眠っていた。。。まるでお姫様のようなドレス。。。
「お帰りなさいませ。ジョージ様。『サクラ』様が汗をかいていたご様子で。。。侍女たちが着替えと、気分転換にとバルコニーへお連れいたしました。」
ハクゼンさんが、まるで普通に生きている人間のように扱ってくれているのが嬉しかった。
「それにしても、このドレスはどうしたんだい?」
「気分転換にはオシャレも必要でしょ?」
魔法使いのマリィがハクゼンの後ろから顔を出す。今日も見事なゴスロリファッションだ。
「マリィの仕業か。。。」
ジョージが呟く。
「え?気に入らなかった?」
「そんな訳がないだろ。美しい『サクラ』がさらに美しくなった。さすがだ。マリィ。」
ジョージはマリィの頭を撫でる。
「えへへ。」子供のマリィは嬉しそうだ。
「でも、マリィ?こんなドレスどこから持ってきたのよ?あなたは持ってないでしょ?」
リリィの口調がキツイ。
「え?着替えの話をしたら、ハクゼンさんが隣の部屋のクローゼットから選ばせてくれたの。。。」
「隣?母上の部屋か?」
”母上の部屋”というのは、実際には違う。側室といえど、王子の部屋の隣に部屋を置くことはない。
母の死後、ジョージが自室を削り、隣に母の品々を揃えていたのだ。
「母の遺品の中に、こんな姫君が着るようなドレスがあっただろうか。それに、王族の紋章も入っていない。。」
ジョージが首を傾げる。
王族が身につける衣装には全て、その者に与えられた紋章が入る。
このドレスにはそれがなかったのだ。
「ジョージ様。それはお妃さまが、姫君であった頃のものですので。ご結婚の儀が執り行われるまでの、ほんの短い期間、王が贈られた数々の品の一つにございます。」
ハクゼンさんが続ける。
「本来であれば、独身時代の品々は全て処分されるべきものではございますが、お妃さまに関しましては、何も持たず、ここにおいでになりました。王も特別にと、お妃さまが気に入っておられた物だけを保管していらっしゃいました。」
「そうか。母上の。。。」
「サクラ様がご着用になるのであれば、お妃さまの物でもよろしいかと。。。」
「もちろんだよ。サイズもぴったりだね。」
ジョージが愛おしそうにサクラの髪を掬い上げる。後ろには一番星が美しく瞬いている。
(というか、ハクゼンさんまで当たり前のようにサクラを受け入れてくるんだけど。早いとこ手を打たないとマジで不味いな。既成事実を積み重ねてくる。)
「あの。ハクゼンさん。ジョージとサクラ、恋人じゃないんで。ジョージのお母さんの服とか着せなくて大丈夫です。」
きっぱりと断る。
「えぇ~?良いじゃん。かわいいじゃん?」
なぜかマリィが賛同する。
「おい。大人の事情ってやつがあるんだよ。お子さまは黙っててくれないかな?」
マリィを牽制する。
「ちょっと、このスライム、感じ悪いんですけどぉ。」
マリィが頬を膨らます。
「マリィ。失礼な態度をとるものではありません。」
リリィが叱責する。
「はーい。お姉様。」
ん?んんん??お姉様って?どういう意味の。。。
「あの。失礼ですが、リリィさんと、マリィちゃんはどういうご関係で。。。」
「え?アル。。。リリィとマリィは姉妹だよ?知らなかった?」
当たり前のようにジョージが答える。
「知らなかったよ。全然、似てないじゃん。性格も趣味も雰囲気も。」
「そうかい?名前も、秘める魔力も似てるけどな。」
ジョージ。。。秘める魔力で血縁関係を見ることはあんまりないです。。。
まぁ、名前はそっくりか。見た目の印象が対照的すぎて、気付かなかった僕も悪いな。
「さてと。僕は執務室へ行ってくるよ。少し仕事が溜まってるからね。今夜は遅くなりそうだから、アルはみんなと夕食を済ませて、先に休んでていいよ。」
「僕は疲れたから、少し休むよ。」
そういって僕はサクラの膝に乗る。
「今度はちゃんと起きてくれよ?」
ジョージが笑いながらサクラにショールを掛ける。
「もちろんだよ。」
そう言って、僕はサクラに掛けられたショールに潜り込んだ。
どれくらい眠ったのだろう。誰かに呼ばれている。
「アルよ。ブルートスライムのアルよ。」
「ぅん?うんん。」
僕はショールから抜け出る。
「・・・・!!!!!」
そこにいたのは。。。魔王ダルガだった。
「え?ちょっ。えーと。あれ?」
突然の出来事に周囲を確認する。
眠る前と同じ、王城のジョージの部屋のバルコニー。ロッキングチェアに眠るサクラの膝の上。。。
「な、何故、魔王様がここに?」
「そなたからの連絡がなかなか来ぬのでな。世界樹へ行ってみたが、封印されておるのか近づけぬ。もしやそなたの身に何かあったのかと思い、心配になって来てみたのだ。」
「そんなに何日も経ってないかと。。。」
何とかこの場を切り抜けようと頭を働かせるが、無理矢理起こされた寝起きの頭が働くはずもない。
「そうであるか。性急であったか。。。」
「魔王様。何故この場所がおわかりに?」
恐る恐る聞いてみる。
「そなたに魔宝玉を渡したであろう?」
(あ~あの玉。そんな機能までついてたんだ。。。)
マロウと連絡だけを気にしていたが、それ以上の機能まで付いていたとは。。。
「ふむ。人間の城もなかなか良いな。」
そんなことを言いつつ、ジョージの部屋を覗いている。そして扉を開けようとしていた。
「ちょっ。魔王様、待ってください。あのそっちは行かない方が。。。」
慌てて止める。
なんで魔王が勝手に人間の城を堂々と歩き回ろうとしているんだ。
「ん?ダメなのか?魔法にて気配は消す故、問題はないと思うのだが。。。」
「ダメですよ。魔法使うんですよね?賢者とか魔法使いもこの城にいますんで、バレる可能性が。。。できれば、この部屋で用事を済ませていただけませんかね?」
「そなたが無事なのであれば、用件は済んだな。では帰るとするか。。。」
え?それだけ?まぁ帰ってくれるなら、それでいいが。。。
「そなたの部屋を覗いておいて、余の部屋を見せぬのは失礼であるな。ふむ。一緒に来るがよい。」
どうしてそうなる?
