表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=第2部=
291/322

海水浴のあとは。。。深夜の女子会佳境?


 そうしてローラの話へと入る。

 期待は最高潮に達していたのだが。


「ふふっ。ケイツったらとってもすごいの。」

 と一言で終わった。


『・・・・え?』

 全員の目が丸くなる。

 あれだけ序盤に煽っておいて、今さら一言で片づけるなど。。。という空気が漂っていた。





 その頃。男性陣は。。


「。。。ぅぅ。。。ん。。」

 痴漢男(マーメイド)が目を覚ます。


「はい。おめざめ、ごくろーさん。」

 マーメイドの前にはしゃがみ込む厳ついオッサン。。モランだ。

「・・・・っっっ!!!」

 その姿にマーメイドは一気に目が覚めた様子。誰だかは分からないようで凝視するものの、モランの着衣が何かしらの制服であることは一目瞭然。しかも悪魔の羽がある。


「初めまして。だよなぁ。。俺ぁ魔王軍、監獄ドルゴで監獄長を任されてるモランって(もん)だ。お前さん、少々悪どいマネしてるそうじゃねぇか。。人間界でのことだから本来は俺らの管轄じゃねぇんだがよ。。今回は丁度、魔王軍の海上警備隊が任されてる領海でなぁ。しかも、お前ら人魚族(マーメイド)のオリジナルと精莢を持つ雄は、悪魔族と天使族の狩りの対象ってことも分かってるな?だから、魔王軍としても悪魔族としてお前を罰せられる俺が呼ばれたってわけよ。ご愁傷様。」

 マーメイドを覗き込みながら、ふてぶてしいまでの威圧の声がヤツを追い込んでいく。

 ガチガチと歯を鳴らしているが、モランはどこ吹く風。


「さてと。。そういうのは俺ら悪魔族にとって、最高の御馳走だ。もっと怯えてくれていいぜ。サタンの時は絶叫してたじゃねぇか。俺にもして欲しいもんだぜ。」

 そう言いながら、モランはマーメイドの服を引き剥がし、気付けば丸裸にしていた。

 陸上に上がっているマーメイドにヒレはなく、代わりに2本の足。ここだけを見れば、子供ほどの大きさの人間としか見えない。


「さてさて。まぁ。ここからが本番だからな。おもらしはこの後のお楽しみだ。。」

 ニヤリと悪魔的な笑みを浮かべ

「さぁて。これはなんでしょうか?」

 と取り出したカプセル状のそれを見て、痴漢男(マーメイド)の顔色が見る見る青ざめていく。


「そっそれは、誰の精莢だっ。。それをどうするつもりなんだ。。」

 狼狽えるマーメイドの声が聞こえないのか、モランはそいつの身体を四つん這いにさせた。

 そこまでくるとマーメイドの不安が確信に至ったようで、


「やっやめろっ!何を考えてやがる!!」

 と身体を捩るが、2倍も3倍も体格差がある時点で、マーメイドに勝ち目があるはずもない。


「ふっふーん。。こいつのケツにこりゃちょっとデカいか?まぁ。いいか。。・・・あぁ。これな。クラーケンの血を引く魚人のでな。あいつぁ、生涯にこれ一つしか生み出せなかったらしいが。。その分、強力らしいぜぇ?」

 藻掻くマーメイドを押さえつけ、その顔に見せつけるように精莢のカプセルを近づければ、何を言っているかも分からないような怒号を吐くマーメイド。


「いいねぇ。いいねぇ。そういうのが、俺らの好物だって教えてやったろ?お前が騒ぐほど、俺らを煽ってるってそろそろ気付け?・・・じゃ、遠慮なく。処女をいただくぜ。」

 面白そうに黒い笑みを浮かべたモランの手がマーメイドの尻に容赦なく近づき。。。


 この世のものとは思えないマーメイドの絶叫が部屋に響いた。



 そして気を失ったマーメイドを連れてモランが魔界へと帰っていった部屋では、さらっと何事も無かったかのように、男子会が開催され、ケイツが4人の妃を迎え入れた話題へとあっという間にシフトチェンジされていった。



 


-----赤の国で皇帝妃選定がなされた。


 候補に挙げられていたのは各派閥より3人。

 皇帝派からは左大臣の姪、オリビア嬢。23歳で快活で屈託のない笑顔を持つ女性。

 反皇帝派からは右大臣の娘、ヴィクトリア嬢。若干14歳。純真無垢と言う言葉をそのままにした少女。

 忠臣からの推薦は17歳のシスル嬢。王宮の侍女。実家は斜陽貴族の為、庶民と同じような生活をしてきたが苦労を感じさせない気立てのいい娘。


 本来ならば選定はもう少し先になるはずであったのだが、この話が内々に持ち上がったタイミングで、ヴィクトリアとシスルが事故に遭い、重度の火傷を負ってしまった。

 側室や愛人・恋人にも寛容な国ではあるのだが、”妃”以上の立場となれば、身体に傷一つも許されぬなどの厳しい掟が存在する。

 

