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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=緑の国 王都編=
25/322

第25話  ~世界樹ふたたび~

 食堂へ着くと、皆、制服を着用し、食事を始めている。


 僕たちが入室すると一斉に立ち上がる。


 「そのまま。食事を続けて。」

 ジョージは片手で制止し、リリィが席に案内してくれた。


 席に着くと、食事が配膳され、僕たちも食事を始めた。


 暫くするとリリィが来た。

 「ジョージ様。全員揃いました。」

 「分かった。」


 

 ジョージが立ち上がり、話を始める。

 「諸君。おはよう。時間が惜しいので、このままで。。食事中の者は続けてくれ。」


 話を続ける。

 「前回の討伐戦。ごくろうさま。大熊ビックベア討伐のはずが、牙熊ファングベアに始まり、灰狼アッシュウルフ銀狼シルバーウルフ、後発隊は泥手マドハンドにまで遭遇するというモンスターづくしになってしまったね。」


 「今回は、後発隊が発見した、泥手マドハンドと、その近くに群生しているという毒妖花の調査に入る。泥手マドハンドの調査はダイキ。毒妖花の調査はリリィ。この二人を分隊長とし、それぞれ指示に従うように。それと、僕は後から合流する。」


 「え?どういうことですか?」

 ダイキとリリィが驚いてジョージを見る。


 「急な変更で悪いんだが、ちょっと立ち寄りたい所があるんだ。前回のテント基地にアル君と行ってくるよ。」


 「・・・アル君?」

 リリィが首を傾げる。


 「あぁ。そういえば言ってなかったよね。スライム君を、昨日、僕が『アル』と名付けたんだ。砂漠の国の言葉でね、”赤い”っていう意味なんだ。スライム君にも了承してもらったし、なかなか良い名前だろ?」


 食堂がざわつく。そりゃもうざわついた。

 「え?」「なんで?」「決まったの?」「俺が考えたのは。。。」などと小さいがそれぞれに声が漏れている。


 「ん?イマイチだった?でもまぁ決めちゃったしなぁ。。。ま、そういう事なんで、みんな『アル』君でよろしく。。。それで、話を戻すんだが・・・・・・」


 命名についての事情を知らないジョージはざわつきをサラッと流し、隊編成について話を続けている。

 

 (良かった~。これで無事、みんなへの報告は終わったな。)

 僕はほっと胸を撫でおろした。。。

 が、勿論そんな簡単に終わるはずはなく。。。その夜、隊員たちの厳しい追及にあったのは言うまでもない。



 「・・・・・という方向で進めてくれ。では出発は7:00。各自、特殊装備の確認を再度するように。」

 ジョージの話は終わったようだ。


 僕とジョージはリリィを伴って、部屋に戻る。ハクゼンさんが食後の紅茶を用意してくれた。

 「それで、私はどのように動けばよろしいでしょうか?」

 リリィが問う。


 「うん。僕はみんなを見送ったら、そのまま飛翔移動魔法を使って、テント基地跡まで行くよ。目的地はそこからもう少し先なんだ。歩いて往復することになるから、ちょっと時間がかかるかもしれないな。」

 

 「向こうでの用事が済んだら、連絡を入れるから、テント基地跡まで迎えに来てほしいんだ。その頃には君たちも到着しているだろうし。」

 そう言って、リリィに座標点を記録した通信用水晶を渡す。


 「テント基地の座標を記録していたのですか。。。座標点が分かっているのでしたら、私が魔法扉マギーゲートを開きましょうか?それなら馬も連れていけますし。」


 「それは遠慮しておくよ。移動と違って、ゲートを開けばかなりの魔力を使用するからね。毒妖花の株数も把握していない現状、君の魔力は少しでも温存しておきたい。」


 「かしこまりました。では、ご連絡をお待ちしております。」

 リリィが頭を下げる。


 

 魔法での移動はいくつかある。

 浮動魔法・飛翔魔法・瞬間移動魔法・転移魔法・魔法扉マギーゲートなどが代表だろう。

 