「大丈夫です。間に合ってます。それに急に出かけると、友達が心配しますんで。」
「ならば、置き手紙でもしておくが良い。」
「いやぁ。見ての通り、スライムなんで手が無くて。。。書けないんですよぉ。だから、またの機会に。」
なんとか帰って欲しい。。。
「余が書こう。」
そういって、ペンを取るとメモを書き始めた。
覗いてみると。。。
「魔王様。それ魔族の言葉か何かですか?ちょっと僕には読めないんですけど。。。」
「そうかそうか。そうであったな。人間の文字で書かねばな。。」
不安がよぎる。。。
「あの~。失礼ですが、先ほどのメモ、なんて書きました?」
「ん?『暫し出かける』と書いたぞ。これで、そなたが出かけた事はわかるであろう?」
「いや。ダメでしょ。完全に僕じゃないですもん。怪しいですって。そんな言葉使わないんで。」
「ではそなたなら、なんと書く?」
「え?そうだな『ちょっと出かけてきます。アル』ですかね。」
「分かった。」
魔王がメモを書き始めた。
「いやいやいや。魔王さま。書かなくて良いですって。僕出かけないですもん。」
慌てて止めるが、全く聞いていない。
「よし、これで良いな。」
満足げに書き終えている。。。
ジョージの机の上にメモを置き、ペーパーウエイトを乗せている。案外芸が細かい。
一応メモを確認してみる。。。
「結構、字、下手っすね。。。。あっ!!」
しまった~~~~。無意識に声が出てた!!!
「そなた。。。代筆させておいて、結構失礼な事を言うのだな。。。」
「マジですいません。。あの。ホントすいません。。。」
平謝り。とにかく平謝りだ。
「2000年ぶりに人間の文字を書いたのじゃ。。。余とて、本気を出せば、もう少し。。。」
魔王がしょげている。。。
逆鱗に触れると思っていたが、意外だった。
「置き手紙も”下手”ではあるが、書いた。帰りも送ってやる。今度こそ文句はあるまいな。では行くぞ。」
下手って所を強調して言ってくる。結構、根に持つタイプだな。この失言で、もはや僕が何も言えない立場に追い込まれた。。。とりあえず行くしかないな。
魔王がバルコニーに出て、手を振りかざすと。。。
そこは一面に氷が張る湖の上だった。
湖畔の木々も白く凍り、その先には。。真っ白な白亜の城が聳え立っている。
「美しいであろう?模様替えをしたばかりでな。」
絶景の風景を指して魔王が言う。
(模様替えって?どの部分を?)
「ん?ここに見える景色であるぞ?魔界は日光が届かぬでな。暗いのじゃ。木々に葉も殆どつかぬ故、氷の白さと、氷の葉をつければ、まるで地上のようであろう?たまには、地上の風景も良いかとな。。寒さも魔法で調整している。それほど寒くはなかろう?」
もう意味が分からない。模様替えって言葉、こういう大規模な事には使わないと思う。
スケールの大きさに言葉を失う。
「この湖からの城が一番美しく見える故、連れて参ったのじゃ。では、我が家へ行くとしよう。」
魔王は飛び立つ。
魔王の手のひらに乗る僕は、確かに寒くない。むしろ、魔王の手のひらが温かい。寒いのは苦手なので、凍えなくて助かった。
城に着いた。途轍もなく大きな扉の前に立つと、自動で開く。。。
魔王がゆっくりと中へ入る。
正面に螺旋階段があり、天井にはシャンデリアが煌めく。吹き抜けの窓はステンドグラスになっており、僅かな魔界の光も採光するようになっていた。
中に入れば、階段も廊下も、調度品などもセンスがいい。人間より趣味が良さそうだ。
「すっごい、素敵なおうちですね~。」
キョロキョロと見回しながら、素直な感想を言う。
「そうであるか。それは良かった。妻の趣味なのだ。彼女も喜ぶであろう。」
自分の事のように魔王が喜ぶ。
螺旋階段を上がりきると、美しい魔族の女性が並び立つ、一際立派な扉に着いた。
「ここが、余の部屋である。」
僕は、期待と不安を胸に感じながら、魔王の部屋へと入る。




