~記憶の欠片 3~
このシリーズもなんか長引いてすみません(汗)
もう少しです。
----リリィは思い返す。
7つの頃、初めて父の出張に同行した。見聞を広める為にと。
その頃のリリィは、秘められた魔力の高さに、既に魔法の才能を開花させていた。
だが、攻撃系の魔法に長けており、当時は魔法使いとしての教育を受けていた。
「リリィ様なら、大魔導士も夢ではありませんね。」
それが共に鍛錬を行う兵士達の口癖だった。
王室付賢者の家系。
もちろん魔法の勉強だけでなく、武術も学問も兼ね備えた教養も重視された。
外国の言葉の教育ももちろんあり、簡単な言葉を覚えた頃、父の出張の話しが持ち上がる。
父ヴォルガの仕事は、王室付賢者であるが、側近でもあるため、外交官としての側面もあった。
今回の出張は、王の同行ではなく、外交官としての仕事。護衛の任がないため、プライベートの時間も作り易い。
「此度は大した案件ではない。時間にも余裕があるであろう。子女を連れ行け。あの子もそろそろ外国を見ておく歳であろう?」
と王の進言もあり、リリィが同行することとなった。
青の国では、降りしきる雨と水に浸る町に驚き。
黄の国の砂漠には暑さと渇きにぐったりとなった。
言葉も風習も料理も違う。。旅程も幼いリリィを気遣ってくれた内容となっていたのだが、当の本人は、幼く、初めての外国に戸惑いと緊張で、心身共に疲れていた。
「リリィよ。今日立ち寄る邸宅はオアシスの中にある。少しは暑さも凌げるだろう。」
我慢強いリリィであったが、体調を崩しかけていることは父親であるヴォルガにはお見通しなのであった。
「リリィちゃん。護衛も付けますから、ヴォルガ様がお戻りになるまで、少し遊びに行きませんか?ブランコがお好きと聞きました。とっても素敵な所があるんですよ?」
滞在している豪族の邸宅。その妻が、流暢に緑の国の言葉使い、優しく髪を梳きながら微笑んでくれた。
母に髪を梳いてもらっているようで、ホームシックなリリィには心地よくて。。
さらには勉強の為。という名目上、子供らしさを我慢していたリリィにはあまりにも甘い遊びの誘い。
それでもリリィは父の許可が無いことに戸惑いを隠せない。
「リリィちゃん?大丈夫よ?今朝ね、ヴォルガ様にお伺いは立てたから。。ブランコが好きだというのもヴォルガ様からお聞きしたのよ?護衛をつけるならと許可も頂いてるから。。リリィちゃんの気持ちに添うように。とのことだったわ。」
豪族の妻は、リリィの髪を器用に編み込みながら、鏡越しにリリィの顔を見つめた。
「ほんとにいいのですか?」
丁寧に話すリリィに、
「私だけしかいないわ。そんなに畏まらなくてもいいのよ?」
豪族の妻はリリィの髪を結いあげると、満足そうに微笑んだ。
そして護衛と豪族の妻とその傍使えの者で少しばかりのピクニック。
「素敵な所でしょう?」
豪族の妻が、移動用のラクダに引かれた籠の幌を捲ると、そこにはポツンと大きな樹が1本。
その下には芝のような短い草が生えていた。
「・・・・不思議。。」
幼いリリィはその光景に首を傾げた。
「ふふっ。リリィちゃんは賢いのねぇ。これが”不思議”だって分かるんですものね。でもそうでしょう?オアシスから離れていて、水場も無いのに、草と木が生えているのは、この土地の者達でも不思議に思っているのよ?この木は大昔からあるんですって。」
二人は籠を降りると、芝の上に降り立つ。
従者たちが手際よく木陰になった芝の上に絨毯を敷く。
「さぁ。リリィちゃん。喉が渇いたでしょう?少しお茶を飲みましょう?それから、あのブランコで遊びましょう?」
豪族の妻が指し示した枝には、美しい木彫りのブランコが掛かっていた。
リリィ達一行は、ゆっくりと水分を補給し、ラクダは青々とした草を食む。
「じゃ、じゃあ。遊んできてもいいですか?」
遠慮がちにブランコを指差し、リリィが問いかける。
