第32話 ~世界樹になりませんか?~
カルアはお茶を一飲みして息をつく。
「うーん。どこから話せばいいかな。。。」
「身体の機能変化についてからがいいのかな。。。」
ゆっくり思案してから、話し始めた。
まず、サクラちゃんは眠りっぱなしだと思うんだけど。。。そのままで大丈夫よ。仮死状態といったらいいのかな。時間が止まってるといった方が良いのかな。。。とにかく、目が覚めるまでは、年も取らないから。それまでは安心してていいわ。
今度はスライム君よね。まずは外側の目立つ部分からいきましょうか。
そのオウムの羽根の尻尾。それはね、世界樹の力で融合してしまったの。本来は、欠損した部位を他の部位から持ってきて融合する力なんだけど、運悪く、オウムの羽根が刺さってしまって、融合してしまった。って感じなのかな?この後も融合の力は続くから、気をつけてね。
それから、頬袋。あんまり使ってないみたいだけど。空間魔法が施してあるから。結構いろいろ収納できるからね。
あ。これは、世界樹の加護の力じゃなくて、私からのサービスだからね。感謝してくれてもよくってよ。
まぁあとは、普通だけど、身体強化もされてるから。普通のスライムに比べたら、格段に衝撃とかにも強くなってるはず。防御にも攻撃にも使えるよね。
それから、ほんのすこーし。ホントに少しだけど、世界樹の加護の力がオーラとなって出ているから。雑魚モンスターが寄り付かないとか、あなたに触れた人が癒されるとか。そんなことがあるかな。
「ふぅ~。外側の効果としては、こんなところかな。」
カルアがお茶を啜る。
「えっと。これだけでも結構。。。。すごいよね。」
「融合なんて力があったんかぁ。いたずらしてもうて、ホンマ悪かったわ。」
「銀狼への一撃は、身体強化だったのか。」
「アルさんに無性に触りたくなるのは、癒しを求めての本能だったんですね。」
それぞれが口々に呟く。。。
「どれも、練習すれば、それなりに使いこなせるようになると思うから、必要なら頑張ってね。」
「それから、内面的な事だけど・・・」
あなたの気持ちや感情に大きく左右されてしまうの。
例えばね。
銀狼への攻撃。。
討伐隊員が狼から受けた傷の治療。。
ウォーキャットにやられた馬の傷。。
スライム君は、どんな時でも『助けたい。』その一心だったでしょ?その強い気持ちが、《加護の力》を増幅したの。
ジョージさんを助けた時は、そのオーラが他の人にも見える位だったでしょ?
それでね。ここからが重要なんだけどね。
スライム君は他の人たちよりもずっと純真なの。慈愛の心が強いっていうか。。。だから、私も《加護》を使って助けた訳なんだけど。
いつもその優しい心があったから、今まで《加護の力》を使っても良い方向にしかいかなかった。
でもね、もしその力が逆。つまり《悪》の心で使ったとしたら。とても危険になってしまう。
ある程度は世界樹の聖なる力で相殺できるとは思うんだけど、スライム君が力を使いこなすようになった上に、悪魔の心を持ったとしたら、私にも止めることができなくなるかもしれない。。。
「だから、スライム君の心が今の純真な心のままでいられるように見守ってあげて欲しいの。」
静かにカルアが話を締めくくる。
それは”世界樹の精”として?それとも人間の少女”カルア”として?
スライムの心を心配して仲間達に託す龍を僕はただ見つめることしかできなかった。
”世界樹の精”の話を聞き終えたホセが口を開く。
「そやな。確かにいつでもアルは人の為に優しいな。銀狼に向かっていった時だって、普通なら、友達を殺そうとしてるヤツなんや。憎悪の気持ちで向かっても不思議やなかったな。。。」
「あぁ。今までどれ程アルの優しさに救われてきたことか。。。」
「私たちにできることは少ないかもしれませんが、できる限り力になりましょう?」
「ところで、カルアちゃん、僕から質問してもいいだろうか?」
「私に分かることならね。」
「アルが僕を助けてくれた後、スライムの身体が焼け付く程の熱を出した上に、その身体も縮んでしまったんだ。どういう状態だったのか。分かるかい?」
「あぁ。それね。私もびっくりしたわ。あれは完全に力が暴走してたの。途轍もない感情の高ぶりね。加護の力なんて知らないのに、それを使い増幅し足りない分は生命力を使ってた。無茶にも程があるわよね。よほどあなたの事が好きなのね。」
「生命力。。。。?」
「そうよ?人間だったら寿命を縮めてるわね。スライムだったから良かったけど、それでも身体まで溶かして使うなんてね。常識離れも甚だしいわ。あなたが助かってなかったら、今頃どうなってたのか。考えるのも恐ろしいわね。」
「そんな事になってたんだ。。。僕、無我夢中で気がつかなかったな。。。」
「あの力は。。。アルの命を削らせていたとは。。。ごめん。。やっぱり、あの力は使わない方が良かったんだね。これからは、使いこなせるようになってからじゃないと使ってはダメだよ?」
僕を撫でるジョージの手が、いつもより力強く。それでいていつもより優しく感じられた。
「少し話も一段落しましたし、カルアさんが世界樹になる経緯については、夕食を摂りながらにしませんか?」
リリィが椅子から立ち上がりながら言った。
そう言えば、話が大きく脱線し、先に”世界樹の加護”について聞いてしまった。
リリィの提案にみんなで同意し、夕食の準備に取りかかる。
大した材料を持ってきていない。。。ということなので、献立はカレーになった。
カレーでもシチューでもスープでも良かったのだが、カルアの国ではカレーが国民食だったらしく、懐かしいからとカレーに決まった。
