第37話 ~暗殺のその後に~
---母は悪魔の子ではなかった・・・
ジョージが世界樹へ逃げ延びた頃。王宮では側室が息を引き取ろうとしていた。
王は側室の元へ行こうとしたが、悪魔の力を継承される可能性があると側近達がそれを阻止する。
悪魔は自分の死の間際にその力を継承させ、生まれ変わりを作る。能力が高い者であれば、能力・記憶などその全てを新しい器に移すことが可能であった。
その力で王を乗っ取られてはならない。そう考えたのだった。
王は力なく言葉を発する。
「彼女の痣は『蛇』ではない。。。」
その言葉に、王を押さえていた者達の手が一瞬緩む。
王はその隙をつき、側室の元へと走った。
彼女の息はつきかけていた。王は手を握り、必死に呼びかける。
王が来るのを待っていたかのように、その目はうっすらと開き、虚ろに王を見つめる。
「幸せでした。。。。」
消え入る声。。。美しい笑顔。。。。
それを最後に彼女は息を引き取った。。。
王は事の顛末を知ることとなる。
彼女の痣が発端となったことを悔やむ。
自分はもちろん知っていた。『蛇』ではないことを。
だが、周囲には隠し通したのだ。要らぬ詮索が起きぬよう。
まさかそれが徒となろうとは。。。
しかし誤解を解かなくてはならない。
そこで、大賢者ウォルゼスが呼ばれ、彼女の遺体見分を行わせた。
同時に暗殺立案者・実行者などの加担した者たちを捕らえる。
玉座の王はいつもと変わらぬ威厳を保つ。
暗殺の加担者は総勢50名を超え、前列に集められていた。
中には王家に代々仕える重臣もいた。
大賢者ウォルゼスは皆の前で言う。
「悪魔の痣ではありませんでした。」
宮廷中にどよめきが起こる。
暗殺計画者たちは事の重大さに青ざめる。
何の罪もない王族を手にかけたのだから。。。
「今回の件は、余にも責任がある。彼女の痣を知っておきながら、要らぬ詮索を避けるために、誰にも話してはいなかった。。。」
「だが、事は起きてしまった。皆の国を思う気持ちからの行動であったのだろう。本来であれば、反逆罪として死罪ではあるが、多くの優秀な臣下を失いたくはない。。。」
「妻は失われた。ジョージは行方が分からない。毒は致死量を超えており、剣による傷の場所と深さ。そして森へ出た痕跡。この状態を鑑みるならば、ジョージの死も確実であろう。。。」
「お前たちを無罪放免という訳にはいかない。だが、それでも今後もこの国に変わらぬ忠誠を尽くしてくれる者は一歩前に出よ。」
その言葉に大半の者が進み出た。残ったのは6名。
「その場に留まった者の言葉を聞きたい。発言を許す。」
6名の中で最高位の大臣であった者が口を開く。
「私は己の欲の為でございました。ジョージ王子がいなくなれば、次期王を傀儡とし、実権を握れるのではないかと。。愚計でございました。ここに残った者は私が引き入れた者です。私がいなければ、このような事態は起きてはおりませんでした。先導者である私の命をもって、この者たちへの罪はは何卒ご考慮いただきたく。。。」
その頭を床に擦り付け、懇願する。
「そこまでに思うのであれば、余は、お前も失いたくないのだがな。」
「気持ちは変わりません。」
「そうであるか。では、ここへ。」
玉座から降り、大臣を呼ぶ。
「長きにわたる勤め、ご苦労であった。」
王は剣を抜く。
「有難きお言葉。」
王の剣は大臣の首へと振り下ろされた。
「大臣一派の者は、しばらく牢にて頭を冷やせ。追って沙汰を出す。」
「残りの者は上着を脱ぎ、背中を出せ。」
ジュウゥゥ。
「・・・!!!!!!」
焼き印が押された。皆、声も出さずに激痛に耐えている。
通常、焼き印は犯罪者に対して行われ、その証とするために手の甲に押される。
それが背中に押された。自分たちが犯した大罪の烙印なのだ。
「それを以て、今回の刑とする。今後もこの国の為に尽くしてもらうのだ。見える場所に烙印は押さぬ。だが、この件を忘れぬために烙印と共にその罪を心に刻め。」
そう告げると王はその場を立ち去った。
温情を与えられた者たちは、王の姿を目で追うことなく、ただただ平伏していたのだった。
王は部屋に戻ると、力なくソファーに身体を沈める。。。
これで良かったのだろうか。。。
最愛の妻と子を失ったが、王としての立場があった。
葛藤などという簡単な言葉では表すことのできないジレンマ。
悲しみに打ちひしがれている時間すら与えられない。
ため息ばかりが出る。
コンコン。
「誰だ。」
「ウォルゼスにございます。大切なお話をさせていただきたく参りました。」
「入れ。」
「このような時に申し訳ございません。ですが、どうしてもご報告申し上げなければならず。」
「よい。気にするな。申せ。」
「はい。お亡くなりになりましたご側室ですが。。。私の娘でございます。」
その言葉に、王が身体を起こす。
「それは。。まことか?」