「もちろんよ?夕食までに戻ればいいの。ゆっくり遊んでね。喉が渇いたら、すぐに言うのよ?砂漠の渇きは身体を悪くするから。」
豪族の妻はとても優しい口調で。頭を撫でる手は温かく。。まるで母親に包まれているかのような気分。
リリィはようやく子供らしくにっこりと笑って、ブランコに走っていった。
しばらくすると。。。
「バディア様。この辺りでは見かけぬ子が来ましたが。。。」
護衛者が豪族の妻に声を掛ける。
「本当ね。。服装も顔だちも。。外国の子ね。。あの子をこちらへ。リリィちゃんに近づける前にこちらで判断をしましょう。。あなた達は周辺を確認なさい。あんな幼い子が一人で来たとは考えにくいわ。」
豪族の妻は、逡巡なく判断を下す。
「はっ!!」
護衛者達は、音もなく周辺の警戒へと散っていった。
女の子は女性の傍使えの者に連れられて、豪族の妻バディアの元へと来た。
「砂漠は暑いでしょう?お茶をどうぞ?」
差し出されるお茶に女の子は一瞬鋭く見つめた後、にっこりと微笑み、
「自分の分は持ってますけど。。。でも、水は貴重ですもんね。有難く頂きます。」
子供らしくないその言動を、豪族の妻バディアは当然見過ごさない。
一瞬の目の鋭さも、その言葉遣いも。まして外国人風であるにも関わらず、流暢な会話。
警戒に当たる護衛の者を見れば、首を横に振り、周辺に他者がいない事を知らせている。
「ねぇ。一人で来たの?オアシスの町からはここまでは遠いでしょう?どうやって来たの?」
バディアは訝しさを微塵も出さず、にこやかにその子に声を掛けた。
「私は、”はじまりの国”から来ました。オアシスの町の知り合いの家に泊めていただいて、どうしても探さなくてはいけないものがあり、旅をしています。この国には何度か来たことがあるので、言葉は元々話せましたし。。大きな樹にブランコがあると聞いて、ここまで一人で来ました。お水とか食料とかは万が一の為にと、圧縮魔法がかかったこの鞄に入れてもらいました。なので、もしも迷子になっても、しばらくは大丈夫です。」
女の子は斜め掛けしたバックをぽんぽんと叩き、無邪気に笑う。
バディアは、これからしようとしていた質問を全て答えられてしまった。
まるで心の中を見透かされたよう。不思議な感覚に警戒心が強くなったその時。。
「私もブランコで遊びたいの。あの子の所へ行ってもいいですか?」
女の子がバディアの手を握り、もう片方の手でブランコを指した。
「え?えぇ。」
バディアは思わず頷いてしまった。いや。頷くより他なかった。。手を握られた瞬間に、温かく敵意なく、まるで安堵が広がるような感覚が身体を支配した。
その子を疑う余地など与えられていないかのよう。。
(・・・不思議な子だわ。。)
それだけを思うのが精一杯だった。
「ねぇ。一緒に遊んでもいい?」
高く上がったブランコから見える砂漠の風景に目を奪われていたリリィは、突然の呼びかけに慌てて下を見る。
2つか3つくらい年上の女の子。。
「・・・うん。いいよ?ブランコ止めるからちょっと待って?」
リリィは魔法でブランコを止め、二人で乗れるように、少し横にずれた。
「ありがとう。。あなたは魔法が使えるのね。」
女の子は空けられた場所に腰掛けると、にっこりと笑った。
「うん。。魔法使いの勉強をしているの。。私ね。リリィって言うの。」
「そう。リリィちゃん。。私はね。サクラって言うのよ?」
二人は何の躊躇いもなく、名前を名乗り合うと、ブランコを漕ぎ始めた。
あっという間に二人は仲良く遊び始め、キャッキャと子供らしい笑い声が上がる。
ひとしきり遊んで、ブランコを降りると、
「・・・・あなたに預けるわ。。必要となった時に使うのよ?。。。きっと役に立つ日が来るから。。」
サクラが、リリィの手を握り、目を瞑る。その手は僅かに光を帯びて、とても温かい。
けれど、温かさがリリィの手のひらを包む頃には、目の前の子が、自分と同じくらいに幼い姿になったように見える。
