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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=戦争編=
110/322

第108話  ~終戦に向けて 前編~


 夜が明ける。。。


 僕は、バルコニーに出て、朝露の光る中庭を見つめ、そして深呼吸をした。

 外は快晴で爽やかな朝なのに、僕の心はどんよりとしている。


「アル?大丈夫?」

 ジョージが横に来る。

「うん。まだ、仕事は残ってるもんね。。。。僕に本当に相応しくない役目がね。。。」

 項垂れる僕をジョージは抱き上げた。


「大丈夫。僕もいる。みんなだっているよ。この血生臭い戦争の結末には、君の持つ純真な心が必要なんだ。自信を持って。」

「うーん。みんな僕の事を”純真”だって言ってくれるけど、全然そんなことないよ?結構計算高いもの。」

 ジョージを見上げた。


「ふふっ。そういう所さ。本当の策士なら、自分の事を”計算高い”とは言わないよ?君は、人間より人間らしく、そして純粋さ。」

 僕を撫でてくれる。

「そうかな。。。。」

 


 コンコン。ドアがノックされる。

「ジョージ様。アル殿。お時間です。」

 ハクゼンの声がした。


「さてと。朝食の時間だ。みんなと合流しよう。その後は大仕事が待ってる。」

 僕とジョージは二人で目を合わせ、深呼吸をして部屋を出た。



 朝食の際にも、”五行の精”やダルガから僕たちが退室した後の取り調べ結果などを報告してもらった。

 概ね、昨日の報告から、突出するような内容はなさそうだった。

 だが、変わらず分かったことは、ケイツ皇帝の絶大な人気だった。


 彼のその功績は確かなもので、腐敗した地方などの粛清をはかったり、暴動の鎮静化、モンスターの討伐、外交手腕など、多岐にわたる。

 だが、そういった案件は、どこの国の英雄でもありがちであろう。


 真似のできない大きな功績と言えば、飛行艇の開発であった。

 これにより、不動の地位を得て、元帥となった。


 元々、赤の国では、飛行艇の開発はされていたが、小型な艇で、僅かな飛空時間と数人が乗れるだけの代物であった。

 その開発にケイツが入ると、持ち前の頭脳とアイデアで、比べ物にならぬような飛行艇ができあがった。


 動力に魔法と科学力を上手く取り入れ、艇は大型に、より強固に。

 乗員数は数人だったものが2桁増えた。

 同時に開発された武器の数々も搭載され、武装国家の名に相応しい、飛行艇団が出来上がった。


 赤の国は並外れた科学力により、魔法はさほど発展してこなかった。

 その為、飛行艇団運用の為の”魔法使い”が絶対的に不足していた。

 しかし、他国の有能な魔法使いのスカウトさえもケイツはやってのけた。



 赤の国の軍備は増強され、世界的にも絶対的な軍事力となった。

 だが、見たことも無い兵器では、世界の人々が戦々恐々とするに至らない。

 そして、人間とは愚かな生き物であった。

 抑止力としての軍備ではなく、開発したのであれば使ってみたい。

 軍の内部でその気持ちが高まっていく。


 そんな気運の中に妖魔とガルーダが現れたのだ。

 世界に軍事力を示すまたとないチャンスであった。

 しかもガルーダ達が狙いを定めたのは”緑の国”。

 火の属性の強い、”赤の国”からみれば、木の属性の”緑の国”。相性も良かった。

 

 しかし、ケイツとて馬鹿ではない。いきなり戦争とは考えもしなかった。

 が、言葉巧みに妖魔に言い寄られ、何度か会ううちに、知らず知らずのうちに人心掌握魔法をかけられていた。

 

