第28話 ~長い眠り~
「おつかれさ~ん。ジョージくん、えらい荒れてますなー。」
ホセが元気よく入ってきた。
「ホセ?…どうしたんだ?」
ジョージが目を丸くする。
「ジョセフィーヌちゃんの熱も下がったし、こっちの様子を見に来てみたんや。」
偶然っぽく言ってはいるが、後ろにはハクゼンが控えており、魔法通路はホセには使えない。誰かが呼んだのは間違いない。
「そうか。それは良かった。」
「なんや。それ。全然気持ちこもってへんな。心ここにあらずやな。」
「すまない。ホセと二人にしてもらえないか。。。」
ジョージの消え入るような声だった。
「私たちが居ては都合が悪いのでしょうか?」
「そや。この嬢ちゃん、賢者なんやろ?聞かれたらマズイ話なんか?」
「あぁ。アルが5日も目を覚まさない。。。何かがあるとするならば。。僕たちはあの場所に行ったんだ。そこでアルを半日ひとりにした。あそこで何かがあったとしか。。。それに、あの場所のことはアルが内緒にしたいようだった。」
ホセだけに語りかける。
「5日もか?あの時ですら、3日やったよな。。。あれ以上のことなんて、そうそう起きるものなんか?」
「分からない。。ただ、何をしても起きない。。。これは。異常事態だ。」
力なく項垂れる。
「ちょっと、嬢ちゃん達、悪いんやけど、信用してない訳やない。そやから、ジョージを落ち着かせたら、呼ぶから、ちょっと席外してもらえんか?」
「わかったわ。」
リリィはガルンを連れて出て行く。ハクゼンも後に従う。
「ホセ。すまない。」
「なんや?ジョージが謝ることないやろ?」
「いや、頼まれたとはいえ、やはり一人にすべきではなかった。」
「はあ。お前らしくないんと違うか?」
ホセは呆れ、そして、
「後悔なら一人の時に勝手にやっててくれ。今はアルの状況を改善するときちゃうんか?しっかりせいや!」
「とにかく、何があったんや?何の理由もなく、世界樹のとこまでへ行った訳やないんやろ?」
「・・・・・・・。」
「まぁ、話たくないなら、ええけど。。。理由も分からんと相談のるのには、答える範囲に限度ができるで?」
「そうだな。。。ホセは世界樹の恵みを知っている者だ。話しても問題ないと思うが。。。アルは他の者に知られるのを嫌がっていたようだったから。」
そう言って、図書館での英雄アルフォンの手帳に始まり、世界樹へ行ったまでの事を全てホセに話した。
「そんなことがあったのか。。。なんや二人でコソコソやってんな。とは思うてたが。。。ま、コソコソする内容やな。。。」
重い空気が流れる。
「それで、新しい出来事としては。。。」
ホセが要約していく。
1.英雄アルフォンの手帳を見つけた。
2.黄宝王玉を手に入れた。
3.お前がサクラを嫁にもらおうとした。
4.世界樹へ行った。
5.スイーツパーティが開かれた。
6.アルが目を覚まさなくなった。
「こんな感じやな。ま、お前がサクラを嫁にもらうかどうかは、どうでもいいとしてだな。ジョージとしては、どの辺りから異変に気付いたんや?」
「何も。。。僕は本当に何も気付かなかったんだ。。。」
ジョージは今にも崩れ落ちてしまいそうな程、憔悴している。
バサバサっ。バサバサバサっっっ。
突然ホセがジョージの頭上に飛びかかる。髪を引っ張り、頭を突き。。。
「ちょっ。ホセ、急になんだ?何するんだよ?ちょっと、やめてくれ。。。」
ジョージが必死に手で振り払おうとするが、ホセは上手くかわして、なかなか捕まらない。
「空を制する者が、戦いを制するんやー。」
「意味が分かんないよ~。ちょっとホント止めてくれないかな~。」
ホセとジョージの攻防は暫く続き。。。
「はぁっはぁっ。今日の所はこんくらいにしといてやるわ。」
「あぁ。もう。。。なんなんだよぉ。」
息を切らした二人が椅子に身体を投げ出す。
ジョージはぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で直そうとしている。
「ホセぇ。どうすんだよ。これ?治らないんだけどぉ。」
「ぎゃははははっ。せっかくの男前が台無しやな~。」
「笑い事じゃないよ。もう。」
ははっとジョージは困り笑顔を見せる。
「やっと笑ったな。それでこそジョージや。ほな、本題に戻ろうか?」
「っふふっ。ありがとうな。ホセ。」
そしてジョージとホセが考えを纏め始める。
世界樹でアルと別れるまでは本当に何も変わったことは無かった。サクラのことでも、いつも通り厳しいツッコミがあり、体調不良にはとても見えなかった。
思い返してみれば、世界樹に迎えに行ったときからがおかしかったのかもしれない。
ジョージは世界樹の元に来た。《世界樹の葉》の欠片を預かったままだったので、迷うこともなく辿り着く。
アルの姿は見えない。
(ちょっと早かったかな?)
