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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=新生活編=
2/322

第2話  ~オウム~

「死なないでくれよ」


 瀕死の重傷を負ったオウムに願うように声をかけて一晩たった。



--6日目--


 昨晩までの苦しそうな様子がない。。。


 まさか死んでしまったのか?

 オウムの口元に近づくと静かな息が聞こえる。


 (良かった。)

 しかし声をかけても反応はない。まだ油断はできないのだろう。

 

 昨日に引き続き、雨露で口を湿らせてみる。

 かすかに口元が動いた気がする。。。飲めたのならいいが。


 

 洞に敷き詰めた草にはベットリとオウムの血がついてしまったので、交換をすることにした。


 草むらへ行き草を集め洞へと運ぶ。

 その作業を何度も繰り返した。


 時々オウムの様子をみる。

 オウムの口元へは雨露を。身体を草でやさしく拭いた。


 そんな日々が数日続き。。。




--10日目--


 オウムがうっすらと目を開ける。


「気がついたか?」


 数日間の看病の喜びが実を結び、嬉しさでいっぱいだった。


「なぁ。わかるか?」

 返事が返ってこず、急かしてしまった。


 そんなオウムがこちらを見て

「なんや?おまえ。気安く声掛けてくんなや。」


(はぁーーーー????)

 なんだ?なんなんだいったい?


 かなり不審者を見る目でこちらを訝しながら、言われたぞ!

 というか、瀕死の重傷で数日ぶりに目が覚めた第一声がこれか?

 

 予想外の返答に軽く混乱した。。。


 いや。目が覚めたばかりだ。オウムも混乱してるんだろう。ここは腹を立てては駄目だな。


 深呼吸して、

「おまえ大怪我して、眠りっぱなしだったんだぞ。大丈夫か?」


 その言葉で、オウムはしばし考え込む。


「そやったぁ。ジョセフィーヌちゃんはどこやぁぁ?」

 オウムはそう叫びながら飛び起きた。


(疑問点はそこか?しかも、ジョセフィーヌって誰だよ。)思わず心で突っ込む。

(まぁ、元気になったんだな。)


「それは知らんが、見掛けた時は、おまえだけだったけどな。」

 

「まぁそうやろうな。俺も見失のうてたし。」

 軽い感じで答えてくる。


「人間に追われた挙句、撃たれるなんて、どういう状況だよ。」


「もしかして、お前が助けてくれたんか?いやぁ。ほんま助かったわー。撃たれたとき、死んでもうたな。って思うてん。」

「おまえ。。。軽いな。」


「そうかー?そういうお前だって、見ず知らずの鳥を助けるなんて、変わってんちゃうかー。まぁそのおかげで、俺は助かったからいいんやけどー。」

 

「俺さ、ホセいうんやけど。実はサーカスで飼われててん。。。」

軽くこれまでの経緯をオウムから聞いた。



オウム曰く

町を転々とする サーカスで飼われていたそうだ。

そのサーカスは過酷で、芸の覚えの悪い者や人気が無い者は容赦なく切り捨てられるのだそうだ。


そんな中、ホセは人間の言葉を覚え話すようになった。

 オウム返しではなく、会話できるまでに。


 元来のお調子者の性格もあり、与えられた仕事以外にも、仲間の失敗があればアドリブでその場を切り抜け、観客席で泣く子があれば飛んでいき、子供の泣き顔を笑顔に変えてみたり、気付けば人気も1・2を争うまでになった (あくまで本人主観だが) らしい。



そんな中、ホセの噂を聞きつけ、どこぞの貴族が見物にきた。

珍しいペットを集めるのが趣味なようで、持ってきた籠には黄色い美しい鳥が入っていた。


「いやぁ。一目惚れってやつやな?艶のある羽根。。。上品な佇まい。。。気品溢れる話し声。。。歌声にいたっては、この世のものとは思えない程の美しさ。。。仲間のみんなも絶賛や。」

ウットリしながら、話していた。


そして問題が発生する。


「オウムが欲しい。もちろん言い値で買おう。」


貴族が放った一言にサーカスの団長はにやけ顔だ。

ホセもジョセフィーヌちゃんと同じ屋根の下で飼ってもらえるのか〜〜と妄想を開始する。



 だが問題は次の一言だった。

 団長が皮算用をしていたため、すぐに返答をしなかった姿を見て、貴族は金だけでは足りないと考えたのだろう。


「そちらの運営に損失を与えては申し訳ないと思う。どうだろうか。このジョセフィーヌも置いていこう。この美しい姿と歌声は観客を魅了するであろう。」


 団長の口元はさらに緩んだが、対照的にホセの顔は怒りに歪む。

 愛しいジョセフィーヌちゃんがこんな悪辣な団長のサーカスなんかに身売りされるなんてありえない。。。それも自分の身代わりとして。。。


 団長と貴族はこの話を詰め始めた。こうなれば、ホセとジョセフィーヌの交換話が消えることはないだろう。




 ホセは仲間のいる檻へと急ぐ。


 貴族が見物に来てからの数日でジョセフィーヌと仲間の動物達は仲良くなっていた。


 ジョセフィーヌとしても、あくまで数日のバカンス先での出会いとして付き合ってくれたのだろう。

 下品な態度の猛獣もいたが、分け隔てなく笑顔でいた。


「ようホセ。鼻息荒いがどうしたんだぁ?」

ライオンのガッツが声をかける。


「ホセさま。今、皆さまの武勇伝を聞かせていただいておりましたの。」


「おい。お前ら、人様に聞かすような武勇伝なんて持ってへんやろう。。。ジョセフィーヌちゃん真剣に聞かんでええから。」


「つれねぇなぁ。俺が森の魔獣と一騎打ちした話が佳境だったんだかな。」

 ホワイトタイガーのジャンが残念そうに呟く。


「ジャンお前、生まれも育ちもサーカスで森へなんかいっぺんも行ったこと無いやろうが!」

 チッと舌打ちするホワイトタイガーを横目に貴族と団長の話をみんなに聞かせる。


 話が進むにつれ、仲間達は気色ばみ、ジョセフィーヌは項垂れ青ざめていく。


「ひでえ話だな。」

 熊のジャックは首を振りながら言った。

 

