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『大きな世界の樹の下で』  作者: 星乃湶
=序章=
1/322

第1話  ~樹の下へ~

世界には7つの海と7つの大陸がある。



すべての生物が生まれたといわれ、四季があり穏やかな大陸『はじまりの国』


雨と風が絶え間なく続く大陸『青の国』


雪と氷。広がる大地は永久凍土の大陸『白の国』


砂漠が広がり昼夜の気温変動は100度にもなる大陸『黄の国』


大火山が聳え、灼熱の大陸『赤の国』


太陽が昇ることのない常夜の大陸『黒の国』


ジャングルと獣の国『緑の国』



特性の強い大陸とそれらを繋ぐ7つの海の道のりは険しく、世界の全てを渡りきった者は歴史上ただひとり。遙か昔の英雄アルフォンであった。


2千年以上前の出来事であり、伝え聞く英雄の姿は、人であるとも魔獣であるとも語り継がれてきた。


その逸話とともに7つの大陸に一枚ずつ残される『世界樹の葉』決して枯れることのないその葉が伝説を真実として語り継いできたのだった。



『世界樹』とは世界のどこかに常に1本のみ存在する巨木。その葉は死者を蘇生させ、滴るその雫は一滴で傷や病を癒すという。

 その樹は必要とする者には見ることができ、必要のない者には決して見えないという。確かに存在するが、確かな存在はわからない伝説の樹であった。


アルフォンがもたらした『世界樹の葉』は使われることなく残存する貴重なものである。

 世界樹は必要のある者の前にしか現れない。そのため、雫も葉もその場で消化され世に出回ることはほとんどない。使用できた者が語り継ぐだけなのだ。


しかし、世界樹を探す人々は後を絶たない。たとえ7つの大陸と7つの海を制覇したとしても見つけ出せるとは限らないのだが...




鬱蒼と生い茂る密林の森。


その中をひたすらに逃げていた。

熊に遭遇し、逃げだそうと後ずさりしたところで、熊の手が身体を引き裂いた。

その勢いで吹き飛ばされ、数メートル先の草むらに落ちる。

傷口は深かったが、動けないこともなく…とにかくその場から必死に逃げ出した。


どれくらい逃げたのだろう…

意識は朦朧とし、歩くのも覚束なくなり、蹲る。


目の前に落ちている木の実を口に含む。


(もしかしたら、これが最後の食事かも)

食い意地が張っている自分には、実に物足りない最後の晩餐であった。


薄れゆく意識の中、自分のいる場所が少しひらけた場所であることを認識する。このまま死ぬかもしれない。身を隠せる場所が欲しかった。


うっすらと視線のさきに、木の根が張っているのが見える。にじり寄るように。あと少し。あと少しと…意識が途絶えるまでそうつぶやきながら這っていった。


--1日目--


どれほどの時間が経ったのだろうか。鳥のさえずりを遠くに聞きながら、目が覚めた。


すっきりとした気分で、起き上がり周囲を確認すると、木の根の洞で眠っていたようだ。上を見上げれば、その木は見たこともないほどの巨木だった。


(そういえば…)


そう、眠る前。いや意識を失う前の出来事を思い出す。熊に襲われ瀕死の重傷。命辛々なんとか逃げてきた。

 だが、傷はもう治っていた。相当の深手であったのに。どうやって助かったのだろう。


そんな事を考えながら、樹の周りを歩いてみた。



不思議な事に、その巨木の周りはひらけた草原で、巨木と一定の距離をとった先から、鬱蒼とした森が広がっていた。

 樹の周囲を念入りに調べながら1周する。

近くに生き物の気配はなく、空腹も感じていない。しばらく樹の下で様子を見ながら生活することにした。



--2日目--

 

 昨日は樹の周囲を隈無く歩いてみたので、今日は森との境界線辺りまでの草原を調べてみる。


 背の低い柔らかな草の上を歩いていく。

 ふかふかとした気持ちの良い感触で時々寝ころんでみたりもした。


 不思議なことに、草は1種類しか生えていない。これほど柔らかくふんわりとした虫たちが好みそうな草なのに、バッタの1匹さえもいない。もちろん他の種類の虫すら見ていない。


 そういえば…樹に鳥が来るのも見ない。


 2日目は、生き物がどこかにいるだろうと探し、見つからないまま、探索を終える。

 食べ物はないので食事は取れず、草を持ち帰り、樹の洞に敷き詰める。ふかふかしたベッドができた。

 


--3日目--


 相変わらず森からは動物の鳴き声は聞こえてくるが、この樹の周囲には動物はやってこない。安全なのは確かだが…


(ヒマだな。)


 今日も(日課になりつつある)樹の周囲を散歩する。不思議なことにこの3日間なにも食べていないが空腹は感じない。

 朝になれば、木の根の表面に朝露なのか樹液なのか。すこし水分がついて濡れるので、それを舐めていた。

 ほんのり甘みがして美味しかった。だからか、特に喉の渇きも感じない。



(おぉ。これは!!)


 今日は葉が落ちていた。ようやく3日目にして新しい出来事。

 ちょっと興奮して拾った葉を「ぱくっ」と一口かじる。


 初めて見る物に対する警戒心よりも持ち前の食い意地と興味が勝る。噛みしめて味わってみる。


「まずっ!!」といいながらも飲み込む。


まぁ、言うほど不味いわけでもない。味がしないだけであった。

久しぶりの食事だったが、一口で終了する。



 キラキラとつややかなその落ち葉が綺麗で太陽にかざしてみると、さらに美しさが増す。

 うっすらと七色に光って見えるのだ。ほんのりと爽やかな柑橘類のような香りもする。


 捨てるのももったいなく感じて、寝床の洞へ持って帰り早速飾ってみる。


(なかなかいいんじゃない?)