カルアは龍では手伝いにくいといい、妖精の姿になっていた。
「ねぇカルア。他には具現化できないの?どうせなら人間になった方が良くない?」
「宝王玉は世界樹の力を出すという意味があるの。だから、中にあるシルエットの動物になるのは私の負担も少ないし、具現化したときに、力を発揮しやすいから。」
「え?宝王玉って、そんな意味があったの?」
「え?宝王玉って、何だと思ってたの?」
僕とカルアは不思議顔で見つめ合った。
「たぶん、誰も知らない情報だよね?英雄アルフォンだって、あの手帳の内容からすると気付いていなかったよ。」
「え?アルフォン?懐かしい名前ね。あいつ今頃どうしてるのかしら?」
カルアは遠い目で過去を振り返っているようだ。
「やっぱり知り合い?」
ちょっと聞いてみる。
「まぁ知り合い?と言えなくもないかな?私のスカウトを断ったんだから。おかげで私は2000年も余分に世界樹をやる羽目になったのよ。」
具材の下ごしらえをしながらする話題ではないな。
「ちょっと待って。凄い内容だね。こんな状態では落ち着かないから、夕飯が出来上がってから続きにしないか?」
ジョージが慌てて止めに入った。
僕たちは気もそぞろにカレーを作り終え、食卓についた。
「では、いただこうか。」
ジョージとリリィは胸の前で手を組みお祈りをした。
僕とホセはとりあえず頭だけ下げ、カルアは手を合わせて。
『いっただきま~す。』
3人の声が元気に揃い、夕食が始まった。
カルアは3000年ぶりのカレーに感激している。
ホセは「鳥にはカレーはやっぱ無理や。」とごはんにがっつく。
僕はカレーの熱さに四苦八苦しながらも舌鼓を打つ。
少し落ち着いたところで、リリィが切り出す。
「宝王玉の意味と、カルアさんが世界樹になった経緯をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「そうだったわね。どっちからにしようかな。」
まずは、宝王玉からね。
みんなは、宝王玉については、”持ち主の力を増幅する綺麗で不思議な玉。”とでも思っていたのかな?伝承でもそんな感じでしょ?
私も、宝王玉を自分で作った訳ではないから、詳しくは無いんだけど、とりあえず、世界樹が関係していることは間違いないわ。世界樹の力があって、宝王玉はできている。
それに大陸や海も関係しているの。その数の分だけ、宝王玉は種類があるから。
私の時は6つの海と6つの大陸。だから、6種類だった。
今は7つの海と7つの大陸になったから、7種類あるはず。
全てが揃うと何かある。みたいなんだけど。。。歴代の世界樹でも全部揃ったことはないみたい。
だから、何が起きるのかは、私も分からないし、私のいた頃より、1つ増えているはずなんだけど。
私にもそれがどういう宝王玉なのかは分からないわ。存在があるのは確かに感じられるけど。
全ての力を宝王玉に与えては危険でしょ?だから、それぞれに決まった能力が授けられ、能力が見合った者だけが、その力を使うことができるの。
リリィは翠を持っているから賢者なのでしょう?
「ねぇ。カルア、僕が持ってきた黄色は?何の職業なの?」
「ふふっ。黄色はね。職業ではないの。『世界樹が認めた者』よ。だからあなたが持っているのよ?アル。」
そこからは、宝王玉の力の制御や引き出し方などを、カルアがリリィに教えていた。
リリィは知らないことも多くあったようで、熱心に聞き入っていた。
僕たち男3人は入る余地なく、夕食の後片付けも済み。。。
「ごめんなさい。話し込んでしまいまして。。。随分遅くなってしまいましたが。。。」
リリィが申し訳なさそうに戻ってきた。
「この続きは、明日でもいいんじゃない?」
カルアが提案する。
「そうやな。驚きの連続で、疲れたな。寝よか?」
「じゃあさ。ジョージもホセもアルも。ベッドはできてるから、リリィちゃんのを作らなきゃね。」
カルアがそそくさと樹の根元へ向かう。
「え?カルア。どういう意味?」
僕は意味が分からず、聞いてみる。
「え?樹の根元、あなた達に合わせて、形状をぴったりにしたじゃない?リリィちゃんだって、ぴったりの方が眠りやすいんじゃない?」
あっ。そう言えば、世界樹の下で、何日かしたら、急に寝心地が良くなった。
「あれ、カルアだったのか。。。」
「今頃?あの時、「おまえ、いいやつだなー。」って言ってくれたじゃない?嬉しかったんだけど?適当に言ってたの?」
「まさか、本当に樹が気を利かせてくれたなんて思わなかったよ。」
「長年”世界樹”やってきたけどさ。ベッドを作ってお礼を言われたの、アルが初めてだったから、ものすごく嬉しかったんだけどなぁ。あの時の感動。返して。」
カルアは口を尖らせて不満顔だった。
それをさておいて、カルアはリリィのベッドを作ってくれた。
「とっても身体に合ってて、気持ちがいいですね。ありがとうございます。カルアさん。」
上品にお礼を告げるリリィにカルアが照れていた。
夜は更け、みんなが寝静まったころ。。。
(ねぇ。アル?起きてる?)
心に直接語りかける声。カルアだ。
(うん。起きてるよ。どうかした?)
(アルとだけしか話せないから。こんな時間にごめんね。)
なんだか、カルアがしおらしい。
(なんか、仲良くなっちゃたし、言いづらいんだけど。。。)
カルアは言い淀む。
(なに?)
(世界樹になってくれない?)
(・・・・・・・?・・・・・・は?)
あまりにも突然の事に、僕の思考は停止した。




