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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=人間との出会い編=
13/322

第13話  ~戦闘~

 ホセの背中から討伐隊を俯瞰する。


 討伐隊の進路先に何か蠢いている。。。数匹の灰色の群れの中に一回り大きい銀色の毛並みが光る。。。狼だ。


 「どうしよう。このままだとすぐにでも戦いが始まっちゃうよ。」

 「ジョージの様子からして、今止めに入っても、絶対に引かんのとちゃうか?」


 「少し様子を見て、みんなで逃げるチャンスを窺おうや。一旦劣勢になれば、ジョージかて兵を退かせるやろ。」

 「そんな上手くいくかなぁ。」

 一抹の不安がよぎる。なんせ、戦闘未経験のど素人なんで。。。


 迷っているうちに狼たちが討伐隊に気付いた。

 逡巡なく、狼たちは戦闘状態に入る。


 警戒態勢をとっていた討伐隊は、馬の機動力を巧みに使い、即座に応戦する。


 案の定、銀狼シルバーウルフはジョージに目を付けた。

 狼7匹に対し、討伐隊8名。ほぼ1対1となり、人間側が1名多い。


 巧く立ち回ることができれば、逃げるのではなく、打ち倒すことも可能かもしれない。

 上空から見ていた、素人の僕たちは、淡い期待を持ってしまったが為に、戦闘を視ることとなる。


 灰狼アッシュウルフは騎馬との戦いに戸惑っていた。馬を狙えば人間から。人間を狙えば馬から攻撃される。普段の狩りのようにはいかず、一撃を入れる事が難しい。

 グルゥゥゥ。。獣の飢えた血が、ままならない状況に苛立ちを始める。


 討伐隊メンバーは戦いの始まりが互角であったことに

 「いける。いけるぞ!」と高揚して、各自の戦闘スタイルへと入っていく。


 槍の使い手シンは、騎馬戦を得意としていた。長く朱い槍を振り翳し、馬を狙う灰狼アッシュウルフを突き刺し、飛びかかってくる灰狼アッシュウルフを薙ぎ払う。

 朱槍の一閃には美しさすら感じる。

 しかし、身体能力の高い狼たちに致命傷を与えることがなかなかできないでいた。


 二刀流のセインは苦戦を強いられる。機動力の高い狼がもともと苦手だった。

 その剣技の性質から、馬を降りた。

 セインの持つ剣の刀身は短く、狙いを定め、一気に間合いを詰めて空隙を狙うことを得意としている。

 間合いを詰めさせることなく、射程圏外から攻撃してくる灰狼アッシュウルフに防戦一方となりつつあった。


 大剣を構えるのはダイキ。身の丈に合わない程の大剣であるのに霞の構えをとり、軽々と刃に回転をかけた技を繰り出す。

 軽量剣の技を重量剣で行う様は圧巻だ。対峙した灰狼アッシュウルフに深い傷が刻まれていく。

 「もう少し遊んでくれよ」

 ダイキはうっすらと不敵な笑みを浮かべる。

 ワザと急所を外し遊んでいるのだ。ダンスのステップを踏むかのように大剣が舞う。


 鞭を扱うロイは、長期戦を覚悟する。

 自分の武器では一撃必殺は無い。しかし、その樹棘鞭スパインウィップには数種類の毒を塗り込んであった。

 掠りさえすれば、それでいい。

 (相手の衰弱が先か。。。自分の体力が無くなるのが先か。。。) 