「・・・・サクラちゃん?・・・大丈夫?」
リリィは、肩で息をするその子に声を掛けた。
「・・・うん。大丈夫。。なくしちゃダメよ?」
そう言って、リリィから手を離すと、リリィの手のひらには、緑色の小さな石の欠片のようなものが2つのっていた。
「・・・分かったわ。絶対に無くさない。大切に持っておくわ。」
幼いリリィは両手でその欠片を大切に握りしめる。
「・・・うん。また会いましょうね?」
そう言って、手を振るその子と別れた。-----
リリィは静かに話を終えた。
「そうか。。あの時そんなことがあったのか。。」
ヴォルガは難しい顔をしながら聞いていた。
「サクラ様だろうか。。」
シグナルのその問いに、リリィは素早く
「サクラだと思わない?”はじまりの国”から来たって言ってたし、名前も一緒よ?・・・今、思い返してみても、あの緑色の石は見たこともないアイテムよ?それに、創造神も”力を使い過ぎると幼くなる”って言ってたじゃない。あの時のサクラも石をくれた時、私と同じくらいの年頃になったように見えたわ。」
必死にその時の事を伝えようとするリリィに、シグナルは優しく手を添えると、
「そうじゃない。それは分かってるよ。君の話に疑いがある訳じゃない。。それが、”サクラ様”なのか、”アル陛下”だったのか。の疑問だ。。あの時はスライムにはまだなっていないのだから、アル陛下ではないだろうが。。」
「そうじゃな。。アル君ではないじゃろうが。。サクラ様単独の力ではなさそうじゃな。見た目と力の大きさが比例するのであれば、今のサクラ様よりもずっと幼い姿で、そのような術が使えるとは思えぬ。。」
ウォルゼスは穏やかにリリィを見つめた。
「そう。。。そうね。。」
相槌を打つリリィの傍らで、シグナルも頷く。
「それで、その石を宝箱にしまったから、それを探している。ということか?」
ヴォルガの指摘に、リリィはようやく本題に入ることが出来た喜びで顔が綻ぶ。
「そう。そうなの。。無くさないように。大切に。って思って、お父様がくれた宝箱に入れたの。。あれには魔法が掛けてあったでしょう?無くしても見つかるように。。けれど。。その宝箱をどこに片付けたかの記憶が全くないのよ。。だからお父さまが掛けた魔法で探して欲しいの。」
「ふむ。。困ったな。。あの魔法は気休め程度でね。異国の地までは届かないよ。。」
困ったようなヴォルガにリリィが驚く。
「・・・え?ここにないの?」
「あぁ。あの頃お前は、あの宝箱をとても大切にしていただろう?どこに行くにも持ち歩いていた。。なのに、私が公務から帰ると、それを持っていなくてね。どうしたのか聞いたら、お前は”大切な宝物を入れたから、誰にも見つけられないように隠した。”と言っていたよ。この国には中々来ることがないから、本当にいいのかとも聞いたんだが、”私は賢者になることにしたから、魔法でいつでも来れるようになる。”とも言ったな。移動魔法が苦手で一つもできなかったのにな。」
ヴォルガがその頃を思い出して、小さく笑った。
「そうじゃ。そうじゃった。旅から帰って来たら、急に”賢者になりたいから教えて。”とワシの所に駆け込んできたのう。」
ウォルゼスはその頃を懐かしむように笑った。
「そうなると、移動魔法も使えなかった幼いリリィが宝箱を隠したのは、そのオアシスの町の周辺とみて間違いはありませんが。。。」
シグナルは困ったようにチラッとリリィを見て溜息をつき、
「その身体では、移動系の魔法は使わない方がいいだろう。。」
とリリィの耳元で小さく囁いた。
「どうして?魔法ならすぐに行けるし。。いつも使っているんだもの。問題ないでしょう?」
リリィは声を荒げてシグナルの胸元に縋りつく。