 武装国家である赤の国では、正義の為であれば、武力行使は厭わないという考え方。

 妖魔の術により、元帥であるケイツが出した強行案も水面下で採択された。

 そして、前皇帝弑逆という結果となる。


 妖魔の術がかかりきらなかった兵士達も、ケイツの出した答えに異論は無かった。

 いかに自分たちの力が発揮できるか。この国の偉大さを示すことができる。誰もがそう思っていたのだ。


 そして”緑の国”へと宣戦布告の使者を出す。

 いきなりの侵攻でも構わなかったが、それでは自分たちが圧勝してしまう。それでは面白くない。

 全ての兵器の実証実験も兼ねているのだ。相手国にはある程度抵抗してもらわねばなるまい。

 人心掌握魔法をかけられた新皇帝ケイツは、そこまで驕り高ぶっていたのだった。



 

 

 新皇帝ケイツは飛行艇の中で正気を取り戻す。

 となりにいた妖魔はモンスターが作り出したバブルに閉じこめられていた。


「私は。。。いったい。。。」

 モンスター達により、飛行艇の乗組員達は取り押さえられ、自分にも縄がかけられている。

 確か、先ほどまで抵抗し、モンスターと戦っていた。。

 それにより腕に大きな裂傷ができていた。


 腕から滴る自分の血を眺めながら、半ば呆然と立ちつくす。


「あなたがケイツ皇帝で間違いありませんね?」

 妖魔を閉じこめたバブルを作り出した悪魔に声をかけられた。

「いかにも。」

 その一言を絞り出すのが精一杯であった。


 

 魔王軍と名乗るモンスター達に連行される道中で、皇帝ケイツは考えを巡らす。


 全ての出来事に対する記憶はある。だがそれは、夢の中のような。自分が自分ではなかったような。頭に霞がかかった。そんな思いなのだ。


 本当に自分が、前皇帝を弑逆したのだろうか。

 本当に自分が、戦争を起こしたのだろうか。

 本当に自分が、敵味方関係なく、無差別爆撃をしたのだろうか。


 全てが真実であるだろうが、全てが嘘であって欲しい。

 しかし一縷の望みなど、ありもしない状況だった。

 

 一方的に攻め入り完敗し、敗戦国となった自分に発言権などない。


 自国はどうなるのか。

 植民地化だろうか?そうなれば国民は奴隷となる。

 せめて属国であれば国民の最低限の権利や生活は保障されるだろうか。。。

 しかし、捕虜となった軍人の行く末は悲惨であろう。


 ケイツは情けない自分に対する心とは裏腹に、ニヤリと笑う。

 全てやってみたかったことではあった。

 だがそれは、夢の中で想像するだけの話。

 現実に引き起こすべきでは無いことだ。

 その理性が吹き飛ぶと、こうなるのかと自分を呆れて笑ったのだった。 


 ケイツは断罪を受けるであろうその瞬間まで、自国民を助ける為に訴えかけ続けることを心に誓うのであった。




 緑の国、王城大広間には、緑の国・魔王軍の高官達が集まっていた。


 そしてその中央には玉座が2つ。

 緑の国、国王ジョセフと、魔王アルが座る。


 このために、魔界の自室の椅子を玉座がわりに持ってきた。本物の玉座を持ってきては、ジョセフより立派になってしまう。しかもスライムの身体。大きすぎてまた鏡餅状態にされるだろう。

 ダルガが気を利かせて、自室の椅子を持ってきてくれたのだ。


「ただの椅子だが、それっぽく見えるであろう?」

 ダルガは笑っていたが、5色の宝王玉オーブが両袖肘掛けに埋め込まれた”ただの椅子”なんてあるわけがない。

 緑の国の王様の玉座に引けを取らない立派さだ。むしろちょっと豪華な位だ。


 運び込まれた時には、「さすがは魔王!」と緑の国の高官からため息が漏れていた。

 まさか、”それただの自室の椅子です”なんて言える雰囲気はなかった。

「ふふっ。本物はもっと凄いのにね。」

 僕の耳元でジョージは囁き、笑っていた。



 国王の隣にはジョージが。僕の隣にはシグナルが並び立つ。

 本来ならば、僕の横にはダルガかジルが良かったのかもしれないが、見た目的にね。。。

 シャドーのダルガや子供姿のジルではカッコが付かない。ジルが竜の姿では困るしね。


 そうなると、司令官という立場も同じだし、イケメンさも引けを取らないシグナルを置いた。

 残るは僕の貫禄が無い点だが、そこはどうしようもないので諦めた。



 こちら側の準備が整えられ、敵国側が連れられてくる。

 手錠と腰縄を付けた、赤の国の皇帝ケイツとその高官達。そして泡粘牢バブルガムプリズンに入れられた妖魔。


 皆、神妙な面持ちで抗う様子も無い。

 