 だが、ケイツ皇帝はこの慣習を良しとしなかった。

 見える場所に傷痕が残る娘であれば、赤の国での貴族との縁談は皆無となる。もちろん、妾程度であれば受け入れる者もいるだろうが、側室であっても嫌がるであろうことは想像に難くない。


 貴族の娘として大切に育てられてきた所謂”お嬢様”。右大臣にあっては、間違いなく”皇帝正妃”を目指して育てて来たであろう娘。赤の国筆頭貴族である右大臣家であれば、皇族の姫と変わらぬ待遇で生活をしてきているはずだ。そんな箱入り娘が、傷痕ごときで差別を受けるべきではないと、ケイツは思った。


 派閥違いからの推薦。右大臣との確執はあるが、その娘に非はない。

 また、シスルの家は今は傾いているが、それは前皇帝の派閥でなかったために爵位を落とされただけ。しかもその昔、ケイツの家を助けてくれた事実も文献により明らかになった。シスルの実家を先祖の恩に報いるために手助けをしたいが理由が無くてはおかしい。そして彼女もまた傷痕を理由に貴族への縁談は遠のくであろう。ならば自分の元へ置けば、実家の爵位も元へと戻せる。シスルも後宮など嫌かもしれないが、衣食住に不自由のない生活を送らせてやれる。

 オリビアは。。まぁ。左大臣の姪だ。正妃にはしてやれないが、”姪”という少し繋がりが弱い部分から、左大臣が文句を言ってくることは無いだろう。しかも快活であると報告をもらっている。少々お転婆が過ぎることもあるらしいから、正妃と言う堅苦しい立場は、かえって辛いかもしれない。


 ケイツは調べさせた資料から、3人を平等に”妃”として受け入れる判断を下した。

 火事の一報から各派閥が更なる妃候補の選定へと動く気配を察知し、事故から10日という急な運びとなった。

 当然、反発は必至。その為事故の件を全面に出し呼び出しをすることにした。ここで妃を決定することは側近であるレヴィにも言わなかった。長い付き合いだから察してはいるだろうが。


 もちろん、本人たちの意思を最優先させるつもりだった。自分を毛嫌いしていたり、すでに想い人でもいるのであれば、それこそ辛い思いをさせてしまう。それは断じて許されない事だ。


 どの派閥からも。どの娘たちからも拒否や反発を喰らうであろうと臨んだのだが。。


 蓋を開けてみれば、何故だかは知らないが、3人とも自分に対して少なからず好意を持ってくれているらししく、妃となることを受け入れてくれた。

 特に何か特別な事をした記憶は無いが、今回ばかりは有難い。自分の元へと来てくれるならば、生涯大切に扱おうと決めた。心から愛することはできないまでも、それを感じさせないように大切にするだけだ。


 心の奥底でローラへの叶わぬ愛を感じながら、3人へと目を向けることにした直後。。。

 緑の国ジョージ国王からの思いもしない策略。。もちろんいい意味で。


 断ることもできない程に。。いや。ケイツ自身が自分を御せず我を忘れてしまう事すらも彼の計算の内なのだろう。内も外もガッチリと隙など微塵もないほどに固められた策は見事で、いつも余裕な表情をしていたローラでさえもその策に捕まった。


 絶対に手に入らない。手に入れてはいけないと思っていたローラが、自分の手を取ってくれた。。

 想いを押し込めて閉じ込めてきた、その反動か、ローラがプロポーズを受け入れてくれたその事実だけで、最早周囲は見えず、皇帝という立場さえも忘れるほどに、ローラを腕の中に捕らえた幸せに浸ってしまった。



 その後、我に返って羞恥に苛まれたが。。。起きてしまった事は取り消すことはできない。

 ジョージ国王たちの貴賓室から戻ってくると、もう一度深く深呼吸をして心を落ち着かせる。


「ははっ。皇帝さまが狼狽する姿を拝めるなんてな。」

「狼狽はしていないっ。」

 側近レヴィの揶揄う声にむすっと抗議の声をあげてしまう。もちろん今は二人きりだからだ。


「遊んだ女に「子供ができたかも」って言われても顔色ひとつ変えなかったお前がな。。あんなにも純情だったとは知らなかったよ。」

 人払いもされたプライベート空間である状態の為にレヴィも友としての顔を全開にし、お腹を抑えながらケイツの肩をポンポンと叩く。


「違うって言ってるだろう。・・・ただちょっと。。。職務を忘れただけだ。。自分を御しきれずに公の場で感情を出してしまった事は。。。すまないと。思う。」

 柄にもなく、ケイツはふて腐れた子供のように言い繕っていた。

「くっくっく。。職務を忘れるって。。皇帝とか忘れれるお前は凄いよっ。。くくっ。。まぁ良かったよ。ローラ殿ともくっついたわけだし。。なぁ。後宮入りの時は俺も同席させてくれよぉ。。ローラちゃんの裸。チョー見たいんだけど?」

