第16話 ~宴のあとに~
「ジョージ様、夕食のお支度が整いました。」
ハクゼンが呼びに来た。
「さぁ。みんなで行こうか。」
ジョージは僕とホセを肩に乗せ食堂へ向かう。
昨日、夜遅くに来たときには閑散としていたテントの中は、今は人で溢れている。全員が制服制帽を着用している。
ジョージが入ると全員が起立し、一斉に敬礼を行う。ジョージは答礼を行い上座の席に着席する。
一糸乱れぬその様は圧巻だった。
「カッコええなぁ。」
ホセが目を輝かせている。
いや。ホセ君。君は気付いていないのだね。。ジョージは敬礼に対して答礼で返したのを見ていましたか?あれ、かなり偉い人がやるヤツだったはずです。。。
マジでジョージって何者???貴族じゃないっていってたし、軍の仕事してるって言ってたよな。。だとすると、この国での答礼できる立場って確か。。司令官以上のレベルなのか???
一人考え込んでいると。
「どうしたんだい?まだ体調が悪いかな?」
「えっ?あぁ体調は大丈夫だけど。」
「それなら良かった。今日は君が主役だからね。」
(・・・??・・・んん??・・・これ、一体、何の会ですか?・・・夕飯食べに来ただけなんですけど・・・とりあえずお誕生日会では無いのは間違いないが・・・)
その答えはすぐに出た。立ち上がったジョージが口を開く。
「みんな。遅くなって悪かったね。」
「まずは、銀狼討伐の件、僕の実力が足りず、みんなを危険にさらす結果になってしまったことを謝罪させてほしい。本当に申し訳なかった。」
そう言って深々と頭を下げた。
突然の謝罪に、食堂が静まりかえる。
「しかし、今回は僕たちに戦いの女神は微笑んでくれたようだ。小さくて強い友人と出会う機会をくれた。」
「では紹介しよう。今回の一番の功労者。銀狼を一撃で沈め、討伐隊の治癒をしてくれたブルートスライムの・・・。そうだ名前はまだ無かったんだ。僕は『スライム君』と呼んでるよ。」
そう言って僕をテーブルの中央へ置いてくれる。
「なんや、締まらん紹介やな。」
ホセが笑っている。
「そしてこちらが、そのスライム君と共に、危険な戦場に突入してくれたオウムのホセ君だ。」
僕の隣へホセを置く。
ホセは、自分が紹介されるとは思っていなかったらしく、慌てている。
突然の事で、驚きと恥ずかしさでホセと僕がもじもじとしていると。
ダイキが立ち上がり
「気をつけ!」全員が立ち上がる。
「勇者のお二人に、敬礼!」
号令と共に全員の敬礼を受ける。
僕はもう、恥ずかしさで死んでしまいそうだった。
ホセはというと。。目をキラッキラと輝かせて。。幸せそうだ。。
ジョージは満足そうな笑顔を浮かべ、僕たちの背中に手をそっと添えていた。
「では、諸君、明日は王都へ帰還する。今回の遠征の最後の夕食だ。シェフが腕によりをかけた。ゆっくり楽しんでくれ。」
そう言ってジョージが杯を上げると、食事が始まった。
そう、食事会のはずなんだよ。いつの間にか宴会になってるんですけど。。。体育会系のノリって。コワイ。。。
次から次へと僕たちのところに酒を注ぎにくる。
僕は飲めないと断ると今度は食べ物をどんどん持って挨拶にくる。この身体のサイズなんですよ。あれやこれや食べられる訳がない。量を考えろって話だ。食べても食べても、全然減っていかない。
ホセはというと。。。酒、飲んでるし。もうホントの千鳥足じゃん。ただでさえお調子者のホセが、お酒の力も借り、もうテンションMAX。ホセのいる一角が居酒屋みたいになってる。。。
ジョージは。。。長い足を組み優雅にワイングラスを傾けている。様になりすぎてイヤミだ。
もちろん、その周りには数少ない女性陣が集まり。。。
こちらも酒が入り。。。イケメンスキルをフルスロットルだよ。少しは自重しろよ。。。
あっちを見れば、アームレスリングが始まり、こっちを見れば、武器自慢の話題で盛り上がる。向こうでは酒豪が集まり酒戦が行われている。反対側でシェフが見たこともない大きさの肉を焼いてきて、食べ比べをしていたり。。。
(みんな楽しそうだ。。。)
どのテーブルも盛り上がり。笑顔が絶えず、上下関係なく、みんな仲がいい。
僕はモンスター、ホセは鳥。そんなこと、関係なく接してくれる。
これもきっとジョージの人柄なんだろうな。。。
「仲間っていいな。。。」
そう呟いて、僕はその場で眠りに落ちてしまった。
目が覚めるとサクラが隣に眠っていた。
(自分が寝てる姿を見るのって不思議だな。。。)
ぼうっとしながらサクラを見ていた。
「起きたかい?」
後ろから声がする。。。まさかっ!
「だーかーらー。どうしてジョージが寝てるんだよーーー。」
「僕のベッドだからだよ?そして、今日も何もしていない。Tシャツも着てる。大丈夫だ。問題ない。」
自信満々に。そして次に質問されるであろう事までも答える。
「はぁぁぁ。王都に行ったら、ベッドは別々にお願いします。」
項垂れてお願いをすると、
「自宅のベッドはこれよりもずっと大きいよ?3人で寝てもゆったり眠れるから、心配いらないよ?」
ぜんっぜん違う答えが返ってきたんですけどぉ。てか3人で寝ることが前提になってるんですが?どういうこと~?