 その様子を見て、僕とジョセフ国王は顔を見合わせ頷く。

「縄をほどけ。」

 ジョセフ国王の指示で、皇帝ケイツの縄が解かれた。


「ケイツ殿。その椅子に。」

 ジョセフ国王が、指し示す。

 ケイツはその待遇に戸惑いながらも促されるまま椅子に腰掛けた。



「ケイツ殿。皇帝となってからは初見であるな。改めて挨拶をしよう。緑の国の国王、ジョセフである。」

 ジョセフがケイツに挨拶をすると、僕を見る。

「余は、魔界を統べておる。魔王アルだ。」

 そしてジョージを見る。

「私は緑の国の司令官ジョージです。」

 ジョージはシグナルに合図する。

「私は魔王軍の司令官シグナルと申します。」


 トップ4人が名乗りを終える。


「私は”皇帝”とは言い難いのかも知れませんが。。。現在の赤の国のトップ。ケイツです。」

 椅子から立ち上がりとゆっくりと跪き名乗った。


「良い。面を上げてくれないだろうか。此度の戦争については、我が国は司令官ジョージに任せておる。そして、魔王アル殿にな。ここよりはこの二人が対応をする。」

 ジョセフ国王は威厳たっぷりにケイツを見据える。

 その威圧に、ケイツはただ「はい。」と答えるだけだった。


 

 僕は打ち合わせ通りに話を始める。

「先の件、そなたの言い分を聞こうではないか。」

 僕もせめてもと貫禄ありそうな対応をしてみる。魔王就任の時の演技が役に立つ。


「全ては私の未熟さ。なぜこのようなことを起こしてしまったのか。夢の中のようであったとしか言いようがありませんが、私の心の奥底にあった野望が露呈した結果です。私の命では足りぬと存じますが、我が国の者達は、我が命令に従ったまで。どうか寛大な処置を頂きたく、お願い申し上げます。」

 ケイツは口を開く機会を冒頭に与えられるなど考えてもみなかったが、これを逃しては”赤の国”は終わる。慎重に魔王の顔色を窺いながら、話し、頭を下げた。


「そうであるか。。。そなたはそこにいる妖魔の術中に嵌っていたことを気付いていないのか?」

 僕はそう言って妖魔を見る。

「え?それはどういう。。。。」

 ケイツが呟いて妖魔を見る。

 妖魔はバツが悪いのだろう。そっぽを向いた。



「ケイツ皇帝と妖魔との聴取と整合しています。」

 シグナルが口を開いた。

 僕とジョージも頷く。


「あなたは妖魔の人心掌握術にかかっていました。」

 ジョージの言葉にケイツは目を見開き妖魔を見る。


「よって、全てがそなたの罪では無いであろうが、そなたの心の奥底には黒き野望があったのであるな?全ての心の内を話すがよい。」

 僕はケイツに問う。


「はい。。。全ての記憶は持っています。まるで霞がかかったような感じではありましたが。。。僕は心のどこかで、自分が開発した武器や飛行艇団を使ってみたいと思っていました。武装国家である赤の国の名を世に知らしめたいとも。そして、前皇帝は保守的でした。軍備は増強路線であるのに、行使はしようとしない。日頃の訓練を試す場所などないのです。それを不満を感じたつもりは無かったですが、奥底にはそういった気持ちもあったのでしょう。そこにつけ込まれたのだと思います。全ては私の未熟さ。私の心の弱さ。もっと強い心があればこのような事態を引き起こしてはいなかったでしょう。ですから、責任は私にあるのです。」

