第27話 ~疲労~
嵐が過ぎ去った。。。
だが、僕の心は台風一過のようには晴れない。。。
(どうしよう。断る前に、ゴリ押ししてきて断るスキも与えられず。。。帰ってった。。。僕はもう魔王の手下になってしまったのか?)
手元には、魔王が置いていった黒い魔宝玉が怪しく光る。
あまりの出来事に思考が追いつかない。
「う~ん。」
考えてみたが、やはり無理。もう無理。絶対無理。答えが浮かぶはずがない。。
「もういいや。」
とりあえず、投げ出した。考えるのを投げ出して。。身体も草っぱらへ投げ出して。。
ごろんと横になって、空を見た。
頭の上側には世界樹の葉がキラキラと揺れる。
寝ころぶと、世界中が空になったかのように、視界いっぱいが空になる。
心地よい風は頬を撫でてゆく。。。
「アル?起きて。アル?」
身体が揺さぶられる。。。
「ん。。んっん。。。もう少し。。。むにゃ。。。」
「仕方ないな。」
「アル。もう帰るからね。」
そんな声をどこか遠くで聞いた気がする。ふわっと浮き上がるような感覚とともに。
だが、暗くて温かくなり、さらに心地よく。。。
カチャカチャ。ガヤガヤ。何だが周りが騒がしい。でも真っ暗だし、まだ夜みたいだ。
もう少し寝・・・
「あっっっーーーー!!!!」
ビクッッと僕の寝床が揺れる。
「どうしたんだい?アル?」
その声とともに、ぱっと目の前が明るくなる。
僕は眩しさに目を細めながら、促されるままジョージの手に乗る。
目が慣れてくるとそこは遊撃隊の仮設食堂だった。
「目は覚めたかい?」
ジョージが冷たいお茶をくれた。
ごくごくと一気に飲み干す。
「ぷはぁ~~。おいし~。生き返るぅ。」
「ふふっ。それは良かったよ。僕が迎えに行ってから、ポケットの中で、ずっと眠りっぱなしだったんだよ?」
いつものように僕の頭を撫でている。
「また何かあって無茶をしたんじゃないかと、心配してたんだ。無事で何よりだ。」
僕のほっぺたを両手で引っ張り…離して。また引っ張り…離す。
何が楽しいのか。。。でも凄く嬉しそうにしているので、まぁよしとするか。
そして僕は後悔することとなる。
どうしてあの時、目が覚めてしまったのか。。。どうせなら朝まで寝ていたかった。。。
みんなから、名付けに対する猛攻が、ジョージと僕にきた。
僕が目覚めた時は食事は終盤、明日も仕事なので深酒はしていないものの、ちょーど良い加減に酒が回っていた。。。
リリィが「明日も調査が残ってます!いい加減にしてください!!!」と怒り出す深夜まで、それは続いたのだった。。。
「アル。朝だよ?」
優しい声がする。
「うぅん。」
うっすら目を開けると、着替えを済ませて、僕の横に腰掛けているジョージがいた。
「あれ?今日は服が違うね。」
「あぁ。今日調査に入る場所は湿地帯だからね。動きやすい方が良いし、毒妖花の対策にもこちらの服の方が都合がいいからね。」
今日のジョージは、カーキの迷彩柄の上下だ。下はカーゴパンツにブーツを履き、上はジャンパーと活動用の略帽を被っている。
いつものジャケットタイプの制服もかっこいいが、今日のジャンパータイプの活動用服は、腰の高さが際だち、ジョージの足の長さが強調される。捲り上げた袖口からは鍛え抜かれた腕が覗く。
無駄にカッコイイ軍人だ。
「アルは今日は休んでて。」
そう言って、ジョージは治りきっていない火傷痕を隠す為、黒い長手袋をはめる。
「じゃ行って来るよ。」
僕の頭をポンと撫でて、出かけて行った。
なぜか疲労感が抜けない。。身体が鉛の様に重く感じる。
スライムになってから、痛みや疲労感といった、身体的苦痛がほとんどなかっただけに、辛い。。。
昨日の魔王遭遇以降、睡眠量が多かったので、寝すぎで疲れたのかとも思い散歩に出た。
今回の宿営は規模が小さい。大型テントが4張だけだった。
湿地帯なので、開けた部分がないというのも理由の一つだろう。
ヒマなので中を覗いてみた。
第1棟・・・食堂・シャワー室・分隊長部屋・女子部屋
第2棟・・・分隊長部屋・男子部屋
第3棟・・・司令室兼ジョージ部屋・男子部屋
第4棟・・・救護室・研究室
今回は泥手の生息状況調査と毒妖花の調査と対策だ。
泥手は強さも大したことなく、通常のモンスター調査なので問題がない。
メインは毒妖花だった。
1株の毒妖花であっても、香りや飛散した花粉でさえ、死を招く可能性のある危険な植物。