 肩に寄り掛かり軽薄な言葉を吐く友の手を払いのけながら、

「嫌だよ。自分の女の裸を他所の男に見せるヤツが何処の世界にいるんだよ。」

 眉間の皺が深くなる。


「どこの世界にいなくても、ケイツだけがそうしてくれれば俺は満足だよ?」

「逆に全世界がそうしても、俺はしないからな!!」

「まぁまぁ。お堅い事言わずにさぁ。」

「断固拒否する。」

 とまぁ。くだらない遣り取りをしていると、ケイツの羞恥に対する悩みも幾分か紛れて来た。流石は苦楽を共にしてきた友だとも思うのだが。。。言動がいちいち軽薄なのが玉に瑕か。。そんなことをケイツは思っていた。


 そうして、少し和んだところで、今後について真面目に打ち合わせる。


「3人の令嬢は、このまま後宮入りまで、別塔で妃修行を始めるが、ローラちゃんはどうする?本来は妃が内定すると、王宮内部に留め置く事が決まりだが。。医師としての仕事もあるだろう?今日から監禁さながらの生活になることは伝えていなかったからな。。緑の国と魔界と協議が必要になるぞ?」

 レヴィは緑の国と魔界との調印文書を広げて思案顔。


「そうなんだよな。。仕事の事も問題だよな。。俺としては結婚後も仕事は続けても構わない派なんだが?」

 ケイツはチラリとレヴィを見る。

「ま、そう来るだろうとは思ってたけどさ。。前例がないからな。。どうやってお偉いさん達を納得させるかな。。」

 相変わらず、手元の大量の書類と格闘するレヴィに

「そうそう。あと後宮入りの日程なんだが。。こうなったら、一分一秒でも早くローラと一緒になりたいんだが。。。」

「はぁ?ガキじゃないんだから、そこは皇帝として我慢しろよ。諸々手続とか根まわしとか、妃修行とか。大変なんだよっ。。一緒になりたいとか。。どっちの意味?結婚したいの?いちゃつきたいの?後者なら、目を瞑るから今からでも行ってこい。」

 手元の資料を見ながらレヴィはシッシとケイツに向かい手を振った。


「・・・そこは。彼女の気持ちもあるだろうし。。。徐々にだな。。」

 言葉を濁すケイツにレヴィは呆れ顔。

「ったく。。本命に手を出せないタイプとか。。お前って意外と純情なのな。。ま、いいや。とりあえず、今から俺は4人に今後の予定について話をしに行くから。お前もついてこい。」

 もう立場逆転で、書類の束を抱えたレヴィに素直についていく皇帝ケイツ。



 そこで、アルやジョージも交えて後宮入りについての説明を行った。

 他国からは異質と捉えられそうな慣習であったが、ローラがあっさりと受け入れたことにより、スムーズに話は進んだ。


「仕事はどうしたらいいかしら?赤の国の医局の件は、あなたの判断に任せるけれど。。魔界はどうすべきかしら?マロウさんの迷宮の救護所の当番もあるし。。」

 現実に引き戻されたローラが困り顔で僕を見る。


「うーん。魔界はどうにでもなるよ。迷宮の方もさシフトが上手くいかないようなら、しばらく攻略希望者の受け入れをストップするだけだからさ。」

「そうだね。あくまでも兵士の鍛錬の場として提供してもらっているだけだからね。」

 とジョージも援護してくれる。


「それなら、この際、赤の国の慣習を守りましょう。これまで生きてきた中で、一応っていう程度の貴族としての教養や立ち居振る舞いは身についているつもりだけれど、この国にはそぐわないかも知れないものね。それに、妃となるからには赤の国の歴史や政治の在り方についてもある程度の知識は必要でしょうから、慣習通り、後宮入りまでは妃修行に専念するわ。アルちゃん、いいかしら?」

 ローラの笑顔は晴れやかで、全てを決めたのだろう。僕が口を挟むべきではない。

「うん。ローラが決めたんなら僕も。。きっとジョージも。。みんなだって応援するよ。」

「あぁ。もちろんだ。」

 僕の言葉にジョージももちろん頷いてくれる。


 けれど。。ちょっと悪戯心もむくりと沸き上がり。。

「でもさ。。せーっかくケイツと両想いになったのに。。慣習を守るとなると。。後宮入りまでずっとケイツとは会えなくなるんだよ?・・・我慢、できるのぉ?」

 ニヤニヤといやらしくローラを見れば、彼女は平然としたもの。目を細めて。

「ふふっ。アルちゃん。後宮に入っちゃえば、たーっぷり時間があるのよぉ?ケイツが疲れたって私のこれで不眠不休でも1週間や10日くらいはどうってことないのよ。ほら、ジョージもシグナルにやってもらったことあるでしょ。あれよりも、医者としての技量がある私はもっとすごいのよ?」

 ローラは鋭く尖る犬歯に指をあてて、妖艶な笑みを浮かべる。

 色っぽ過ぎるその仕草に、なぜか悪戯を仕掛けた僕の顔が真っ赤に染まるのだが。。ローラの目線も向けられていないケイツの耳が赤く染まっているのが印象的だった。


 そうして、ローラと3人のお嬢様たちは、後宮入りまでの期間を、別塔から出ることもなく、赤の国の妃修行をして過ごすこととなった。



 そうして幽閉に近い状況でローラや3人の令嬢が過ごし始めて数日が経った。


 ローラは塔の窓から星空を眺める。

 ヴァンパイアの身体を取り戻して狂おしいほどにケイツを求めたい。本能のままに動けば、まず間違いなくケイツに牙を立て血を啜って身体を繋げ。。。ヴァンパイアの能力を使ってしまえば、人間のケイツの身体を壊してしまうだろう。