 強い目でまっすぐ僕を見る。


「そうか。では妖魔はどうだ?」

 僕は睨み付けるように妖魔を見る。”魔王覇気”を乗せて。


「ふん。そんなもので怖じ気づくワシでは無いわ。若造がっ。」

 馬鹿にしたような妖魔の態度に、僕は少しだけキレる。


 

 立ち上がり、妖魔の元へ歩く。。。。

 ん?歩いてるな。。。

 下を見ると足がある。そこには鱗も。。。


 またやってしまったようだ。

 だが、人型になるほど、怒ったつもりはないのだが。。。。

 まぁいい。僕の変化に妖魔が慌てだしたから。


「余が大したことないと言うのだな?ではこの泡粘牢バブルガムプリズンごと握りつぶして見せようか?」

 僕は不敵な笑みを浮かべながら、泡粘牢バブルガムプリズンに手をかける。

 

 物理・魔法に強いとされる泡粘牢バブルガムプリズンがミシミシと音を立てる。

「ギャー!!申し訳。。。申し訳ございませんでしたぁ~~~。」

 安全と思いこんでいた妖魔は、有り得ない出来事にパニックを起こし、牢の中で土下座した。


(概ねアルの作戦通りじゃな。)とダルガ。

(人型になるとは思わなかったけど。)とジル。

(結果オーライだね。)とジョージ。


 そう。まさか僕が泡粘牢バブルガムプリズンを壊せるワケが無いのだ。

 だが、万が一の為に、泡蟹ムースキャンサーに頬袋に隠れてもらっていた。

 そして、僕の合図と共に、粘液を出してもらう事になっていた。


 いきなり活用できるとは思わなかった。

 泡蟹ムースキャンサーもノリノリだった。



「騒がしてしまったな。」

 僕は大仰に言うと、人型のまま、玉座に戻る。

 うっすらと金色に光る身体のままにして、足を組み肘掛けに片手を乗せ、頬杖を付く。

 威厳たっぷり偉そうに見えているだろう。

 妖魔は僕の姿を凝視しながら、震えだしていた。


「あ。あなた様はいったい。。。。」

 ガタガタと震えながら、妖魔が聞いてきた。

「ブルートスライムであるが?それがどうかしたか?」

 スライムとはかけ離れた姿で言うと、違和感どころの騒ぎじゃない。

 ホセがいたら、絶対にツッコミを入れられてただろう。



 そして、僕はガルーダの記憶の残渣から読み取った事、マロウさんからの情報、洗脳されたガーゴイル、そして魔王軍からの情報、悪魔族が読み取った魂の情報までもを総合して、妖魔の行動をつまびらかにした。