 時機にチャンスが来る。止めを刺すのは仲間がやってくれる。それまで持ち堪えれば。。。

 そう自分に言い聞かせて、止むことのない攻撃をギリギリでかわしながら、鞭を振るい続けた。


 弓の名手リョウは遊撃士として援護にまわる。

 戦闘可能範囲外から全ての灰狼アッシュウルフを目標として可能な限り、矢を放った。

 俊敏な狼を的とすることが困難ではあったが、矢には鋭い返しがついており、一度刺されば、自然に抜け落ちることはない。

 徐々に灰狼アッシュウルフ達の体力を削いでゆく。


 斧を背負ったディオは颯爽と馬を降りる。

 褐色の肌に見事な筋肉が盛り上がっている。だが、斧使いにしては軽量級の体躯だ。装備の斧も柄が長く、刃部分も小振りであった。

 その理由は戦闘開始とともにすぐに判明する。俊敏な動きで斧を振り回し灰狼アッシュウルフを翻弄し、しなやかな動きで高速で振り下ろし斧に体重を乗せる。加速と加重が上乗せされた斧の破壊力は凄まじい。攻撃を躱しきれなかった灰狼アッシュウルフが吹き飛ぶ。


 魔法使いのマリィの戦闘の幕開けは不思議な光景から始まる。

 突然カーキ色の制服を剥ぐように脱ぎ捨てると。。。その下から戦場に似つかわしくないゴスロリ風の衣装が出てくる。戦闘用なのか全体的にシンプルだ。

 どこから出したのか、毛皮のケープを首元へ大きなリボンで縛り付け、ヘッドドレスもしっかり付ける。

 「こうでなくちゃ。やる気が出ないわ。」その足下には魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣がポゥッと輝きを放つとそれは彼女を中心に半円球を作り、歩き始めた彼女の動きについてくる。

 飛びかかる灰狼アッシュウルフの爪はその半円球の光を切り裂けない。

 ゴスロリ少女は範囲結界を使っていたのだ。

 魔導師級の実力がないと移動できる範囲結界など張れない。ただの魔法使いが使うワザではない。

 

 灰狼アッシュウルフは何度も飛びかかり、結界を破ろうとしていた。

 グギャァァァァ!!!!

 突然、灰狼アッシュウルフが地面に転がり藻掻き始めた。その腹部には血が滲む。

 マリィを見ると、黒い手袋をはめた右掌から無数のつららのような氷が突き出していた。その先端が赤く染まっている。

 「まだまだよ。」そう言い終わらない間に、左手から無数の火球ファイアボール灰狼アッシュウルフに向けて繰り出される。

 性質が真逆の魔法を同時に、事も無げに使っている。

 見た目とのギャップがありすぎて、異様な雰囲気を醸し出している。 



 銀狼シルバーウルフとジョージは対峙し、お互いに出方を窺っている。

 ジョージは剣を下段に構えジリジリと銀狼シルバーウルフとの間合いを詰める。

 

 しびれを切らしたのは銀狼シルバーウルフだった。

 地を蹴った瞬間に、ジョージの首元に牙を立てている。瞬発力の高さが桁違いだ。がそれはジョージの剣に阻まれる。

 そのまま力任せに剣を振り抜き、銀狼シルバーウルフを跳ね返す。


 今度は中段に構えを取ると、銀狼シルバーウルフの鋭い爪を半身でかわし、その横っ腹を狙う。

 剣は横っ腹を掠め銀狼シルバーウルフの毛を散らした。


 グルゥゥゥゥゥ!!!

 銀狼シルバーウルフは焦っていた。今まで生きてきた中で、自分が互角に戦う記憶が無い…。

 

 灰狼アッシュウルフとして生まれ、対峙した敵には常に圧勝してきた。その能力の高さと戦いを続け、ついに銀狼シルバーウルフとして覚醒する。

自分たちの群れにはボス個体はいなかった為、必然的にボスとなる。周辺の灰狼アッシュウルフの群れを蹂躙し、いつの間にか100匹近い群れを従えるようになっていた。


 そんな自分が、モンスターどころか人間と互角だとは。しかもパーティーではない。


 かつてパーティーを組んだ人間と戦った事があった。その時は、自分一人に人間が5人。魔法使いを初めて見たのもこのときだった。

 見たこともない技の数々に、自分もまだ若く、苦戦した。

 しかしそれにもすぐに慣れ、形勢は逆転した。


 今朝見つけた人間達など、相手にもならなかった。


 けれど今、たった一人の人間に翻弄されているとは。。。銀狼シルバーウルフは冷静さを欠いた。

 ボスとしての威厳もある。なんとしてでも勝たなくては。。。


 グルォォォォーーーーン!!!!

