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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=緑の国 王都編=
20/322

第20話  ~名前を決めよう~

 「おはよー。みんなー。朝だよー。おーきーてー。」


 さっきから起こしているが、誰も起きる気配がない。

 ホセにいたっては、仰向けで羽根をだらしなく大の字に広げている。鳥らしからぬ格好だ。しかも揺すっても起きない。動物としてどうなのか。。。


 「ジョージーー!!仕事行かなくていいのー?」

 耳元で叫んでみた。。。

 

 「うわっ!」

 「ジョージ、朝だよ。ごはんは?仕事は?」

 「あぁ。なんだかちょっと頭が痛いな。声、小さくお願いね。響くから。。。う~ん。頭痛いから、休もうかな。。」

 そのまま二度寝しようとする。


 「ちょ。ダメだよ。仕事行くんでしょ?それが終わったら図書館に連れてってくれるんでしょ?」

 「そんな話、したっけ?でも頭痛いし。。。病気の時は仕事はお休みしないとね。。。」


 「それ、ただの二日酔いだよー。うるさくして起きるように、ワザと声張り上げてんだよー。昨日約束したよね?ペナルティの後片付け、代わりにやったら図書館連れてってくれるってーーー。」

 

 食堂の机に突っ伏して寝ているジョージをたたき起こそうと頬っぺたに向かって、体当たりする。


 「あぁ。いいね。冷たくて気持ちいいよ。。。」

 そう言って、僕を掴みおでこに乗せる。


 「僕、氷嚢じゃないよーー!!」


 埒があかず、困り果てていると、僕をすくい上げる手があった。僕をジョージのおでこから救出すると、僕のいなくなったおでこには、冷たいタオルが乗せられた。ハクゼンだった。


 「あ。ありがとう。」

 「ジョージ様。軍の連絡会議のお時間です。お支度を。」


 「えっ?もうそんな時間?すぐに用意するよ。。。」

 「ねぇ。ジョージ、図書館は?」


 「会議は昼までには終わるはずだから。ハクゼンと待っててね。」

 僕の頭を撫でると、急いで出て行った。


 

 「では、片付けでもしましょうかね?」

 「あ。。それは終わってます。」


 「本当ですね。。。いつも片付け係になるジョージ様が寝てらしたので、まだかと思いました。片付けてから眠ったのでしょうか?」

 「僕が片付けたんだよ?交換条件でね。」


 「そうでしたか。それはそれは。ありがとうございました。」

 深々と頭を下げる。

 「いえいえ。そんなハクゼンさんがお礼言わなくても。。。」


 「いえ。いつもジョージ様はご自分の事は後回しでして。ジョージ様のご負担を軽くしていただけたのですから、感謝申し上げます。」


 「ジョージ様は、皆様のためであれば、寝食取らずに働き続けるのでございます。昨日も片手で手綱を握り続けて馬を駆けた上に、ウォーキャットと遭遇し、お疲れは如何ばかりかと。。。そしてご帰還なさった夜は、いつもどんなに疲れていようとも、隊員の皆様とご一緒されるのです。。。いつもペナルティをお受けになるようにして、隊員の皆様をお休みさせ、ご自分は後片付けを。」


 「えーー?そんな深い理由があったなんて、僕知らないからさ。ジョージが意地悪してるんだと思って、ペナルティのこと言っちゃったよ。」

 「気になさることはございません。例えスライムさんがご発言なさらずとも、そうなるようにいつもご自分で仕向けていらっしゃるので。」


 「それに。。。」

 ふふっ。と嬉しそうに笑って、ハクゼンが続ける。


 「ご自分のことですら御するジョージ様が、二日酔いのご様子。あれほど深酒をなさる姿は初めてでございます。たまには羽目を外すのも良い事です。いつもどこか他人ごとのように。心を表に出さない方でしたから。。。あなたがいらっしゃってから、とても自然体で過ごしている姿に安心をいたしました。そんなジョージ様の心を引き出していただいたあなたに、私は心から感謝しているのでございますよ。。」

 ハクゼンが僕の頭を撫でた。


 「あぁ。申し訳ございません。思わず無意識に撫でてしまいました。。。でも、不思議な感覚です。あなたを撫でると何かこう、大きなものに包まれているような落ち着きといいましょうか。。心が安らぐ感じがいたします。あなたの事をいつも撫でていらっしゃるジョージ様のお気持ちが分かる気がいたしました。この安心感に包まれていたのですね。」


