第26話 ~魔王降臨~
僕に忘れ去られた黄宝王玉をジョージが拾い上げる。
「大切にしないとね。」
「・・・・・。」
軽くパニックで。。存在ごと忘れてましたとは言えません。。。
「これは、持ち主のアルが持つ物だと思うよ?」
そう言って僕に渡してくれる。
僕が持ち、太陽に翳す。中に龍のシルエットが浮かぶ。幻想的だ。なんだか吸い込まれてしまうような。。。
どうすればいいのか。分からない。。。祈るような気持ちで黄宝王玉を見つめる。
するとどうだろう。その気持ちに反応したかのように、黄宝王玉が仄かな光を放ち始めた。
それに呼応するように、世界樹が光を帯び始める。。。
だが、アルフォンの手帳にあったような、強い光は出ない。暫く待ってみたが、変化はない。
「これが、あの現象だね。確かに不思議ではあるが、強烈な光、と言うほどでもないし。何か起きた気配もないね。」
「うん。」
何か肩すかしをくらった気分だ。
とりあえず、放置もできないので僕の頬袋にこっそりとしまった。
「1個だけじゃダメなのかもしれないね。泥手と毒妖花の調査が終わったら、リリィとマリィも連れてこようか?」
「なんで?」
「二人も宝王玉を持ってるから。。。」
そう言えば、リリィの細剣の柄に翠宝王玉があった。
ということは、マリィは魔法使いだから、朱宝王玉か?
(あのゴスロリのちびっ子が大魔導師レベルの実力者なのか。。。人は見た目じゃないんだな。)
魅力的な申し出だが、思うところがある。
「だけど、二人を連れてくるなら、世界樹のこと、話さなくちゃいけないんじゃない?僕は反対だよ。」
「そうか。。。宝王玉だけ貸してくれないかな。。。」
ジョージが顎をさすりながら思案している。
「とりあえず、一度戻って、合流しないか?判断はいつでも出来るし。そろそろ彼らも目的地付近に陣取った頃だから。」
ジョージから促される。
けれど僕の目的はまだ終わっていない。それになんだか一人になりたい気分だった。
「僕、もう少しここにいたいな。久しぶりだから。のんびりしたい。」
「そうか。。。。じゃあこうしないか?僕は一旦リリィ達と合流する。それで、夕方、もう一度アルを迎えに来る。どうかな?」
「え?そうしてくれるなら、僕はすごく嬉しいんだけど。」
「その代わり、約束をしてくれないか?この安全圏からはどんな事があっても絶対に出ないこと。」
「それはもちろんだよ。ホセもいないのに怖くて出られないよ。」
「よし。それなら、一旦、お別れだ。」
僕の頭をひとしきり撫でたあと、名残惜しそうにジョージはテント基地へ向かった。
そして僕は、もう一つの目的、《世界樹の雫》作成に挑む。
雨でも、一度《世界樹の葉》を滑り落ちたものは、《世界樹の雫》になっていた。
ならば、人工的に垂らしてもいけるんじゃないか。それが第2の仮説だ。
頬袋から、小さな瓶に入れた水を取り出した。
だが、所詮ただの思いつきだった。上手く行くはずがない。
だって僕、今ひとりだもん。
雨がわりの水を葉っぱに垂らす・・・そして垂れ落ちる雫を下でキャッチ。
簡単そうに思えた。うん。思えたんだよ。考えついた時にはね。
重力の力って凄いよね。。。
がんばって、自分で垂らした水を、したたり落ちる前に下でキャッチ。。。
できるわけねーよ。バカか。浅はかすぎるだろ。誰だよ考えたヤツ。。。僕だな。。。
あぁ。ホセ連れてくれば良かった。これくらいなら、仮説立証したからといって、秘密にしておくこともない。
後悔先に立たず。だな。
まだ諦めるのは早いな。こんなこともあろうかと。とは思ってなかったが、第2案も用意してある。
今度はてっぺんの幹に垂らす。そして、根元で掬い取る。それも少量なら、一気に下まで伝っていかない。これならいけるだろ。
と考えながら、第一目標地点である世界樹のてっぺんを見上げる。
そして気がつく。
(なんだあれ?)