 のどが痛く感じる程の異常なまでの渇き。ケイツの鍛え抜かれた首筋ばかりに目が留まり、芳醇な雄の匂いと血の香りに理性が吹き飛びそうになっていた。

 そんな中での、後宮入りまでの閉じ込められた妃修行の話。封印から戻ったばかりで、制御が甘くなっている自分の身体を馴染ませ、獣のようにケイツを求める本能を落ち着かせる時間がもらえたようで、平静を装いながら。。いや余裕の表情を張り付かせつつ、心の中では飛びついてその話を受けた。


「ふぅ。少し馴染んできたわね。。この調子なら何とかケイツを傷つけずに済むわ。」

 月明かりにかざした手を見つめながらローラは呟いた。

 ケイツの事を考えるだけで身体の芯が疼き、喉の渇きは相変わらず痛いほどに感じる。まるで何日も砂漠に放り出されているよう。。ケイツの首はオアシスで、その血は湧き出る泉のようなのだ。。噛みつきたい衝動は止まってはいない。

 それでも、300年以上ヴァンパイアの医師としてやって来た力は健在で、妃修行中も内なる力を練りつつ、永き封印により弱まった能力を整えていた。もちろんそれは睡眠中も。というよりも、まだ睡眠らしい睡眠をとらずにいた。ヴァンパイアの眠りは少ないのが幸いし、まずは身体を休めるよりも能力のコントロールを優先した。

 そのかいあって、何とか本能を理性に押し隠せる程度にはコントロールできるようになったのだ。



 そんな無理が祟ったのか、僅かな時間でも気を緩めればケイツの事ばかりを考えてしまう。

 妃修行が終わり、使用人たちが下がって、就寝時間で一人となるこの時間は特に。。


 

「・・・・。」

 昼間の暑さがそのままに、まだ生温い風が頬を掠めた時、そこにはいないはずの人の香りがした。


(・・・もう。。ケイツの事ばかり考えすぎて幻を感じるなんて。。まだコントロールできてなかったのね。)

 ふうっと自嘲気味な溜息を吐いて、ローラはケイツの匂いを感じた自分に首を振り、全開の窓を半分ほど閉めてソファーへと戻った。

 テーブルには冷めきった紅茶。ローラはブランデーを少し注ぎスプーンで混ぜる。普段ならばしみついたマナーで、音など立てるようなヘマはしないのだが、まだ慣れぬ封印明けの身体とケイツを想い過ぎて匂いまで幻を感じてしまった僅かな動揺からか、カチャリとスプーンがカップに当たる音がする。


 こつん。


「???」

 先ほどカップにスプーンを当ててしまった為に、ソーサーにスプーンを置く際には気を配ったつもりだったのだが。。しかも、ちょっと音が違う気がした。


 不思議に首を傾けつつも、ブランデー入りの紅茶に口をつけると。。。


 こつん。


 またも小さな音。


「・・・?」

 小さな音に不思議に思う。真夜中も過ぎた時間帯。

 部屋の中は物音がする様な物も特にないし、床に落ちても絨毯張りで、音はならないだろう。

 外からかとも思うが、ここは通常の建物の階数からするならば、5階以上の高さにある。何かが風に吹かれて窓に当たるにも、樹木すら近くに無いのだ。



 こつん。


 先ほどより少し大きくなった音で、初めて窓からだと分かった。


「何かしら。。」

 窓へ近づくと出窓の縁に小さな石が落ちていた。


 先ほど星空を見上げた時に手を付いていたから、その時には無かったことは明らか。

 それが音の原因だと分かったが、何故?とも思う。風では飛んでくるわけがないし、塔には侵入者を防ぐために、侵入者返しと呼ばれる張が幾種類も幾重にも張られていた。それはこの塔が妃候補者用の塔であることが理由で。この時点で命を狙い妃の座を奪われることが赤の国では良くあることだからだ。


 空を飛ぶモンスターや鳥も、この国には少ない。

 ローラの頭には?しか浮かんでこないのだが。。。


 こつん。

 

