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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=迷宮編=
118/322

第116話  ~迷宮 遭遇~

すみません。

まだ、完全攻略できてません。。。


「アルのことも気になりますが、状態は良さそうなので、このまま進みましょうか。。。」

「そうだな。まずは39階だな。」

 ジョージとマロウは階段を下りる。


「困ったな。。。」

「どうしたんだ?」

 ジョージの独り言にマロウが答える。


「アルが元のサイズに戻ったのは良いことなんですけどね。。。胸ポケットに入らなくなってしまった。。。」

「他のポケットに入れればいいだろ?」

「まぁそうなんですが。。。腰ポケットでは、剣を振るう際に鎧との隙間が狭くなってしまうんですよ。。。」

「潰れることはないだろ?スライムだから。」

「そんなことできませんよ。可哀想です。」

「全く。。。過保護過ぎだと思うぞ?」

 ジョージのアルに対する扱いに、流石のマロウも苦言を呈す。



 階段を下りきって、二人は背伸びをする。

 深呼吸をして息を整えた。

「さて、38階層。。。行きますか。」

「おう。」

 


 二人は38階層を進む。そこに先のような慢心はない。



 丁寧に38階層を攻略し、目的の39階層へと入った。

「ここなんだな?」

「はい。階段は向こうなんですが、僕の目的地はこっちです。」


 慣れた道のようにジョージは迷いなく進む。

 暫くモンスターを倒しつつ歩き、行き止まりとなる。


 なんの変哲も無い壁の前にジョージが立つと、壁の一部を蹴った。それと同時に伸ばした手の先の壁を押し込む。


 すると、壁の一箇所が引き出しとなって出てきた。

 中には小さな小箱が入っていた。


「良かった。記憶のままだ。」

 ジョージは安堵する。

「だが、鍵が掛かってるぞ?」

 マロウが小箱の錠前を見て心配をする。


「これはですね。。。錠前とその鍵穴があるので、鍵が必要かと思わせて。。。」

 笑いながら、ジョージが小箱の錠前を引っ張りながら回転させた。

 右に左にカチリカチリと音が鳴る。回す数が決められているようだ。


 ガチャッ。

 小さな割に大きな音を立てて鍵が開く。


「ほらね。」

 ちょっと得意げにジョージがマロウの顔を見る。

「まさかダイアル式とはな。。それにしても、そこまで詳細な記憶があったのか。」

 マロウが舌を巻く。


「細かな記憶はここまでです。肝心の中身が分かりませんからね。。。用心しないと。。。じゃあ開けますよ?」

 マロウも緊張の面持ちで頷く。


 魔法の小箱を開く時の定番とも言えるだろう、中から光が溢れる。

 その光が収まると。。。


「キメラの翼だ。ん?この石は魔法石か?」

 小箱の中身を取り出しながら、マロウが小さな石を指で摘む。


「いえ。”法玉石”です。」

「なんだと?俺も文献でしか見たこと無いぞ?今もあったのか?」


「マロウさん、”今も”じゃないですって。大昔に隠された小箱を空けたんですから。」

「ははっ。そうだったな。」



 ”法玉石”とは、魔法石に特殊な”法力”を注ぎ込むことによって作られる。


 法力は魔法力の礎だろう。

 遥か昔、まだ”魔法”が確立されていない時代。

 不思議な力は”法力”というものによって生み出されていた。


 ”聖”も”魔”も区別もなかった。

 ”法力”はそのどちらともいえるが、そのどちらでもないともいえる。

 この”魔”の力がのちに枝分かれをし、”魔法”や”錬金術”へと姿を変えていくのだ。

 純粋な”聖”の力は、未だその力も使い手も判明してはいない。


 ”世界樹の精”カルアやのような一部の”精霊”は使えるが、それは例外のようなものなのだ。


 真の”古代法術”は、この”法力”を使う。

 現代使われている”古代魔法”は、”古代法術”を魔法力によって、無理矢理に術に当てはめたもの。

 本物の術ではなかった。


 そして、現代、”契約魔法”と呼ばれるものがある。