いつからいたのか。。。そこには人間が立っている。いや正確には浮かんでいる。
下から見上げるかたちなので、逆光でシルエットしか見えないが、確かに人間で、空中に浮かんでいる。
(なんかこっち見てない?怖いんですけど。)
そして人影はゆっくり降下を始めた。
結界に触れたのだろうか。。一瞬、紫電が走ったように見えた。
構わず、降下してくる。やはり、僕を認識しているようだ。まっすぐここに向かっている。
近づくにつれ、姿が見えてきた。
とても質の良い紫色の生地でできた、ローブのようなものを着ている。ローブにはフードがついており、すっぽりと被って、顔がよく見えない。
人影が僕の目の前に降り立つ。
僕はその威圧感に動くことができなかった。。。
絶対王者のオーラだ。そんな人に出会ったことはないけど。。。そんな感じを受ける。
「して、そなたは誰だ?」
(え?いきなりですか?第一声がそれ?)
とは思ったが、どんな人か分からない。とりあえずは答えておこう。
だが、ここに先にいたのは僕だ。あまり舐められないように気をつけて。。
「えーと。僕ですか?ブルートスライムの『アル』っていいます。」
差し障りのない答えにしておいた。
「アルか。では問おう。ここで何をしておる?」
(また質問か?てかお前は名乗らないのかよ。)
「そうであったな。そなたに聞いておいて、名乗らぬのは失礼よの。」
(心の声が読み取られた!!!)
「驚くようなことではない。余はダルガという。魔王として、モンスターどもを統べておる。」
「え。えぇぇっぇぇっぇぇーーーーー!!!」
(やばい。やばすぎる。魔王って。。。つか、心の声、だだ漏れだよ。どうすんだよ。対処法が分かんないよ。)
そう思ってチラッと見上げると、フードの中の顔が見えた。
(結構おじいちゃんじゃん。)
「ふぁっーはっはっは。おじいちゃんか。その通りよの。余も年老いた。2000年に渡り魔王をしておるでな。」
(聞かれてた。。。終わった。。。完全に詰んだよ。。。短い人生だった。。。)
諦めの境地だ。
「そなたは、面白いの。余を目の前に、心の声は飾らず自然で素直だ。余の前に出る者は皆一様に、心が汚い。モンスターであれどもだ。気にすることはない。その心のままに言葉にせよ。特別に許す。」
大仰に言い放つ。
もう破れかぶれだ。どうせ死ぬなら、好き勝手やってからにしよ。そう思って口を開く。
「魔王さま。って結構コワイ人かと思ってましたが、心が広い方なんですね。」
「ふぁっーはっはっは。本当に面白いスライムよの。余が許しを与えたところで、本当にそうする者は少ない。」
(え?ダメだったのか?どっちが正解なんだ?)
「気に入った。そなたに大役を任せようではないか。我が魔王軍の一員となれ。余の直属として仕えよ。」
「え?えぇ?いや、それは困ります。僕、まだやらなきゃいけないことありますし。確かに今、無職ですけども、それ以上に忙しいといいますか。。」
言葉を濁す。
そもそも魔王軍が分からない。勝手に就職できないし。僕、モンスターじゃないし。今だけだから。サクラに戻るつもりなんだから。
「ほう?断る輩も珍しい。ますます欲しくなるではないか。」
そして暫し考え、
「ふむ。では、こうしよう。そなたに大役を任せるが、毎日必要ではないのだ。数ヶ月に一度程度の仕事だ。それ以外は何をしておっても良い。軍にも所属させぬ。余の必要あるときのみ相手をせよ。」
「・・・・・。」
強引すぎて言葉に詰まる。
(だいたい、大役ってなんだろうな。。。やるつもりないけど、気になる。。。)
「そうであるな。説明が必要であろうな。」
「アルよ。そなたはどうしてここにおる?そしてこの樹がどのような物かを知っておるか?」
直球できた。
「僕は、熊に襲われまして、瀕死になってここに辿り着きました。それで、ここで生活したりしてたんですけど。。」
「そうか。では完全なる認められし者なのだな。ますます良い。」
一人で納得している。
「この樹は『世界樹』という。余は、この樹の『葉』が欲しいのだ。手では千切れぬ故、自然に落葉するのを待つのみなのじゃ。その落葉した『葉』を拾い、余に渡す。それが仕事だ。」
「で、今日はなぜ、こちらに?」
気になることを連発してくるので、こちらからも質問をしよう。
「そろそろ落葉のある時期じゃ。様子を見に来たが、落葉はしておらぬ。そなたは拾ってはおるまいか?」
高速で首を横に振る。
「そうであるか。仕方ない。落葉のペースは掴めぬ故にな。」
「しかし。困ったものよ。。。」
魔王が目を閉じ考えている。
「どうしたんですか?」
「そろそろ《世界樹の葉》が必要でな。。。次の落葉が間に合うかどうか。。。」
「え?何に使うんですか?」
僕が質問をすると徐に魔王が動く。僕の額に指をあてた。
目を瞑りそしてゆっくりと頷く。
「ふむ。余には最愛の妻がおる。しかし身体に問題があってな。葉の力で長らえておるのじゃ。」
そういってかぶりを振り深くため息をつく。
そして魔王の指から映像が頭の中に流れてくる。
ベッドに寝かせられた女性。眠っているようだが、その姿を一見するだけで、相当な美人であることが理解できる。金髪の柔らかくウエーブした髪。その額には小さな角が見えている。胸の上で組んだ手の指は赤く長い爪が伸びている。魔族なのだろうか。。。
(それにしてもお人形さんみたいに綺麗な人だな~。若そうだし、おじいちゃんのお嫁さんにはもったいなくないか?それとも権力でも使ったのか?)
