~狂乱の戦士 そして~
「ねぇ。ジョージ?おかしくないかしら?」
鏡の前でサクラが最終確認をする。
「ん?今日もかわいいよ?」
ジョージはドレスアップしたサクラを鏡越しににこやかに見つめ抱きしめる。
あれから10日。。。
アルが「待たせすぎるからこんな事になるんだってばぁ。すぐに結婚させようぜ?」の何気ない一言で、あっという間に結婚式の準備が整えられ。。今日はシグナルとリリィの結婚式となった。
「ねぇ。このティアラ重いの。。いつものじゃダメ?」
困ったような顔をするサクラにジョージは。
「今日は王妃として出席するんだよ?だから正装で。ね?」
優しく宥めるジョージを見て、サクラも笑みをこぼす。。正装に身を包んだジョージは今日もかっこいい。
そして場所は何故か黒の国。。
魔界とみどりの国では、皆が張り切りすぎて仰々しくなりそうだから。
という話しだったのだが。。。
「ねぇ。シグナル。。無理よ。。絶対に無理。。。もう結婚式はしなくてもいいから。。」
控え室で既に涙目になっている花嫁。。
「諦めてくれ。。私もここまでするとは思わず。今さら断れない。」
困惑する花婿。。
そう。。黒の国は、実質ヴァンパイアの国。。国王こそ違うが、族長であるシグナルを崇めているのだ。
たったの10日。しかも当初の予定では、みどりの国で行う予定だった結婚式。。
”急遽”という言葉が正しいにも関わらず。。。
国をあげての結婚式が準備されていたのだった。
もちろんシグナルは、自分の持ち家である伯爵の家の中庭を予定しており、家臣からもそのように準備が完了していると報告をもらっていた。
だが蓋を開けてみると、王城での結婚式となっていたのだった。
しかも現国王の時より遙かに凄いらしい。
「あっサクラ。。どうしよう。。私。。」
幸せの涙とは違う涙を溜めて、リリィがサクラを見る。
「いいじゃない。一生に一度でしょ?楽しめば?私なんて、婚約式と結婚式の2回よ?それもあんなに派手に。恥ずかしかったけれど。。いい思い出だもの。」
「そうだよ。リリィ。この国の人たちも、それほどにシグナルの結婚を喜んでくれているんだ。1500年も待たされれば、こうもなる。」
ジョージも笑ってリリィを宥める。
「いや。ジョージ。。前族長の兄が死んでからなので、私は800年しか待たせてはいない。」
シグナルが変なところに食い付いた。
「まぁ。でも。。そんなに不安なら。。。ねぇ。まだ時間もあるし。。本当は結婚式が終わってからと思っていたのだけど。。ちょっと気分転換する?」
サクラがシグナルとリリィを見る。
二人は意味も分からずキョトンとする。
そう言って、3人で輪になるように手を繋ぐ。
「ジョージ。ソルア。ちょっと行ってくるわ。。ちゃんと見張りをお願いね?」
『え?見張り?』
4人の慌てた声を余所に、サクラが術を発動する。
着いた先は。。。
真っ白な銀世界。。青い無数の光が瞬く幻想の世界。。
「ここは?」
リリィがその景色にうっとりと見とれる。
「私の精神世界。ですか?」
シグナルはすぐに気付いた。
「うん。そうだよ。。こっちこっち。」
僕はスライムになり、二人を誘導する。
「あの子を紹介しようと思って。。」
僕が指差す方向に小さな男の子。
リリィが駆け寄って男の子を見つめる。
「こんにちは。」
「・・・こんにちは。。」
恥ずかしそうに挨拶をする男の子に、リリィのハートは撃ち抜かれたようだ。
「キャー。かわいい。。なんて愛らしいのかしら。」
初対面だというのに、思いっきりハグし始めた。
「あ。。。あのさ。。リリィ。。それ。。。」
僕が言い淀んでいると、
「あの。。リリィさん。。。ちょっと離れてもらっていいですか?」
男の子が顔を真っ赤に染めてリリィを突き放す。
「ごめんなさい。。いやだった?」
申し訳なさそうにリリィがしていた。
「違うよ。。イヤな訳はないよ。。僕もシグナルだから。。」
少年の言葉に、リリィが首を傾げる。
「だから。。その子は。。私の少年時代の心だろう。」
シグナルが溜息をついて答える。
「え?そうなの?シグナルってこんなにかわいかったの?でも。。それなら。。。いいわよね?」
そう言うなり構わずに少年を抱きかかえる。
「ちょっと。。リリィさん。。そっちのシグナルが言ったと思うんですけど。。子供時代に切り離された訳で。。僕もこの姿だけど、大人のシグナルとほぼ同じ時を過ごしてきたんだってば。。だから。。あんまりひっつかれると恥ずかしいから。。」
全力でリリィから逃げようとするも、中々難しいらしい。
「ねぇ。それって、同じ魂だから、あなたも私の事、好きって事?」