 浮動魔法・・・浮かぶ。目に見える範囲程度であれば、移動可能。・・・使用魔力、小

 飛翔魔法・・・空を飛ぶ。熟練になれば音速を超えることもできる。長距離移動用。・・・使用魔力、中

 瞬間移動魔法・・・目的地へ文字通り瞬間で移動する。距離は関係なく使用可能。・・・使用魔力・・・大

 転移魔法・・・魔法石を使い任意の場所へ移動できる。魔法石が必要だが、術者がいなくても利用可能。・・・使用魔力、あらかじめ魔法石に注入した量により、複数回の使用も可能。

 魔法扉マギーゲート・・・鍵穴と鍵のアイテムが必要となる。複数人の移動が可能。使用魔力・・・特大


 全てに共通しているのは、座標点が必要ということだ。その場からは確認できない場所へ行くのだから当然だ。目標地点も分からないのに、魔法は発動できない。

 その他に、迷宮ダンジョンなどからの緊急脱出魔法もあるが、代表格の組み合わせによるものがほとんどだ。

 また、特殊アイテムもある。アイテムを使うという点では転移魔法に分類されるが、アイテムにより魔力消費がないメリットの一方で、1回使い切であることと、入手方法が限定されることがデメリットである。


 そして、今回のリリィの提案した魔法扉マギーゲートは使用魔力が特大ではあるものの、ゲートが開いている間は複数人移動しても使用魔力は変わらない。

 飛翔魔法や、瞬間移動魔法は複数人や距離に伴い使用魔力が加算されてしまう。馬まで運ぶとなると、小さめの魔法扉マギーゲートの方がお得な場合があるのだ。


 

 

 僕たちは予定通り、リリィ達を見送った。


 僕は、落ちないようにジョージの胸ポケットへ入る。少し体積が戻ったのか、若干キツイ。。。

 「ん?アル。少し窮屈じゃない?こっちにおいで。」

 そしてジョージが上着の腰ポケットへ移動してくれた。マチが大きいのでゆったりできる。


 「僕のせいで縮んでしまった身体が、少し元に戻ったみたいだね。安心したよ。」

 ポケットの中の僕を指で優しく撫でる。

 「たくさん食べたからかな?もっと食べたらもっと大きくなれるかな?」

 

 「そんなに大きくならなくてもいいんじゃない?キングスライムまでは大きくならないでね。」 

 「そこまでは大きくとは言ってないよぉ。」


 何事もほどほどがいいに決まってる。サクラより大きくなるつもりなどなかったのだが。。。


 「では、行こうか。」

 「しゅっぱっーーーーつ!!」

 

 あっ。思えば、この掛け声で、いつも何かが起きた。フラグなのか?

 今回は何も起きないことを祈ろう。


 そしてジョージの身体から魔法光が放たれると飛行を開始する。ジョージは魔法力も中々のものらしく、かなりのスピードが出ている。時間を要せずテント基地跡まで行けそうだ。


 1日がかりで早馬で移動したテント基地跡まで、2時間ほどで到着した。

 あれほどテントが立ち並んでいた場所は、今はガランとしている。


 ジョージは僕をポケットから出し、肩に乗せてくれた。

 「さぁ。世界樹へ向かおう。」


 

 道すがら弱モンスターが出てくるが、ジョージが一刀のもとに斬り捨てていく。

 肩に乗っている僕に振動すらこない。途轍もない身体能力だ。


 僕たちは他愛もない話をしながら30分ほどで世界樹の結界付近に到着した。

 ジョージが歩みを緩める。

 「この近くだと思うんだけど。。。」

 世界樹とは違う方向ばかり見ている。

 

 (ジョージには見えないのか?)


 「もう少し真っすぐ。ちょっと右かな。」

 それでもジョージはキレイに世界樹のテリトリーを避けるように歩く。

 

 「違う。違う。ちょっと待って。」

 埒が明かない。。。

 僕はジョージの肩を飛び降りた。


 「こっちだよ。」

 世界樹の結界へと連れていく。

 「本当に。ここなのか?」

 「うん。」


 「僕には、もう結界すら見えない。君たちと出会った時には、薄っすら感じ取ることができていたのに。。。」

 ジョージが落胆している。


 僕はふと思いつき、

 「ねぇ、ジョージ。これ使ってよ。」

 そう言って≪世界樹の葉≫の欠片を渡す。


 受け取ったジョージが目を見開く。

 「これは。。。」


 「見えたの?」

 「あぁ。今は結界が見えているよ。」

 そうして、僕を抱き上げ、欠片を使い、結界の中へと進んだ。


 

