第25話 ~世界樹ふたたび~
食堂へ着くと、皆、制服を着用し、食事を始めている。
僕たちが入室すると一斉に立ち上がる。
「そのまま。食事を続けて。」
ジョージは片手で制止し、リリィが席に案内してくれた。
席に着くと、食事が配膳され、僕たちも食事を始めた。
暫くするとリリィが来た。
「ジョージ様。全員揃いました。」
「分かった。」
ジョージが立ち上がり、話を始める。
「諸君。おはよう。時間が惜しいので、このままで。。食事中の者は続けてくれ。」
話を続ける。
「前回の討伐戦。ごくろうさま。大熊討伐のはずが、牙熊に始まり、灰狼、銀狼、後発隊は泥手にまで遭遇するというモンスターづくしになってしまったね。」
「今回は、後発隊が発見した、泥手と、その近くに群生しているという毒妖花の調査に入る。泥手の調査はダイキ。毒妖花の調査はリリィ。この二人を分隊長とし、それぞれ指示に従うように。それと、僕は後から合流する。」
「え?どういうことですか?」
ダイキとリリィが驚いてジョージを見る。
「急な変更で悪いんだが、ちょっと立ち寄りたい所があるんだ。前回のテント基地にアル君と行ってくるよ。」
「・・・アル君?」
リリィが首を傾げる。
「あぁ。そういえば言ってなかったよね。スライム君を、昨日、僕が『アル』と名付けたんだ。砂漠の国の言葉でね、”赤い”っていう意味なんだ。スライム君にも了承してもらったし、なかなか良い名前だろ?」
食堂がざわつく。そりゃもうざわついた。
「え?」「なんで?」「決まったの?」「俺が考えたのは。。。」などと小さいがそれぞれに声が漏れている。
「ん?イマイチだった?でもまぁ決めちゃったしなぁ。。。ま、そういう事なんで、みんな『アル』君でよろしく。。。それで、話を戻すんだが・・・・・・」
命名についての事情を知らないジョージはざわつきをサラッと流し、隊編成について話を続けている。
(良かった~。これで無事、みんなへの報告は終わったな。)
僕はほっと胸を撫でおろした。。。
が、勿論そんな簡単に終わるはずはなく。。。その夜、隊員たちの厳しい追及にあったのは言うまでもない。
「・・・・・という方向で進めてくれ。では出発は7:00。各自、特殊装備の確認を再度するように。」
ジョージの話は終わったようだ。
僕とジョージはリリィを伴って、部屋に戻る。ハクゼンさんが食後の紅茶を用意してくれた。
「それで、私はどのように動けばよろしいでしょうか?」
リリィが問う。
「うん。僕はみんなを見送ったら、そのまま飛翔移動魔法を使って、テント基地跡まで行くよ。目的地はそこからもう少し先なんだ。歩いて往復することになるから、ちょっと時間がかかるかもしれないな。」
「向こうでの用事が済んだら、連絡を入れるから、テント基地跡まで迎えに来てほしいんだ。その頃には君たちも到着しているだろうし。」
そう言って、リリィに座標点を記録した通信用水晶を渡す。
「テント基地の座標を記録していたのですか。。。座標点が分かっているのでしたら、私が魔法扉を開きましょうか?それなら馬も連れていけますし。」
「それは遠慮しておくよ。移動と違って、ゲートを開けばかなりの魔力を使用するからね。毒妖花の株数も把握していない現状、君の魔力は少しでも温存しておきたい。」
「かしこまりました。では、ご連絡をお待ちしております。」
リリィが頭を下げる。
