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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=新たな出会い編=
31/322

第31話  ~カルアの回顧~

「それでね・・・・」と

 ”世界樹の精”=カルア”の話が始まった。


 私が生まれたのは、砂漠の広がる『黄の国』なの。

 日が昇ると、平均気温は50度を軽く超えて。逆にね日が沈むと気温は氷点下まで一気に下がる。水がほとんどないから、とても気温変動が大きくて。

 そんな環境だったけど。国としては貿易で栄えていたから、飲み水とかは比較的手に入りやすかったかな。最低限は手に入る感じ。


 私の生まれ育った村は、小さなオアシスがあったから、旅人が立ち寄ったりして、賑わってたの。

 うちは小さなレストランと宿屋をしてたから、私はウエイトレスの傍ら、踊り子もしたわ。


 ある日、王様が村に寄ることになって。。。なんでも途中でラクダの調子が悪くなったんだって。無理して進むより、オアシスがあるなら、立ち寄ろうってなったらしくて。


 そうなると、村の威信をかけておもてなしをすることになってね。宴の席で踊りを披露することになったの。踊り子は10人くらいいたかな。。。

 それで、王様達が帰るときに、私を気に入ったからって。踊り子として連れ帰ることにしたみたい。小さな村だし、私の気持ちとかは関係なく、私は連れて行かれたわ。可愛いって罪よね。


 そしたらね、砂漠のど真ん中で、クーデターってやつが起きてね。王様が殺されちゃったの。

 私は昨日今日会ったばかりの人たちばかりだし、敵も味方もわかんないし。とにかく馬車の陰に隠れて。

 私の服は村を出るときのままだったから、奴隷と勘違いされたみたいでね。生き残れたの。

 綺麗な服を着た人たちはみんな殺されてた。


 でもそのせいで、奴隷の市場に連れて行かれて、売られちゃったの。

 私を買ったのはね、灼熱の大陸『赤の国』で貿易をしてる商人だった。

 『赤の国』では奴隷制度がなくて、奴隷として働かせる人は他国の人間しかダメみたいだった。

 

 でもね。私を買ってくれた商人さんはとっても裕福だったし、とってもいい人だったの。奴隷扱いされたことは一度もなかった。

 村を出て、奴隷として売られた時、私13歳だったの。家の手伝いとかもあって、時代も古かったしね。教育なんてさっぱり受けてなかった。


 そんな読み書きもできない私に、商人さんは勉強を教えてくれたわ。

 勉学とか何にもない真っ白な状態だったし、若かったし。スポンジが水を吸うみたいに、どんどん吸収できてね。

 15歳になる頃には、商人さんのお店の人と一緒に外国に行くことも多くなったわ。


 基本的に海外貿易の担当者は1国1人。いくつもの国の言葉をネイティブ並みに使えないと商売ができないから。でも私は殆どの国の言葉を話せたから、頼まれればいつも同行したわ。

 気付けば、6つの海も6つの大陸も行ってた。今は7つだけど、当時はまだ6つしかなかったのよ。


 ある日、永久凍土の『白の国』へ行ったときだった。

 この国の氷はとても溶けにくくて、高額で取引される商品でね。視察のために洞窟に入ったの。つららとかは特に珍しいから、下見にね。

 その時、運悪く地震がおきて。。。

 20人くらいいた、視察団は閉じこめられてしまって。。。つららが刺さって死んでしまったり、岩が崩れて重傷だったり。怪我が一つもなくて、まともに動けるのが私しかいなかった。