「リリィ。魔法というものは、手放しに便利な術ではないんだ。。空間を歪め、無いものを作り出す。そんなものが”無害”なわけないだろう?気付かなくても何かしらの反動はあるものだ。皆、反動を気付かない程のレベルの者だけが使えるようになるから、普段は気付かないだろうが。。それに耐えられない者もいると言うことだ。。。”魔法”というものの本質を見誤ってはいけない。。体調を崩しているのならばなおさらだ。今日は倒れただろう?慣れぬ身体で本調子ではないんだ。。陸路海路を進む旅も身体には堪える。。しばらくは我慢してくれ。」
シグナルはリリィの頬に手を添えて、宥める言葉を言いにくそうに綴る。
「でも。。でも。。今だと思うの。。」
見る見る目に涙を浮かべたリリィ。
「どうしてそれほどまでに必要なんだ?シグナル君が困っているだろう?我儘を言わず聞き分けろ、リリィ。」
ヴォルガは厳しい口調でリリィを見つめた。
「でも。。だって。。。」
ポロリと大粒の涙が零れ落ちると、リリィは感情をも零れさせた。
「だって。。魂の移動には、アルの術だけじゃ心許ないんでしょ?あの時貰った石は”2つ”。。見たこともないけど。間違いなく何かしらの力を秘めたアイテムだったわ。。それなら、この子達の為の物だったのよ。きっと魂の器になるものだったと思うわ。。”妖精の指輪”だって、私の魂が安定したでしょ?あの時もサクラは誰に何のために造ったのかさえも覚えていないって言ってたけど。。役に立ったわ。。だから、あの石だって。。」
リリィは溢れる感情のままに、お腹を撫でながら、皆を見つめたのだが。。。
「・・・ちょっと待ってくれないか?リリィ。。今の話の流れからするにだな。。」
ヴォルガがシグナルを見る。
「・・・はい。。子を宿しました。。明朝ご報告に上がる予定だったのですが。。」
シグナルが気まずそうに頭を下げる。
「はぁぁぁ。リリィ。。まずはそれを言うべきだろう。。」
ヴォルガは額を押さえ、大きなため息をついた。
「良いではないか。そうかそうか。。めでたいのう。。」
ウォルゼスは呆れ顔のヴォルガを手で制止ながらも、喜びに相貌を崩す。
「であるならば。こんな夜更けまで起きているべきではないだろう。。大切な時期だ。部屋に帰って休め。宝箱の件はこちらで少し考える。。」
頭が痛いと言わんばかりに首を振るヴォルガに、
「まずは喜びの言葉をかけるべきじゃろ。」
とウォルゼスが苦言を呈す。
「父上。分かっております。。。シグナル君ありがとう。。リリィもおめでとう。。だが、可愛い孫の顔を見せるまで、その身体を大切にするのだ。。魂を宿す件はアル殿から聞いている。。本当にそのアイテムが存在するのならば、探し出すよう、私も配慮する。。。だから、お願いだから、今日の所は休んでくれ。。気が気じゃない。」
ヴォルガは立ち上がり、リリィの元へと来ると、クシャっとその頭を撫でる。
「・・・・分かりました。。」
リリィは父の手を不満げに撫で返すとむすっとしたままの顔をシグナルに向ける。
「では、ヴォルガ様。ウォルゼス様。改めてご挨拶に伺います。今日の所はこれで。。」
「うむ。リリィの事。頼んだぞ。」
ヴォルガの言葉に、シグナルは「はい。」と力強く頷き。。。だが、その手はリリィを甘く抱え上げる。
「・・ちょ。。ちょっと。シグナル。。これは。。」
リリィは家族の前でお姫様抱っこされた自分の姿に、顔を真っ赤にさせて抗議する。
「ダメだ。歩かせるわけにはいかない。陛下にも休暇願を伝えた。君の体調が落ち着くまでは、一歩たりとも歩かせない。。これは決定事項だ。。君だけの身体ではないことを自覚してくれ。」
いつになく厳しく。。けれども甘い言葉に、リリィは恥ずかしさに染まった顔を両手で隠した。
「ははっ。噂には聞いていたが。。シグナル君がリリィを溺愛しているというのは本当だったのだな。。若干遣り過ぎ感は否めないが。。守られているのは、可愛い娘だからな。不問にしよう。」
ヴォルガは、愉快そうに笑い声を上げた。
「もうっ。お父様ったら。。」別の意味で泣き顔になったリリィ。
