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音のない音楽室で  作者: ku-ro
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懇談

夏休みが近づいてきた頃、学校では三者面談が始まった。放課後の校内には親子で歩く姿があった。

「失礼します。」

紺の上下で落ち着いた服装に身をまとい、伸びた髪は後ろで束ねられている。大木の母親がドアを開けお辞儀をして担任の待つ教室に入った。しなやかな仕草に気品があった。担任と挨拶を済ませ着席した。大木は担任を見た。何を言われるのだろうか、少し不安になった。担任も母親がいるのだろうか、いつもとは少し違う振る舞いのように思える。母親が大学に進学希望だと担任に話した。受験先を決める時、母親は兄が国立大学に通っていることを言った。この場所では関係ない事である。大木はまた兄と比べられ下を向き、膝の上の手をぎゅっと握りしめ唇を噛んだ。三者面談は担任と母親との会話だった。兄と比べられ嫌な思いもあるが大木の将来を心配して、いろいろな大学の情報を聞く母親を横目に大木の心は複雑だった。親には正直申し訳ないが、大学などどこでも良かったからだ。系列校推薦で受験できる待望大学が現状ではいいのではないかというのが担任のすすめだ。大学は隣に併設している。土地勘もあり通学時間も変わらないので、合格する可能性が高いならそこでいいと決めた。

「そこにします。」

大木は答えた。母親もとりあえず大学の受験先が決まったので安心した


上條にも三者面談の日がきた。

「お母さんこっちやわー」

まだ前の生徒が懇談中だった。教室前に並べられたイスに上條と母親は座った。ジーンズに普段着で何も着飾らない格好だ。

「就職でいいのね?」

「うん、いいよ」

上條は答えた。二人で並んで待ってる間、大きく成長した上條を見て母は時間の早さを感じた。そして小さかった小学生時代の上條を思い起こした。運動会の個人走ではよく1着をとっていた。好奇心があり、難しいことにもくじけず挑戦する意欲が常にある子供だった。まだ色々な道が見つかるかもしれないが、もう就職するのかと寂しさもあった。

前の親子が教室から出てきた。上條はクラスメートと目が合い、軽く笑いおじぎをした。お互い親を見られるのは、何故か恥ずかしい思いがある。上條と母親は教室に入った。上條の担任は吹奏楽顧問の戸口先生だ。

「今日はクラブは?」

「音がうるさくて懇談の邪魔にならないように休みにしました。」

「お前ら全然練習してないじゃないか」と言いたかったが、上條の母親がいたので苦笑いをして懇談に入った。

戸口は上條が就職希望だと知っていた。

「希望の職種は?」

担任が上條の目を見て尋ねた。隣に並んで座っている母親も上條の横顔を見た。少し考えた上條が話しだした。

「土日祝日が休みで残業がない会社ならどこでもいいです。手取り25万あればいいんやけど」

「あるか!そんなとこ!」

担任が呆れなら言った。

「今までうちが就職した先はだいたいこんなとこ」

戸口は過去の就職先のデータを見せた。大概は工場関係だと一目で分かった。そして高卒希望の就職募集を見せた。

(ここから就職先を探すのか…)上條は募集要項、業務内容に目を向けた。せんばん?マイシング?わからない用語が並ぶ。担任に質問してみる。土曜日出勤のとこが多い。一つ一つ会社の資料に目を通していった。まずいいなと思う会社の資料を選んでいく。その中から最終的に一社決める事にした。将来を左右するかもしれない選択だと思うと、考える時間が短い。競馬の直感のような気がした。記載されている給料が他よりは低いけど、条件に近い会社があった。

「この会社にします。」

金属を機械で加工する会社なのだろう。それぐらいしか分からない。しかし、上條はどんな会社でも働けるという強い自信があった。

「学校からこの会社に面接希望を提出するね」

担任はまずは面接先が決まって安心した。面接は9月下旬になるということだ。


上條は学校の外に出たとき、空を見上げた。細長い雲が一直線に頭上を横切っていた。

(これがよかったのだろうか…間違ってないはずだ)

上條は自分の判断が間違っていないと強く信じた。

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