 入り口は完全に塞がってしまって、とても掘り起こすなんてできなくて。

 そしたらね、奥から微かに風が吹いてきたの。もしかしたら反対側もどこかに繋がってるかもしれない。そう思ったわ。

 もうそれしか頼りにできないから、私はとにかく、奥に奥に進んだわ。

 行き止まりかと思って、引き返そうとしたとき、私が一人やっと抜けれそうな穴が見えたの。

 もちろん躊躇無く進んだわ。


 そこからの光景が今でも忘れられないんだけど。。。



 這いずって穴を抜けると、そこは日の光など当たらない洞窟であるにもかかわらず、月明かりがあるかのように明るい。

 顔を上げると、目を疑う光景が広がる。


 今まで、洞窟に入ってから、ここまで広くて天井が高く、開けた場所など無かった。

 それなのに、目の前に広がるのは。。。


 真っ暗な中で、キラキラと光る美しい葉。何人かで手を繋いでようやく一周届くほど力強く太い幹。

 樹冠が特徴的で、枝張りは左右対称に大きく広げた形をしていた。


 カルアは樹に歩み寄ると、キラキラと光の粒が舞い落ちる。


 樹の下から見上げると、舞い落ちる光の粒に包まれ、息を呑む美しさ。。。

 幻想的。神秘的。そんな言葉では足りない程の景であった。



 「ホントに綺麗でね~。感動で、しばらく動けなかったなぁ。」

 ”世界樹の精”カルアが感慨に耽っている。


 僕たちも一息つく。リリィがお茶を淹れなおしてくれた。


「もう少しかかりそうだし、今日はここに泊まろうか?」

 ジョージが提案する。

「そうですね。明朝、改めて出直すよりは。。では、私はテント基地跡まで戻り、通信魔法にて連絡を入れて参ります。」

 リリィが立ち上がる。


「え?なんで?ここから通信すればいいじゃん。」

「カルアちゃん。ここでは、通信・移動・座標点のような、位置が関係する魔法はことごとく使えないんだ。」

 カルアの発言に残念そうにジョージが答える。


「ん?だからさ。その制限かけてるの私だから。全部の解除はダメだけど、通信魔法の穴を開けるくらいはいいよ。」

 何でもないかのように軽い答えが返ってくる。

 

 リリィとカルアは、タイミングを合わせて通信魔法をサクッと終えると、


「一応確認の為に言うんだけどぉ。私、これでも3000年世界樹やってるんだよね。この体だって、能力で具現化させてるんだし。いろいろできるんだよね~。その割に扱い軽い気がするよね~?大切なことだから、もう一回言うけどぉ、私、世界樹だからね!」


 (あぁ。そうだった。アホなだけのおこちゃま。では無かったな。)


「言ってるそばから、結構失礼なこと考えたよね?」

 カルアのジト目が僕に向く。


「そっそんなことないよ~。身体を具現化なんて、すごいよねー。ほかにもできるの?」

 誤魔化すために適当なことを口走る。


「もちろんよ。そうね~。例えば、黄宝王玉イエローオーブのドラゴンにだってなれるわよ?」


「えぇっ~。マジで?」

「凄いやん!」

「見てみたいな。」

「お願いできますでしょうか?」


「そんなに頼まれたら、断れないなぁ。特別だよ?」


 なんだか、張りきり始めた。。。お偉い世界樹なんだよね?扱いが軽いのが気に入らないという割に、自分の行動が軽いのは気付いているのだろうか。。。

 まぁこちらとしても、ドラゴンを見たいし、放っておこう。


「じゃいくよ~。」

 

 掛け声も軽いな。。。


 妖精フェアリーの身体が光の粒となって翠宝王玉グリーンオーブに吸い込まれるように消えていく。。。

 翠宝王玉グリーンオーブの光が収まると、黄宝王玉イエローオーブが光を放ち始める。


 光が徐々に強くなり、眩しいほどの明るさとなった時、光が弾ける。。。

 

 光の後に顕現するのは、偉大なる黄金の龍。。。?


「なんやこれ。ちっさっ。」

 ホセが全員の感想を要約した言葉を発してくれた。

 そこにいたのは手のひらサイズの黄金の龍だった。。。


「えぇ~~~。失礼じゃない?見たいっていうから、見せてあげたのに~。火だって噴けるんだから~。」

 ムキになっている。

 大きく息を吸い込み始め。。。


「マズイよ。火噴きそう!!」

 僕は後退りする。


 ポン!