 澄み渡る空気。軽い身体。

 「あー。久々に帰ってきたーーーーっ!!」

 ジョージの腕から飛び降り、草の上を転げまわる。

 草の爽やかな匂いが心地良い。


 「ふふっ。そんなに嬉しいかい?」


 「うん。ちょっとひとっ走りしてきていい?」

 「ほどほどにね。」

 苦笑いのジョージを置いて、世界樹の樹の周りを走ってみる。


 樹の裏側へ廻った辺りでそれを見つける。

 「やっぱりだ。」

 

 それは≪世界樹の葉≫だった。自分の仮説を裏付けるため、無邪気を装い飛び出してみた。

 

 (やっぱり、夜に小さく光ったあと、2~3日で落葉している。)

 

 仮説というのは。。。

 2枚目の葉を拾う2日前に遡る。。。



 夜になり、星空を見上げる。数限りない瞬く星は、美しかった。。。


 人間であった頃、街での生活では、夜といえども街灯がある。

 旅の野宿では、安全対策のため、焚火を絶やすことはない。

 何もない暗さなどない。


 人間のまま過ごしていたら、ここまでの星空は見ることなどできなかっただろう。

 

 そんな感慨にふけっていた時、うすぼんやりとした光に気付いた。

 (なんだろう。。。)


 その真下まで来てようやく気付く。 

 

 1枚の葉が、本当に薄く光を出しているのだ。1枚だけ。。。

 注意深く見なければ、星の光にかき消されてしまうほど、か細い光。。。


 その時は意味が分からなかったが、2日後、2枚目となる葉を拾うこととなる。

 それから、同じような現象を見てから、3枚目も拾った。

 (落葉するときに、光を出すのか?)



 それが、僕が出した仮説だった。

 そして、ジョージに出会う前の晩、同じような葉を見つけていたのだ。その場所へと向かい、今回も≪世界樹の葉≫が落葉していた。


 (間違いないな。)


 「アルーー。楽しめてるー?」

 こちらに向かって手を振り、ジョージがゆっくりと歩いてくる。


 僕も急いで≪世界樹の葉≫を頬袋にしまい、何事もなかったようにジョージの元へと行く。


 いや。ネコババするつもりではない。僕の仮説をジョージに話すのは時期尚早だと思っているだけだ。



 ジョージと合流し、世界樹の根元に並んで腰かける。

 「さっきは、ありがとう。まさか世界樹を感じ取ることが出来なくなるとは。考えていなかった。」

 「うん。どのみち《世界樹の葉》で結界に触れないといけなかったしね。」


 「でもこれで、また一つ分かったね。まず《世界樹の葉》を持っていること。これが世界樹に近づく資格のある者かどうか。そして《世界樹の葉》で結界を解除だ。」

 「そっか。僕とホセは《世界樹の葉》を持ってたから、迷子にならずに済んだんだね。」


 「それじゃあ、黄宝王玉イエローオーブの検証もしてみようか?持ってきたかい?」

 「うん。ここにあるよ。」

 そう言って頬袋から黄宝王玉イエローオーブを出した。。。


 そう。出してしまった。。。無意識に。。。


 「あぁ。そうなってるんだ。いつもどこに隠してるのか不思議だったんだよね~。」

 「あっっ!!!」


 しまった!!と気付いた時には後の祭り。。。しっかりジョージに目撃されていた。


 「あ。あの。黙っててごめん。こんなとこから出してると、汚いと思われるかも。って。だから言えなくて。。。」

 「いや?そんな事は思ってないよ。ただ、荷物も持てないのに、いつもどこにしまってるのか気になってたんだ。一応僕の予想通りだから、気にしないで。」

 「うん。人間と違って、口の中に唾液ないから、汚くないし。頬袋2個あるから、荷物分けてるし。それに、中は結構広いみたいで、たくさん入るし。だからだから。。。」


 慌てて焦って軽くパニック。。。いらんことまで口走ってた。



 僕の横には、慌てふためいて僕に忘れられた黄宝王玉イエローオーブが寂しげに転がっていた。

 

のんびりが続きましたが、明日は少しお話が動く予定です。

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