 魔法陣を描き、特定の魔法を契約によって得るのだ。

 これが人間には一般的な”魔法”であろう。

 この場合、魔法を施すには呪文が必要となる。


 魔物やモンスターの場合は、種族ごとに遺伝子に組み込まれているとでもいえる特有の属性がある。

 それらは、固有の魔法として、契約も呪文も必要とせずに使うことができるのだ。

 魔物やモンスターの強さの一端はここにあるのだろう。



 魔法が主流となった現代。”聖”の力が失われかのような世界。

 純粋である”聖”も”魔”も。そのどちらも保有するものだけが使用できる”法力”。。。

 その使い手は伝説の中だけになっていたのだった。



「だが、これは。。。どうやって使うんだ?」

 マロウは明かり代わりの炎に法玉石を翳す。

「うん。。。僕も分かりませんね。。。術や力が込められているのか。。。それとも記憶媒体のようなものなのか。。。」

 ジョージも首をかしげる。

「おいおい。。。お前の記憶には、そこんところは無いのかよ?それを頼りにここまできたんだろ?」

「そう言われましてもねぇ。。。」


 マロウがジョージに法玉石を渡した瞬間だった。

 バチッ。と火花を散らすように、電光と衝撃を二人にもたらす。

 そして。。。


「これは。。。マップですね。。。」

「何階層だ???」


 二人の手の上には、法玉石。。。そして石からぼんやりとした光でマップが浮かび上がったのだ。。。


「う~ん。。これは。。。56階層。。。かな?」

「手がかりか。。。しかも56階層か。。。」

 二人は手がかりの喜びよりも、さらに深層への道に項垂れる。

 あと2回はボス戦が待っている。。。


「まぁ。次の目標は56階層ということで。。。」

「そこまで進んで、また”キメラの翼”じゃ割に合わないけどな。。。」

「僕はマロウさんの治療のおかげで、力が満タンに戻ってますし、マッピングも今のところ、寸分の狂いもないですから。。。何とか切り抜けましょう。。。」

「そうだな。。。最悪は”キメラの翼”で戻ろうか。」

「ですね。」


 浮かび上がったマップには小さな”点”が記されていた。そこが次の目標と定め、二人は攻略に集中する。

 

 39階層は難なく通過し、40階層。ボス戦だ。


「またボスか。。。次は虫系だな。」

「虫のゾンビとかはないですよね~。」

「ははっ。それは勘弁して欲しいな。」

 ジョージは頭を掻き、マロウは苦笑する。


 40階層。。。マロウの明かりに照らし出されたのは。。。

 

 甲冑蟻だった。


「うわー。甲冑蟻か。。。あいつ、かなり防御が高かった気がするんですよね~。持久戦か。嫌ですね。。。」

「お前の装備、オリハルコンだろ?瞬殺でいけそうじゃねーか?」

「楽観視するのは卒業したのでね。。。地道に行きますよ。」


 ジョージはオリハルコンの剣を正眼に構え、甲冑蟻に対峙する。

 お互いにお互いの出方を窺っている。


(確か、氷系が弱点だったはずだ。)

 ジョージは剣に氷の魔法を纏わせる。


 だがそれが甲冑蟻を動かす契機となった。


 甲冑蟻が鎧のような尾を床に突き刺す。

 すると床はジョージに向けて一直線に割れ、ジョージの足元で爆発を起こした。

 ジョージはそれを当然のように躱し、甲冑蟻の正面から体重を乗せた上段からの一手を振り下ろす。


 甲冑蟻はそれを避けることもなく、まともに頭にくらうが、傷一つつかない。

 それどころか、ジョージの手にどこにも逃げることのできなかった力が衝撃として伝わる。


「最悪だ。氷の耐性があるのか。。。さすがに40階層のボスだ。通常の甲冑蟻ではないな。」

 衝撃が伝わった手のひらの痺れを落とすかのように、手首を振り、ジョージは甲冑蟻を見やる。


「それならば、弱点を一つずつ探していくしかないな。」


(判明している耐性は、そのままあるだろうから、弱点となっているものから潰していこうか。。。)

 

 ジョージは、甲冑蟻の関節部分、装甲の切れ目を狙い、何度となく技を繰り出していく。。。

 装甲の切れ目とは言っても、そこは甲冑蟻が生まれた時から持つ装甲。薄皮さえも、硬い。


(素早さが低いのだけがありがたい。)