しまった!また心でとんでもない事を。心を読まれたら。。。恐る恐る魔王を見ると。。。
「よ、余は、権力を使ったわけではないぞ?確かに余の一目惚れではあったが、きちんと交際期間を経ての恋愛結婚である。相思相愛のはずじゃ。。。」
え?この人魔王ですよね?なんか顔を赤らめながら、慌てふためいてモジモジしながら弁明してくる。
魔王なのに、悪い人に見えなくなってきた。
今なら、怒らなさそうだし、ちょっと面白いからもう少し被せてみるか。
「でもさ。魔王さま。恋愛結婚なら告白とかプロポーズとかしたんでしょ?どっちからしたの?」
「それはもちろん余からである。男からするのが当然であろう?女性にそんな恥ずかしい思いをさせることはあってはならぬ。」
「ということはですよ?魔王さまから告白されて、怖くて断り切れず、お付き合いをしていたら、さらにプロポーズをされてしまい、後に引けなくなった。ってこともあると思うんですよ。もしくは金と権力が大好きだったとか。」
「妻を侮辱することは許さぬ。彼女は余が望んでも華美にしようとはせぬ。その分は、他の者たちに分け与えるべきだと。そして余の名を使って私利私欲を満たすこともせぬ。」
「それに。。。」
もごもごと小さい声で
「愛してるとも言ってくれるぞ。」
魔王が愛まで語り始めたんですけど。。。
でも、いろいろ聞いてしまったし奥さん大好きそうだし。ちょっと可哀想だな。僕のせいで奥さんが死んだら後味悪いしな。。。
魔王軍が何か悪さしてる話もあんまり聞いたことないし。。。
「あのさ。これ。。。」
そう言って≪世界樹の葉≫の欠片の一番小さいヤツを差し出す。
「これは?」
「足りないと思うんですけど。。。僕、ここに来たのつい最近なんですよね。だから、≪世界樹の葉≫が無いのって、もしかして僕が原因なんじゃないかぁ~と。でその時の余りの欠片を持ってたんで。。。」
「なんという心遣い。。。スライムであるのに知性があるとは思っていたが、これほどまでとは。。。だが、これは受け取れぬ。これがあれば、妻の時間に余裕ができるのは確かじゃ。しかし、そなたは知らぬだろうが、それを失えば、そなたはここに自由に出入りすることができなくなるのだ。」
「それにのう。それがあれば、万一そなたが大怪我を負ったとしても、治すこともできるのだ。そなたの物を余が奪う訳にはゆかぬ。その心遣いだけ有難く受け取っておこう。」
なんか魔王なのに正論を語るし。。優しいし。。下手な人間よりまともじゃん。
「そういうことであるから、そなたにはこれを。通信用の魔宝玉じゃ。≪世界樹の葉≫を見つけたら、連絡を入れよ。」
「魔宝玉には、余の加護をかけておる。弱モンスター程度であれば、寄り付きもせぬであろう。」
「≪世界樹の葉≫がないのであれば、長居は無用であるな。余は帰る。」
「では、良い知らせを待っておるぞ。ブルートスライムのアルよ。」
そう一方的にマシンガントークを終えて、さっさと帰っていった。
(あ。仲間にはするんだね。そして勝手に終了するんだね。。なんという自由人。。。)
後には、茫然自失となった僕が一人、取り残されていた。