 銀狼シルバーウルフが咆哮する。



ボスの咆哮を聞いた灰狼アッシュウルフ達の顔つきが変わる。


それぞれ1対1の戦いに身を置いていた灰狼アッシュウルフ達が一カ所に集まる。群れとして戦うことにしたようだ。


 ジョージはその様子を横目で確認し

 「厄介だな。。。」

 「みんな集団戦に切り替えろ!!」


 統率された灰狼アッシュウルフ達の動きが変わる。一糸乱れぬ攻撃が討伐隊を襲う。


 得手不得手を持つ討伐隊はお互いをカバーし合う。しかし、それは、攻防のバランスを崩し始める。

 仲間を守るということは、その分、攻撃が減るということ。

 群れとしての勝利を選んだ灰狼アッシュウルフ達はお互いの死など構わない。攻撃あるのみだった。


 徐々に防戦一方となってきた討伐隊に、傷が増えていく。


 魔法使いのマリィは、防戦に傾いたところで、自分の範囲結界を解いた。その代わりに、隊員それぞれに、小さな結界シールドを作った。隊員の戦闘スタイルに合わせて、盾や小手の形として。

 だが、人数分作るには魔力が足りず、強度は十分だが、心許ないサイズになってしまう。

 

 マリィが放った火球ファイアボールを掻い潜った一匹が、マリィの腕に噛みつく。なんとか盾で凌いだものの、力負けして吹き飛ばされる。衝撃で頭を打ち、額から血が流れる。

 

 その機会を灰狼アッシュウルフが逃すわけもなく、間髪入れずにもう一匹が飛びかかる。

 

 もうダメ。。。と思いマリィは目を閉じた。が衝撃は来ない。

 恐る恐る目を開けると、そこには銀狼シルバーウルフと対峙しているはずのジョージがいた。


 ジョージの剣に灰狼アッシュウルフが串刺しになっている。

 「間に合って良かった。」

 そう呟いたジョージが、膝をつく。なぜ。。。


 ジョージの背後に銀狼シルバーウルフがいた。。。その爪はジョージの背中に突き刺さっている。


 「いやぁぁぁぁーーーーー!!!!!」

 マリィの絶叫が森にこだまする。


 だが、ジョージは終わらない。そのまま身体を回転させる。

 振り向き様に、串刺しにした灰狼アッシュウルフごと銀狼シルバーウルフを吹き飛ばす。


 ジョージの息づかいが荒くなる。。

 「悪い。失敗した。撤退するんだ。僕が道を拓くから。。。」


 「嫌です。ジョージ様をおいていけません。」

 マリィが泣き縋る。。。

 自分の為にジョージが犠牲になったショックで戦意喪失している。最早、ただの子供になったマリィは撤退をさらに難しくする。


 撤退を迷っている間も攻撃は止まない。素早い決断が必要だった。。。


 「分かりました。ロイ、マリィを抱えて走れ!!リョウはジョージ様をサポートしろ!!シンとセインは先頭を走って道を拓け!!ディオと俺が殿を努める!!」

 いつもは隊長格として班を率いているダイキが、的確に指示を出す。


 「だめだ。みんなで助かる為には、足止めが必要だ。僕は残る。」

 ジョージは譲らない。


 「その案は却下です。みんなで助かるって中に、ジョージ様は入ってないですよね?」

 シンが冷静に判断し、ジョージ以外が頷く。

 

 「決まりですね。」

 「後は。。ここを何とか切り抜けましょう。」

 セインが力ない笑顔で締めくくった。


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