 持久戦となり、堅固な装甲に守られている甲冑蟻ではあったが、動きが遅い。

 ジョージの攻撃はほとんどすべて当たる。

(あとは、傷をつけることと、弱点を見つけることだけだな。。。)


 1時間以上経っただろうか。。。

 ほぼ全てを試したが、弱点となりそうな場所も魔法もまだ見つからない。。。

 気の長いジョージであったが、若干イラついてきた。

(こんなところで、手間取っている場合じゃないんだ。まだ先は長い。)

 そこへ、甲冑蟻がまた尻尾爆弾を仕掛けてくる。


「いい加減にしろ~~~!!!」

 プツッと切れたかのようにジョージが叫ぶ。

 その叫びに、甲冑蟻が停止した。


「はっはっはっは。まさかの”はげしいおたけび”が弱点とはな。。。上品な坊ちゃんでは、見つからない技だな。」

 マロウが大笑いしている。

「それはどうも。。。」

 ジョージは返す言葉も見つからない。


 動きを停止させた甲冑蟻は、最早大した敵ではなかった。

 いくら堅いとは言ってもその機能すら停止しているのだ。

 心臓めがけてオリハルコンの剣を突き刺し、バトルはあっけなく終了した。


 甲冑蟻からも魔法玉が落ちる。ドロップした玉は、やはり吸い込まれるかのように、オリハルコンの剣の柄へと入っていった。


「その剣も、手がかりの一部だったりしてな。」

 マロウが何の気なしに言った一言だったが、その言葉はジョージに残った。

(そうか。。。そうかも知れないな。)


 そして、また攻略へと歩みを進める。


 41階層からは鳥系モンスターとなる。

 剣術を得意とするジョージには些事な階層となった。

「ジョージ。瞬殺だな。」

「えぇまぁ。ジャングルでも鳥系はよくいますしね。ま、オウムも毎日見てますし。相性がいいですね。」

 ジョージは真空の剣技を繰り出しながら涼しい顔で答える。


「間合いを詰めなくてもいいのが、助かりますね。」

 鳥系特有の状態異常の魔法も、二人は結界を張っているので特に問題はない。

 そして真空バギ系の魔法に炎や氷、水などの魔法を織り交ぜ、遠距離から放つ。

 群れていようが単独であろうが、ジョージたちに近づく前に、切り刻まれていく。


「オウムで思い出したけどよ。やっぱりホセについてが、一番の問題だよな?」

 マロウが考え込むが、ジョージはあっさりと返答する。

「もう予想はついています。ただ、認めたくはないですがね。」


 その返答にマロウが言葉を失う。

 マロウも答えを出しているのか。。。それともただジョージの勘の良さに驚いただけなのか。。。



「さて、ボス戦と行きましょう。」

 気づけば、50階層に到着していた。


 50階というキリの良さからだろうか。その入口には重厚な石の扉がある。


「今までと毛色が違うな。。。」

「はい。心してかかれという合図でしょうか。。。」

 二人はゴクリと唾を呑む。

「開けますよ?」

「あぁ。」


 そして石の扉を力いっぱい押し開けた。


 ギギィ。。。

 重い音がしてゆっくりと扉が開く。

 バサバサッ。

 羽ばたきの音。やはり鳥系のモンスターで間違いない様だ。


 ゆっくりと二人が中へと進むと扉が閉まる。


「後戻りはできませんね。」

 ジョージは暗闇を見つめ、マロウは明かりを強くする。

 赤い二つの眼だけが浮かび上がった。

 そこに現れたのは。。。


『ドラキー???』

 二人で顔を見合わせた。

 