魔法での移動はいくつかある。
浮動魔法・飛翔魔法・瞬間移動魔法・転移魔法・魔法扉などが代表だろう。
浮動魔法・・・浮かぶ。目に見える範囲程度であれば、移動可能。・・・使用魔力、小
飛翔魔法・・・空を飛ぶ。熟練になれば音速を超えることもできる。長距離移動用。・・・使用魔力、中
瞬間移動魔法・・・目的地へ文字通り瞬間で移動する。距離は関係なく使用可能。・・・使用魔力・・・大
転移魔法・・・魔法石を使い任意の場所へ移動できる。魔法石が必要だが、術者がいなくても利用可能。・・・使用魔力、あらかじめ魔法石に注入した量により、複数回の使用も可能。
魔法扉・・・鍵穴と鍵のアイテムが必要となる。複数人の移動が可能。使用魔力・・・特大
全てに共通しているのは、座標点が必要ということだ。その場からは確認できない場所へ行くのだから当然だ。目標地点も分からないのに、魔法は発動できない。
その他に、迷宮などからの緊急脱出魔法もあるが、代表格の組み合わせによるものがほとんどだ。
また、特殊アイテムもある。アイテムを使うという点では転移魔法に分類されるが、アイテムにより魔力消費がないメリットの一方で、1回使い切であることと、入手方法が限定されることがデメリットである。
そして、今回のリリィの提案した魔法扉は使用魔力が特大ではあるものの、ゲートが開いている間は複数人移動しても使用魔力は変わらない。
飛翔魔法や、瞬間移動魔法は複数人や距離に伴い使用魔力が加算されてしまう。馬まで運ぶとなると、小さめの魔法扉の方がお得な場合があるのだ。
僕たちは予定通り、リリィ達を見送った。
僕は、落ちないようにジョージの胸ポケットへ入る。少し体積が戻ったのか、若干キツイ。。。
「ん?アル。少し窮屈じゃない?こっちにおいで。」
そしてジョージが上着の腰ポケットへ移動してくれた。マチが大きいのでゆったりできる。
「僕のせいで縮んでしまった身体が、少し元に戻ったみたいだね。安心したよ。」
ポケットの中の僕を指で優しく撫でる。
「たくさん食べたからかな?もっと食べたらもっと大きくなれるかな?」
「そんなに大きくならなくてもいいんじゃない?キングスライムまでは大きくならないでね。」
「そこまでは大きくとは言ってないよぉ。」
何事もほどほどがいいに決まってる。サクラより大きくなるつもりなどなかったのだが。。。
「では、行こうか。」
「しゅっぱっーーーーつ!!」
あっ。思えば、この掛け声で、いつも何かが起きた。フラグなのか?
今回は何も起きないことを祈ろう。
そしてジョージの身体から魔法光が放たれると飛行を開始する。ジョージは魔法力も中々のものらしく、かなりのスピードが出ている。時間を要せずテント基地跡まで行けそうだ。
1日がかりで早馬で移動したテント基地跡まで、2時間ほどで到着した。
あれほどテントが立ち並んでいた場所は、今はガランとしている。
ジョージは僕をポケットから出し、肩に乗せてくれた。
「さぁ。世界樹へ向かおう。」
道すがら弱モンスターが出てくるが、ジョージが一刀のもとに斬り捨てていく。
肩に乗っている僕に振動すらこない。途轍もない身体能力だ。
僕たちは他愛もない話をしながら30分ほどで世界樹の結界付近に到着した。
ジョージが歩みを緩める。
「この近くだと思うんだけど。。。」
世界樹とは違う方向ばかり見ている。
(ジョージには見えないのか?)