 目の前にもう一つ小石が転がった。

 ローラは急いで窓から身を乗り出して下を覗き込む。

 篝火が絶やされない庭からは少し離れ、塔の真下はぼんやりとしか見えないが、人影はない。

 侵入者返しが邪魔で、もしその下に人が隠れていたならば見つけられないが、そこからでは身を隠しながら、小石をここに投げられないだろう。


 手元の小石を拾い上げながら、首を傾げることをやめられないほどに不思議な気持ち。

 ”狐につままれたような。。”とはじまりの国出身のリュウセイが良く言っているが、こんな時に使うのだろうか。。などとふと思った時だった。


「起こしてしまっただろうか。」

 その呼びかけに驚いて小石から窓へと視線を移す。

 姿は無いがずっと聞きたかった声。聞き間違えることなどない。


「・・・・ケイツ?」

 疑心暗鬼にその名を呼べば、窓の縁に指先がかかる。

「そちらに行ってもいいだろうか。」

 ようやく窓枠から頭が出たが、目出しの黒ずくめの服装。だがアンバー色のその力強い瞳は間違いなくケイツのものだ。


「もちろん。」

 咄嗟に出たのはその一言だった。


 それを聞いたその瞳は嬉しそうに細められると一気に身体が乗り上げられ、全身黒ずくめの身体が窓枠に立った。


「こんな格好で申し訳ない。」

「・・・どうぞ?」

 ぺこりと下げられた頭にローラは思考が追い付かず、部屋へと誘うのに精いっぱい。

 黒ずくめの人は、窓枠から降りるとフードを取り去った。そこには間違いなく恋焦がれるケイツの姿があった。


「流石に埃っぽいな。。」

 困ったように笑う顔は少年のようで、初めて見る顔。

「お茶を淹れ直すから。。掛けてて。」

 初めての表情に心奪われながら、ソファーを示せば、

「・・・いや。君の顔が見たかっただけなんだ。。もう用件は済んだから帰るよ。」

 今度はバツが悪そうに頭を掻き、取ったばかりのフードにケイツは手をかけた。


「・・・ぁ。。。」

 ローラは”待って”と言いかけて口を噤む。今の状態でケイツに触れればヴァンパイアとして止まれる自信が無い。喉の渇きは最高潮で、黒ずくめの服に感謝しているほどなのだ。首筋でも見えれば、まず間違いなく噛みついてしまう。。

 だが。。ここまで来て指先だけでも触れたい。その目元にかかった埃を払ってあげたい。できるならばその胸に飛び込みたい。。その衝動にも突き動かされそうになる。


 持てる理性を全力で出して、前に出たい一歩を押しとどめている状態。


 ローラは無意識に先ほどまで自分が飲んでいた紅茶を手に取るとケイツへと差し出していた。

 彼は何も言わずにそれを一息で飲み干した。


「ありがとう。。実のところ、久しぶりにこんなことをしたので、喉がカラカラだったんだ。」

 と片眉を上げて今度は悪戯っぽい笑み。


 次々と違う表情を見せるケイツに、ローラの心は限界を迎えたのか、気付けば彼の胸に飛び込んでいた。


「汚れてしまう。」

 そう言いつつも彼の手はローラの背中に回っている。暖かなその場所から離れたくなくて彼女は小さく首を振る。


「ならばもう少しだけこのままでいいか?」

 その言葉にローラは声なく頷きだけを返す。


 本能を呼び覚ます甘い血の香り。魔物として感じる相性のいい雄の香り。狂おしいほどに愛しさが溢れ出し、身体の奥が疼き。。本能も身体も心も彼を求めている。

 このまま。本能のままに。。。先ほどまではそうなると思っていた。きっと自分を制御できなくなるだろうと。。だが今は。。


 彼の腕の中にいることで、全てを包み込んでくれる安心感。何もかもを満たしてくれる充足感。このままでいいという穏やかな感情も溢れてくるのだ。。

 理性で押し込むのとはわけが違う。。例えるならばアルの”癒しの力”に近いが、それとも違う。

 これは。。。

 まるでサインに抱きしめられたあの幼い頃に似ている。。


 もう少しだけこのまま。。ケイツの言葉通りにローラはその身を預けていた。



 しばらくするとケイツが身体を離した。

「あー。。。。っと。。そろそろ。。帰ろうかな。」 

 首の後ろに手を当てて目線を外すケイツ。先ほどまでの甘い感じが無い。

 けれどそこはローラ。ケイツの身体的変化に気付いていた。


「ふふっ。そうね。私もそろそろ限界。このままじゃあなたの事、食べちゃいそう。」

 ケイツのバツの悪そうな顔に、わざと笑って見せる。

「まぁ気付くか。」

「そうね。ヴァンパイアだもの。」

 ケイツが自分を見下ろして、ローラは穏やかに笑い。。顔を見合わせて二人で揃って笑い合う。



 けれども二人は離れがたく。。ソファーに並び淹れなおした紅茶を飲むことにした。


「どうやってここまで来たの?」

「そりゃあ登って来たさ。護衛兵士の目もあるからな。。目立たぬようにこの格好になってしまったが。」

 ブランデー香る紅茶に口をつけながら、ケイツの服装を改めて見る。


 防具も無くもちろん帯剣もしていない。壁に当たっても音を立てぬようボタンなども隠された本当に見た目は黒一色の隠密活動用の服。僅かなポケットも膨らんでいないところを見ると、何も装備は持っていなさそうだ。


