第14話 ~戦闘終結~
上空から見ていた僕は身体が震えるのを感じた。。。
ジョージが危ない。
「ホセ。降ろして。」
「どう考えても、今は無理や。」
当然の答えだった。
集団戦に変わり、魔法使いを助けたジョージの背中に銀狼の爪が突き刺った。いまだ戦闘は続いている。。
その中に、降りていけるはずがない。
「そんなことは分かってる。でも。。」
頭では理解している。しかし、気持ちがついていかないのだ。
わなわなと震えだした身体を鎮めようとするが、止まらない。
それどころか感情と共に震えが大きくなる。
「落ち着けって。チャンスはまだあるはずや。」
ホセの言葉が遠くに聞こえる。。。思考と気持ちが切り離されてしまったように感じる。
そんな中、状況が動き出そうとしていた。
「じゃ、一発派手なのをカマすんで。隙を狙って行って下さい。」
槍使いのシンが言う。
シンは頭上で朱槍を回し始めた。回転がスピードに乗ってくると
「うぉぉぉぉーーーーー!!!!」
雄叫びをあげ、朱槍を振り下ろし、回転しながら地面を抉る。
地面には衝撃で大きな裂け目ができ、土煙が上がる。
それが合図となり、討伐隊は一斉に走り出した。。
「やった。。やったで!このまま逃げられれば、途中で合流できるで!」
ホセが興奮する。
先頭を行くセインが、2本の剣で、道なき道を切り拓く。。ロイは泣きじゃくるマリィを担ぎ、リョウはジョージに肩を貸す。朱槍を持ったシンはセインに合流すべく周囲の木々を薙ぎ払い、追っての進路を塞ぎながら先を急ぐ。
ディオとダイキは追ってくる灰狼達を交互に捌きながら、殿を努めた。
僕はその様子を固唾を飲んで見守っていた。ジョージの傷は深く、走り始めこそ肩を借りていたが、今やリョウがほとんど担いでいる状態だ。
白い制服の背中一面が真っ赤な血で染まり、出血の多さを伝える。
灰狼の追撃に気を取られ、僕は気づくのが遅れた。
銀狼がいない。
周辺を見渡すが、どこにもいない。
次の瞬間、音もなくジョージ達の頭上に現れた。。木々を足場として走ってきたのだろう。木立から飛び出した銀狼の跳躍は、その飛距離から飛んでいるように見えた。
その目線の先はジョージ。狼は一度狙った獲物を諦めない。
ジョージが危ない!!
その光景に、僕の中の何かがぷつんと切れた。
「あぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」
僕は雄叫びを上げながらホセの背中を飛び降りていた。
僕の声に気づいた銀狼が上を見る。
ジョージから目を外したこの一瞬で十分だった。
握りしめたピックと共に、銀狼に向かって突撃した。
空中で一瞬でも僕に目線をやるなどという失態をおかしたのがヤツの敗因だ。
僕は若干の体勢を崩した銀狼の首筋にピックを突き立てることに成功した。
ピックの傷は想像以上に深く大きく、そしてなにより、傷口から白い炎のようなものが上がっていた。
グギャァァァァァァーーーーーー!!!
ボスの断末魔の叫びを聞き、灰狼達がたじろぐ。。。
傷口からの白い炎のようなものは、ボスの身体を包むほどとなり、銀狼が動かなくなった。。。
その様子を見て、灰狼達は逃げ出した。
「はぁぁぁぁぁ。」
僕はその場にへたり込む。横にはいつの間にやら、ホセがいた。
「やったな!」
ホセが背中をさすってくれた。
まさかのスライムが突入し狼たちを撃退するという珍事に討伐隊メンバーが唖然としている。
「ジョージさま?ジョージさまぁぁぁ!!」
マリィの叫び声に僕たちは我に返る。
ジョージを見るとぐったりとして、意識がない。呼吸も早く浅い。汗がひどく、顔には血の気が無くなっている。出血によるショック状態に陥っていた。
「せっかくここまで来たのに。。。」
リョウが肩を落とす。
「ここまでか。。。」
討伐隊メンバーに重い空気が流れる。
「大丈夫だよ。」
僕は自信を持って告げた。が、
「スライムには分からないかもしれないが、テントまではもう。どうやっても、もたない。絶望的なんだよ。」
吐き捨てるようにロイが言った。
「だーかーらー。それが大丈夫なんやって。まぁ見とき。」
ホセも自信ありげに言ってくれた。
何を始めるのかという皆の視線が痛い。。。
そう言えば、世界樹の葉の使い方って。。。知らないな。。。ジョージの真似をすれば、後は世界樹の葉の力でなんとかなるだろうか。
まずは、
「ねぇ。誰か、ジョージの服を脱がせてよ。傷口を見ないとできないから。」
とお願いする。
ダイキが上着を脱がせ、ジョージをうつぶせに寝かせた。
「これでいいか?」
「うん。ありがとう。」
そう呟いて、ジョージの背中を見る。
想像以上に深刻だった。サクラの傷以上の、目を背けたくなるほどの傷口だった。
この状態で、銀狼に反撃し、ここまで来れたのが不思議な程で、即死していてもおかしくない傷があった。
しかしそこで躊躇していてはいけない。そしてケチってもダメだ。