リリィは子供に対する態度を崩さずに楽しんでいる。
「そうだってば。。ちょ。。アルさん。。なんとかして?」
「了解了解。ま、その話に来たんだしね?」
僕の言葉にやっぱり二人は意味が分からずキョトンとする。
「さてと。。ではシグナルはなんとなく意識があったかも。なんだけど。。」
と前回の精神世界の話しとローラの話しをサラッとする。
「そう。。そんなことが。。しかも私。妖精だったの?」
「あ。あぁ。」
シグナルはまさかこんなところでバラされるとは思っていなかったようで、困惑気味。
「ねぇ。その妖精。。かわいかった?どんな妖精?」
リリィの興味は自分の前世に向いているようで、シグナルがホッと胸を撫で下ろす感じが笑えた。
「リリィ。。問題はそこじゃないから。。シグナル少年の方だから。」
僕は話を戻す。。こんなところで時間を食ってしまっては、結婚式に遅刻しかねない。
「で、シグナルが捨てた記憶の方は、こないだ強制的にシグナルに戻したわけだけど。。この子はさ。自我が確立してたし。。シグナルに戻るか悩んでてね?どうしたいかなーって考え中だったんだけど。。決まったみたいだから。二人に相談しようかな?と。」
「どういう事でしょうか?」
シグナル自身も不思議がる。
「ほら。自分で言いなよ。二人なら分かってくれると思うよ?」
僕はシグナル少年を促す。
「うん。。でも。。」
迷う少年の姿に、僕も気になってしまう。
「僕が言おうか?」
「うん。。お願い。。」
そして僕が二人に向き合う。
「あのね。。二人は子供が欲しいって言ってたよね?」
「えぇ。」とリリィ。
「はい。」とシグナル。
「この子が二人の子供なったらダメかな?」
僕の一言にリリィは笑顔になり、シグナルは困惑の表情を見せる。
「陛下。。それは一体。。」
「アル。。私はいいわ。。こんなにかわいい子だもの。」
シグナルは目を丸くし、リリィはシグナル少年をさらに抱きしめる。
「まぁまぁ。とりあえず二人とも落ち着こうか。。」
僕は二人の変なテンションに困ってしまう。
「まずは、シグナル。。この子の自我は確立してるから、僕が核を造って、魂にすればいいから。。それとリリィ。。二人の子供だからさ。見た目は変わるよ?」
「・・・ダメ。。かな。。」
恐る恐る二人の顔を窺う少年にリリィはさらに堪らなくなってしまったようだ。
「ダメなはずないじゃない。。もう。なんなら。私、今すぐここで暮らしたいくらいだもの。。」
そう言って少年を抱きしめている。
「私としては。。もう一人の自分だと思うと複雑なのですが。。」
「あー。その辺は大丈夫。。完全に別の人格だと思ってくれてさ。それに新しい魂として生み出した時点で、ここでの記憶は無くなるはずだから。。流石に歴代の女性遍歴とかさ、リリィとの記憶を持ったままその子供とか。。倫理上良くないでしょ?」
軽く笑う僕に対し、二人は顔を真っ赤にする。
「じゃ、特に問題なさそうだね?・・子供ができたら教えて?魂を造るから。。良かったな。シグナル少年。」
耳まで赤くなる二人と、嬉しそうにする少年が対照的だった。
「ありがとう。アルさん。」
「いいってことよ。ゆくゆくは僕たち親族になるんで。よろしく。」
「うん。前もってその挨拶も変だけど。。よろしくお願いします。」
僕とシグナル少年は固く握手をする。
そして未だ困惑気味の二人を連れて、現実世界へと戻ってくる。
「お待たせ。時間は間に合ったかしら?」
サクラがジョージを見る。
「あぁ。丁度いい時間だよ。。さぁ。リリィ。行っておいで?」
ジョージはリリィを案内役の女官の元へ連れて行く。
「シグナル。リリィをよろしくね?」
サクラは彼の手を取り、にっこりと笑う。
「はい。生涯をかけて幸せにします。」
力強く頷き、彼も式場へと向かった。
「じゃ。僕たちも行こうか?」
「えぇ。」
ジョージの腕にサクラが腕を絡ませ、二人もゆっくりと式場へと歩き出した。
黒の国は常夜の国。。暗さの中、光を使う演出は流石と言う他ない程で。。それはもう幻想的だった。
浮遊魔法のかかるキャンドルがゆったりと空中に浮かび、その中を蛍系のモンスターが瞬きながら飛び交う。
式は粛々と行われ、シグナルはやっぱりヴァンパイアの王に相応しい威厳を持ち。
リリィは先程までの動揺を見せることもなく、優雅な佇まいはその美しさを際だたせていた。
庭園に出てくると、二人を祝福するように盛大な花火が上がる。
みどりの国のようなパレードはないものの、そのかわりに次から次へと二人の元へヴァンパイア族の者達が挨拶に来る。
その合間にはリリィがドレスを替え。。。
「サクラ。。。お願い。。」
