第35話 ~世界樹と王都へ~
「今の話と、昨日の君の言動から推測すると、君はサクラを”世界樹の精”次期候補として考えている。ということなのか?」
「うん。まぁ。」
ジョージの質問に、カルアは言葉を濁す。
「だが、サクラは眠っている。彼女の意志を確認できないだろう?無理矢理に奪い取る気なのか?今の状態で、彼女を君に渡す訳にはいかないな。それとも君は、サクラを強制的に目覚めさせることができるのか?」
「えーと。目覚めさせるとかは。。。できないけど。。。でも、意志は確認するわ。どのみち無理矢理に世界樹にはさせられないの。」
カルアがこちらをチラチラと見てくる。
「どちらにしろ、僕はサクラを連れては来ない。世界樹の力で2度も命を助けてもらっている身で、こういう事を言うのは申し訳ないが、サクラが候補であるのなら、協力できない。」
「どうしてよ?あの子が眠りについてから出会ったんでしょ?話したことも無い子に、どうして肩入れするの?」
「僕はサクラが好きだ。あの子を妻として迎え入れたい。世界樹があろうが無かろうが生きてゆける。僕はサクラの方が大事だ。。君は、僕に悪魔にでも魂を売って1000年を生き延び、サクラが世界樹から解放されるのを待てというのか?」
「・・・・・・・・。」
カルアの口が開きっぱなしだ。呆れている。
(ね、ねぇ。。あいつ、何なの?眠ってる子をお嫁さんにしたいとか。。。バカなの?)
(僕に聞かないでくれるかな?でも、本気みたいだよ?今の僕、スライムの男の子なんだけどね。サクラに戻ったところで、結婚とか言われてもね~。)
(あんたってさ。。。世界樹になっても、サクラに戻っても。。。どっちにしろ大変そうだね。)
なんか、「世界樹になれ」と言ってきた張本人に同情されたようだ。
「ジョージ様。落ち着いてください。問題点がズレてしまっています。」
リリィが冷静に諭す。
「まして、素性の分からないお嬢さんを王族の妃になど、認められません。」
リリィさん。。。あなたも問題点がズレてしまってます。
なぜ、本人不在で嫁に行く行かない議論がなされているのだろうか。。。もう僕がサクラだと言ってしまいたい。。。まぁ、さらに面倒くさくなりそうだから、言わないけど。。。
「え?王族ってなに?」
カルアが食いつく。
「あぁ。ジョージ、王子様やねん。」
「えぇぇぇぇ。ホントに?」
「マジやで。王位継承権ってヤツは無いらしいけどな。」
「さらにいいじゃん。煩わしく無くってさ。」
ホセに向いていた身体をジョージに向き直し、
「寝てるサクラちゃんに惚れたんでしょ?なら、私が移れば目覚める事だし、私がお嫁さんになってあげる~。」
掌サイズの妖精がジョージにしなだれかかっている。。。
「いや。結構。」
面倒そうにジョージは手で払っている。
もう、話題が変な方向に行きっぱなしで、誰も戻ってこないな。。。
「あの~。サクラはどこにも行かせないから。ちょっと、その嫁入り問題は、置いといてもらえるかな?」
「じゃあ、世界樹はどう?」
「それも、まだだよ。軽い感じで聞いてくるなよ。とりあえず、サクラの問題はどちらも保留だから!!」
『チッ!』
カルアとジョージが舌打ちしてきた。
もう。。なんなの。。この人たち。。自由も大概にしてくれ。。
そんなこんなで気付けばお昼になろうとしていた。
「なぁ。カルアちゃん?こんな時間やし。俺、ストロベリーが食べたいな。もう一回出して。」
ホセが唐突に要求を出す。
「あんた、ずーっと話を聞いてる間も、パンケーキの残りのフルーツ食べ続けてたのに。まだ食べるの?」
「では、戦闘糧食もありますし、昨日の残り食材も使って、お昼ご飯を作りましょうか?」
「お昼を食べたら、一旦、王都へ帰ろうか?世界樹の話も聞けた事だし。」
このジョージの一言が、その後の問題に繋がっていくとは。。。
「え~。帰っちゃうの?せっかく仲良くなれたのに?」
「それは仕方ないんと違うか?ここの住人ちゃうんやから。」
「あっ。そうだ。私も連れっててよ!」
はぁ?なんでそうなる。世界樹だろ?樹が動けるのか?
「それはできない。。」
流石ジョージ。きっぱり断った。
「君が動けるのだとしても連れては行かない。サクラの身が危険だからな。」
そっちでしたか。
「てか、カルア。世界樹だろ?どうやって付いてくる気なんだよ?」
「え?せっかく黄宝王玉があることだし、ちょっとくらいなら、世界樹から離れられるし。サクラちゃんには絶対手を出さないって約束するから。ね。お願い。」
ジョージに手を合わせて懇願している。。。その下から僕にウインクで目配せも忘れない。
「別に、ええんちゃう?悪さしないって言ってることやし。」
ホセはどの問題にも関係していないので、適当に答えてくる。
「どうせ、王都に戻るんやったら、昼飯、向こうで食べへん?戦闘糧食は遠慮したいわ。」
食べ物目当てだったようだ。
「はいは~い。私それ賛成!!」
カルアが勢いよく手を挙げ、ホセの意見に全力で賛成してくる。
「どうなさいますか?ジョージ様。」
「どうする?アル。サクラの件があるから、君の意見に任せるよ。」
「僕はどっちでもいいよ?ちょっとの間だけって言ってるし。なんなら、お昼だけ食べさせて帰ってもらってもいいしさ。」
「アルもなかなかにキツイ事言うよね。」
ははっ。と乾いた笑いでジョージが僕を見つめてきた。
そして、黄宝王玉の龍になったカルアを連れ、僕たちは王都へ帰る事になった。
「カルア、世界樹は大丈夫なの?」
一番の問題点を聞いておく。
「もちろんよ。黄宝王玉があれば、世界樹から離れても大丈夫なの。それに、出かけている間は、世界樹テリトリーは完全封鎖よ。誰もたどり着けないわ。安心でしょ?」
「えぇ?そんなんでいいの?もし、世界樹を必要とする人が現れたらどうするの?」
「滅多にそんなことおきないわよ。万が一の時は、瞬間移動で戻ればいいし。」
そんな簡単なことなのか?