 侵入者と間違えられれば丸腰で、侵入者返しや垂直の壁から手を滑らせれば高所から落下。

 無防備にもほどがあり、ようやく冷静になったローラはその事実に気付いて、見る見るその顔が青ざめる。


「・・・・危ないじゃない。。」

 ローラは心配のあまり彼の顔を見つめる。

「ははっ。現役時代はこれに重い装備をしてこれ以上にキツイ作戦もこなしてきたよ。まぁ。皇帝となり、前線から少し離れていたから、軽さ重視にしたんだが。。今日のこの壁が少々キツく感じたが。。身体がなまっているのが分かって良かった。君たちを守れるようまた鍛錬し直すよ。」

 と握った手を見つめながらケイツが苦笑した。


「そんなこと。。良いのよ。。あなたがいればそれでいいの。守ってもらわなくたって。。。私は魔物だから。。死ぬことには抵抗はもう無いし。。戦闘の能力は無いけれど。。人間よりは強いわ。もしも何かあったって、あの子たちの盾にはなれるし、深手を負ったって魔物として治癒能力も高いし、医師としてはヴァンパイアの能力も使えるし人間の医療も勉強したわ。。だから。。。だから無理はしないでいいのよ?私のせいでもう誰も苦しんで欲しくないの。」

 消え入りそうなローラの声色でケイツも思い出す。


「君の記憶の中のあの方のようには。。俺はなりたくともなれないさ。。そんな能力など無いし。皇帝だと言っても、ヴァンパイア族ほど強固な国でもない。彼には逆立ちをしても勝てるわけもないし。君にもやはり種族の違いから戦闘となれば負担をかけてしまうだろう。それでも。。男として僅かだとしても守りたいと思うよ。」

 優しさに細められた目はローラを捉え、塔を昇って来たほこりにまみれ、ところどころ傷ができてしまった武骨な手は彼女の頬を目指していたが、スッと丸められ、汚れていない指の背で、頬をそっと撫でた。


 ローラはそんな彼の手に自分の手を重ねる。愛おしさまでも重ねるように。。-----



 女子会サイドでは。 


「えーっ!!!そこで終わり?チューは???エッチなことは??」

 かぶりつく勢いでのめりこんで聞いていたカルアは目を見開いてローラに食いつく。


「ふふっ。期待に応えられなくて申し訳ないんだけど。。その日はそれで終わりよ?約束は守ってくれる人だから。。私も守る女だし?・・・そもそも”純恋”も聞きたいんでしょう?だから話したのに。。いらなかったかしら?」

「・・・・いるけど。。。聞きたいけど。。。」

「そうでしょ?」

 余裕のローラと口を尖らせるカルア。。そしてみんなはローラとケイツの意外にも純情な恋物語にキュンとして。。。



「さて。。本題の後宮入りした”初夜”はね。。。」

 とローラが話題をさっと変えれば。

「ふんふん。」

 とカルアは鼻息荒く急かし。

 そんな二人のやり取りを、皆は笑いつつも、その先にちょっと期待して聞き入る。



「私としても、さっき話したみたいに、ちょっと信じられないくらいケイツへの想いが複雑でね?ヴァンパイアの本能のままに彼を貪りたい気持ちと。。抱きしめられただけで穏やかになれる充足感で、戸惑いがあったの。。」

 困ったように眉根を寄せたローラを見て、やっぱりカルアが食いつく。

「じゃあ、初めての夜も何にもしなかったの?」

 首を傾げたカルアを見て、悲しそうにローラはふぅっと息を吐いた。


「・・・そう。。よね。。」

 言葉を濁すローラに、部屋の皆も息をのむ。。まさか上手くいっていないのだろうかと。。

 

「お互いに想いを隠して。。お互いに感情を押し込めて。。本能すら抗って。。」

『・・・・・。』

 目を伏せて話すローラを見て、皆も無言になる。


「・・・それで。。どうなったの?」

 サクラは意を決してローラへと聞く。。それは無理に二人の仲を取り持ってしまった責任もあるから。。


「・・・・・・・。。。」

 目を伏せたローラの身体が震えるように揺れていた。。

「・・・辛いなら。。。もう。。聞かないから。。」

 さすがのカルアも意気消沈。


 したのだが。。。


「うふふ。」

 場に相応しくない艶のある笑い声が上がった。



「そーんな訳ないでしょう?ちょっと揶揄い過ぎちゃったかしら?」

 ローラは悪戯っぽく笑うと、ピンとカルアの鼻を突く。

「じゃあ?」

 カルアの顔も見る見る元通り。


「もちろん。ケイツが部屋に入るなり、侍女たちが下がる時間も惜しくって。。もう一気に盛り上がったわよ?侍女たちが顔を真っ赤にして慌てて出て行ったのが印象的ね。」

 ウインク付きでローラがにっこりと微笑む。

「それで。それで?」

 カルアもいつもと変わらず鼻息を荒くしていく。


「とりあえず、自分でもやっぱり不思議なんだけど。。ヴァンパイアとして吸血しての行為はまだなのよ。。普段なら絶対に我慢できないのに。。血の匂いも喉の渇きも感じたことないほどに強い欲求があるんだけど。。。でもぉ。。能力を出さなくても問題ないわ。十分満足してる。とりあえず、私の部屋に来た日は、ケイツは一睡もしてないけど♪」