そう思い、ゆっくりと世界樹の安全圏を歩いていく。
「アルー?迎えに来たよー?」
返事はない。
キョロキョロと辺りを見渡しながら、
「アルー?どこだーい?」
声をかけながら樹の根元あたりまで来ると、アルを見つけた。
ごろんと寝転がり、気持ちよさそうに眠っている。
「アル?起きて?アル?」
身体を揺らしてみる。
「ん。。んっん。。。もう少し。。。むにゃ。。。」
(ふふっ。寝ぼけているね。起こすのは可哀想か。。)
「仕方ないな。アル。もう帰るからね。」
そっと抱き上げ、ポケットに寝かす。
ごそごそっとポケットの中で「むにゃむにゃ」言いながら、寝相を整えて。。。そして静かになる。
「ふふっ。相変わらず、可愛らしい仕草だな。」
ジョージは起こさないように、そっと撫で、静かに宿営地へと戻った。
「俺もその時に異変が始まったんやと思うわ。あとは、一人の時に何が起きたか。やな。」
「あぁ。そもそも、一人でのんびりしたいとは言っていたが、何か一人でしたいことがあったのだろうか?」
「あいつなら、良いか悪いかは別として、言わんこともあるな。お前を助けた《世界樹の葉》の完全版。。あれ、俺も持ってるの知らんかったし。」
「そうなのか?じゃ、ホセはあの時、大した装備もないのに、僕たちを助けに来ようとしてくれたのか?あの時のアルは、《世界樹の葉》があるから、なんとかなると思っていただろうね。銀狼討伐の一番の勇気ある者はホセだったんだな。ありがとう。」
ジョージの素直な賞賛にホセが照れている。
「ジョージ、俺の意見を言ってもええか?」
「もちろんだよ。」
「ジョージがアルの気持ちを尊重したいのは重々承知や。しかしやな。打開策は俺達だけでは見い出せないのが現状や。力不足は仕方ない。。。」
「うん。」
「そこでや、世界樹へ行こう。現場を確かめるんや。そして、賢者のお嬢ちゃんも連れていくんや。」
「え?でもそれは。」
「お前にとって、リリィちゃんは、そない信用ならんヤツなのか?幼馴染みで、今は腹心の部下なんやろ?賢者の立場で見てもらったら、何か気付くかもしれん。それに、翠宝王玉も持ってるんやろ?」
ホセが鋭く覚悟を決めた目でジョージを見る。
「もしも、宝王玉の力が何かしら関係しているのやとしたら、何か起きるかもしれん。。。お嬢ちゃんには悪いが、実験体になってもらう。」
「君はなんて事を。。。」
「ジョージ、お前はアルを助けたくはないんか?それに、世界樹の力の解明に一歩近づくのかもしれん。リリィちゃんかて、ただの賢者やない。翠宝王玉を持てる程の実力者や。何かあっても、力弱いスライムの様にはならへんのと違うか?」
「・・・・・。」
迷うジョージに向かって、ホセが畳みかける。
「ジョージ。何事も覚悟が必要や。どっちも幸せなんて事は夢物語や。。」
「そうだな。何かあると決まった訳ではないしな。リリィに事情を話して連れて行こう。」
気持ちを固めたジョージの目に、もう迷いは見えなかった。
「・・・・そんなことがあったのですか。。。」
全てを聞いたリリィは驚きを隠せないでいた。
「それでも、一緒に来てくれるかい?」
「当然です。ジョージ様っ。もちろん行きます。いえむしろ行かせて下さい!!こんな凄いこと聞いてしまったら、止められても向かいます!!」
「ありがとう。リリィ。」
ジョージはほっとしたような笑顔を見せた。
「ですがジョージ様、あと3日いえ2日いただけませんか?毒妖花の採取と処理が残ってます。アルさんの状態は安定しています。毒妖花の取り扱いは死の危険が伴います。私としては毒妖花を優先すべきと判断するのですが。」
「そうか。。そうだよね。僕は司令官としての職務を見失うほど狼狽してしまっていたんだね。では出発は毒妖花の処理が終了次第に。それまでの時間で、僕は僕の出来ることをやっておくよ。」
そうして世界樹への出発が極秘に決められたのであった。
---僕はどうしたんだろう。。。
身体を動かすことができない。。
目を開けることさえ出来ない。。
とても眠くて。。。
遠くにみんなの声が聞こえる。。。
「おう。これなんかどうだ?」
あ。ガルンさんの声だ。。
「良いんじゃないっすか?大きさも。」
「じゃ、これを使おう。ちょっと救護室から、使えそうなもん貰って来い。」
「シェフが言い出したんですから、行ってきて下さいよ。」
ん?救護室?大きさ?厨房の誰かが怪我でもしたのか?