それが遠目に見ても確認できるほど群生しているポイントなのだ。
風向き1つも慎重にならなければいけない。
その為に、他の3つのテントは簡素であるのに対し、第4棟の救護室と研究室の資機材は王都の本室と引けを取らない設備が揃っており、隔離室が完備され、簡易結界まで張ってあった。
また、緊急事態が発生した場合の対策として、本国とを結ぶ魔法石板陣が設置してあった。
これは転移魔法であるが魔法扉の要素もある。
あらかじめ設置した大型魔法石板に魔法陣を組み込み、魔力を注入しておく。
そうすることで、使用者は魔法石板の蓄積魔力が途切れるまで、登録地を行き来できるのだ。
通称、『魔法通路』と呼ばれている。
使い方によっては、敵などの侵入も許してしまうため、使用には危険性を伴う。また、大型魔法石板という材料とそれに魔法陣を組み込むという高度な技術もいる。注入する魔力は魔法石板が大きい為、最低限でもかなりな量が必要であり、緊急用であれば、桁違いな魔法力を投入しておくこととなる。
アイテムが必要な魔法扉より、手軽ではあるが、危険性や設置の難しさから、使用する者はほとんどいないのが現状である。
こういった対策を見ても、毒妖花の危険性が窺えた。
表側からテントを回り、1周しようと裏へ回ったところで、シェフのガルンさんに出会った。
「おう。アル!散歩か?」
「うん。なんだか寝すぎたのかな?身体がだるくって。。ちょっと運動した方がいいのかなって。」
「そうか。なら特別におやつを作ってやるよ。美味くて元気の出るやつ。スイーツは好きか?」
「ほんと~?僕、すっごい好きなんだよね~。」
女子であった頃、行く先々でご当地銘菓を食べるのが大好きだった。
「確か~。ガルンさんって、パティシエとしての腕も一流なんだって聞いたんだよぉ。いつもごはんの時に付いてるデザートも美味しいけど、ちょっとしか食べれなかったし。楽しみだな~~~~。」
「そうか。そこまで好きだったのか。俺も昔っから好きでな。この見てくれだから、店なんて恥ずかしくて入れないしよ。仕事にすりゃ、思う存分食べれると思って、コック目指したんだよ。」
「へぇ~。そうだったんだ。でも、その方法、ありだね~~。」
「だろ?こんな話、女どもには言えないしな。アル。黙っとけよ?その代わり、とびっきりのを作ってやるぜ。ジョージ達が帰ってくるのは、夕方だからな。」
2時間ほどかかるというので、僕はシャワー室へ行った。大きめのタライにお湯を張ってもらい、湯船につかる。身体が小さいので、まるで大浴場にいるかのような気分を味わえる。
身体がだるいが、お湯の中だと浮力で軽く感じる。
泳いでみたり、浮かんだり、潜水してみたり、一通り遊んだ。
外に出て、ぶるぶるっと身体を振る。着替えをしなくてもいい。スライムって便利だ。
ちょっと早いけど食堂へ行ってみると。。。。。
そこには、女子なら感激ものの光景が広がっていた。
ゼリーにパンケーキ、クッキーにチョコレート、タルトにケーキ、ドーナツにババロア、ラスクにスフレ。。まだまだある。。。。
テーブルの上に所狭しとキュンキュンくるようなお菓子が並んでいる。
スイーツ専門店でもこれだけの品揃えはできない。
僕は目を輝かせて、テーブルを見て回る。
「見てるだけでも幸せだぁ。」
「嬉しいこと言ってくれるね~。」
いつの間にか後ろにガルンさんがいた。
「あ。。僕、今、声に出てた?」
「ってことは、お世辞なしなんだろ?これ以上の誉め言葉はないな。」
「俺たちもさ、手伝ったんだ。ガルンさんがパティシエとしての仕事をするのは中々見れないからさ。勉強になったし。ありがとな。俺が作ったのもあるから。。。」
コックの一人が説明してくれる。
『さ、アル。思う存分、食べてくれ。』
厨房のみんなが声を合わせて言ってくれた。
厨房のみんなで、スイーツビュッフェが始まった。
「流石はガルンさん。レシピ教えてくださいよぉ。」
「俺のも食べてくれ。自信作なんだ。」
「お前、腕上げたな~。いつの間に練習したんだよ。」
「これ、もう少し酸味合った方が良くないか?」
口々に感想を言い合い、褒め合い、羨み合い、意見を言い合い。。。それでも貶すことなく、やっかむことなく。。。
仲間っていいなぁ。と思った。
でもこれだけの量だ。材料はどうしたのだろう?