リリィが魔法扉を開く。瞬間で王城の裏庭に着いた。
「うわぁ。リリィちゃんって、ホントに優秀な賢者だったんだねぇ。扉をこんな風に使うなんてね。」
カルアが驚嘆の声を上げる。
「カルアさんに比べたら、私なんてまだまだです。」
「私のはさ、世界樹の力も入っているから。」
女子二人で褒め合いが始まり、楽しくおしゃべりをしながら歩いていく。
僕たちは一度、王城の部屋へと戻り、城下町へ出るために着替えを済ませる。
コンコン。
「ジョージ様、よろしいでしょうか。」
「どうぞ。」
リリィと龍が入ってきた。
リリィは花柄のワンピースに白いボレロカーディガンを羽織り、花飾りのついたバスケットトートバッグを持っている。つばの広い白い帽子にはバックと揃いの花飾り。少しヒールのあるウッドソールサンダルを履き。柔らかな金髪も降ろして毛先は緩く巻いてあった。。。どこかのお嬢様が完成している。
いつもの騎士の姿とはあまりにも違い。。。街ですれ違っても、気付かないかもしれない。
「おや。今日はとても可愛らしいね。」
窓際のソファーに腰掛け、スラリと長い足を優雅に組み、肩肘で頬杖をついたジョージが褒めると、リリィは顔を真っ赤にして俯く。
「カルアさんがコーディネートしてくれまして。。。」
か細い声で答える。
「かわいいでしょう?いつものスタイルも格好良くていいけど。プライベートなら、こういうのもアリかなぁって。」
うんうん。カルアはなかなかセンスがあるな。完全にデート勝負服が完成してるよ。
(でしょう?これで、ジョージとくっつけばさ、あんたも心おきなく世界樹になれるでしょ?)
とんでもない理由だった。。。
(カルアが王子様ゲットする話は良かったのか?)
(まぁ、身分違いの恋?ってもの魅力的だったんだけどね。まずは世界樹から抜け出さないと。恋は人間に戻ってからすればいいだけの話。。サクラちゃんの容姿なら、今後も王子の一人や二人。誑かせると思うんだよね。)
(とんでもなく自己中だな。)
(自己中にもなるって。3000年だよ?人の3倍かかってるから。しかもこれ逃したら、このまま世界樹と心中だよ?必死にもなるでしょ?)
(僕の返事次第か。。。重いな。)
(その心を軽くするために、『うん』って言ってよ。気が楽になるよ~。)
(そこら辺に旅行に行く感じで勧めてくるの、やめてくれないかな?)
(ちぇ。勢いでも返事してくれないかぁ。)
(考えもしないで返事しちゃった君と一緒にしないで。)
僕たちが心の中で押し問答をしている間に、ジョージとリリィはバルコニーに出て話をしているようだ。
アーチ型の窓を通して見るバルコニーの二人は、美男美女。リリィの髪は風に吹かれて美しく靡く。窓枠が額縁のようで、まるで絵画だった。
「なんや。お似合いやな。お二人さん。」
部屋に戻ってきた二人にホセがからかう様に声をかける。
「え?いや。僕たちはそんなんじゃないから。誤解しないでね。」
ジョージが慌てて言い繕う。
「いやぁ。ジョージはん。別に隠さんでも。。分かってますって。なぁ?」
そう言ってホセは僕と龍を見てくる。
せっかく面白そうなので、僕とカルアもニヤニヤと悪い笑顔で頷きながらジョージを見る。
「ほんとに違うんだって。分かってくれるよね?アル?」
なぜ僕に同意を求めるんだろう。。。
「え?僕は構わないよ?二人お似合いだしさ。そしたらサクラも安全だしね。」
かわいそうではあるが、面白いのでもう少し乗っかってみた。
「ちょ。ほんとに違うんだって。これ、極秘事項なんだけど。本当は言えないけどさ。う~ん。」
何かと葛藤しているようだ。そんなに極秘なら喋らなきゃいいだろうに。
「ジョージ様。この子達が情報を漏らすことは無さそうですし。話をしておいた方が、後々面倒が少ないと思われます。万が一漏らしたとして、オウム・スライム・小さな龍の話を皆がまともに取り合うとも思えませんが。」
リリィは信頼してくれたようだが、後半さらっと失礼なことを言ったな。まぁ仕方ない。概ね合っている。
「うん。そうだね。実は。。。僕たちは親戚なんだ。」
それが、なぜ、国家機密にあたるのか。
その時の僕はまだ何も知らず、ただ軽く聞き始めたのだった。




