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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=新たな出会い編=
36/322

第36話  ~王子の回顧~


 リリィの母親には姉がいたそうだ。


 訳があり、生まれてすぐ外に養子に出されていたため、リリィの母親含め、親戚一同すら、存在を知らされていなかった。

 知っていたのはリリィの祖父母夫婦のみ。。。


 ある日、その当時はまだ王子であった現王が地方視察に赴いた際に、事故に遭い、現場で処置にあたったのが、ジョージの母親だったそうだ。


 当時はまだ皇太子であったため、正妃はおらず、側室であればと、ジョージの母親は王宮に入った。 


 王の寵愛を一身に受け、1年後にはジョージが生まれた。

 世継ぎが生まれた事に、国中が祝福したという。


 そのさらに1年後には正妃が迎え入れられた。慣習もあり、正妃・側室で争うような事はなかった。

 王は二人の妻を分け隔てなく扱い、どちらもとても大切にされた。

 だが、正妃には子がなかなかできず、ジョージが10歳になるころ、ようやく正妃に男の子が生まれた。



 この国では、王になるためには、王位継承権を得る必要がある。これは、男女関係がない。

 しかし、ただ一つ厳しい条件があった。

 それは15歳の誕生日に王位継承権を与えられるかどうか。

 

 この15歳の誕生日に王位継承権を与えられなければ、たとえ王族であってもそれ以降に王位継承権が発生することはない。


 ジョージの王位継承権について王ですら与り知らぬ問題が水面下で発生していくこととなる。


 事の発端は、正妃の侍女の目撃談からであった。


 側室の侍女が体調を崩した。正妃は側室が不便をしているだろうと、自分の侍女を一人臨時に側室の元へ送った。


 その侍女が着替えの際に見たのだという。

 側室の腰に悪魔の紋章があった。と。


 それは腰の下辺りにあり、下着から出ることは無いため、気付かれることがなかったのでは無いか。


 しかし、一見しただけであったが、紛れもなく悪魔が宿す『蛇』の痣であった。そう報告がなされた。


 その報告を受け、側近達が動き出す。

 側室の出自を。

 しかし、その素性は生後間もなく養子に出されたというところまでしか辿り着かなかった。

 

 生みの親は分からなかったが、生まれながらに悪魔の子であったが故に捨てられたのだろうと結論づけられた。


 側近達の間で意見が割れる。

 まずは王に伺いを立てるべきではないか。

 王には知らせず、側室とその子を消すべきではないか。

 

 先に動いたのは、後者の者達だった。

 その時ジョージはすでに14歳と11ヶ月。来月には、王位継承権を与える儀式を執り行うべく準備がなされていた。

 悪魔の子に王位を継承させてはならない。一刻の猶予もない。と。。。


 学問。武術。医学。人を引きつけるカリスマ性。あらゆる事柄について秀でた才能を持つジョージは、時期国王に相応しいと誰もが思っていた。

 それに比べ、正妃の子はどこか何かが足りていない。全てを無難にこなしはするが、全てが凡人であった。国を御する立場には向いていない。

 

 それが一転、ジョージの才能は悪魔の力によるものだったと、手のひらを返す事態となったのだ。


 国の行く末を憂う側近達は、悪魔には国を渡せないと。

 国を影から操ろうとしている側近達は、正妃の子であれば自分たちの傀儡ができると。


 思惑は違えど、目的は同じ者が暗躍する。


 側室暗殺は容易い。が、ジョージは手強い。すでに武術では国内トップレベルの実力者であった。


 闇討ち程度では仕損じる可能性が高い。

 側室暗殺の後では、警戒され近づくことすらできなくなる。

 側室暗殺前であれば、仕損じたら最後、側室暗殺事態が危ぶまれる。


 暗殺は同時に。そう方針が決まった。

 


 その日、王位継承権で着用する衣装の打ち合わせが長引き、ジョージと母は珍しく二人で夕食を摂ることとなった。


 この国では、通常、王・正妃・側室・子供達。揃うのであれば皆で食事を摂っていた。

 一夫多妻であるが故に起こる問題が発生せぬよう、王は全て平等に扱うという意味を込めた慣習であった。


 この日、王は不在であり、正妃は幼子のために通常の時間に食事を済ませていた。


 ジョージが異変を感じたのはメインディッシュを食べ始めた頃だった。

 妙に眠気がくる。衣装合わせで疲れたのだろうか。。。

 そう感じた矢先。


 バターン。

 母が倒れた。。。


 「母上!」


 助けに行こうとしたが、自分の足下がふらつく。。。毒か。

 瞬時に頭を働かせる。毒の種類・盛られた時間・毒の量・母の容態・致死率。

 

 鈍くなった頭を必死に動かす。

 まず、肝心の毒がいつ盛られたのかが分からない。

 毒に関しては知識はかなり持っていた。


 どんな状況であっても、毒に関しては細心の注意を払ってきたつもりであった。


 無味無臭。自分の状態からして遅効性である。が、確実に死に至らしめる毒。

 心当たりが一つあった。毒妖花とレンメン草の組み合わせだ。図書館の機密保管庫で読んだ記憶がある。


 レンメン草は薬草だった。草の汁は傷に。煎じれば病気に。効果はそれほど高くないが、万能薬であり、手に入り易くもあったので、大衆薬としても広がっていた。


(確か、王妃派の薬師がレンメン草の研究者だったな。あいつか。)