「はい。遺体見分の際に確証を持ちました。あの痣は我が娘のもので間違いございません。」
「だが、お前のところには子供は一人しか。。。」
「あの子の姉にあたります。生まれ落ちた時より、あの痣がございました。『蛇』でないことは確かであれど、形から、通常の痣でないことは分かっておりました。」
「私は王に仕える身。娘の痣が、幸をもたらすのか、災いをもたらすのかすら分かりませんでした。その意味が分からないまま、傍に置くことは危険であったため、友人夫婦に預けたのでございます。」
「彼らは、その昔、僧侶を職業としており、封印などにも長けておりました故。それから、私は必死に文献を探し回りました。マロウの保管庫にも赴きましたが、見つからず。。。数年が経った頃、友人夫妻から、実子として育てていきたいと申し出がありました。あの夫婦には子供がおりませんでしたので。」
「我が家ももう一人娘が生まれ、姉の方は、友人夫妻にすっかり懐いており、謎も解けないために、その申し出を受けました。」
「年頃になった娘が、怪我をした地方の豪族を手当てしたことをきっかけに、そこへ嫁に行ったと聞きました。とても遠い場所のため、今後会うことすらままならないだろうが、相手もとても誠実な青年で、娘もとても幸せそうに旅立つ姿であったから、安心して送り出したと。」
「それが、まさか王のご側室であったとは。。後宮にてお過ごしのご側室。お顔を拝顔する機会がほとんどなかったとはいえ、実の娘と分からないとは。。親失格でございます。」
「そうであったか。。。そなたの大事な娘御を守り切れず、本当に申し訳なかった。」
王は立ち上がり、ウォルゼスに深々と頭を下げた。
「そんな。。。恐れ多い事にございます。」
「だがしかし、痣の意味は分からず仕舞いであるな。」
「はい。何かの意味のある文様ではありますが、娘には特に力も無かった様子。」
「あぁ。彼女も痣を気にしていた。ジョージが生まれた時にも、念入りに調べはしたが、ジョージには何も無かった。」
「そうでございますか。それは良かった。」
「そなたに、もっと早く相談しておれば、全てが良い方向にいっておったやも知れぬな。。。」
「ウォルゼス。今さらであるが、そなたが彼女の父であることを公表するか?葬儀の参列も今後の事も、我が義父として最大限の事をできるようになる。」
「いいえ。今まで通りで。娘を養子に出し、娘が死ぬまで気付いてやれなかった罪深き父親でございます。
そして、この状態から、私が父親だと分かれば、痣の真偽すら怪しむ者も出てくるでしょう。要らぬ争いを生まないためにも、この件は王と私の胸の内にだけ収めておきたくお願い申し上げます。」
「そうか。そうであるか。。。では、ウォルゼス、これからも変わらず、我が世に尽くせ。」
「はっ!」
「では、大賢者ウォルゼスよ。我が王宮に住まい、常に余の傍を離れることなく、余を守ることを命ず。」
「御意にございます。」
こうして、暗殺事件は幕を閉じたのであった。
「僕が聞いたのは、こんなところだったよ。父は、今でも、家族としてウォルゼスさんを迎え入れたいみたいだけどね。やはり暗殺事件が絡んでいるとなると。。。難しいよね。」
ジョージは複雑な笑顔をしていた。
「そんなことがあったんだね。で、その痣は何か分かんなかったんだ。」
カルアが聞く。
「そうだね。僕も実際、母の痣を見たことはないからね。蛇に似ているということだけしか分からないよ。父もはっきりした形が分からなかったそうだ。ただ悪魔の蛇の紋章では無かったと。輪郭自体が違うようだよ?ウォルゼスさんが調べた文献にも同じ形は無かったそうだし。迷宮入りだよ。」
「ふーん。蛇に似た紋章ね~。龍じゃなくて?」
カルアの一言に僕とジョージは顔を見合わせる。
「カルア、痣が龍だったら、何かあるの?」
僕は勢い込んで聞く。
「文献にも残らなくて、蛇に似てて、それでいて、ただの痣ではないんでしょ?それって、『龍の民』の紋章じゃないのかなぁって。」
なんだ?それ。聞いたこともない。。
「それは継承されるものなのだろうか?」
ジョージは真剣な表情だ。
「うーん。どうかな。私も詳しくないんだよね。ただ、『龍の民』の事は文献には残せないんだって。何をしても書き記すことすらできないらしいよ。で、体のどこかに龍が出るんだって。」
「それは、この・・・」
ジョージが包帯を取ろうとする。僕は慌てて話を被せる。
「ねぇ。カルア、その話に詳しい人っていないの?」
「そりゃあ、マロウさんでしょ?本を探そうとするから見つからないのよ。普通に質問しちゃえば、答えてくれると思うよ。」
あっさりと手掛かりが手に入った。
「ジョージ。あとで、マロウさんの所に行こう。『龍の民』について、聞いて来ようよ。」
そして、僕たちはマロウさんのいる中央図書館へと行くことにした。