 僕には何のどんな感覚だか、全く分からないことを言っているが、とりあえず撫でてもらうことは特に問題ないし、喜んでもらえるなら、別に構わないか。。。




 「この調子では、隊員の方々も二日酔いかもしれませんね。コックの皆さんもまだ眠っていらっしゃいますし。。柔らかいリゾットでもお作りしましょうか。」


 そう言ってハクゼンが厨房に立つ。

 その手際はとても美しく見とれるほどだ。あっという間に下ごしらえが終わり、鍋が火にかけられる。

 煮込みながら、サラダとお茶も用意が整い、リゾットの香りが漂い始めたころ。


 「よう。ハクゼンさん。朝食を作ってくれたのかい?悪いな。寝坊しちまって。」

 シェフが起きてきて、リゾットを味見している。


 「味はいかがでしょうか?差し出がましいとは思いましたが、ガルン様もお休みのご様子でしたので。あと、サラダとセルグのお茶をご用意しております。」


 「いつも美味いな。二日酔いにはセルグの実はよく効く。リゾットの柔らかさも味も、みんなの体調にぴったりだ。下手なコックよりも知識も技量も高いな。厨房で雇いたいくらいだ。」

 がーっはっはっは。と豪快に笑いながら、シェフのガルンが、ハクゼンの肩をバシバシ叩いていた。


 そんな豪快な声でちらほら起きたものがいて順番に朝食をとる。1時間もする頃には全員が起きて食事をとっていた。


 「なぁ。スライムさん。おまえさんの名前は無いままかい?呼びづらいし、ここに居る間だけでも。ニックネームくらい付けないか?」

 シェフのガルンが提案する。


 「そうですね。私も賛成いたします。種族の名前では。同じ場所に他のスライムがいた場合に混乱しますからね。」

 

 「そっか。そうだよね。僕は不便じゃなかったから、気付かなかった。。。う~ん。何がいいかなぁ。。。」


 「ちょっと待て。スライムさん、もし思いついてもまだここで言うなよ?こんな大事なイベント、ジョージ抜きでやったとなれば、後が怖い。あいつがいる時にしよう。」


 「あ~。」「そうだな。」「間違いない。」などの言葉が飛び交う。

 仲間はずれにされたジョージのふて腐れ具合って。報復でもするのだろうか。気になるところだが。。。


 「それまでに俺たちもカッコいいの考えとくよ。」

 とみんなが口々に言ってくれた。仲間に入れてくれたようで嬉しかった。



 朝食の後片付けは厨房のみんながしてくれた。

 昨晩の後片付けについても。


 「スライムの身体で、よく片付いたなぁ。」と感心してくれたので、

 「スライムの身体って、便利なんですよ~。形が自由に変えられるんで、何を運ぶのも自由自在です。身体が小さくて、1個ずつしか運べないのが難点ですかね~。」

 と試しにティーカップを運んでみる。


 「へぇー便利なもんだな。」

 「でもよう、スライムさんの言い方だと、ほかの便利な身体もあることを知ってるって風に聞こえたなぁ。不思議な力も使うし、本当はスライムが仮の姿とかだったりするんじゃねぇの?」


 (うわー。確信ついてきた!!墓穴掘った~~~~!!)

 と内心焦りまくっていたが、


 「まっ。そんなこたぁねぇか。」

 自分で言って自分で話を切った。ガルンさんって。。結構自由人だな。


 それ以上、特に質問してこなかったので、いろいろと安心した。

 だって、食器の洗い方を聞かれたら困るからなぁ。。。身体に洗剤つけて、自分がスポンジになって洗いました~。なんて言えないもん。。。



 片付けも終わり、寛いでいると、ジョージが帰ってきた。

 軍の会議というだけあって、正式な軍服に身を包み腰に下げた剣は上品そうな輝きを見せる。

 身こなしが優雅で、背が高く、引き締まった身体のジョージが着ると様になる。なりすぎる。。

 これで王子という高スペックも付いてるなんて。。。反則だ。


 「お待たせ。遅くなってごめんね。お昼は食べたかい?」

 「まだだよ。朝ごはんが遅かったから。。。」


 「それは良かった。午後からは休みにしたから、お昼を食べに町へ行こう。その後は図書館だ。」

 「やった~。ありがとう!!」

 