それにしても眠い。。。
「おう。こんな感じでどうだ?」
ぶわっはっはっはっは。
厨房に笑い声が響く。。なんだか楽しそうだ。
「なんすか。それ。ファンシーっすね。シェフって乙女だったんすね?」
ぎゃははははっは。
ちょっ。気になるんですけど。。何?ファンシーって?何?見たいんですけど。
「ま、とりあえず、ここはシェフの力作なんで、いってみましょうよ。」
ん?急な浮遊感。。そして。。フワン。と降りた。
なんかふわっふわなマシュマロの上にのった感じだ。気持ちいい。
「うわっ。想定外にかわいいっすね。これは。有りっす。」
「ほう。」「うんうん。」「いいね。」などと口々に言っている。
「だろ?救護室いったらよ。マリィに会ったんで、訳を説明したら、やたらと材料くれてな。」
「あぁ。マリィちゃんの趣味かぁ。シェフがなんかに目覚めたのかと心配したっす。」
「まだ、材料余ってますね。せっかくだから、もうちょいやりましょうよ。」
「ここの取っ手のとこに、こうしたら。。。」
「こっち、これ付けたらいいっすよ。」
「これどうですか?」
なんか、厨房のみんなで、何かを作っているみたいだ。
せっかくだから、何してるのか見たい。目が見えないってこんなに不便なことなんだな。。。
「できた。。。。。」
「俺達、天才かも。。。」
口々に感嘆の声を上げている。
「おつかれさま~。ガルンさん、使えた~~?」
誰か女の子が入ってきた。
「おう。マリィ。助かったよ。なんとか仕上がった。」
「えぇ。見せて。見せて。」
子供らしく、キャッキャッと声を上げてワクワクしているようだ。
「キャー。何これ。すっごいカワイーー。欲しーーー。ちょーだいーーー。」
「ダメに決まってんだろ。」
「あー。さわんな。」
「いーじゃん。あたしの布とかリボンだもん。ちょーだいよー。」
何かいざこざが始まった。だから、なにが起きてんだよ?
そんなこんなも遠くに子守歌のように聞きながら、僕はまた眠りに落ちる。
僕が真相を知るのは、まだもう少し先のことだった。
---仕事帰りのジョージが食堂に顔を出す。
「ただいまー。ガルンさん。迎えに来たんだけど。」
「おう。ジョージさん、疲れがたまってのか、一日眠りっぱなしでしたよ。」
「そうか。ありがとう。じゃあ部屋に連れて行くよ。アルはどこ?」
厨房の奥から、眠っているアルを起こさないように、そっと運ばれてくる。。
「え?何これ?どうしたの?」
ジョージは目が点になっていた。
「いやぁ。ベッドがあった方がいいかと思って、みんなで作ったんですがね。ちょっと懲りすぎてしまいまして。」
頭を掻いてガルンが照れる。
「この材料はマリィがあげたんだよ?」
ガルンの後ろから、ヒョコっとマリィが顔を出す。
「それにしても。これはねぇ。。。アル、男の子だよ?」
そこにあったのは。。。
小さなバスケットにピンク色のクッションが敷いてある。縁取りにはレース。
真ん中にアルが寝かせられ、真っ白なレースハンカチが掛け布団の用に掛けられており、アルの赤い尻尾がハンカチの端から、飾りのように出ている。
バスケットの取っ手には布がかけてあり、リボンで装飾してある。
そう、そこには。。。
お姫様の眠るような、ラブリーな天蓋付きベッドができあがっていたのだった。
簡素な司令官室の机には、ピンク色の天蓋付きベッドが置かれ、華やいだのであった。