 毒妖花は特定管理植物であるため、一介の薬師では手に入れることはできないが、食事にまで実行者が広がっている所をみると、毒妖花を手配する者がいても不思議ではない。


 ジョージは母親の手を握る。

 最早、声を掛けても返事ができる様子も無くなっていたが、ジョージの手を握り返した。

 1回・・2回・・・3回。

 ジョージも手を握り返す。

 1回・・2回。

 

 逡巡無くジョージは駆け出す。

 身体が重い。とにかく部屋にいかなくては。


 衣装の試着などを理由に促されるまま、帯剣していなかった。あの時からすでに暗殺計画が始まっていたのだろう。


 後悔しても遅い。母はもうダメだ。自分とて、メインディッシュまで全て食べた。摂取した毒は、致死量は超えているはず。


 どこまで持つかは分からないが、行くとこまで、行こう。決して簡単には死んでやらない。母との約束だから。。。




「王宮では常に死を覚悟しなくてはなりません。平和な時代が続いていても。です。万が一の時は、とにかくお逃げなさい。生き延びることだけを考えるのです。」


 優しい母が唯一、厳しい顔で話した事だった。

 そして約束の合図。


「二人でいて、何かあり、どちらか一方が生き残る可能性があるのならば、迷わず生き残ることを選ぶのです。二人で死ぬ理由などありません。未練が残らぬように合図を決めましょう?」

 

「相手が手を握って、自分が持たないと判断したのなら、3回手を握るの。相手はさよならの合図として2回握り返しましょう。口がきけなくなっていてもできるから。」


 あの約束が果たされる日が来るとは。。。


 ジョージは追っ手をギリギリでかわしていた。。部屋に行けば剣もある。ハクゼンもいる。ウエストバックの中には解毒作用のある薬が入っていたはずだ。


 部屋の前までくると、さらに異変に気付く。扉に誰も付いていない。いつもなら、扉を開けてくれるのに。毒の回った身体で開ける扉は石のように重かった。


「・・・!!!」

 脇腹に衝撃を感じた。熱い。。。


 振り返れば、剣を自分の脇腹に突き立てられていた。

 相手を蹴り飛ばし、部屋に入る。内側から鍵を掛けた。


「ハクゼン!!!」

 呼びかけても返答がない。部屋に明かりもない。


(ハクゼンも消されたのか?)

 ジョージの中で、ハクゼンが裏切るとは考えなかった。


 脇腹を触ると、ヌルッと生暖かい感触がある。

 徐々に痛みを感じ始めたが、そのおかげか毒で鈍くなった頭が少し回るようになっていた。


 暗闇の中、手探りで荷物を漁る。

 手早くウエストバックを付け、帯剣する。

 机の引き出しにある隠し戸棚から小瓶を出すと、次々と飲み干していく。


 小瓶には回復薬が入っていた。毒・麻痺・混乱などそれぞれに効果のある飲み薬が入っていた。

 中には研究途中のものもあったが、背に腹は代えられない。賭に出た。


 (どれかが効いてくれるといいが。)

 祈るような気持ちで飲み干すと、窓から飛び出した。


 走りながら、スカーフを腹に巻き付ける。出血が収まらない。

 走れば毒にも出血にも良くないことは分かりきっているが、追っ手を振り払わなくてはならない。


 裏門に近づくと、馬がいない。。

(ここまで、手を回すか。)


 そうなれば、裏門にも敵がいるとみて間違いない。

 ジョージは方向を変えた。


 裏庭の四阿へと駆け込む。追っ手が来ていないか、周囲を確認し、タイルの目地に剣を突き刺した。

 するとタイルが浮き、地下への道が出た。隠し扉になっていたのだ。


(父上が関与している可能性は低いだろうな。)

 そう信じて、地下への道を行く。


 王族だけが知る抜け道だった。

 この道は父と母しか知らない。正妃にも知らされることのない道であった。当然、側近であろうとも知らされる事のない道。

 抜け道はその性質上、最後の手段であるからこそ、王族それぞれに違った道を与えられた。全てを知るのは王のみ。



 追っ手は来ない。だが、油断はできなかった。抜け道はあくまでも森の中までだ。その先に保証はない。


 その為にも、少しでも遠くに行かなくてはいけなかった。走ることを止めるわけにはいかない。


 朦朧とする意識の中で、必死に走り続けた。


 抜け道を出ると、限界が近いことを感じていた。一か八か。口笛を吹いた。


(追っ手に聞かれないでくれ。。。)


 パカラパカラッ。愛馬が来た。

(良かった。お前は逃げていたんだな。)

 優しく撫でた。


「お前だけが頼りだよ?」

 そう言って愛馬に跨る。自分の血と汗で、手綱が滑る。

 手首に手綱を巻き付け、出発した。


 


「そして、目が覚めた時には、世界樹の下だったよ。」

 ジョージが懐かしむように話を終えた。


 重苦しい空気が流れる。が空気を読まないヤツがいた。


「ねぇ、それがなんで、国家機密になるの?暗殺くらいどこにでもある話じゃん!」


 カルア。。。軽いよ。。。


「そこで、問題になってくるのは、2点だよね?さて、カルアちゃん。分かるかな?」

 ジョージも軽い感じでカルアに返す。


「う~ん。ジョージが王位継承権をもらえなかったことと、お母さんが悪魔の子だったか。かな?」


「そうだね。概ね正解だよ。」


「一つ目。僕は15歳の誕生日に王都に戻ることができなかったから、王位継承権は与えられなかった。」

「二つ目。僕の母は少なくとも悪魔では無かった。が、確証が得られず、この話題は禁忌となった。」


「この二つ目には続きがあってね・・・・」


 ジョージの話は続いた。

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