「ありがとうございます。」対照的にシグナルは動揺することなくいつも通りに頭を下げる。
こうして、甘々な二人は部屋に戻っていった。
翌朝。。。
朝食の食堂には、ジョージ家族とシグナル夫婦にヴォルガ・ウォルゼスが会した。
「リリィ。子ができたと聞いたぞ?おめでとう。」
ジョージの父であり前国王のジョセフは、まるで自分の娘の事のように喜びを口にした。
「それで、どんな子にしたのだ?ヴァンパイアか?人間か?力を注ぐと、いろいろと決められると聞いたぞ。」
ヴォルガは昨晩とは打って変わって、興味津々にシグナルを見る。
「残念ながら、男児と女児の双子。我々が決めたのはこれだけにしました。神ではありませんので、全てを決めてしまうのもどうかと。。けれど、性別を決める事ができるだけでも贅沢と言わざるを得ませんが。。」
シグナルはテーブルの下でリリィの手を握り、いつになく表情が顔に出ていた。。とても幸せそうな笑顔。。
そして、サクラを前に、昨晩のリリィの記憶の欠片を話した。
「不確かで僅かな情報で申し訳ありませんが。。サクラ様にその記憶はありますでしょうか?」
シグナルの真面目な顔に、サクラは困惑の表情を浮かべる。
「えっと。。ごめんなさい。。砂漠の1本木の断片的な記憶だけ。。誰かと遊んだような気がするのだけれど。。”石”の記憶はないわ。。」
申し訳なさそうに話すと、サクラは俯いてしまう。
「・・・サクラ。。いいの。。指輪を貰った時もそうだったもの。。それに、あの時、”石”を造ってくれた時、あなたが幼くなったわ。。私の為に力を使い過ぎたのよ。。。記憶を失ってるかもしれないとは思ってたから大丈夫。」
リリィはサクラを見て、にっこりと笑うと、サクラも安心した様子になった。
「なんや。。そんなめでたい話、聞いてへんぞ?」
バッサバサとホセが羽ばたかせて部屋に入ってくると、ジョージの肩に乗る。
「まぁ。言ってませんもんね。」
ジョージは気にするでもなく、ホセの背中を撫でる。
「・・・で、リリィが貰った”竜の爪”を探すんやな。」
『・・・竜の爪????』
ホセの何気ない一言に、全員の声が揃う。
「・・・え?違うんか?何を探してるんや?」
逆に驚くホセに、
「ホセ。。。リリィがサクラから貰った物が”竜の爪”というアイテムなのか?何故分かる?」
ジョージは勢い込んで聞く。
「せやかて。。状況からするに、”竜の爪”を造ったんは間違いないやろ。。ただ、本当に”竜の爪”やったら、ここに居ても波動くらい感じるとは思うんやけどな。。何も感じんわ。。すでに消化されたとかはないんか?」
ホセはリリィを静かに見ると彼女は首をフルフルとさせる。
「けどな。。記憶の一部が思い出せへんのやろ?使った可能性はあるやろな。。その後に、賢者の力に目覚めたわけやし。ま、もしもまだ”竜の爪”が2つもあるんなら、魂の移動は些事や。」
羽根を広げて話をするホセ。。
だが、皆の顔は困惑気味。。
「ホセ。。”竜の爪”って??」
サクラが戸惑いながら口を開いた。
「なんや?知らんのか?自分で造ったんやろ?まぁでもそうか。。呼び名は別に俺が勝手に呼んでるだけやな。」
ホセは羽根の先で顎を撫でながら苦笑する。
「・・・で?ホセ。。それならば、”竜の爪”について説明が欲しいな。」
ジョージが促すとホセも頷き、
「そやな。”竜の爪”言うんはな。。実際の爪やなくて。。オーラを結晶化した物なんや。使い道は色々やな。リリィのその”妖精の指輪”に入ってる石も、もちろん同じような原理なんやが。。まぁ”竜の爪”の劣化版というか簡易型というかな。。”竜の爪”はその濃厚さが強い。それこそ、オーラを濃縮するんや。その為に竜の爪のような独特の形になるから、俺がそう呼び始めた。。子供のリリィの手のひらに2つ乗るサイズだとしても、その力の量は、人間を1体造るくらいの力は使ってるやろな。」
「そうだな。サクラの身体も幼くなったってことは、結構な量の力を凝縮させてるダロ。」