「もう少し真っすぐ。ちょっと右かな。」
それでもジョージはキレイに世界樹のテリトリーを避けるように歩く。
「違う。違う。ちょっと待って。」
埒が明かない。。。
僕はジョージの肩を飛び降りた。
「こっちだよ。」
世界樹の結界へと連れていく。
「本当に。ここなのか?」
「うん。」
「僕には、もう結界すら見えない。君たちと出会った時には、薄っすら感じ取ることができていたのに。。。」
ジョージが落胆している。
僕はふと思いつき、
「ねぇ、ジョージ。これ使ってよ。」
そう言って≪世界樹の葉≫の欠片を渡す。
受け取ったジョージが目を見開く。
「これは。。。」
「見えたの?」
「あぁ。今は結界が見えているよ。」
そうして、僕を抱き上げ、欠片を使い、結界の中へと進んだ。
澄み渡る空気。軽い身体。
「あー。久々に帰ってきたーーーーっ!!」
ジョージの腕から飛び降り、草の上を転げまわる。
草の爽やかな匂いが心地良い。
「ふふっ。そんなに嬉しいかい?」
「うん。ちょっとひとっ走りしてきていい?」
「ほどほどにね。」
苦笑いのジョージを置いて、世界樹の樹の周りを走ってみる。
樹の裏側へ廻った辺りでそれを見つける。
「やっぱりだ。」
それは≪世界樹の葉≫だった。自分の仮説を裏付けるため、無邪気を装い飛び出してみた。
(やっぱり、夜に小さく光ったあと、2~3日で落葉している。)
仮説というのは。。。
2枚目の葉を拾う2日前に遡る。。。
夜になり、星空を見上げる。数限りない瞬く星は、美しかった。。。
人間であった頃、街での生活では、夜といえども街灯がある。
旅の野宿では、安全対策のため、焚火を絶やすことはない。
何もない暗さなどない。
人間のまま過ごしていたら、ここまでの星空は見ることなどできなかっただろう。
そんな感慨にふけっていた時、うすぼんやりとした光に気付いた。
(なんだろう。。。)
その真下まで来てようやく気付く。
1枚の葉が、本当に薄く光を出しているのだ。1枚だけ。。。
注意深く見なければ、星の光にかき消されてしまうほど、か細い光。。。
その時は意味が分からなかったが、2日後、2枚目となる葉を拾うこととなる。
それから、同じような現象を見てから、3枚目も拾った。
(落葉するときに、光を出すのか?)
それが、僕が出した仮説だった。
そして、ジョージに出会う前の晩、同じような葉を見つけていたのだ。その場所へと向かい、今回も≪世界樹の葉≫が落葉していた。
(間違いないな。)
「アルーー。楽しめてるー?」
こちらに向かって手を振り、ジョージがゆっくりと歩いてくる。
僕も急いで≪世界樹の葉≫を頬袋にしまい、何事もなかったようにジョージの元へと行く。
いや。ネコババするつもりではない。僕の仮説をジョージに話すのは時期尚早だと思っているだけだ。
ジョージと合流し、世界樹の根元に並んで腰かける。
「さっきは、ありがとう。まさか世界樹を感じ取ることが出来なくなるとは。考えていなかった。」
「うん。どのみち《世界樹の葉》で結界に触れないといけなかったしね。」
「でもこれで、また一つ分かったね。まず《世界樹の葉》を持っていること。これが世界樹に近づく資格のある者かどうか。そして《世界樹の葉》で結界を解除だ。」
「そっか。僕とホセは《世界樹の葉》を持ってたから、迷子にならずに済んだんだね。」
「それじゃあ、黄宝王玉の検証もしてみようか?持ってきたかい?」
「うん。ここにあるよ。」
そう言って頬袋から黄宝王玉を出した。。。
そう。出してしまった。。。無意識に。。。
「あぁ。そうなってるんだ。いつもどこに隠してるのか不思議だったんだよね~。」
「あっっ!!!」
しまった!!と気付いた時には後の祭り。。。しっかりジョージに目撃されていた。
「あ。あの。黙っててごめん。こんなとこから出してると、汚いと思われるかも。って。だから言えなくて。。。」
「いや?そんな事は思ってないよ。ただ、荷物も持てないのに、いつもどこにしまってるのか気になってたんだ。一応僕の予想通りだから、気にしないで。」
「うん。人間と違って、口の中に唾液ないから、汚くないし。頬袋2個あるから、荷物分けてるし。それに、中は結構広いみたいで、たくさん入るし。だからだから。。。」
慌てて焦って軽くパニック。。。いらんことまで口走ってた。
僕の横には、慌てふためいて僕に忘れられた黄宝王玉が寂しげに転がっていた。
のんびりが続きましたが、明日は少しお話が動く予定です。