 妖魔も当然、聴取をされていたために、都合の悪いことは誤魔化そうとしていたのだが、それすらも見透かされ、見る見る顔が青ざめていった。


「余が知りうるのはこの程度のことであるが、他にあるか?過不足あれば申せ。」

 絶対に無いのだが、妖魔の心を折るために畳みかけるように言ってみた。


「そっその。その通りでございます。ガルーダとの共謀ではありますが、間違いございません。」

 得体の知れないスライムに恐れおののいたようで、涙目でひれ伏した。


「モランよ。ここへ。」

 シグナルが魔界一の監獄”ドルゴ”の監獄長モランを呼んだ。

 そしてモランが僕の前に跪く。


「モランよ。お前に妖魔を任せる。特別棟に入れておけ。」

「はっ。承知いたしました。」

 監獄長モランは、ニヤリと笑い、妖魔の入った泡粘牢バブルガムプリズンを掴むと下がっていった。


 ”特別棟”の言葉を聞いた妖魔は驚愕し、泣き喚いていた。

 自殺を図れぬよう、すでに魔法は施してあった。


 魔界一の監獄”ドルゴ”は超凶悪囚人のみを収容しているが、その中でも”特別棟”となれば、その恐ろしさは群を抜いているらしい。

 ダルガとモランの提案で、その名を出すように言われていた。

「ドルゴの”特別棟”の名で震え上がらないヤツはいないぜ!!」

 監獄長モランが自信たっぷりに言っていたのを、眉唾物と聞いていたが、まさかここまで効果があるとは。。。


 どんなところなのだろう。。。少し興味が沸くが。。。怖いので見なくてもいいか。。。



 妖魔の取り乱し方が尋常では無かったためにジョセフ国王も気になったようだ。

 シグナルに監獄”ドルゴ”について説明をしてもらっていた。


 その説明をシグナルが終えたので、僕が聞く。

「ジョセフ国王。そちらに与えた損害に対して、足りぬかも知れぬが、これで良いだろうか?」

「アル殿。魔界のことは分からぬので、お任せする。だが、流石は魔界。人間には計り知れぬ監獄をお持ちだ。」

 

 一連の遣り取り、そして監獄”ドルゴ”についての説明を、ケイツ皇帝は黙って聞いていた。

 しかしその顔は蒼白となっている。


 それもそうだろう。術にかかっていたとはいえ、手を下したのは自分だ。

 唆した妖魔の処罰があれでは、自分はもとより、赤の国の処遇はもっと厳しいものだろう。

 いくつもの村々を壊滅させてしまった。いったい何人の犠牲者が出たのかも検討も付かない。。。


 額からは汗が滴り落ち、背中にも冷や汗が伝う。

 いっそ正気に戻らぬままに処刑されていた方が良かったのではないか。。。

 そんな思いすらも沸き上がる。

 膝の上の握り拳が僅かに震え出していた。


 

「では、他のモンスターの処罰も魔界に任せるとしましょう。」

 ジョージが僕を見る。僕も無言で頷く。


「ここからは、赤の国の件について話し合いをしていきたいと思いますが、ケイツ皇帝。よろしいですか?」

 ケイツの怯えた様子に、ジョージは穏やかな声を掛ける。

「・・・・はい。」

 俯いていたケイツが青ざめた顔を上げる。


「ケイツ殿。そう緊張されるな。我々はなにも、そなたを取って喰おうというのではない。」

 僕の言葉にケイツがビクっと震えた。


 しまった。妖魔用に”魔王覇気”も出しっぱなしだし、身体も金色に光らせたままだった。

 さらには、未だに足を組み頬杖もついていた。

 かなり怖い印象だよなぁ。魔王だしな。。。。


 慌てて”魔王覇気”を引っ込め、金色のオーラをしまうが、時すでに遅し。

 恐怖が植え付けられたケイツの汗は止まらない。


「困ったな。。。ケイツ殿がそれでは話し合いもままならぬではないか。。。」

 う~ん。いつもの自分で進めたい気もするが、あえてあのルーズさを敵国に見せるまでもないしな。。。


「アル。まずはスライムには戻れないのか?」

 ジョージの提案に、僕も急いで心を落ち着ける。

(ちょっと待って。急な展開すぎてさ。落ち着けないから。。。)


 目を瞑り、深呼吸をして、スライムをイメージする。。。

 なかなか戻らない。焦れば焦るほど、戻れない。。。


 ジョージが横に来て、背中にそっと手を添えてくれた。

(アル?落ち着いて。無理に戻らなくてもいいんだ。ケイツさえ落ち着いてくれればいいんだから。)

(うん。ありがとう。)


 ジョージの暖かい手に心が落ち着いてきた。

 ぽよんっ!!

 ようやくスライムに戻った。


「アルの目線も低いだろうし、僕の上に座るといい。」

 何の躊躇いもなく、自然な感じに、僕の玉座にジョージが腰掛け、その長い足を優雅に組む。そして僕を膝の上に乗せた。


「ケイツ陛下もリラックスしてください。その方が話しやすいので。」

 ジョージが優しく声を掛ける。

 僕とジョージを不思議な顔でケイツは見つめていたが、その手の震えは止まっていた。


「では、話し合いを始めましょうか?」

 


 緑の国と魔界。そして赤の国の話し合いが始まろうとしていた。


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