とそのお色直しの度に、サクラが連れ出される。
「シエイラ様ったら、何着用意しているのかしら?」
と初めはお色直しの回数に戸惑い。
「ねぇ。。私。。挨拶に来てくださる方が覚えきれないわ。。」
と来訪者の数に戸惑う。
「大丈夫よ?シエイラさん曰く、”妃は微笑みを絶やさなければいいわ”って言ってたもの。」
「でも。。もしも何か質問されたらどうするの?」
「シエイラさんが言うにはね?”あとは殿方の仕事よ?妃を守れなくてどうするの?”ですって。だから、リリィもシグナルに押しつけちゃえばいいのよ。私なんて、分からない事ばかりだったのよ?知性と教養と品格を既に持ってるリリィは、私から見れば完璧よ。そうそうダンスもね?」
サクラが太鼓判を押すが。。あまりにも適当なアドバイスにリリィも笑ってしまう。
「ふふっ。そうね。。サクラのおかげで少し気が楽になったわ。。そうよね?サクラはアルですものね。。」
そう言って、肩を振るわせる。
「そうだけど。。。アルほどではないと思うわ。。」
最近何かと、アルと比べられて笑われているようで。。サクラが納得いかなさそうに頬を膨らます。
「ありがとう。サクラ。。本当に。。」
その一言にあの事件から今日までの事、全てが含まれているような。。そんなリリィの言葉にサクラは「うん。」とだけ返した。。それ以上の言葉が見つからなくて。。。
そして夜の舞踏会までに、リリィは10回も衣装を替えさせられていた。
しかし舞踏会には。。。リリィのたっての願いにより、式と同じウエディングドレス。
もちろんシエイラさん作のため、魔法具となっており、サクラの時同様に裾は自由に長さが変えられた。
純白のドレスに身を包み、広間の中央へゆっくりと進み出る。
リリィとシグナルのダンスが始まると、会場からは感嘆のため息が上がる。あまりに美しくあまりに優雅で。。
皆が見蕩れてしまい、輪の中に入るのを忘れているかのよう。
「サクラ。。行こうか?このままでは二人が抜け出せない。」
「ほんの少しだけよ?長い時間は無理だから。。」
そう言ってジョージとサクラが中に入る。みどりの国の国王と妃が入ったことで、ようやく皆も踊り始めた。
「ありがとう。ジョージ。。」とシグナル。
「いやいや。僕たちの時に助けてもらったからね。」とジョージ。
「とっても素敵だったわ。」とサクラ。
「ありがとう。サクラ。」とリリィ。
そしてそっと二人が舞踏会の輪を抜けた。
「リリィ。部屋に戻ろうか?」
「それなら、あの島に行かない?今夜は誰にも邪魔されたくないもの。」
二人は静かに魔法陣を潜る。
「うん。二人はあの島に行ったみたいだね。」
ジョージは中庭の椅子に優雅に足を組みワイングラスを傾けながら、二人の気配が途絶えたのを感知する。
「そうね。。やっと。。。うん。。。もう大丈夫よね?」
サクラが喜びの涙を浮かべ、一連の出来事の終息を感じた。
「あっ。そうだ。。今夜は”マーキング”は発動しないようにね?」
「当たり前じゃない。。そんな無粋なことはアルじゃないからしないわよ?」
変なことに釘を刺してくるジョージにサクラがため息をつく。
「じゃあ。今日は”アル”にはならないようにね?」
「もちろんよ。正装した素敵なジョージを見て、アルになんて戻れないわ。」
サクラはジョージの膝に乗りその首に手を廻す。
「うーん。サクラがこんなに積極的になってくれるのならば、毎日正装しようかな。」
いたずらな笑みを浮かべるジョージ。。
「もう。。ジョージったら。。たまに、だから素敵なのよ?」
サクラは恥ずかしそうにジョージの首に顔を埋める。
「さて。それならば、僕たちも帰るとしようか?」
「えぇ。」
ジョージはサクラを抱えたまま立ち上がり、魔法陣を描き、部屋へと戻った。
そして一人残されるドラキーキング。。。
「もうっ。いっつも僕を忘れるダロ!!二人の世界も大概にしてほしいダロ!!」
イチャつき始めた二人に気を遣って隠れていたが、案の定忘れられた。
「まぁまぁ。ソルア。。そう言うなって。。せっかくだからちょっと遊びに行こうぜ?」
と聞き慣れた声が壁からする。ペンギン姿の空間の精霊だった。
「うん。。なんかモヤモヤするダロ。。今夜はオールナイトで遊ぶダロ。」
「いいね~。」
そう言って、セナと共にソルアもその壁へと消えていった。
そうしてシグナルとリリィの結婚式も無事に終わり、いつも通りの、平穏な日常を取り戻したのだった。
シグナルの視点からを ムーンライト~一万年の恋の行方は~ に載せました。
内容的にR18でしたので。。
数話になると思いますが、徐々に載せていく予定です。