 火の玉が出た。その体躯に合わせて炎のサイズもかわいらしい。


「ぎゃはははは。火の玉もごっつうかわいいやんけ。」

「ホセくん。笑い過ぎですよ。くくっ。」

 そうは言ってみたものの、僕の肩も震えてしまう。。


 顔を真っ赤にしたドラゴンは手をこちらに翳してくる。

 手の動きに合わせるかのように、火の玉は飛び。。。。


「あつっ!あっついやん!!」

 ホセの冠羽に火の玉が触れ、燃えている。

「くくっ。」

 僕が笑いを堪えていると、ホセが頭を押し付けてくる。


「あつっ!ちょっ。ホセやめろって。」

「消火活動や。」

 ドヤ顔で僕を見るホセの冠羽は焦げて茶色くなっていた。


「もう。ホセぇ。見ろよぉ。ここ!熱でちょっと減っちゃったじゃん。これスライムじゃなかったら、怪我してるんだよ?」

「スライムやなかったら、やってへんわ~。」

 ほんの少し窪んだ身体をホセが撫でてくれる。


「仲がいいのね。でも、そのスライム、世界樹の加護がかかってるから、ちょっとやそっとで死にはしないはずだけど?」


『えっ?』

 全員でカルアを見る。驚くのは今日何度目だろう。。。


「加護って?なに?」

 僕はカルアを見つめる。


「あれ?気付いてなかったの?あの女の子、サクラちゃんだっけ?とあんたに加護をかけてたんだけど。。。」

 

 キョトンとしていると、

「サクラちゃんの傷、深かったけど、死ななかったでしょ?普通あの傷で10日以上も放置してたら、傷だけでも死ぬし、血の匂いで動物やモンスターにも襲われるでしょう?不思議に思わなかった?」


 そうだったのかぁ。そりゃ良く助かったなとは思った。が、加護を受けた感覚がない。

 (いつの間に。。。)

 (あなた、木の実食べたでしょ?あれ、世界樹の実なの。あんたが食べたから、本体にも加護が与えられたのよ?食べなくても無理矢理助けたけどさ。)

 カルアが心に入り込んできた。


 (お前、勝手に人の心に入ってくるなよ。)

 (でも、あんたがあの女の子だってこと秘密にしてるっぽいし、内緒の方がいいのかなって。一応気を遣ったんだけど。別に普通にしてもいいよ?)


 (ありがとうございまーす!!)

 カルアの意外な心遣いに感謝した。


「加護はアル達だけに与えられたのかい?」

 ジョージが質問する。

「そうよ?あの女の子を助けたかったんだけど、即死に近い状態の傷で。。。世界樹までは来れなさそうだったから。慌ててね。普通はやらないのよ?」


 ほぅ。とみんなが納得している。


「それに、弱いけど、いろいろと世界樹の力が使えるはずなんだけど。。。ま、あれから何日も経ってないし、使う機会はないか。。。そんなピンチになることなんて滅多にないもんね。」


 いや。ありました。結構ありました。

 数々のピンチが思い出される。そして助かってきた。。。マジで感謝だ。


 全員が思い当たる節ばかりで、大きく頷いている。


「でも、どこから、どこまでが世界樹の力だったんだろうね。」

 僕は何気なく呟いた。


「え?あんた達、そんなにピンチばっかりなの?どんな生活してるのよ?」

 そう言って、カルアが僕の頭に手を翳す。。。

 いや。指突き刺さってますけど。。。


「あ~あ。あんた達、すごいわね。よくこんな無茶苦茶なことしてるわ。これスライムいなかったら、ヤバイやつもあるじゃん。」

 目を瞑って、ぶつぶつ独り言を言っている。何かが見えているようだ。


「ここまで、世界樹の力を使い倒して、気付いてないんだから、説明した方がいいんだよね?」


『お願いします!!』

 

 僕たちは期待に満ちて、カルアの話を待つことにした。


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