ずっとモグモグと朝食を食べ続けていた創造神が、ホセの説明に同意をする。
「あぁ。。分かったわ。そう。そんな名前なのね。。何回か造ったことがあるわね。。確かにすごく力を使った覚えがあるわ。。今の私では。。。造れなくもないでしょうけど。。。いえ。多分造れないわね。」
サクラはそう言うと、チラッとジョージを見た。
「うん。そうだね。そういうアイテムなのであれば、小さくとも君の身体に負担がかかるから。僕もサタンも許さないよ?」
当然の事のようにジョージは言い放つ。だが、それはサクラの身を案じてのこと。彼女もそこは理解していた。
「だけど。ホセ。。僕も波動は感じないダロ。。どうやって探すダロ。。」
「そやな。。俺とお前が近くまで行けば、分かるやろ。。大きさはリリィの夢で推測しだだけや。もしかすると本当はものすごく小さくてオーラも微弱で感じ取れんのかもしれへん。」
ソルアとホセは二人で相談して頷き合っていた。
「では、捜索には、少数精鋭で行こうか?僕とサクラ。ホセとソルア。そしてシグナルで。リリィはやはりここで待機しててくれないか?僕も心配で仕方がない。」
ジョージの人選に口を挟む者はいなかったが、立候補者が一人。
「ジョージ陛下。私も同行させてはもらえないだろうか。。」
リリィの父、ヴォルガだった。
「そうですね。。かけられた魔法が発動すると助かりますね。」
ジョージは皆を見回し他の同行者がいないことを確認した。
「・・・ちょっ。マジで。。帰りづらいったらないわぁ。」
僕は魔王城自室のソファになだれ込む。
「アル。仕方ないだろう?他に手だてがないか皆で考えよう。」
ジョージが呆れ顔で溜息をつきながら、僕の隣に座る。
何故、こんな事になっているかというと。。。
僕たちは、簡単な準備を終え、すぐに”黄の国”へと向かった。
当然、現地へはヴォルガが道案内をしてくれた。
滞在したという豪族の邸宅へと赴き、事情を説明すると、快く邸宅内を案内してくれ、宝箱を探したが、手がかりはなく。。。
「残念ですね。。あとは。。リリィちゃんが行ったのは、ブランコの場所だけですわ。。あの場所へは、私が同行いたしまし、道中でリリィちゃんが一人になることはありませんでしたから、宝箱を隠したのなら、そこかもしれませんね。」
豪族の妻バディアはそう言うと、地図を渡してくれた。
その地図を元に砂漠を進む。
まぁ、飛翔魔法で、飛んだけど。。
皆、能力が高いので、ラクダで30分ほどの道のりなど、すぐそこだった。
「へぇ。まるで”世界樹”だね。」
ジョージが大木の幹を撫でてその樹を見上げる。
「わーい。ブランコダロぉ。。」
「ちょっと乗ってみようぜ。」
僕とソルアは一目散にブランコに走っていく。
ホセは大木の枝に留まり、一息つき。
シグナルは屈み込んで確認するように地面を撫でる。
ヴォルガは周辺の景色を見渡していた。
「・・・なぁ。二人とも。。波動。感じるか?」
ホセがブランコに乗り込み、ソルアと僕を交互に見る。
「たぶんここにあったのは間違い無いダロ。。でもなぁ。。」
ソルアが言葉を濁す理由が僕にも分かった。
「・・・うん。なんかさ。。ここにかかってる魔法が邪魔だよね?」
僕たち3人が大木を見上げると、いつの間にかジョージとヴォルガが下に来ていた。
「君たちで解除はできないのかい?」
ヴォルガの問いに、僕たちは顔を見合わせ首を振る。
「うーん。。なんかさ。結構な上位魔法だもんね。。解除したら、術者がきっと気付くよ?もしさ。僕たちに対して、あんまり良くない人だったらさ。。」
「そやな。ここをつくった意図が分からへんな。。こんな樹を守る維持魔法なんて無駄な力を使ってるんやし。」
「うんうん。足跡を消す魔法も無駄ダロ。。」
僕とホセとソルアがそれぞれ見解を口にする。