 悪びれることもなく、濃密な夜の話を展開していくローラ。”過激すぎるのもどうかしらね”と言い、随分と端折ったらしいのだが、それでも女子会には刺激が強く、聞き入る皆の顔が真っ赤に染まっていた。


「あっ。そうそう。エッチの時に牙は立てないけれど、疲労困憊では政務はできないでしょう?だから疲労回復の為の治療行為では吸血してるわよ?」

「・・そ。。。そうなんだ。。」

 カルアですら口がひらっきっぱなしになっていた。


「でも。。ケイツってほんっと。。。凄いわよね。。毎日毎晩、結婚してから今まで休みなくそれぞれの妻を満足させてるわけでしょ?しかもヴァンパイアの私も満足させてくれてる。仕事もきっちりできてるし。。人間としては昼も夜もどちらの意味でも精力的でしょう?側近のレヴィ君に聞いたけれど、昔っかららしいのよ。。皇帝になってからは女遊びは控えてたみたいだけど。。軍人の時の方が身体も酷使してたわけだし。よく身体を壊さなかったって不思議なくらい。。」

 ローラの顔は本当に不思議がっている様子だった。淫魔の性質を持ち合わせるヴァンパイアの目から見てもケイツの身体は不思議なようだ。


「そうね。。シグナルだって吸血に関してはどうしようもなく抗えない時があるみたいよ?それをローラは抑えられているんですものね。。彼がそれほどだったなら。。尚更に不思議ね。。」

 とヴァンパイアの夫を持つリリィも首を傾げる。

「ねぇ。どういうこと?あの冷静沈着なシグナルが我慢できなくなる時って。。どんな時よ?」

 ここでももちろんカルアが食いつき、リリィとローラは目を見交わして。。。リリィの顔が真っ赤になっていく。


「ふふっ。リリィちゃんからは言い難いわよね。。。」

 そう前置きをして。

「異性の相手が自分に対して発情してる時。よ。。それも自分も好意を寄せていると、さらに強く感じてしまってね。。もう理性なんて吹き飛ぶわよ?」

 ローラは何でもないかの如くサラッと言い放てば、リリィは首まで真っ赤に染めて顔を背ける。


「相思相愛で求め合いたくなってしまうってことね。。身も心も通じ合ってるなんて素敵じゃない。」

 シエイラも大人な余裕で色っぽく微笑む。


 そんな中だった。


「あの~。。私ごときが、話の腰を折るようなんですが。。」

 遠慮がちに口を開いたのは、マリンこと、今は魔王城のメイドマーレだった。


「どうした?誰でもなんでも遠慮なく入っておいでよ。カモンカモン。」

 カルアは両手で迎えるように手を動かしてマリンを促す。

 

「はい。。ロウゼンさんも淫魔の性質を持つ妖魔ですから、すごいんですけど。。と、これは今は関係ないか。。。じゃなくて。ロウゼンさんに聞いたことがあるんです。”淫魔”の性質を持つ魔物の能力の話。。」

 突然に話の方向性が変わり、皆がマリンに注目する。


「えーと。。。運命の相手だと、本能よりも相手を大切にする気持ちが大きく働くそうです。理由は、淫魔の性質のままに求めてしまうと、相手を壊してしまうから。。と言ってました。そのかわり、普段なら物足りなく感じる行為であっても、それを上回るほどの心を満たす気持ちが溢れるって。。。ローラ様もきっとケイツ様が運命の方なんですよ。。ロウゼンさんも野獣みたいな時もあるけど、私が心配になるくらい優しいときもありますから。」

 そう言うと、リリィも思い当たる節があったようで、

「うんうん。。そう言われると確かに。。私が泣いて気を失ってもやめてくれない時もあるけど。。もういいの?って聞いちゃうくらい優しくて甘いときもあるわ。。」

 真面目に話したリリィだったが、「泣いて気を失わせても止めないってどうよ。」とカルアはそっちに気がいってしまったよう。


「それともう一つ。。。私の家が。。あ、マリンの家なんですけど。。全部の記憶が戻ったわけじゃないんで絶対ではないんですけど。・・・マリンの父は島で医者をしてました。。さっきチラッとローラ様が生い立ちを話されたでしょう。本土に行く前は、小麦が金色に輝く綺麗な島にいたって。。私の生まれた島も小麦畑が綺麗な島で。。父の先祖は何代か前に島に居ついて、そこから代々医者をしてきたそうです。」

 そこまで話して、ようやくサクラも話が繋がって来た。そしてポヨンとスライムになる。


「・・・みんなごめん。。ちょっと女子会ってわかってるけど。。僕として聞かせて?」

 一応謝りを入れておくが、気付いた者もおり、誰も反対はしなかった。


「私としてもアル陛下がお聞きくださる方が安心です。」

 マリンも僕を見て大きく頷いてくれた。


「続けますと。。。詳しいことは分かりません。何せ船が難破して、家族で知らぬ国に流れ着いて、母が死んで。。父と二人でサバイバル生活をしていた時に聞いた話なので実物を見てないので。。ですが、父が言っていたんです。”もしも家に帰ることができたなら、地下室をお前に教えなくてはな。代々、守り受け継いできた物がある。”のだと言ってました。。それを”ローラシェア”という女性に渡すのだと。」

