第3話 ~自分の正体~
パニックになった2羽の鳥は未知の大空へと飛び出した。
「で、どうなったの?」
勢い込んで聞く。
「ホンマはパニックになってへんのや。俺とジョセフィーヌちゃんの迫真の演技や。わかるか?」
できる男は違うんや。とか遠くに流し聞きながら。
「で、それから?」
ホセはそれには答えず、
「まぁ、こんな時間になってもうたし、今日のところはここまでやな。俺、寝るわ。」
「えっ?なあ、ホセ。いいところじゃん。なぁってば。」
もう寝た。
(自由すぎるだろーーーーーー)
ホセの話に夢中になって、気が付けば、日が暮れていた。
が、しかし、クライマックスで話を切るか。普通。
こっちは気になって全然眠れない。まあ、ホセが悪いやつじゃないことだけは分かったな。
モヤモヤする気持ちで何度か寝返りをうち、いい匂いの落ち葉に顔をうずめて無理矢理に目を瞑る。
(あぁ。気になるぅ。)と呟きながらしばらくしてから夢の中へと落ちていった。
--11日目--
「おっはよーさん!!今日も気持ちのええ朝やで~~~。」
テンション高っ。
「朝からうるさいんですけどぉ。まだ眠いんですけどぉ。」
恨みがましく言ってみるが、実際のところ、目は覚めてしまって、二度寝はできそうもない。
しかし、この大きな樹の下へやってきて11日目。初めて人の声で起こされて、緊張も不安もない朝となり、とても嬉しくて、ニヤけそうになった目覚めだったのはホセには秘密だ。バレたら調子にのりそうだからな。
「いやぁ。地面で寝るなんて初めての経験やったけど、案外、気持ちよく眠れるもんなんやなぁ。」
ホセは上機嫌だ。
「そりゃそうだろう。ベッド貸してやったんだし。重傷のけが人だから、いつもより草を多くしてふかふかにしたんだからさ。」
「あっ。お前の寝床やったのか。それは悪かったな。言うてくれれば、そこらへんの木の枝に行ったんやけどな。」
「お前、『寝る!』って言って、瞬間で寝てたよ。揺すったけど、全く起きませんでしたけど?」
「寝つきはええ方やねん。」
愛嬌のあるその言い方で、こちらもつられて笑ってしまう。
「そ・れ・で。」ホセがすり寄ってくる。
(ん?その溜めはなんでしょう?)若干身構える。
「教えて欲しいねんけど。。。」
「朝といえば、朝食ですよね~。ご・は・ん・は?」
「いやいや。ホセ君。可愛らしくご飯をねだられましても。こっちは起きたばかりなんで、用意は当然ありませんけども。」
「うーん俺もね。早く目が覚めたんで、命の恩人に朝食でも用意しましょかと思いましてね。」
「この辺りを一周してみたん。せやけど、この大木、こんだけおっきい枝ぶりして、1個も実をつけてないねん。まあそこで好きやないけど、我慢して虫でも、と思うたのやけど、木の上にも、草っ原にもおらへん。どないなってるんや。」
「あぁ。ホセ君でも見つかりませんでしたか。」
(やっぱり、木の上にもいないのか。)と呟くと
「ということは、君は何を食べてるん?草か?」
「これこれ。」
そう言って、落ち葉で木の根についた朝露を掬い集めてホセに差し出す。
「はぁ?水だけかいな。これじゃ腹の足しにもならへんわ。」
わずかな朝露を一気に飲み干してため息をつくホセ。
そこで、器代わりにした落ち葉に気付く。
「この葉っぱ。ええ匂いするなぁ。それに、ここ、齧ってあるやん。これが食べられるんやな。」
「あっそれは。」
止める間もなくホセは齧りついていた。
「なんやこれ。味せえへえんやんか。匂いだけかいな。期待持たせる葉っぱやな。」
そういって、落ち葉を返された。
「これも違うとなると、ホンマに何を食べてるんや?」
「それがな。ホントにそれだけなんだ。朝露なのか樹液なのかわからないけど、それを舐めてるかな。お前みたいに落ち葉も一口齧ってみたが、食い物じゃなさそうで、その一口で終わったし。。。」
「もちろん、虫とかも探してみたよ。食料としてじゃなく、この辺りの状況把握的な意味で。だけど、虫も動物も生き物らしきものは、この木の周囲にはこないんだ。。。」
「お前、ここでどれくらい生活してるんや。」
「まだ、11日目だな。それよりさ、昨日の話の続き、気になって気になって。聞かせてくれよ。」
「それよりも、生きる為の情報の方が大切やろ。まずはそっちからや。」
「ジョセフィーヌちゃんよりも?」
「腹が減っては戦もできへんで。」
ホセがまともなことを言った。
「それもそうだな。」
自分に降りかかった出来事をホセに聞かせる。
森で熊に出会い、逃げようとしたところ爪で吹き飛ばされ、その結果、深手を負ったこと。
意識が朦朧としながら、気を失うまで這いずってこの辺りに来たこと。
この樹の下で目が覚め、その時には傷が癒えていたこと。
傷が治るほど気を失っていたから、時間経過がわからないが、目が覚めた日を1日目として数えはじめ、4日目までは、この樹の周辺を探索していたこと。
5日目にホセを見つけ、10日目(樹の下生活の)にホセが目を覚ましたこと。
「そして今日が11日目ってことだ。」
「その間の飯は水分だけなんやな?空腹はどないしてるんや?」
「それがさ、毎朝あの木の根についた水分をとってるからか、空腹は感じてないかな。。。そういえば、雨が降った日には、雨も飲んだな。」
「そうか。それはお前だからかもしれへんな。。。俺も今のところ空腹は感じてへん。せやけど、オウムの俺には時間の問題かも。」
(ん?空腹より気になることを言いましたが?)