 ジョージと町に繰り出した。


 シンプルなシャツをラフに着て、帯剣する剣は、装飾無くシンプルで小振りな、一兵卒が持つようなもの。一見すれば庶民。が、そこはジョージ。それでもすれ違う女性が目で追っている。僕という得体の知れないスライムを肩に乗せているにもかかわらずだ。

 

 しかも、その女性達と目が合うたびににっこりと微笑みを返している。女性達のハートを撃ち抜きまくってる。久しぶりにイケメンスキルの発動を見た。。。無意識に罪作りなのが、もうコワイよ。。。


 僕がジト目でイケメンスキルを見ていると、流石にジョージも気付いたらしい。

 「裏道においしいお店があるんだよ。そっちに行こうか。」


 そうして入った裏道は。。。

 「ねぇ。ジョージ?この道あってるの?ホントにお店あるの?適当に来たんじゃないの?」

 矢継ぎ早に質問する。。。


 だって、路地に入ったとたん、ガラが悪いんだもの。。ものすごく。。。もはやコレは『”裏”の社会の方が使う”道”』ではなかろうか?


 「ふふっ。驚いたのかい?大丈夫、ちゃんと合ってるよ。あの角を曲がったらすぐだよ?」



 「こんにちはー。友達と一緒なんだけど。空いてるかい?」

 「おう。ジョウさん!久しぶりだな。元気にしてたのかい?」

 無茶苦茶強面のおっちゃんが出てきた。。。ガルンシェフも大概な風貌だったが、このおっちゃんはその上をいくな。。初対面だから、気をつけよう。

 そして庶民モードのジョージは『ジョウ』なんだな。


 「今日はそのちっこい子と一緒か?こないだのキレーなおねえちゃんはどうした?俺的にはあの子の方が好みだがな。」


 「ふーん。へぇ。ほぉー。」

 早くも今日2回目のジト目だよ。

 「え?えっっ?違うよ?違う違う。リリィだよ。ちょっと、大将も変な言い方しないでよ!彼女は同僚だって説明したよね?」


 がっーーはっはっはっはー。大将の豪快な笑い声が店内に響く。


 僕たちは一番突きあたりの奥まった、小さな2人掛けの席に着く。ジョージの指定席らしい。

 「ここなら、人に聞かれることも視線も少ないからね。町に来ると、よく寄るんだよ。安くて美味しいしね。」


 「ジョウさん!嬉しいこと言ってくれるね。で、何にする?そこのお客さんは何が好きなんだ?」


 「うーん。どうしようか?僕はいつもお任せでね。スライム君は何がいい?」

 「僕も、嫌いなものとか、食べられないものとかは。。たぶん無いと思うから。おまかせで。」

 一瞬で注文が決まってしまったので、食事が運ばれるまでにヒマになった。



 やることもないので、今朝のみんなとの話を続けようと、

 「ねぇ。ジョージ。相談があるんだけど。。。」

 「僕も君に確認したい事があったんだけど。。」


 二人で遠慮しあってみたものの、埒があかないので、僕から話をすることにした。

 「あのね、僕、ニックネームとかでもいいから、名前決めたいな~なんて。」

 「その事だったのか。。。僕も君の名前について悩んでたんだよ。奇遇だね」


 「スライム君は、名前の候補とかあるの?僕はね、一つあるんだよ。。。」

 自信ありげにジョージが言う。


 「僕は今朝、みんなから言われて、まだ決めてないことに気付いたんだ。。だからなんにも考えてないよ。」

 「じゃ、僕の分は発表しても問題ないね。」


 「ありがちだけど、見た目とかから決めると分かりやすいかなと。。。そこで、砂漠の国の言葉で、『アル』ってどうだろう?赤いって意味なんだけど。。それに君の勇敢で優しい姿が、伝説の勇者『アルフォン』の名前とも繋がるしね。」


 「アル。アル。。アル。。。。アルかぁ。。。悪くないよね。。。それで良いんじゃない?」


 「じゃあ、これからスライム君は、アルという名前でいいかな?よろしくお願いね。」

 「こちらこそ。よろしく。」


 というわけで。

名前はあっさり決まりました。


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