「そうか。。やはりこの場所全てが魔法によるものか。。だが。。足跡を消してあるととしても、この”アルの匂い”が残っているのは僕にも分かる。ならば、宝箱とその中身はここに残っているんじゃないか?」
ジョージの言葉に、ホセが少し考えこんだ。
「うーん。。どうやろな。。足跡消去魔法は新しくかけられてるで?となると、術者が何らかの目的を持って新たに上乗せしたとみて間違いないやろな。。そうなると、”竜の爪”の足跡を消した。のか、あえてその波動だけ残した。かもしれん。。これだけの術が使えるなら、”竜の爪”の存在を気付かんわけあらへんからな。」
ホセは考えを纏めるように少し俯いて話す。
「それならば、無闇に触れない方がいいですね。。一度戻って作戦を練り直すべきか。。」
顎を撫でて考えこみ始めたシグナル。。
「ちょっと待って。戻るってどこに?」
慌てる僕にみんなは意味が分からないのか、ツッコミさえも入らない。
「だってさ。。僕たちを見送ってくれたリリィの顔。。覚えてる?・・・めっちゃ期待に満ちてましたけども。。あそこに手ぶらで帰れる?・・・どんな顔して部屋に入っていくんだよぉ。」
僕の一言に皆がそれぞれに思い当たったようで。。
そして行く場所無く、とりあえず魔界の僕の部屋へと来たのだった。
「・・・ちょっ。マジで。。帰りづらいったらないわぁ。」
僕は魔王城自室のソファになだれ込む。
「アル。仕方ないだろう?他に手だてがないか皆で考えよう。」
ジョージが呆れ顔で溜息をつきながら、僕の隣に座る。
「ですが陛下。。今日中には向こうへ帰らねば、それこそ訝しがられます。」
シグナルが僕の隣に来て、困ったような顔をする。
「だよねー。どうしようか。。」
僕はソファーに座った皆を順に見るのだが。。良い案などすぐに思いつくものでもない。
思いつかないから、ここに来たわけだし。
「そうだ。。あの術者を探す。とか。」と僕。
「いつ来るかも分からないだろう?維持する魔法量はまだまだ十分だった。」とジョージ。
「あえてあそこで何かやれば、向こうからやってくるダロ!」と無責任なソルア。
「それで戦闘にでもなれば、”竜の爪”すら吹き飛ぶ可能性が出てきます。無謀です。」とシグナル。
「地道に掘るしかないだろうか。。」とあきらめ顔のヴォルガ。
「ま、魂の移動の為やろ?”竜の爪”以外の方法を考える方が早いやろ。」とホセ。
僕たちは、テーブルに置かれたバディアの地図を覗き込み、あれやこれやと話し込む。
「あら。アルちゃん。賑やかね?」
「あ。シエイラさん。お帰りなさい。」
そこへシエイラとダルガが戻ってきた。
「うむ。珍しいメンバーじゃな。何を見ているのだ?」
ダルガがテーブルを覗き込むと、シエイラと顔を見合わせる。
「ここがどうかしたか?」
不思議そうな顔を見せるダルガに、
「ちょっと探し物をしてるんですけど。。ここに魔法がかかってて。。結構な上位魔法だし、誰が術者かも分からないから、解除せずに宝箱を見つけられないものかと。。ダルガさんなら、どうします?」
僕は藁にもすがる思いで、元魔王の知恵を仰ぐ。
「そうじゃな。解除するか?」
あっさりと言い放つダルガに僕は溜息をひとつ。
「だからさぁ。相手が悪いヤツだったらどうすんの?闘いたくはないからさ。」
「じゃから、ワシが解除すると言っておろうが。」
「だからさぁ。」
僕とダルガの噛み合わない会話。。。
「アルちゃん?勘違いよ?・・・ダルガ?ちゃんと皆さんが分かるように説明して?」
シエイラが優しく僕とダルガの会話に割って入った。
「・・・どいうこと?シエイラさん知ってるの?」
僕はキョトンとシエイラを見上げる。
「もちろんよ?・・・だって、ここ、私のお墓ですもの。」
『・・・えぇ???』
想像もしないシエイラの発言に、魔王部屋には皆の驚きの声が響き渡ったのだった。
次回は。。まだ書き終わってないので確定ではないですが。
前回同様、九九にしてみました。
2月9日18時。。。までに頑張ります!