「なぁ。『お前だから大丈夫』ってどういう意味だ?オウムのお前が腹減るなら、こっちだって腹減るのは同じはずだろ。」
「だって、お前スライムやん。なんか水分だけで生きていけそうに見えるんやけど。」
「え?ええーーー!!!スライムってだれが?」
「お前スライムちゃうん?どこからどう見てもスライムやねんけど。赤いスライムは初めて見たけどな。二本角やし、スライムっぽい見た目の違う生き物なんか?」
しばし考え込む。
「そうかー自分はスライムなのか。。。」
「お前、まさか自分のこと、知らんかったんか?」
「あぁ。自分が何者かって考えたことないし、自分の姿って見えないしなぁ。。。それに自分がスライムって気づかなかったけど、特に困ったことは無かったしな。」
「そりゃ熊にも飛ばされるわけやな。今までよう生き延びてきたな。」
「そうかー。スライムって事なら、いろいろできることありそうだな。。。そうとわかったら、ちょっと、いろいろ試そうぜ。ホセ手伝えよ。」
「お前、俺のこと軽いやっちゃとか言うてたけど、お前の方がよっぽど軽いで?」
バシバシと僕を叩きながらホセが大笑いしていた。
「ところで、お前の名前も聞いてなかったんやけど、なんて名前なん?」
ホセに言われるまでそれも気づかなかった。
「名前か。。。ないな。。。それ以前に、スライムって性別あるのかな?」
「お前が知らんこと、俺が知るわけないやろ。」
ホセがあきれ顔で首を振る。
「名前はさ、2人しかいないから、別になくてもよくね?」
「お前が、必要ないっちゅうなら、俺も別にええけど。。。」
「それよりさ、自分が、雄か雌かの方が気になるな。不思議と分かんないんだよね。普通スライムにも性別ありそうじゃん。」
「普通あるわな。お前の話し方だと、どっちかって言うと雄っぽいけど。気の強い雌って線もあるしな。もしくは、赤いスライムが特殊で性別なしって線も捨て切れへんな。」
「今まで一人だったから必要なかったけどさ。ホセみたいに、自分の事を『俺』とか言ってみたいんだよね。」
「そやったら、性別もわからんし、しっくりくる呼び方を探してみよか?」
ホセと2人で考える。
俺?僕?私?うち?わい?わし?などなど、一通り声に出してみた。
「うーん。『俺』がかっこいいんだけど、まだまだハードルが高いな。」
「なんのハードルやねん。」
「それじゃ、今日から僕ってことでいかせてもらいますんで。ホセくん。よろしく。」
「こちらこそ。改めてよろしくな。スライム君。まぁ名前は追々考えていこうや。」
たぶん男同士?の二人が熱く握手を交わす。
「じゃあ早速実験だぁ!!!」
テンション高く張り切っていこう!
とは言っても僕がやることはない。ホセに任せて受けるのみ。
身体の耐久性から。。。
踏んづけてもらったり、草で編んだ鞭で叩いてもらったり、引っ張って伸ばしてもらったり、少し高いところから落としてもらったり。
いやいや。変な趣味に目覚めたわけではないよ?研究と実験なんだから。。。
耐久実験で分かったこと。
1.踏まれる。伸ばす。など身体の変形には特に問題はない。(限界はあるだろうけど)
2.鞭で叩かれた衝撃はある程度吸収したものの、編み込みきれず、はみ出た草の端が軽く当たっただけで切れたこと。
3.2メートルくらいの高さから地面に落ちると身体の一部が飛び散った。スライム状の形態を保ったゼリー部分は吸収ができ、完全に水分化した部分は失った。
このことから、身体の形状変化さえできれば、ある程度の衝撃には耐えられる。
切り裂き系だと身体が切れる、少しだったからすぐにくっついたが、真っ二つにでもなったらどうなるか想像もつかない。
限界を超えた衝撃だとプルンプルンが仇となり分散する。これも法則が分からないが、回復できる部分と完全に失う部分ができる。
ちなみに今日の実験では痛みを感じなかった。
どの程度で痛みを感じるのか、痛みを感じないのであれば、かなり気を付けないと命の危機に直結することになる。
ちょっとした好奇心からの実験で、若干だが怪我をした。お試しもほどほどにしないとな。。。
あの時の、熊による攻撃は、切り裂き系+限界以上の衝撃で重傷を負ったのだろう。
身をもって参考になった。
身体の形状変化も体験したし、それを活かせる行動といえば、
「さあ、次は木登りでもしてみようかな。」
巨木の幹に身体を寄せる。身体は幹に沿うように扁平になり、吸い付くようにまとわりつく。
上に登ろうとすると、今までの感覚ではなく、ねっとりズルズルと吸い付きながら動く感触が、自分ながら気持ち悪い。
だからといっても、動きは思いのほかスムーズで、さほどの時間をかけずに、高い大きな枝先まで来た。
眼下には、鬱蒼とした森が広がり、その先に小さく町が見えた。
高いところから見る景色は素晴らしく、吹き抜ける風が心地良かった。