諦めながら一応希望を言ってみる。
「リリィさんがサクラの面倒をみてくれるなら、そっちの家に行った方が良くないかな?女性同士だし。。」
「ん?リリィのベッドはシングルサイズだからね。2人だけでも狭いと思うよ?」
なんで、ベッド一つにみんなで寝ることが前提なんだろう。。。そしてサラッと流しそうになったが、なぜ独身女性のベッドのサイズを知っている?
突っ込みどころが多すぎて疲れた。。。
ジョージは起きあがると、徐に小瓶を取り出し、サクラの口に《世界樹の雫》もどきを1滴垂らす。
「なにしてるの?」
「彼女は食事を摂ることができないからね。せめてこれだけでも。ね。」
そうか。考えもしなかった。。。死ぬことはない。それはあくまでも命が消えないというだけの話だ。
ジョージがいてくれて良かった。僕だけでは思いもつかなかった。
「でも。そんなことしてたら、ジョージにあげたその小瓶の水はすぐに無くなっちゃうよ?」
「こないだも言っただろう?元々は持っていなかったんだ。君に貰っていなければ、無ければ無いなりに生活していたんだよ。だから使い切っても問題ないよ。美しい命が美しいままいてくれるのなら、惜しくない。」
そういって、いつもどおり流れるような仕草でサクラのおでこに・・・・。
チュ。
「いつもいつも巧くいくと思うなよ。。」
僕は危険を察知し、サクラのおでこを死守した。。。がその結果、間に入った、僕のおでこに唇が当たった。
「残念だな。。」
そう言いながらサクラの髪を梳く。
「もう。ジョージーーーー!!」
今日も僕の叫びがコダマする。。。平和な一日が今日も始まる。
「朝食は散歩がてら外で食べようか。」
そういってジョージはベッドルームを出ると、テーブルの上のバスケットを手に取る。
「ホセは?」
ソファーで寛ぐホセに声をかける。
「俺はパスや。朝食はジョセフィーヌちゃんと済ませたわ。」
「リリィさんは?」
「私は、片付けがありますので。」
結局、ジョージと二人で出かける。
僕を肩にのせ、鼻歌交じりにジョージが歩く。
「ご機嫌だね?なんかいいことでもあったの?」
「ん。ちょっとね。」
肩に乗る僕を指で撫でながら、進む。
しばらく行くと、目の前が急に開ける。
小さな池があり、そのほとりには花が咲き乱れる。
「うわぁー。」
「綺麗だろう?牙熊を探しに森へ入った時に見つけたんだ。」
「なんでかな?君が喜んでくれる気がして、見せたくなったんだ。気に入ってくれたかい?」
きらきらと光る水面に花が映り込み、より一層美しさが際立つ。その光景に、言葉が出ない。
「さぁ。準備できたよ。」
タータンチェックの織物の上に、サンドイッチが並べられていた。ガラスのティーカップにはアップルティーが注がれている。
僕たちは並んで朝食を取り始めた。
今日のサンドイッチも最高においしい。アップルティーにはフレッシュなリンゴの実が入っており香りが引き立っている。
「さっきの話なんだけどね。」
「んんん。。。」
口いっぱいにサンドイッチを頬張った時に話しかけられ、返事ができない。
ジョージはクスクスと笑いながら、
「さっきの。僕の機嫌がいい理由。」
「ん。ん。」
僕はモグモグしながら頷く。
「君が今朝言ってくれただろう?『王都へいったらベッドは別々に』って。それでね。」
ん?不思議なことを言う。一緒に寝たいジョージが『別々に』って言われて、なにゆえご機嫌に?
「それのどこが?。。。」
「本当はね。君たちを王都に連れていくことを悩んでいたんだ。。。もちろん、君たちを連れていきたいという気持ちに変わりはないよ?でも、それは君の望むことではなかったようだから。。。それに、銀狼の討伐にも失敗した。君たちを守るつもりが、逆に助けられてしまった。その上、焼け付くほどの熱を出すまで、君の能力を使わせ過ぎてしまって。。。自分の未熟さを痛感したし、そんな自分が許せなかった。。。君に何かあったらと思うと気が気じゃなかった。。。」
僕をそっと撫でる。
「君が目を覚ましてくれた時は心から嬉しかった。。。」
「けれど、目を覚ました君が、やっぱり王都には行きたくないって言ったらどうしようか。。。だけど、いつ目覚めるか分からないサクラちゃんを置いていく気にはなれない。。。例え安全な≪世界樹≫の下でもだ。。。いつ何が起こるか分からないからね。。。君が嫌がってもサクラちゃんだけでも、強引に連れて行こうか。。。そんな風に、君が目覚める3日間、心配とか不安とか。いろんな思いが絡み合って葛藤して。。。感情に押し潰されそうだった。。。」
「そんな僕の気持なんか知らない君が、何気なく『王都へ行ったら…』って言ってくれただろう?あまりにも嬉しくて思わず抱きしめそうになってしまったよ。。。」
ジョージは言葉を止めた。顔を真っ赤にして大きな手で口元を隠し、
「これでは、まるで、愛の告白だな。。」
フッと小さく笑い頭を振る。
気まずい。結構軽い感じで始まった話が。。。重い。。。
「ははっ。僕がサクラだったら、そんな風に言われたら、恋に落ちてたかもね。」
冗談っぽく流しておく。
まぁ実際スライムで良かった。女子の心は今は持ち合わせていない。マジでサクラの状態だったら、ヤバかったかも。。。
「じゃあ。みんなも待ってるだろうし、帰ろうか。」
そこには、いつもと変わらないジョージがいた。