 マリンはたどたどしい前世の記憶を辿っているからだろう、眉間に皺を寄せながら話をする。


「それで。。子供心に不思議に思いました。代々っておかしいでしょ?女の人の名前は変わらないのかな?って。うちが代々受け継ぐなら、その女性の家だって代々受け継ぐんじゃないのかなって。。そうしたら父は、”その子は特別だから。父の力を受け継げば世界を救える英雄の能力で長生きできるだろう。母の力を受け継げば長命の種族の力で長生きできるだろう。どちらの力も受け継げば、我が家が預かっている品が風化するまで長生きできるだろう。”って。。」

 マリンの話を聞いて、僕は確信に近いものを感じた。


「・・・それって。。でもさ。」

 言いかけて気付いた。それはマリンも同じようで、

「そうなんです。。あくまでも”マリン”の時の話なんです。。ロウゼンさんに聞けば、マリンが生まれただろうって時代は分かると思います。でも、マリンの家族は3人で、旅先で遭難したんです。マリンもロウゼンさんと一緒になってから島に戻ってません。そうなると、家を受け継ぐ人は無かったんです。。だから、預かっていた物も、もう無いとは思うんですけど。。」

 マリンの声がしぼんでいく。


「じゃあ、なんで話したの?」

 カルアは悪気なく首を傾げるが、マリンは申し訳なさそう。

「えっと。。もちろん、マリンの家が受け継げなかったことは謝ります。。でも、私は生まれ変わってロウゼンさんと再び会えました。別人に変化して見た目も年齢も全然違ってましたけど、ハクゼンさんに触れた瞬間、運命の人だって心で感じましたっ!!だから私。。。ローラ様の話を聞いていて、ロウゼンさんから聞いた話と、父から聞いた”ローラシェア”さんの話が繋がって。。もしかしたらケイツ様が族長様なのでは?って。。そう思って。。」

 ネグリジェを握りしめて涙をいっぱいに浮かべてマリンはローラを見つめる。


「・・・マリン。。。僕もそう思って、サタンに同じことを聞いたよ?ケイツがサイン族長の生まれ変わりじゃないの?って。。でも違うって。。サインの魂は、無理な術をいくつも使った反動で霧散したんだって。。ごめん。。」

 僕はありのままを伝えた。ここで事実を知っていながら、期待させてしまうのもいけないと思った。

 マリンの目からは大粒の涙が零れ落ち、ローラは何も言わずに目を伏せた。

 もちろん女子会の全員も。。。


 そうであったならば、どんなに良かったことか。。

 本当は心の奥底で想いあいつつも、不運が重なり、互いの人生が終わることになってしまった前世が今に繋がって幸せになったのだとしたら。。

 だが現実は上手くいかない。


「良いじゃない。ケイツもローラも今は幸せなのでしょう?それで良いと思うわよ?」

「・・・うん。」

 泣きたくても涙の出ないスライムの僕の背をシエイラさんはそっと撫でてくれた。ローラもその言葉に頷いて「えぇ。私は幸せよ。」と僕にそっと微笑みを向けてくれた。



 すごく切ない気分となってしまった真夜中の女子会だった。。





 が、それで終わるようなメンバーではない。個性も能力も様々な面々。



 ふと卑弥呼こと今日子が顔を上げた。

「ねぇ。女神様。。マリンちゃんの家の場所は特定できませんか?」

 曇っていた女子会の空気が???へと変わっていく。

「・・・???・・・なんで?」

 僕の頭もハテナが一杯だ。


「だって、今も誰かが住んでるかもですよ。地下室の存在をマリンちゃんは知らなかったわけでしょう?代々家を受け継ぐほど頑丈な家なら、まだ残ってるかもですし、新しい家主さんも地下室に気付いて無いかもですし。。それにもし取り壊しされてても、次に新しい家が建ってなければ、地下室がそのまま気付かれずに土に埋もれてるとか。。壊れてたとしても埋められてたら、その預かりもの、発掘できそうじゃないですか?無くなってて当たり前ですけど、見つかったらラッキーですよぉ。。そんな代々受け継ぐようなお宝、見たくありませんか?」

 今日子は人差し指を立てて、好奇心に満ちた目で、全員の目を順に見て行く。


 さすが、アトランティスを纏め上げたカリスマ性を持つ今日子。。

 僕の心もガッツリと掴まれた。


「ぅおぉぉぉ。今日子、さすがの着眼点だ!!その案、採用だっ!!ローラの話からするに島は”黒の国”シグナルを動かすも良し。島だから、海上警備隊を動かすも良し。そのメンツを私的に使うことを怒られて使えなくなったとしても、空間の精霊(セナ)もいるし。」

 と隣で寝るペンギンを指差す。



 そうしてようやく色々とあった深夜の女子会は就寝時間となったのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございました。 小説家になろう 勝手にランキング ↑参加してみました。 クリックで応援していただけると嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