「あ?荷物か?俺は足りないってのは嫌なんでな。いつも大量に持って歩くんだ。」
答えになっていない。
「見送る時、手荷物だけだったのに、どうやって運んだのか聞きたかったんだ。」
「あぁ。そういう意味か。。内緒だぞ。」
ガルンさんが僕の耳元で語る。
「リリィがやってのけただろ?圧縮魔法。あれ、俺も出来るぜ!俺は魔法使いじゃないから、これしか使えないけどな。。。」
そう言って豪快に笑った。
そしてリュックを出し、圧縮魔法を見せてくれた。机がすんなり入った。中にしまった事を確認すると、今度は取り出す。
「俺はよ。目の前に気になった物があれば、料理の実験にしたくてね。植物でも動物でも。手で運ぶには限界があるだろう?だからといって諦めるのも嫌でな。。。」
「だからかな。。。絶対に無理と言われたが、今ではこうして使うことができる。」
ガルンは自慢げに話してくれた。
全部食べたい。。。一口ずつ。あっちもこっちも、手当たり次第、食べていく。。。
意外にもたくさん食べる事ができた。
スライムの身体は、ここでも役に立つ。。。お腹いっぱいに食べても。食べても。食べても。。。
まだまだいけそうなんですけど。
それもすぐに限界がきた。。。
「僕、もぅ。食べられない。」
「俺も」
「あたしも無理~」
次々にギブアップ者が出てくる。
大量に作ってあった為、仕方無いとはいえ、まだまだスイーツは残っている。
「ガルンさん、これ、どうするの?」
「ああ、夕飯はビュッフェスタイルにして、デザートも堪能してもらおう。」
「みんな疲れてるだろうから、きっと喜ぶね。」
僕はそう言ってごろんと横になる。
「はぁぁぁ。こんなにたくさん食べられて。。。幸せだな。。。」
そのまま、うとうととして。。。。僕は眠ってしまった。。。
ジョージは珍しく苛立っていた。
「これはどういうことだ!説明せよ!!!」
ジョージの前に立つガルンが青ざめ、
「私は、何も。。」
「答えになっていない!!」
「ジョージ様、落ち着いてください。」
リリィが宥める。
「落ち着いていられるか!ならばリリィが説明せよ!!」
ジョージが取り乱しているには訳があった。
ガルンの元でおやつを食べてから、アルが目を覚まさないのだ。
あれからもう5日が経っていた。
ジョージは混乱していた。
力を暴走させ、焼けるほどの熱を出した時でさえ、三日三晩で目を覚ました。
何かあった様子もないのに。。
自分が目を離した際に何かあったと考えるべきか。。。
そう思い、食堂での一件を問いただそうとしたのだった。
「ジョージ様、とにかく落ち着いて状況を確認いたしましょう。」
リリィは諭すように話しかける。
「まず、食堂での一件ですが、厨房の皆も一緒に同じ物を食べています。これが原因だとは考えにくいかと。」
「しかし、人間には普通の食材でも、スライムには毒であったかもしれない!」
「仮にそうであったとしても、ガルン殿を責め立てるのは違います。」
「・・・・。」
ジョージは言い返すことができない。そんな事は分かりきっているが、やりきれない気持ちをぶつけるしかなかったのだ。
「そして、ここからは私の勝手な推測ですが。。。」
そう前置きをして
「ジョージ様とアル君が夕方合流したとき、あの時、すでに眠っており、ジョージ様はポケットに入れて連れ帰りましたよね?アル君は夜まで眠っていました。お昼寝にしては長くありませんか?」
「っっっ!!」
「何か思い当たることがありますか?」
「そういえば、朝も、いつもアルが先に起きて、僕を起こしてくれていたんだ。あの日は僕が支度を終えて出かける頃まで寝ていて、僕が起こした。。。」
ガルンが口を開く。。。
「あの。私が口を挟むのもあれなんですが。。。俺達がスイーツビュッフェをするきっかけなんですが。。。アルが疲れてるように見えて声をかけたんです。そしたら「身体がだるいから」と。それで、俺が疲労を軽減させる食材なんかも使って作ったんです。スイーツが大好きだというので。。。」
リリィは顎に手を添え考える。
「やはり、考えられるとしたら、テント基地跡からジョージ様達が向かった場所、そして、一旦ジョージ様が離れ、夕方お迎えになるまでの間に何かがあったとしか思えませんね。」
「やはり、目を離すべきではなかったか。。。」
ジョージは項垂れ、目を瞑り、深いため息とともに首を振っていた。