「あの団長なら、断ることはまずないわね。」

 象のミミィが鼻を揺らした。

 

「俺はぬくぬくと貴族様に (ひとりで) 飼われる気はないし、ジョセフィーヌちゃんがこのサーカスに売られるなんて考えられへんわ。」


「何かするんなら、早いほうがいいな。」

 イタチのファイが腕組みしながら考える。


「そうだな。団長を襲撃するか?」

 ジャガーのハルクが牙を剥き出しにする。

 

「人間を皆殺しにするのは簡単だがなぁ。」

 シマウマのマジーが言う。


 動物たちは日頃の鬱憤が募り、暴力的な考えばかりしか出てこなかった。

 


「ねぇ。ホセ?みんなして何をコソコソ話しているの?」

 人間のカレンが歩いてきた。


  歩くとはいっても四肢をついて、身体は仰向けだ。肩の辺りにも半分埋まるようにしてもう一つ顔がある。。。結合双生児だった。

彼女は人間だが、見世物として、動物と同じように飼われているのだった。


カレンには動物達の言葉は分からないので、ホセが掻い摘んで話をし、会話に入る事となった。


彼女は身体はこのように生まれてしまったが、知能などには問題がない。それどころか知能指数はかなり高い。サーカスの中では観客が喜ぶように、知能の低いように見せている。サーカスにいるのは生きてゆくためだ。

 彼女が心を開くのは仲間たちの前だけであった。


「ねぇ、みんな?攻撃的になってはいけないわ。。。まず守るべきは巻き込まれてしまうジョセフィーヌさんの事ね。ホセは行きたいのであれば止めないけれど。。。あの貴族も団長と同じような人間だと思うわ。飽きたら捨てられるでしょうね。」


「私の意見を言うのであれば、ふたりだけなら逃げやすいでしょう?鳥ですもの。。。どこへでも飛んでいけるわ。でも、その先がないわね。自然の中で生き延びられるほど、飼い慣らされた私たちは強くないもの。」


「それから、団長や団員達を襲撃するのは、もっと馬鹿げているわ。その後に関係のない人間を襲わないなんて言ったところで、団長たちを殺していれば、誰も信じないでしょう?それに、猛獣というだけで、私たちは町中を自由に歩けば、討伐対象になってしまうわ。」


 全員がカレンの言葉に聞き入っていた。当然の事ばかりだった。だが、カレンが『私たち』と言って動物側として発言してくれたことが皆うれしかった。


「ありがとう。カレンのおかげで冷静になれたよ。」

 ジャガーのハルクが申し訳なさそうに牙をしまう。

 

「だが、どうする?町の中じゃあすぐに見つかるしよ。森ん中じゃ魔獣に食われるぞ。」

 熊のジャックが腕を組む。

 

「二人とも派手な色してるもんねー。」

 無邪気にウサギのラビィが二人を交互に見て確信をつく。

 

「ジョセフィーヌちゃんはどうなの?」

 カレンが優しく問いかける。


「わたくしは。。。正直どちらとも怖いんです。どちらも嫌と言ったところで、あの方は考えをやめることはありません。誰よりも、より新しくより珍しく。それだけがあの方の価値なのです。今までもどれほどの子が飽きられて処分されたか。わたくしは殺されないだけも良かったと思わなくてはいけないのでしょうね。」

 俯いて涙を堪えながら話す。


 答えはなかなか出るものではなかった。




 ガチャン。


 そのとき動物小屋の錠前を開ける音がした。

 

「どうする?」

「とりあえず、少し騒ぐから、混乱に乗じて二人は飛び出せ。」

「でも。それではみなさまが…」

「大丈夫ってことよ。戻るも戻らないも、一度外に出てから考えりゃいいさ。」


 団長と貴族が入ってくるまで、それだけしか話せなかった。



「ささ、動物たちはこちらですぞ。」

 自慢気に貴族をつれた団長が入ってきた。



 ガルル。。。

 ウォーン。。。


 ホワイトタイガーとライオンが唸り声をあげて喧嘩している。



「何をしとるんじゃー。お前たち。静かににせんかー。」

 団長が慌てて手に持つステッキを振り上げた。


 熊が興奮して檻の柵を揺らす。

 

「きゃあーー。」

 

 熊の檻のそばにいたカレンが驚き飛びのいた。

 その先には鳥籠を置いた机があった。



 ガシャーン!!!


 派手な音を立ててジョセフィーヌを入れたままの籠ごと、机が倒れた。


 落ちた衝撃で、鳥籠の扉は開き、驚いたジョセフィーヌは籠から飛び出す。



「なんてことじゃー!!!」

 

 団長は先ほど振り上げたステッキを下ろそうとし、飛び上がっていたホセとジョセフィーヌにステッキが掠る。

 2羽の鳥はさらにパニックになり、部屋中を飛び回った。


 

 閉まり切っていなかった動物小屋の扉から暖かい日差しが差し込む。



 パニックになった2羽の鳥はその明るい隙間へと吸い込まれるように飛んで行った。。。


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