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音のない音楽室で  作者: ku-ro
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進路

「暑いー、エアコンエアコン」

音楽室に入るなり上條はエアコンのスイッチを入れた。春から夏に季節の変化がわかる。授業で使わない日の音楽室は最上階なので特に気温が高く感じる。

今日は大木と上條だけがクラブにきた。二人だけは久しぶりのような気がする。クラスが違うため学校内で話すのはほとんどこの教室だけだ。

「進路の事決めてる?」

「えっ俺は就職するよ」

上條は言って無かったかな?という感じで軽く答えた。聞き返され進学かなーと大木は迷うような声で答えた。

「まだ勉強するんやー。もうテストは充分やわ。こないだ赤点あったしやばいわー。何か勉強したいことあるん?」

この質問に大木の答えは無かった。自分より、進路を明確にしている上條に一種の焦りと対抗心があった。

「統計学かなー」

大木はとっさに思い付いた言葉を答えた。ふーんという感じで上條は何回か小刻みに首をたてにふった。

しかし大木の本心は違った。大木は音楽の専門学校に行きたかった。楽器演奏が趣味ということもあるが、ミュージシャンの映像を見ているうちに、音響の技術を修得したいと思うようになった。また原と同様に大木も音楽バンドを組みたいという希望があった。音楽の専門学校ならそういう志しがある人が多いいかもしれないと考えた。しかし親に専門学校に行きたいと言うと、予想通りに認めてもらえなかった。親の考えは高卒より大卒のほうが就職の幅がひろがるという考えと学歴社会の実感が根底にある。就職のさい学歴はやはり重要である。親に反発して自分で学費を貯めて専門学校に行く手段もあるが、裕福な家庭に育った大木は学費など自分で払う考えすらない。音楽大学を受験しても今のままでは合格しないのは分かる。かといって今から受験勉強をする気持ちにならないのが大木の欠点だ。結局、現状で合格する可能性のある大学を受験する事でおちついた。


「就職かー」

大木は上條の目を見て言った。まだ18才、就職などまだ早いという考えは常にもっていた。朝早くから出勤し夜9時ぐらいに帰ってくる父親。土曜日、休日も会社に行く事がある。休みの日も家で疲れてか昼から寝ている。この姿を間近に見ると、社会人の大変さが見えてくるようである。兄も大学に行き、悠々と過ごしている姿を見るとますます就職の考えなど薄れていくのである。しかし何もしないわけにはいかない。それは本人も分かっている。大学進学が今の自分にとって無難な選択だとうすうす感づいていた。


上條は違った。父親は工場で働いている。油汚れの目立つ父親の手を上條は見て育った。朝は寝癖を直すだけで営業マンのようにピシッと髪をセットなんかしない。目元にかかるぐらいの髪の長さで、たまに髭を伸ばしたり自由に楽しんでいるような気がした。普段着で五時半には家に帰ってくる。小学生の時は早く帰ってくる父親と日が暮れるまで公園でキャッチボールをしたり、遊んでくれた記憶がある。肉体的には疲労がたまるがノルマに追われる事がなく、気はらくな仕事だと言っていた。小さい時は家族で娯楽施設によく行った。上條自身も高校になり両親と出かける機会は自然と減った。父親が休日の日はカメラを持ってサイクリング、登山など自分の趣味を満喫しているようだ。就職しても仕事と遊びを両立できる筈だと上條は父親を見てそう決めた。

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