迷うことなく、《世界樹の葉》の完全体を取り出す。
そして、確か次は。。。何かをブツブツ言いながら唇に葉っぱを当てて、そしたら光ったな。
うーん。何を言ってたんだろう?聞こえなかった。
とりあえず形だけでも真似しよう。葉っぱを唇に当てる。呪文みたいなブツブツは分からないから、願い事を呟いた。(絶対に治りますように。。。。)
世界樹の葉は淡い光を纏い始めた。成功だ。
それをジョージの傷口に当てて、傷をなぞれば、治ったはず。。。
そう思って、世界樹の葉をジョージの背中へと近づけた。
それは劇的だった。
世界樹の葉は、ジョージの背中に近づいた瞬間、まばゆく光ると、ジョージの背中へ吸い込まれるように消えていった。
光はまばゆさを保ったまま、ジョージを包み込む。
光は強くまばゆく。それでいてやわらかい暖かさを感じた。不思議な感覚だった。
数秒で、それは消え、ジョージが目を覚ます。
「うぅぅん。。。」
「ジョージーーーーー!!」
僕はジョージに抱きつく。
「良かったー。良かったよぉぉぉ。」
ジョージの腕の中で僕は泣いてしまった。
「あれ?スライム君?僕は。。。。」
ジョージは、何が起きたのか一瞬分からなかったようだが。
周囲を見渡し状況を把握したようだ。
「君が迎えに来てくれたんだね。ありがとう。」
いつもの優しい笑顔で、僕を撫でてくれた。
「これはいったい。。。」
討伐隊メンバーは何が起こったのかさっぱり分かっていない。
それもそうだろう。《世界樹の葉》を知らないんだから。
「この子達が助けてくれたんだろう?まずはお礼を言わないとね。」
ジョージは僕とホセの頭に手を置いて
「ほんとうにありがとう。」
と言った。
隊員たちもできたもので、
『ありがとうございます!!』
と全員で敬礼してくれた。
ちょっと照れくさい。。
逼迫した状況を抜け出した僕たちは、小休止を取る。
ジョージが口笛を吹くと、乗ってきた馬たちも戻ってきた。
ジョージは完全治癒したものの、身体が重いらしい。それもそうだろう。死ぬ寸前だったんだから。
よく見れば、討伐隊メンバーもそれぞれに傷を負っている。ロイに至っては肋骨が数本折れてるらしい。
僕とホセは、ジョージから顛末を聞かれたが、それはホセに任せ、僕は討伐隊メンバーの所へ行くことにした。
頬袋に貯めている水で傷を治したいと思ったからだが。どうやって塗ろうか。
口から出して、はいどうぞ。は、やっぱりね~。引くよね~。
そのまま塗るというのはどうだろう。傷に直接口から塗れば、バレない。
ただしかし、こっちの策もビジュアルがね~。傷にキスするスライムだもんな。
まぁどちらにしてもドン引きなのであれば、手間のかからない、キス方式でいくか。貯蔵場所もバレないし。
で、唐突にマリィに行った。まぁ最初は女の子からだよね?
「ねぇ。ちょっといいかな?」
といって、スカートから出た足に、いきなりキスした。
もう、見てくれは完全に変態じゃん!!と心で突っ込みを入れた。
「ちょ。なにしてんの?」
と怒ったものの、すぐに気づく。傷が治っていくことに。
「え?なんで?なにしたの?」
そこは放っておいて、次に行く。おでこの傷がひどいな。おでこにチュ。
腕の傷もちゃちゃっと治す。
結構《世界樹の雫》もどきなのに効果は抜群で、サクサクと治っていく。ホセの言葉を借りれば「儲けもん」ってやつだ。
その頃には、僕のキスで傷が治ることが分かり、メンバーで順番争いが始まっていた。
「俺は年上だから。年功序列は大切だろう?」
「それいうなら、俺の方が階級上だし?」
「僕の傷が一番ひどいと思うんですよね?」
「可愛い後輩が心配じゃないですか?」
などと、順番争いに見せかけたじゃれ合いを見た。
僕はほのぼのとした気分で、順番に傷を治していった。
「ねぇ。ホセ君、僕はスライム君がエンジェルに見えてきたよ。」
「そやな。不思議なヤツや。いつも人の事に一生懸命や。」
「そろそろ一段落だね。」
そう言って、ジョージが僕を迎えに来てくれた。
「うん。みんな治って良かったよ。。。」
なんだか視界がぼやける。
「なんか身体があつい。。。。。」
くてん。とその場に転がる。
「えっ?大丈夫?」
ジョージが僕を持ち上げようとして。。
「熱い!!!!」
思わず落としそうになる。
が、ジョージは慌てて僕を抱きしめ直し、腕に抱える。
僕を触った掌が赤くやけどしていた。
「何がおきたんや?ジョージはん。その手、火傷してますやん。」
ホセが驚く。
「火傷なんてどうでもいい。そんなことより、この子が小さくなってる方が問題だ!」
見れば、一回り小ぶりサイズになっている。
「この子の能力を使いすぎてしまったんだ。無理をさせてしまった。どうしたら。。。」
まるで、恋人を心配するかのように狼狽する。
腕の中に抱えられた僕は、ジョージが心配してくれたことを心の底から喜んだ。
「ホント良かった。」小さく呟き、みんなが助かったことに安心して、僕はジョージの腕の中で眠りに落ちた。