 コロンとしたフォルムにとぼけたようなクリンとした瞳。愛らしささえも感じる容貌だ。


「あれ?ボス。。。ですよね?」

「ていうか、ドラキーは鳥か?まぁ蝙蝠っちゃ蝙蝠だけどよ。。。」

 二人はボスの選出内容に戸惑いを隠せない。


「馬鹿にしたダロ?」

 ちょっと高い子供のような声がした。


「え?喋るのかよ?」

 マロウが驚く。


「ボスに相応しいダロ?」

 ちょっとカッコつけたようなドラキー。。。


「僕たちは、先に用事があるんだ。君が話をできるのであれば、ありがたい。道を開けてはくれないか?」

 ジョージは普通に話しかけた。


「そんなことするわけないダロ?僕はお前らを倒すのみダロ。」

 そしていきなりの攻撃が始まった。


「ふぅっ。やれやれ。やっぱりモンスターか。。。」

 そしてジョージも応戦を始める。


 ドラキーの猛攻にジョージは防戦一方。


「どうした?ジョージ。。。」

「こいつ、ただのドラキーじゃないですね。強タイプだ。」

 剣でドラキーの攻撃を捌ながら、ジョージが答える。


「お前ら勘違いしてるダロ?僕はドラキーじゃないダロ。”ドラキーキング”ダロ!!」

 ふんぞり返るようにして、ドラキーが答える。。。


「キングって。。。体の大きさも、色も。。。見分けがつかないな。ハッタリか?」

 マロウが目を凝らすが分からない。


「お前、失礼な奴ダロ?この素敵な王冠が目に入ってないのかダロ?」

 自称”ドラキーキング”は、床に降り立ち、その羽で頭を指さす。


「ん?んんんん????」

 マロウは若干近づき、明かりを最大限に強くする。

 太陽光かと思うほどの明かりに照らされたその頭には、ちょこんと。本当にちょこんと、指先程度の王冠が載る。


「ぎゃははははは。。。それ、王冠かよ?どっかで、ミニチュアのおもちゃを拾ったんじゃなく?」

 マロウがおなかを抱えて笑い出した。抱腹絶倒だ。


「本当に失礼ダロ?もう許さないダロ!!」


 そして、ドラキーキングが雄たけびを上げた。

 空気がビリビリと震えるほどの。。。

 そこには魔法封じ(マホトーン)が乗せられていた。


「マホトーンくらいでは、僕たちには効かないよ?それより、友達になってくれないか?君を気に入りそうな友達がいるんだ。」

 ジョージがまさかの勧誘を始める。


「え?えっ?」

 急な展開に、ドラキーキングも戸惑う。

「悪い話じゃないと思うよ?ここにいたら、ボスとして生きていかなくちゃいけない。僕たちと外に出れば、友達もできるし、それはもう面白いことばかりだよ?ねぇ、マロウ?」


「あ?あぁ。。。まぁ。結構、面白いやつばっかだな。」

 マロウもジョージの行動についていけない。


(おい。ジョージ。スカウトしてどうするんだ?お前の友達って、アルのことじゃないだろうな?)

(もちろんアルですよ?変ですか?それよりも、この子を仲間として連れたほうが、パーティーとして助かりません?まだ、先がありそうですから。)


「僕はボスだしな。。ここを離れたらダメな気がするしな。。外の世界か。。。」

 一人ブツブツと言い出した。


「俺はよぉ。ここの迷宮管理人なんだが、この迷宮のモンスターが外に出たらダメだとか、決まりは聞いたことないぞ?」

 ジョージの気持ちは変わらなさそうなので、マロウも援護をする。


「僕たちの仲間はさ、食べることが好きで、結構おいしいものをいつも食べてるよ?スライムとか魔人魚セイレーンもいるしさ。モンスターだからって気にすることは無いよ?いろんな所にも行ったりして、結構楽しくやってるんだけどな。。。君が入ったら、きっとすぐに人気者だよ?」

 ジョージは子供を釣り上げるかのように、話をする。


「僕は”ドラキーキング”ダロ?人気があって当然ダロ?」

 腰に両手を当て、偉そうに踏ん反りかえる。


「それは、一緒に来てくれるってことでいいのかな?」

 ジョージが確認する。

「僕みたいな”人気者”が必要なんダロ?仕方ないから付いてってやるんダロ。」

 偉そうにしてはいるが、二人をチラチラと見て、様子を窺っているようだ。


「ありがとう!!」

 ジョージは挨拶代わりにハグをする。

 ドラキーキングは驚きながらも、恥ずかしそうに照れていた。


「珍道中だな。」

 マロウは、おかしな仲間の誕生に、頭を抱えるのだった。

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