ただの落ち葉を置いただけなのだが、殺風景な樹の洞が少し華やいだ気がしてきた。


もはや自分の部屋感覚。

 洞の中に敷き詰めたふかふかの草の上でごろごろしながら、落ち葉を太陽にかざしたり、葉の匂いを嗅いだり。


そんなことをしながら、

(うーん。この根の張りがもうちょっと。)


 身をよじると樹の根が身体に当たる部分がある。

 (横に広がって角は丸く、全体的にすべすべ滑らかにならないかなぁ)


ごろごろしながら、調子に乗って、勝手な思いを巡らせていた。

そんなこんなで、ごろごろして残りの半日を過ごした。



--4日目--


(さて、今日は何しよっかなぁー)


何っていうほど、何かをしたことはないのだが。。。


ん??起きて感じる違和感。

 いやいい意味でね。寝床がいつになく気持ちいい。


 ふかふかの草や落ち葉があるせいなのかと思ってみたが、違うようだ。 

 身体に沿うように根の張りが丸くなり、表面が滑らかになっているのだ。


昨日ごろごろしながらつぶやいた独り言の通りになっている。


うーん。不思議なこともあるものだ。とは思ったが。。。

 単純な自分は深く考えない。

 昨日一日中ごろごろしすぎて洞が身体に馴染んだのか、それとも……きっと樹が気を利かせてくれたのかな。


「おまえいいヤツだなー」木の根に頬ずりしながら、とりあえず感謝を伝えてみた。

 気のせいか木の根が返事をしたようにツヤリと光った気がした。


 (とりあえず、今日も探索を開始するとしますか。)


 歩き始めて雨が降っていることに気づく。

 だがそこは巨木。枝も葉も多いので、樹の下まで雨が降り込むこともない。


 しかし。無性に雨にあたりたい!!


 草原まで走って、雨の中へ!!


 身体全体で雨を受け止めた。もちろん口も大きく開けて。雨が体中に染み渡る。


 樹の朝露もほんのり甘くて美味しいけれど。自然の恵みの雨も旨い。


 かなりの時間を雨のシャワーに費やした。

 頭をぶるんと一振りして雨を落として、樹の下へ入る。


 まだ遊び足りなくて、時折、ぽつんと葉から落ちる雨の雫を口でキャッチしようと試みる。

 

 意外に難しいな。。

 やることもないので、飽きるまで。と遊んでいるうちに、かなりの確率でキャッチできるようになった。


 終わってみると、結構バカみたいな事に夢中になってたな。と反省。

 まぁ誰も見ていなかったから良しとしよう。



--5日目--


 今日も爽やかにお目覚めだ。

 快晴で実に気持ちがいい。


 昨日の雨の恵みだろうか。草はより一層つややかで、ふんわりしてそうだ。


 早速、草むらめがけてダーーッシュそしてダーイブ!!


 想像通り。ふわっふわだ。気持ちいい。。。

 思いっきりゴロゴロゴローーーと転げ回ってみた。


 たまらない。なんて気持ちがいいんだぁ。昨日に続いて、バカみたいな事を楽しんでみる。




 突然


 パァーン!!!


 静寂な森に響き渡る音。


 「銃声か??」

 思わず身構える。


 猟銃を持った人間に出くわしても、追われる獣に出くわしても最悪だ。


 隠れないと。と思い、樹の洞まで走る。


 パン。パァーン。

 今度は続けざまに2発。さっきよりも近く感じる。


 音がした方角を見る。

 森の中へ目を凝らすが、よく見えない。森の木々の上に黒い影が飛び出す。


 パァーン。

 再び銃声だ。


 空高く上がった黒い影は急速に落下を始めた。

 きっと銃弾が当たったのだろう。

 時折ばたつきながら、こちらに向かって落ちてきているようだ。

 

 ばさばさっと音を立てて、森との境界線あたりに落ちた。気になるが、人間が来るかもしれないので、迂闊には近づけない。 


 人間と犬の声が暫くしていたが、獲物を見失ったのか、徐々に遠ざかっていく。


 こちらは、落ちた何者かを確認するため、森との境界線へ警戒しながら歩いていく。

 近づくと、色鮮やかな鳥が苦しそうに倒れている。



 オウムのようだ。

「大丈夫か?」声をかけてみる。


「グェッー」力なく、鳴き声とも呼べない返事がきた。


 傷は深く、そのままにしておくこともできないので、洞へと運ぶことにした。


 案外大きい身体をしており、悪いとは思ったが、引き摺っていった。


 重すぎて、洞までの道のりが延々と続くように感じる。

 かなりの時間がかかってしまった。


 洞についた頃には、オウムは息も絶え絶えといった様子。


 どうしてやることもできないが、少しでもなんとかしてやりたい。そんな気持ちで、昨日遊びながら集めた、雨の雫をクチバシにつける。

 しみ込むように口の中へ入っていった。


 「死なないでくれよ…」


 願いを込めてそうつぶやいた。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 日付がーーー1日目ーーー という感じで書かれているため、 わかりやすいです。 ※小説を書くとき、参考になりそうです。
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